■とある茶屋で…の段■





「は〜っ、良い気持ち!」
からりと爽やかな秋晴れの空、ひとつ大きな伸びをして
はいつものように茶店の看板を店先に立てた。
そして箒を持ってくると、店の前に散る葉を掃き出した。
「もうそろそろ秋も終わりか…」
そう呟いて顔を上げると、目の前に一人の男性が立っていた。
「おはよう」
「おっ、お早う御座居ます!いらっしゃいませ!」
気配を感じさせずに自分の目の前に現れたこの客には少々驚いたが
すぐに頭をぺこりと下げて挨拶を交わした。
「茶を一杯もらおう」
そういいながら暖簾をくぐって店に入ってくるこの客。
彼はここ何日か毎日のようにやって来ていた客であった。
も毎日のように茶を出していたので、この客のことはよく知っている。
すぐに茶と、簡単な茶菓子を用意して、は彼に差し出した。
「毎日大変ですね。お仕事なんですか?」
「ああそうだ」
彼は湯呑みを両手で包み込み、そこから立つ湯気を眺めていた。
「毎日世話になるな」
「いえいえ、いつでもいらっしゃってくださいね」
彼はの方に向かって、微笑んだ。
その表情にはドキリとした。
眼鏡の下に覗くその目は鋭く、気むずかしそうな印象を受けていただったが、
微笑むとこんなに優しそうな顔になるんだな、と気付いた。
「君、名前は?」
「え?わ、私?私はと申します」
「ここではもう長く働いているんだろう?」
「ええ、住み込みで働いているんですけど…」
彼は少し頷くと、を自分の隣に座るよう、指図した。
「私は野村雄三という者だ。ちょっと君に頼みがある」
「頼み?」
野村と名乗ったその男性は、小声で話しだした。
「じつはな、この先にある城のことは知っていると思うが…」
「ええ、今戦を企ててる噂の城ですよね」
「そうだ、その事についてなんだが…」
はもう長いことここに住み込みで働いていた。
なので、この辺りで起こっている情況も、それなりには把握している。
それに、戦を企てているだけあって、城の兵達が大勢この辺をうろついており、
彼等はこの茶店にも良く足を運んでいた。
その彼等の話により、は戦の情報も知ることが出来たのであった。
野村は、仕事の関係でその城の情報を入手しなければならないという。
なので、この店にきた顔見知りの兵に、それとなく城の情報を聞き出してほしい、
そうに頼んできた。
「で、コレが聞き出して欲しい情報なんだが…」
野村はに小さなメモを手渡した。
そこには、いくつかの質問項目が記されている。
「ムリとは言わない。ただ、何となく聞けたらでいいのだが…頼めるか?」
野村はの目を見つめた。
その目に再度どきりとしながら、はこくりと頷いた。
「そうか、有難う」
礼を述べると、茶を飲み干し、野村は店を去っていった。


は、茶店に訪れた兵一人一人に、野村から受け取ったメモにある質問をした。
顔見知りの、可愛らしい茶店娘であるの質問には、誰一人怪しまずに
すっかりと話して聞かせてくれた。は一つ残らずその答えを書き残した。


それから数日後、再び野村は店に現れた。
「いらっしゃいませ!」
は元気よく野村を迎えた。
「茶を一杯もらおう」
野村は暖簾をくぐって入ってきた。
「只今!」
すぐに一杯の茶と、茶菓子を用意し、野村の所へ持っていく。
そして、小さな紙を手渡した。
「これ、先日頼まれた質問の答えです。みんなよく答えてくれましたよ」
野村はそれを受け取り、眺めると、懐にしまった。
「ああ、本当に良くやってくれた、有難う。見ず知らずのこんな私の為に」
「いえいえ、毎日お茶を飲みに来てくださって本当に有難う御座います」
野村は静かに茶をすすった。
「兵がこんな質問を怪しまなかったのは、これも貴女が素直で可愛らしいから
でがないのかな?人は見かけで判断する事が多い」
これはれっきとした忍術である。
野村は心の中で続けた。
「そんなこと無いですって、からかわないでくださいっ」
はお盆を持つと、微笑みながら店の奥へと入っていった。
そんな姿を見ながら、野村もまた微笑んだ。
「野村さん、これ、私からのサービス。この店自慢のくず餅ですよ」
は盆を野村に差し出した。
「おお、これは美味そうだ。いただこう」
盆を受け取り、野村はそれを食べ始めた。
そして、ゆっくりと楊枝を置いた。
「今度…貴女にお礼をしなくてはな」
は笑いながら手を振った。
「お礼なんてそんな。いいですって。このお店に来てくださるだけで私は満足
ですよ。だから…」
食べ終えたくず餅の皿を受け取りながら。
「これからもまたお茶を飲みに来てくださいね。野村さん」
にっこり笑うを見て、野村もまた笑顔で。
「勿論だ。今度は仕事仲間も連れてこよう。一人結婚できずにいる若い男がいる。
見合いでもどうだ」
「そんな、お父さんみたいなこと言って!」
クスクスと笑いながら再び店の奥へと入っていくに、野村も自然と笑いが
こぼれる。
「あのこといると、こっちまで笑顔を貰うようだ」
野村は銭を机に置くと、立ち上がった。
「じゃ、またくるからな、]
「ええ、是非に」
に手を振り、野村は店を後にした。

                                     オワリかツヅクか…

 

あとがき言い訳
う〜ん、思っていたより甘甘にはならなかった…。こりゃ続編やら別バージョンやら
つくる必要がある。どうにかして野村をさんに惚れさせないとね。
ということで、また次回をお楽しみに!