(191)Kolgaによる12.5等星(2UCAC 36961976)の観測と解析



初稿 2008.4.19

改訂 2008.4.26

宮下和久


蓄積型CCDビデオカメラの普及にともない、微光の恒星の小惑星による掩蔽も観測がなされるようになった。このような観測のうち、蓄積露光してもなお画面上に微かにしか写らない恒星の場合、CCDのノイズの影響で、Limovieでは明瞭な測定結果が得られない場合がある。しかし、そのような観測でも観測や解析を工夫することで、現象を明確にとらえることが可能である。また、星食観測は、多数の人の協力で成り立っている。ここでは、掩蔽同報メールJOINを中心になされた予報、観測、ビデオ解析、整約それぞれの担当者間の連携のようすと、その結果として得られた成果について述べる。

1.予報

この現象についての初期予報が、瀬戸口貴司氏によりなされた。また、改良予報がIOTASteve Prestonによりなされ、せんだい宇宙館の早水勉氏が国内向けに紹介された。それによると掩蔽される恒星は12.5等級という暗い星である。望遠鏡によっても異なるが、多くの場合には蓄積型のビデオカメラが必要になる等級である。仮に撮影できたとしても、ノイズに埋もれるなどにより解析がしにくくなる可能性もあり、困難な観測になることが予想された。


2008.03.26 20h33m JST

恒星 :2UCAC 36961976 12.5

(=GSC 00742-00657)

赤経 06h 10m 30.635s,赤緯 +14°41' 18.52"(J2000)

オリオン座

小惑星:(191)Kolga 14.5等 推定直径 101km

減光 :約 2.2等 継続時間 最長 5.2

掩蔽帯:九州北部,中国,四国,近畿,東海,関東南部

ランク:91ポイント

ランク=減光の観測される可能性を示す指標。

高ポイントほど確率が高い。

備考 :恒星が微光

IOTA Steve Preston氏による改良予報


2.観測

この現象について人の方が観測に成功された。影山和久氏、後藤邦昭氏、小和田稔氏である。

2-1 影山氏の観測

影山氏は、通過を観測し、以下のように報告された。

当地での結果は通過でした。

天候は晴れでしたが何やら春霞みがかかった感じで12.5等の対象星では市街地の光害の影響を強く受けて8Fr蓄積でも、とても不確実な星像でした。結果は何とか16フレーム蓄積で明瞭に記録できました。
 2UCAC 36961976
 観測者: 影山 和久 (kageyama kazuhisa
 観測地: 熊本県熊本市 自宅観測所
 観測開始: JST 2008/03/26 2031m  終了:同 2034
 観測結果: 通過を確認しました。
 減光時刻: なし
 復光時刻: なし
 使用機材:
  光学系(VISAC D200mm F790mm F3.95 )
  架台 (EM-200+SS2000PC)
  CCD (WATEC社 WAT-120N 16Fr蓄積)
  記録 (PC上にて「UFOCapture」を使用 30fps AVI記録)
  解析 (PC上にて「Limovie」で解析)
時刻保持:

  Pc上で桜時計にて±5ms以下に自動校正
  TIViによるインポーズとUFOcaptureのインポーズ併用
  (UFOCaptureにて+33s補正)

なお、影山氏は、ビデオカメラから直接PCにキャプチャしている。また、空電や流星の観測に用いられているキャプチャソフト UFOCapture を活用した独自の方法を工夫しておられる。

2-2 後藤氏の観測

一方、広島県三次市の後藤邦氏はビデオ観測で減光をとらえた。

夕方まで雨のち晴れのち雨といった不安定な天気でしたが、幸運にも40分前より南西上空の雲が晴れだし、減光が観測できましたが、ビデオテ-プが不良で撮影出来ませんでした。撮影出来ていると思っていたので、減光の時刻は不正確です。およそ83250秒ころ、2秒程度の減光でした。減光は明瞭でした。

