| 気管支喘息(ぜんそく) |
| ● | 小児の約8%、成人の約5%に認められる、アレルギーの関与が大きい呼吸器の病気です。 現在、全世界で1億人以上、日本でも300万人以上の患者さんがいるといわれ、さらに毎年増加していると考えられています。 |
| ● | 喘息は気道(空気の肺への通り道)が発作性に狭くなり、ゼーゼー(喘鳴)して呼吸が苦しくなる病気です 以前から、喘息は、気管支が収縮したり痰が詰まったりして、気道が狭くなる病気と考えられていました。1960年以降、様々な刺激に対して気管が敏感な状態(気道過敏性)が喘息の本体であることがわかりました。さらに1980年頃から、気道の狭窄や気道過敏性は、気道の慢性的な炎症により起こることが多くの研究からわかっています。 このような病態解明の進歩により、現在、喘息治療の主体は、発作時の治療から、発作を起こさないようにコントロールする非発作時の治療に大きく変わっています。 早期に専門医による適切な治療を開始し、医師と患者さん自身による客観的な判断に基づく自己管理を行うことにより、患者さんのQOL(quality of life)は改善され、健常な人と同様の生活を送ることが十分可能となります。 |

| ● | 一方、対応を誤ると死(窒息死)に至る可能性のある病気で、日本でもいまだに年間約3000-4000人の方が亡くなっていることも忘れてはならない現実です。ここ数年は、後述する吸入ステロイド薬の普及により、死亡者数はかなり減少してきたことが最近わかっています。 喘息を正しく理解し、適切に治療・対処することが大切です。 |
| ※ | QOLは「一個人が生活する文化や価値のなかで、目標や期待、基準、関心に関連した自分自身の人生の状況に対する認識」と定義(WHO)されています。日常生活における全般的な健康の良好さ(general well-being)を意味するだけでなく、社会生活における充実度、人生における生き甲斐や人間性をも包括する広い概念ですが、患者さんの満足度であるQOLを治療の目標とすることは、喘息の治療を考えるにあたっても重要な概念といえます。 |
| 喘息の症状 |
| ● | ゼーゼー、ヒューヒュー(喘鳴)・息苦しくなる(呼吸困難)・胸が重い感じ・咳や痰 |
| ● | 発作的に、特に夜間から早朝にかけて多く |
| ● | 季節的変動(秋や季節の変わり目)があります。 |
| ● | アレルゲン(抗原)だけでなく、刺激物質(臭い・タバコや花火の煙)・冷気・急な気温や天候の変化・ ストレス・運動・風邪(ウィルス感染)などが発作の誘因となります。 |
| どうして発作が起こるのか (喘息のメカニズム) |
| ● | 喘息は、気道の収縮(発作)を繰り返すだけの病気ではありません。 数多くの研究から、様々な気道の炎症細胞(好酸球、肥満細胞、リンパ球など)を中心とした慢性炎症性疾患と考えられています。 |
| ● | 気道炎症が増悪すると気道が収縮し発作が起こりますが、発作がない状態でも、たとえ軽症であっても、また発症早期の喘息においても、この気道炎症は存在することがわかっています。 好酸球からは、組織を傷害するたんぱく質が放出され、気道の内側にある上皮を傷つけます。またリンパ球からの特有のたんぱく質(サイトカイン)が気道の炎症を修飾します。喘息の人の気道は、健康な人に比べ、少なくとも100倍以上刺激に対して敏感(気道過敏性)になっていますが、これも主として気道の炎症により起こると考えられています。さらに、気道の炎症が続くことにより、発作がない時でも可逆的に元の状態に戻らない変化(りモデリング)が起こり、慢性化・重症化していくことも分かってきています。 |

| ● | このように、喘息では主に慢性の気道炎症がもとになって症状が起きることが明らかになっています。 |

| ● | 喘息の分類としては、アレルギーの関与ははっきりしたもの(アトピー型喘息)のほか、アレルギーのはっきりしないもの(非アトピー型喘息)があります。また、非ステロイド系の消炎鎮痛剤の内服や注射により重篤な発作を起こすアスピリン喘息(成人喘息の約10%)や、ある種の職業性抗原により起こる職業性喘息などがあります。 |
| 喘息の診断 |

| ● | 症状(問診)や聴診から喘息が疑われる場合は、呼吸機能検査を行い、気道が狭くなっていないか、気道狭窄の可逆性があるかといったことを調べます。 また気道過敏性の程度を測定することもあります。 胸部レントゲン検査やCT検査は、肺気腫など慢性閉塞性肺疾患(COPD)との鑑別や合併の確認に有効です。 |

| ● | 原因抗原を調べるためにアレルギー検査を行います。総IgE濃度(IgE蛋白量の総量)や抗原特異的IgE抗体を測定します。食物抗原では、ヒスタミン遊離試験によりアレルゲンを検索することもあります。 |
| 治療のポイント |
| ● | アトピー型喘息における、原因となる抗原や症状の増悪因子の回避は、基本的に重要なことです。 |
| ● |
喘息治療の主体は、慢性の気道炎症を抑えコントロールする治療です。 喘息の治療薬には、発作を治療する発作治療薬(レリーバーと呼ばれます)と気道炎症をコントロールするための長期管理薬(コントローラーと呼ばれます)があります。 |

