「大木先生のバカ」
「さっきから何度言えば気が済むんだ?」
もうずいぶんとこの会話の繰り返しだ。
わしに背負われている利吉はずうっとふくれっ面だ。
利吉はわしのせいで右足をやられている。
骨まではいかなかったが、これじゃ当分歩けないだろう。
「大木先生の、バカバカ!」
まだ言ってる。
相当子供だな、こいつも。
そりゃ利吉の仕事を邪魔したわしも悪い。
でもわしに気をとられてミスしたこいつもこいつだ。
お互い様じゃ。
「あなたが来なかったら私は無事に仕事を終えて…」
今度は愚痴りだしたぞ、こいつ。
あぁあぁ、わしが全部悪い悪い。
だからこうやって責任とって背負ってつれて帰ってるじゃないか。
もう無視だ。
すきなだけ愚痴っとれ。



わしは家から離れた森に山菜を採りに行っていた。
この辺は険しい崖だが、その分人が寄りつかず、山菜も採られず残っている。
こんな場所に行くのは忍者か、そのくらいだろう。
何度も行った場所だが、今までに一度も人に出くわしたことなんかない。
だが今回は違った。
人に出会った。
人と言っても、今わしが背負ってる五月蠅いこいつだが。
こんな辺鄙な場所で、よもや利吉に出会うとは…

利吉は木の上に潜んでいた。
大方なにかの仕事だろう。
だがそんなことはお構いなしに、わしは喜んで利吉に声をかけた。
いや、突然声をかけて脅かしてやった。
気配を消して利吉に近づき、後ろからでかい声でな。
そりゃ驚かすことが目的だったが、利吉はわしの想像以上に驚いて、しかも木から落ちやがった。
「何もそんなに驚ろかんでもいいだろうに…」
逆にわしの方が驚いた。
利吉は尻餅ついたまま、声の正体がわしだと気づいたら泣きそうな顔しやがった。
「こんなところでかくれんぼか?」
「大木先生のバカ!」
久しぶりに会ったというのに、第一声がバカはないだろう?
「折角もう少しのところだったのに、逃げられちゃったじゃないですか!」
利吉はわしを睨みあげて言った。
「逃げられたって、さっきのアレか?」
そういや利吉が落ちたと同時に、向こうの方でなにか音がしたな。
誰か走っていったような…。
利吉はそいつを狙ってたんだな?
「苦労してここまで追いつめてきたのに!あなたのせいで!」
「まぁ人一人逃がしたってどうってことないだろ?」
「あなた、よくそれで忍びなんかやってますね!私がどれだけ苦労してたかわからないくせに!」
まぁそんなにわしを攻めるな。
「わるかった」
ちゃんと謝ったじゃねぇか。
「謝って済むことと済まないことがあります!」
それはわかってるさ。
でもなぁ、久しぶりに利吉の顔を見てわしはつい…
「早くあっち行ってください!」
「つれないこと言うな、もうあいつを追っても無駄だろ?」
「ふんっ」
まったく可愛くない奴だなぁ。
いったん逃がしたら、再び捕まえるまで随分と時間がかかるだろう?
ちょっとぐらいわしに付き合ったっていいじゃないか?
なぁ利吉。
「早くあっち行ってください!」
何だよ、その態度は。
「お前こそ何処かに行ったらどうだ?ここはわしの山菜取りスポットなんだぞ。
そんな所に尻餅ついて大事な山菜を潰すな!早く立て。」
ホラ早くどけよ。
なぜ立ち上がらん、利吉。
「……」
ど、どうした?
なぜ泣く??
「大木先生のバカ」
立てんのなら素直に言えばいいんだ。
強情っ張りめが。



しかしだなぁ、いくら利吉が軽いとはいえ、あそこからここまで背負って来るのはかなりしんどいんだぞ。
やけにおとなしくなったと思ったら、こいつ寝てやがる。
そろそろ腕がしびれてきたってのに、のんきなもんだ。
どうせ奴を追うのに連日ぶっ通しだったんだろう。
そうだとしたら、やっぱり悪いことしたな。
「悪かったな、利吉。謝る。」
寝てる間に謝っておこう。
「久しぶりにお前を見たからな。ちょっと嬉しくなったのじゃ。」
寝てる間に言っておこう。
背中がくすぐったい。