****
 観測結果:減光を確認。(不正確です 203250付近で2秒程度)
 観測者 :後藤邦昭(GOTOU KUNIAKI)
 観測方法:テレビデオで録画(失敗)、モニタ画面で観測
 観測条件:シ−イングやや不良
 観測機材:D=350mm fl=3850mm シュミカセ 0.6倍のコンプレサ−使用
       TGV-M FRAME8
 時刻保持:GHS15+TIVI
 以下略

残念なことに、後藤氏は機器の不調で減光時刻をビデオの精度で求めることはできなかった。しかし、少なくとも、小惑星の影は予報よりも北にずれて通過したことが明らかになった。更に、この観測がたいへん重要な意味を持っていたことが後に分かることになる。

2-3 小和田氏の観測

もう一人この現象を静岡県の小和田稔がビデオに収めていた。小和田は観測したビデオをLimovieで解析した。対象星(2UCAC 36961976)だけでなく、すぐ隣にある恒星 GSC742.130912.2mag)についても測定をおこない、対象星のみが減光していることに気づいたのだった。しかし、グラフはノイズによる振幅が大きく、現象時刻を特定することは困難に思われた。小和田JOINへ次のように報告した。

予報時刻の10分前まで全天曇りであきらめかけていたところ、急に晴れ間が広がり始めました。対象星を十分確認できないまま、録画を始めましたが、幸い対象星が写っていました。透明度が悪く、16フレーム蓄積で撮影しました。ノイズが多い画像ですが、Limovieにかけたところ食の可能性がある部分が一カ所ありました。もう一カ所ほぼ同じ程度の減光が認められましたが、すぐ隣の12等星も良く似た変化をしているので薄雲の通過かと思われます。食らしい部分の継続時間は0.5秒で、これは16フレームの蓄積時間に当たりますので実に微妙なところで、食による減光と考えてよいのかどうか判断がつきません。


小和田の観測は食現象をとらえていたのかどうか、検証する必要があった。そこで、Limovieの解析結果であるCSVファイルが、せんだい宇宙館と宮下のところに送られることになった。

3.CSVファイル

届けられたcsv形式の数値データについて、まず、確認がなされた。データをグラフ化したものを以下に示す。


図2.対象星(2UCAC 36961976)の光量変化 と 図3.比較星(GSC742.130912.2mag)の光量変化


双方のグラフからは、フレーム蓄積にともない、16フレームの間ほぼ同じ値が続くようすを見ることができる。図1では、No.630フレーム付近に大きな光量の低下が見られるが、全般に値が大きく上下しているので、これはシンチレーションによるものか、あるいはCCDのノイズに起因するものと思われた。一方、もう少し全体的に比べると、対象星の方はNo.550からNo.750フレームにかけて光量が低下しているように見える。これは、減光を捉えたものであると考えられるが、前述したように値の変化が激しいことから、結論を出すには、更にノイズを減らす工夫が必要であった。

4.FFTローパスフィルター

このようにノイズの多い測光データから食であるかどうかを判断するためには、ノイズを取り除く必要があ。そのためには、多くの場合、ノイズリダクションフィルターを適用することが有効である。そこで、これまでに浅い減光のおりに効果のあったFFTローパスフィルターが適用された。しきい値を0.9Hzとし、それ以下の波長の高周波成分を取り除くことにより、1秒以上続くような長い光量の変化のみを見ることができるような処理がなされた。その結果、図4を得た。


 

図4.FFTローパスフィルター(0.9Hz)による対象星の光量変化  図5.比較星の光量変化 


図4対象星では、No.620フレーム付近にノイズの振幅を越える大きな光量の低下が認められる。一方、図5の比較星にはそれが見られない。予報では2.2等級の減光であるから、光量は掩蔽前の13%となるはずであるが、対象星のフィルター適用の結果はそれと矛盾しない。これより、現象は確かであると考えられが、測光値のみからの解析であることから、様々な検証が必要だと考えられた。そこで、仮の現象時刻として、図4のライトカーブで値がゼロになった点の時刻を求め、せんだい宇宙館の早水に、現象時刻として妥当であるかどうかを検証いただくことにした。もし予報と大きく異なるようであれば、フィルターによって現れた減光は、他の何らかの原因でも起こりうることになり、これまで様々な現象で検証されてきたことがらとは大きく矛盾してしまうからである。