| ● | 発作治療薬には、短時間作用性の気管支拡張薬(β刺激薬の吸入・内服など)、徐放性テオフィリン剤などの気管支拡張薬とステロイド薬の短期内服などがあります。 長期管理薬には吸入ステロイド薬を中心とする抗炎症薬、、長時間作用型のβ刺激薬(吸入)、ロイコトルエン受容体拮抗薬、インタールなどの抗アレルギー薬などがあります。 |

| ● | 喘息は、発作(急性増悪)を伴う病気です。発作時には適切に気管支拡張薬を使用すると同時に、発作の程度により、次に何をすべきかを主治医の先生とあらかじめ決めておくことも大切です。 |
| なぜ吸入ステロイド薬が重要なのか |

| ● | 現在までのところ、慢性炎症を最も効率的に抑える薬剤はステロイド薬です。 吸入ステロイド薬は、局所の抗炎症効果が強く、少量の薬剤(経口ステロイド薬の約1/100)を、口から吸入することで直接炎症の場(気道)に投与でき、さらに肺や消化管から吸収されても肝臓ですぐに分解(代謝)されるため、経口ステロイド薬で知られている全身性の副作用はほとんどありません。 薬理学的にも経口ステロイド薬と異なるお薬と考えてもよく、欧米を中心に少なくとも軽症持続型(軽い発作が続く)以上の成人の患者さんの第一選択の長期管理薬としてその有効性は確立されています。 もちろん使用量は、重症度を客観的に判断し、一定の根拠のあるルールに基づいて投与し、必要に応じて他のお薬と併用して使用します。 |

| ● | 日本でも専門施設や大学病院では、吸入ステロイド薬の普及にともない、経験的にも学会の報告でも、重症例や入院例は明らかに減っています。吸入ステロイド薬を積極的に使用してきたスウェーデンでは、若年層の死亡率が87〜98年の間に10万人あたり0.6人から0.06人に激減しました。 さらに、最近の研究で、吸入ステロイドの導入時期により肺機能や気道過敏性の改善度に差があることが報告され、早期導入(early intervention)により気道のりモデリングの予防や改善に有効であることが報告されています。 たとえ軽症であってもコンスタントに症状がある症例や気道炎症が明らかな症例には、吸入ステロイド薬の早期導入が将来の重症化・難治化を防ぐ可能性があることが注目されています。 現在のところ「喘息は、コントロールは十分可能だが、治癒することはない」というのが世界的なコンセンサスですが、発症早期に吸入ステロイド薬を上手に使用することで、数ヵ月後に気道過敏性が低下し、まったく症状を認めなくなる患者さんもいることが経験され始めています。 |

| ● | 現在、我が国の吸入ステロイド薬の普及率は、成人で12%、小児え5%と欧米(成人22%、小児23%)に比べ低く、年間6000人に近い喘息死があることを考えても、今後さらに吸入ステロイド薬が正しく普及することが望まれます。 |
| ● | 一方、気道炎症が複雑に増悪し、十分量の吸入ステロイド薬を使用してもコントロールされなかったり、いわゆる難治性喘息の患者さんも数多くいます。現在、ステロイド薬とは違った機序の薬物の研究・開発も世界中で進められていることを付け加えておきます。 |
| 喘息治療の目標 |

| ピークフローメータを使った自己管理 |
| ● | 高血圧の方が血圧を測定したり、糖尿病の方が血糖値を測定して状態や治癒効果を判断するように、喘息のコントロールは症状だけでなく、客観的な肺機能の指標となるピークフローメータを用いて自己管理します。 ピークフローは、息を十分に吸い込んだ状態から吐き出す空気の最高流速で、気道が狭くなっていれば低下します。喘息罹患が長い程、また重症になるほど、苦しいと感じる感覚が少しずつ低下し、発作や発作の前の段階で自宅での治療をどうするかを決める重要な情報となります。 |
| ● | 自己最高値(personal best)に対して、何%気道が開いているかを判断します。 信号機に例えて、緑(green zone : 80-100%)、黄(yellow zone : 60-80%)、赤(red zone : 60%以下)に分け、その時の対応・治療についてあらかじめお知らせしていき、喘息をコントロールします。 |
| 喘息のガイドラインについて |
| ● | 科学的な根拠(EBM : evidence based medicine)に基づいた病気の考え方や治療法についての一定の指針をガイドラインといいます。 |

| ● | 近年、多くの病気のガイドラインが発表されていますが、喘息の治療・管理ガイドラインも、各国で次々に発表されています。この背景には、病態理解の進歩に合わせた喘息の治療法の再評価、増加傾向にある喘息有病率や減少傾向の見られない喘息死に対する社会的な治療戦略の必要性があります。英国(1989、1991)、アメリカ(1991-1992、1997)、オーストラリア・ニュージーランド・カナダ(1990-1991)、WHO(1995)、日本(1993、1995、1998、2000、2002、2003、2006)などがあります。 |

| ● | 治療の開始時に、現在の症状、過去の治療内容・治療経過を総合的に考慮し、重症度を客観的に把握します。 重症度は、臨床症状の特徴、肺機能を中心に、ステップ1 「軽症間歇型」、ステップ2 「軽症持続型」、ステップ3 「中等症持続型型」、ステップ4 「重症持続型」に分け、それぞれの段階にあった治療法を選択します。 |