「利吉、着いたぞ〜。ホラ、起きろ。」
「あ、うん?」
わしの肩越しに、利吉の声が聞こえる。
何寝ぼけてる!
わしはもうへとへとだ。
「あっ、ごめんなさい、つい居眠りを…」
お、気づいたな?
わしの背中で熟睡したことを。
「あ、おい待て!ちょっと待て!」
混乱してるのか、利吉はわしの背中から飛び降りた。
「あっ、いっ痛…」
足痛めてることすっかり忘れてたな?
「馬鹿。何でわしが重い思いをしてお前を運んできたか忘れたのか?」
「んっ、ごめんなさい…」
やけに素直だ。
顔を赤らめ。
マズいな、そんな顔が可愛い。
「そこに横になってろ。今手当てしてやるから。」
「…はい」
立場逆転のようだ。
利吉はすっかりおとなしくなってしまった。
「足、見せてみろ」
「…はい」
相変わらず白い女のような足をしている。
…久しぶりに、この足を開かせたくなった。
「…すいません。大木先生」
可愛い顔して。
「悪いのは全部わしだ。利吉の仕事の邪魔をしたからな。お前は謝らんでもいい。」
ほら、手当は済んだ。
少なくとも二、三日は走れないがな。
「別に、…別に逃がしちゃってよかったんです。」
「ん?何がだ?」
「私の追っていた忍びです。追いたくなかった。」
追いたくなかった?
「友達だったんです、彼。」
「ふぅん。」
仲間同士ってわけか。
そんなもん、忍びの仕事じゃいくらだってあるさ。
「雇い主に、三度逃したら解雇する、って言われたんです。
今日三度目を逃がしました。
これで私の手で殺めずに済みました。」
「ふん」
甘いな、利吉。
逃れてもいつかはやってくる道だ。
あるいはわしと対決する日も来るかもしれん。
「お前が殺らなくとも、誰かに殺られるぞ。」
「知ってます。」
知ってるのに、なんだその清々しそうな笑顔は。
ま、いいか。
「足な、三日は動けないぞ。」
「え〜?三日も??」
「そうだ、だからわしが責任もってお前を介抱してやる。」
だから三日間は、わしの家に…留まれ。
「大木先生が?遠慮しときます…」
「遠慮することはないぞ〜。わしと一緒にいると良いことだらけだ。まずアレだろ?ソレだろ?こんなコト…」
「はいはい、わかりました!!変なこと想像しないでください!」
ヘンなこともしたいが、ただ一緒にいるだけでもいい、と思うときだってあるさ。
まぁそんなこと利吉には言えんがな。
「昼はともかく、夜はたっぷり楽しませてやるぞ。」
「ほらそう来る!あなたはいつだってそうなんだから!」
そりゃお前が可愛いからだ。
悪いのはお前だからな。
「大木先生のバカ」
「また始まったな?苦労して運んできたってのに、背中でよだれ垂らして爆睡してたのは誰だ?」
「よだれ垂らしてなんかいません!バカバカ!!」
「バカって言った方がバカなんだぞ。お前がバカだ。」
「大木先生子供みたい!ふんっ!」
お前だって十分子供だ。
みてろ、今夜は口も聞けないくらいイイ思いをさせてやる。
今夜だけじゃないぞ。
あと三日間は楽しい思いをさせてやるからな。
覚悟しろ、利吉!


                               おわり

 

あとがき(言い訳とも言う)

え〜と、言いたかったことが何も伝わりませんでした。だから軽く解説。
結局利吉は相手を殺したくなかったのです。自分の手で殺めたくなかったから、
大木に見つかって内心ホッとしてるのでしょうね。で、バカバカ言ってるのは、
そのことを忘れようとか、そんな勢いなんじゃないかな。どうだか…。
ああ、ゴメンナサイ。毎回文才無いのに小説書いてるし…。
謝りながら堂々とアップしております。