宮下から早水に次のようなメールが送られた。


現時点では充分に検討してありませんし、シンチレーションによるノイズによるものであるという可能性も否定できませんが、FFTはシンチレーションに対するノイズリダクション効果がたいへん高いことから、小和田さんの観測は掩蔽による減光をとらえている可能性が高いのではないかと考えています。早水さん、整約計算をお試しいただけないでしょうか。
 以下はローパスフィルターで値がゼロになったフレームの時刻です。これを仮の現象時刻としてお使いください。
 D : 20h33m09.38s R : 20h33m11.42s


早水氏はそれに基づいて整約計算を行い、図6.仮の整約 を作成した。以下は早水氏のメールである。

小和田さんの観測から得られた弦の長さは、推定直径 101km の小惑星に対して、38.9km でした。後藤さんのご報告[JOIN10646]でも「2秒ほどの減光」とされており、小和田さんの位置に一致する時刻で表示しています。「小惑星は推定よりも小型である」とか、いろいろな仮定が出てきそうですが、現在のところはこれが精一杯のところと思います。ちなみに、この小惑星は、過去に恒星食の観測された実績はありません。


早水氏が「小型」と表現したのは、現象継続時間が短いからである。その原因は、仮の現象時刻が、図4の光量の値がゼロになった部分をもとに得られているためである。ともあれ、時刻についての矛盾がないことがわかった。そこで、変化の中央にあるフレームによる値を読み取り、暫定的な現象時刻として早水氏に報告した。

早水氏はそれに基づいて、更に整約計算を行い、

小和田さんの観測から得られた弦の長さは、推定直径 101km の小惑星に対して、70.4km でした。

との結果を得た。これは予備整約の結果としてJOINにも公開された。


5.ローパスフィルターの特性

上述のように、非常にノイズ振幅が大きく、ノイズがパルス状であるという複雑な変化から単純で大きな光量低下を抽出したことから、FFTローパスフィルターのノイズ低減効果はこれまでの解析から感じていたものより更に大きいのではないかと期待された。そこで、光量変化のモデルを作ってローパスフィルターにかけることで、働きが検証されることになった。

原信号は、4秒の「減光期間」を持つ矩形のパルス波 である。これに対して、しきい値を様々に設定したローパスフィルターを適用した結果が以下である。

図7  原信号  Hz  Hz  1.5Hz  0.9Hz  0.6Hz

特に0.9Hzのものは、観測より得られたライトカーブに適用したもの(0.9Hz)とよく似ている。このことも、星食による減光であることを裏付けているものと考えられた。

また、更に、0.5秒周期で振幅が減光と同じ大きさ、という大きなサイン波のノイズを加えたモデルにFFTフィルターを適用された。

図8  原信号  Hz  Hz  1.5Hz  0.9Hz  0.6Hz


以上より、極端に大きなノイズでも効率的に除去することができることが確かめられた。観測より得られたデータのノイズはこのモデルよりは小さいであろうことから、小和田氏の観測が食による減光をとらえていた可能性は、更に高まることになった。なお、図7、8ともに、0.9Hzおよび0.6Hzのフィルターを適用すると、減光は逆三角形に近いライトカーブで描かれる。もし、この処理結果で中央値を持つフレームを現象時刻とした場合、現象の継続時間が実際より短くなることを示している。前項に記した早水氏の予備整約で、小惑星の推定値より小さな値となったのは、このためである。


6.画像ファイルの解析

フィルターの適用から食による減光の可能性が高いことがわかったこと、現象時刻を正しく求める必要が生じた。そのためには、光量測定の時点で更にノイズを減らす工夫が必要となる。そこで、画像ファイルが宮下のところに送られることになった。

