駆け抜ける、風になびく長い髪。
そのシルエットを待ち続けた。


深い闇、森を抜けた所で、野村雄三は利吉が戻るのを待っていた。

「手伝ってください」
と、利吉が雄三の前に現れたのは一昨日のことだった。
「今回の仕事、助けが必要なんです。野村先生には見張りを…」
城の見取り図を広げながら、利吉は説明を始めた。
「お父上や土井先生も居るだろうに、何故私を選んだのだ?」
弱い明かりに灯された利吉の横顔を見ながら、雄三は問う。
──仕事の相手なら、雅之助も居るだろうにな…
皮肉を込めて自分にも問うた。
「さあ、何故でしょう。でも私は野村先生にお願いをしたいんです。引き受けて頂けませんか?」
「お前の頼みだからな。それは喜んで引き受けるさ。さぁ話を続けてくれ」

利吉がこうやって自分に仕事の手助けを頼んでくるのは久し振りだった。
助けを頼むと言う事は、それなりの危険が伴であろう。
ならば誰が利吉を守る?
自分以外にも、身近に優秀な忍者は沢山居る。
悔しいが、彼奴(アイツ)もそうだ。
しかし、彼奴に利吉を渡す訳には……

「明日、例の茶店にてお待ちしております。よろしくお願いしますね」
地図を胸元に納めながら利吉が微笑んだ。
「わかった。安心しろ、ぬかる筈はない…」
雄三も小さく微笑んだ。
「…利吉」
発(た)とうとした利吉に呼びかける。
はい、と振り返りかけた後ろ姿を抱きしめた。
雄三の頬に、ふわっと利吉の髪が流れる。
「野村先生……」
何か言いかけた利吉の唇は、形を変えてこう答えた。
「お休みなさい」
「あまり無理をするんじゃないぞ」
優しく髪を撫で、もう一度抱きしめてから腕を解いた。
雄三の体に微かな余韻を残し、闇に融けるように利吉の姿は消えていった。


利吉は、自らの仕事内容は一切話さなかった。
ただ、雄三には見張りと、城に乗り込もうとする忍者の阻止を頼んだだけであった。
「誠に失礼ながら、仕事内容を伝える事は…」
と言っていた。
──自分の仕事に他人の手を借りる事が許せないのか…?
それは利吉のプライドか?
もっと甘えれば良いものを…
焦りすぎだ…利吉。

詳しい仕事内容は一切尋ねない。
雄三は利吉に頼まれた通りの事だけをした。
城の遠巻きに、攻め入ってくる他の忍者を片付けただけだった。
「これじゃ一人では流石に無理だな…」
闇より、次から次へと飛び出してくる黒い影に、片っ端から斬りかかる。
辺りには鈍い金属のぶつかり合う音と、人を切る嫌な音がする。

そして、どのくらい経ったのだろうか。
足下に転がった幾つもの屍を飛び越え、雄三は暗い森を抜けた場所で待つ。
そこが利吉と別れた場所であり、待ち合わせている場所であった。


遠く、森の向こうで炎上する城を仰ぎ見て、雄三は利吉が戻るのを待っていた。
待っている…
利吉の気配…
──?!
突然、暗闇を割って飛び出してくる一つの影……
森の中を音も立てずに風と共に飛び出してきた。
炎の明かりを背に受け、走ってきた。
黒い、シルエット。

「利吉…」
声を出さずに呼ぶ。
「ご無事ですか?野村先生!」
声を出さずに応える。
「お前も無事で良かった…」
笑顔で飛び込んでくる利吉の体を抱きとめた。
「案外簡単に終わったもので、一寸驚いているのですが」
利吉が笑いながら雄三の背に腕を廻してきた。
雄三も笑いながら利吉を強く抱きしめた。
「もっと長期戦になるとも思ったが、全く、心配かけ…」
雄三は、はっとした。
利吉の頭に廻した自分の右手に、あの長い髪が流れてこない。
ぼさぼさと、不揃いな髪が指に絡まる。
「…利吉…?!」
「あ、えと、…」
再び頭を撫でる。
撫で回したが、髷が無い。
「掴まれたので…切り落としました…」
「…そうか…」
雄三は少し目を伏せて、幾度も髪を撫でた。
やはり、絡みついてくるのは不揃いな髪ばかり。

髪は又生えてくる。
なのに、何故か───

「失った物が髪だけでよかったな」
「はい」
「次は気を付けるんだぞ」
「はい」
利吉は、雄三の腕からするりと抜けだした。
「女性じゃないんだから、髪を失ったくらい!
それでは私はこれで失礼します、これ、届けなきゃ」
胸元から依頼書をちらりと見せ、利吉は微笑んだ。
微かに見せた雄三の表情の変化に気付き、利吉は付け加えた。
「すぐ戻ります!」
雄三もふっと笑い、もう一度利吉の頭を撫でた。
「待ってるぞ、この髪、きちんと切りそろえないとな」
「はい、お願いしますね」
そう言って利吉は駆けるだした。

「さて、私も戻るとするか」
小さく伸びをし、雄三は学園へと帰路に就いた。
「髪は又生えてくるのにな」
そう、幾度も自嘲的な笑いをうかべながら───


                                 ──おわり──

 

あとがき(言い訳とも言う)

最初は、相手は大木で書いてたんだけど、
やっぱりノムリでしょう!ということで相手を替えました。
大木利小説だったら他でも読めるものね。
ノムリは読めないからね(涙)。うう、読みたい…
だれか書いてくれぇ〜〜(T_T)。

なんていうか、髪の短い利吉もカッコイイかな〜と。
そんなところ全然表現してないけどさ。
ああ、文才ゼロだよ、トホホ〜。
所詮絵描きさ。ま、絵もままならないけど(涙)。