小和田氏から次のようなメールとともに、aviファイルが届けられた。

とりあえず宮下様から依頼のありましたファイルを用意しましたのでお送り申し上げます。まず、画像のAVIファイル(Kolga080326a)ですが別便(データ便)にてお送りしました。また、CSVファイルは本メールに添付しました。ただし、CSVファイルにつきましては現象の前後で撮像範囲の移動がありましたので(対象星の拾い出し、および対象星野の確認のための移動)、「連続した5分以上」のデータが得られませんでした。そこで現象を含む4分43秒間のふたつのファイル(Kolga080326boKolga080326bc・最後の添え字はoが対象星、cが比較星を意味します)と、終了後10分ほど経過した時間帯の20秒間のふたつのファイル(Kolga080326coKolga080326cc)とになりました。

なお、作業の中で何度か再生画像を見たわけですが減光していることは確実だと思えてきました。また、最初の減光の後に二回目の減光があるように感じられ(最初の報告にも書きましたが)ひょっとして未知の衛星による食?などと大それたことまで考えてしまいました。


このとき小和田氏がビデオ画像の様子を詳細に観察していたことが、後ほど解析された結果から明らかにな

6-1 Aperture径を小さく

届けられた.aviファイルのLimovieを用いた解析が行われた。まず、Limovieのノイズ低減のための基本手法である、 Aperture径を小さくする ことが試みられた。その結果として、図9を得た。

 図9 Apertureを小さくした測定 

青が対象星、黄色が比較星である。図2に比べてノイズが減り、グラフが明瞭になってきた。これから、対象星のみが減光していることが明確になった。

6-2 3D Profileの画像から

Apertureを小さくすることで、ある程度の改善がなされたものの、現れたグラフは期待される平底型のライトカーブにはなっていない。蓄積された画像が切り替わるたびに、大きくばらついた値となっており、データとしての信頼性に乏しいものであった。そこで、あらためてビデオ画像を調べることにし、Limovie3Dグラフ(Star Profile)で画像上の輝度分布を表示させてみた。すると、3D画像の上では、図10に示すように、明瞭に現象をとらえることができたのである。

10 ピクセルの輝度分布(3D Star Profile)で見た掩蔽現象


10は、左より現象前、減光中、現象後のようすである。減光中には星像が認められず、その前後に星像が明瞭に見えている。これで、掩蔽が起こったことは確実であることがわかった。画像を見ながら現象時刻も求めることができ、正式な結果として、観測のまとめと整約をおこなう早水氏にも報告された。

このことを宮下は小和田氏にメールで次のように伝えている。

おっしゃるとおり「減光は確実」です。答えは意外なところにありました。いただいた画像ファイルについて、LimovieStar Profile (Star Image 3D)機能で光量分布のグラフを表示させてみました。手順は、
 1. 対象星をクリックして、測光領域を合わせる。
 2. Star Image 3D ボタンをクリック。
 3. Processing Size を 3 に。
 です。
結果、添付ファイルのように、星像を明瞭に識別することができ、現象時刻を特定することができました。
 D 20h33m07.31s +/-0.27s  星像が消えた最初のフレームより求めた。
 R 20h33m12.62s +/-0.27s  星像が消えていた最後のフレームより求めた。


しかし、ここで新たな疑問が出てくる。


「画像を目(3D)で見て明瞭に判断できる現象が、なぜ光量測定ではノイズの多い結果になるのだろうか?」

特に、フレーム蓄積はノイズ低減に有効であるにも関わらず、このようなばらつきが起こるのは不思議であった。そこで、3D Profie を用いて、再度ピクセルの輝度分布が調べられた。

11 3D Star Profile


11の左側が画像上のピクセルの輝度分布、右側が半径3ピクセルの移動平均をとったものである。左側の図から、Apertureは星像を囲むのに充分な大きさであることがわかる。一方フィルター処理された右側の図では、もっと直径が大きな星像であるように見える。一般的に、移動平均フィルター処理がなされても、極端に星像が大きく見えることはない。したがって、星像が大きいのではなく、CCDの熱ノイズには場所による変化があり、それは移動平均すると、ちょうどプールの水面にできた波のような、ランダムな波状となっている。図10に示したバックグラウンドに、そのようすが見られる。この「波」から得られた以下のような連想から、ノイズ低減の方向が見出されることになった。

ここで、バックグラウンドを海面に、星像を船に例えてみると、図12のようになる。

12 海面と船に例えると


ここで船の(水面から出ている部分の)高さが恒星の光量を表すものとする。小型船は、波により上下するが、大型船は海面での高さを変えない。それぞれ船の大きさや形は変化しないが、鉛直方向の位置が異なるのである。Limovieは、星像と考えられるピクセル値からバックグラウンドを差し引いて、星像の光量を計算している。このとき、バックグラウンド(上記のたとえで言うところの海面の高さ)は、星像の部分のバックグラウンドを代表する値でなければならない。以上から、次のように考えることができる。

大型船は、波によって高さが変わらない。したがって、平均海面を海面の高さとして扱うことができる。一方、小型船は波によって高さを変えるから、小型船の周囲のみの海面の高さを測らないと、海面の高さを代表する値は得られない。Limovieの測定で言えば、大きな星像が得られる時は、バックグラウンド領域を広げて、周囲の平均のバックグラウンドの強度を測ればよい。それに対して、小さな星像である場合は、バックグラウンド領域を星像つまりApertureに可能な限り近づけて測定する必要があることになる13)。

13 星像の周囲に限定されたバックグラウンド


一般的には、バックグラウンドは広い方がノイズ低減に有利である。しかし、この場合のようにバックグラウンドのノイズが大きく星像が小さい場合には、必ずしも広いバックグラウンドはノイズ低減に有効であるとはいえないことが明らかになった。


6-3 画像の移動平均処理

前項に加え、更に別の面からのノイズ低減が図られることになった。画像への移動平均処理である。従来星食観測のノイズ低減処理といえば、時間軸方向に対してかけられることが多かった。LimovieのグラフにあるNoise Reduction機能や、Registaxを用いた移動平均がそれである。しかし、これらの処理は、異なるフレーム同士で演算をおこなうことから、時間分解能を低下させる可能性があった。一方、移動平均処理を1枚のフレーム画像に対しておこなうことで、ノイズ低減を図る方法がある。Limovieには3D Star Profile機能に搭載されていた。これは、3D表示を見やすくすることを目的につくられたものであり、実際の測定には影響を与えるものではなかった。一方、小惑星による星食にLimovieが活用されることが増えるにつれ、ノイズ低減の機能が必要であるとの声が高まり、それに対する一つの答えとして、画像に移動平均フィルターをかけてから測定する機能が最新バージョンに搭載されたばかりだった(Ver 0.9.29)。画面右側のMoreボタンを押して現れる Moving Average Filtre の値を3または5にセットすることによりこのフィルターをかけることができるこのフィルターを測定に用いる効果として、細かいノイズが除かれて星像のピークがはっきりしてくることから、良好な追尾が期待できる。また、小さく設定されたバックグラウンドであっても、ノイズによる変動を小さくすることができると考えられ。ところが、出来上がったフィルターをいくつかの現象に対して適用した結果、期待に反して大きなノイズ低減効果が得ることができなかった。広いバックグラウンドを用いている場合は、「広い」というだけで既に平均がなされているのであり、予めピクセル平均がなされていようといまいと、ほとんど変わりがなかったのである。また、狭いバックグラウンドの場合も、対象星から離れた位置に設定されていた。

それに対して今回は、対象星に隣接した狭い範囲のBackground領域を用いている。この場合には、図11のように、星像の周囲は移動平均フィルターをかけることで、かなり平坦にすることができることから、細かいCCDノイズを減少することができるだろうと期待された。そこで、半径3の移動平均フィルターが適用され測定がおこなわれた。

14 ピクセル間の移動平均操作パネル


6-4 改善されたライトカーブ

15 バックグラウンドを星像付近の狭い範囲に設定し、ピクセル間移動平均フィルターを適用した場合の光量変化


これらの考察を元に、得られたライトカーブが、15である。図2や図9と比べてばらつきが非常に小さくなり、平底型の減光が明瞭に浮かび上がってきた。これなら、掩蔽による減光と結論してよいだろう。また、「星像の周囲のバックグラウンド」と「移動平均フィルター」の効果がたいへん高いことも確かめられた。

なお、この結果から、No.600フレーム付近にも不完全な減光が見られる。小和田氏が2回の減光と表現したのはこの変化であろう。これは単なるCCDノイズやシンチレーションによるものではないようにも見えることから気になるところであるが、この測光結果だけでは明確な結論を出すことはできない。


7.整約

上記の結果は早水氏に伝えられ、整約計算がおこなわれた。以下は、結果を伝える早水氏のJOINへの投稿である。

http://uchukan.satsumasendai.jp/data/occult/0803kolga-red.gif (図14)


この結果、観測から得られた弦の長さは 101.3km になり、後藤さんの結果と合わせて推定直径とうまく整合する整約結果となりました。


報告された観測は、様々な解析や検討の後に、この整約を経てはじめて公表される。より正確で信頼性の高いデータとするためである。これらの観測結果は、世界各地の観測結果とともに公開され、貴重なデータとして蓄積・活用されていくのである。

8.まとめ

以下は2回目の予備整約の結果をJOINに伝えたおりの早水氏のコメントである。

後藤さんのご報告[JOIN10646]によると、ビデオに記録できなかったものの、「およそ83250秒ころ、2秒程度の減光」ということでしたので、小和田さんの減光時刻に一致するように時刻をフィッティングしますと、減光開始時刻51.2秒頃、中央時刻52.2秒頃となりました。小和田さんの観測により、後藤さんの観測がより生きる形になりました。他の観測分野に比して、掩蔽観測では観測者が多いほど成果が高まるという特徴がありますが、今回もその顕著なケースですね。


掩蔽観測をおこなうことで、小惑星の恒星に対する相対位置を求めることができる。この相対位置の精度は、他の観測方法に対して桁外れに高く、眼視観測等で0.1秒の時刻精度であってもたいへん役立つ情報を得ることができる。現在、恒星の位置データについては、Hipparcos衛星によりたいへん正確に求められているが、恒星の固有運動についての精度はまだ充分でない。その意味では、現時点での小惑星の掩蔽観測によって求められた位置の誤差の多くは恒星の固有運動の誤差に影響される。しかし、今後打ち上げ予定のGAIAなどの位置天文衛星が運用を開始すれば、固有運動も含めた恒星の位置が精密に求められることになり、それと同時に、それ以前になされた位置測定の精度が飛躍的に高まることになる。これは掩蔽観測特有の利点である。掩蔽観測は一つの恒星に対する相対位置であるから、恒星の座標からすぐに位置データを改良できるのに対し、他の観測方法では、基準に用いられた恒星全ての新しい座標を元に計算しなおす必要があるからである

この(191)Kolgaによる2UCAC 36961976の食の観測では、恒星が微光であったことから、観測や解析に困難がともなうものであった。しかし、解析法を工夫し、様々な面からの検証を行うことで、成功観測とすることができることを示すものになった。Limovieを活用した測光という面から見ても、今回の観測から、微光の恒星に対する観測や解析方法について、多くの知見が得られた。とりわけ、ApertureBackground領域の設定の最適化、およびFFTローパスフィルターによる現象の復元などについて、大きな成果が得られたものと考える。また、観測と整約という、一連の流れから見た場合、今回の観測は、複数の観測が相補的に現象の確かさを高めていることが大きな特徴である。早水氏の言うように、掩蔽観測の典型的な例である。このようにしてみると、測光にも観測にも共通していることがある。個々のフレームや観測より得られた情報は、たとえそれが完全な形でなくても、他のフレーム・観測の情報と比較検討することで、より確実な結果を得ることができる、という点である。掩蔽観測はそれ自体が、予報提供、観測、ビデオ解析、整約と、様々な役割を互いに連絡・連携をとりつつ担っていく、という特徴を持っていることを考えると、たいへん興味深いことではないだろうか。以上のようにして得られたKolgaによる食の観測結果も、小惑星のサイズ・形状や上に記したような位置観測の貴重なデータとして活用されていくことになる。