「W.R.オルガニズムの神秘」1971年ユーゴスラヴィア 西ドイツ


ドゥシャン・マカヴェイエフ監督 ミオドラーグ・アンドリッチ ジム・バックリー ミレーナ・ドラヴィッチ

「ある種の、肉体が人間そのものの全てであって理性や思想、イデオロギーなんかはその肉体の化学変化の現れ方のひとつにすぎない、という考え方は、ボクなんかは、まあそうかな、くらいには共感しちゃうんだよね」
「ニヒリズムとオカルティズムと超常(識)現象を信奉する狩刈くんならではの『まあそうかな』って感じね(笑)」
「そこに唯物主義者ってのも加えて欲しいな(笑)」
「あと反米主義者とか」
「(爆)でもさ、ヴィルヘルム・ライヒの思想ってのは、つまるところセックス教団みたいなところがあって、それが60年代のフリーセックス潮流の大向こうウケ狙いに利用されただけ、という女史の見方は、この映画に対してかなり真面目な見方だよね・・つまり僕としちゃ、この映画はマンガにすぎないというふうに見ちゃうんだけれども」
「あー(笑)。でもわたしがそう言ったのはもう10年も前くらいだよー。まだ覚えてたの、それ?」
「ま、当時って結構カルト教団が世間的にクローズアップされてたしね」
「そうなのね、それで多分そんなことを口走っちゃったんだよわたし。でも今あらためて見てみると、確かにマンガなのかも・・っていうか、21世紀の現実としては、もうコミュニズムもフリーセックスも骨董品みたいで、だからこの映画も・・」
「単に笑えるだけ、ってことだね・・」
「わたしがこのヘンテコな映画を見て思ったのは、とにかく言葉が多くて字幕を追うだけで精一杯ってことで、ゴダールの<中国女>とあまり変わらないな、ってことだったのね」
「ま、確かにこれは一種のプロパガンダ映画だしね。セックス万歳、コミュニズム万歳!アメリカ万歳!でもマカヴェイエフはセックスもせず赤旗も振らずにセッセとこの映画の脚本書きに没頭していました、っていう映画だ(笑)」
「まあ作品の内容は見た人にしか分からないでしょうけれど(笑)、わたしが思い出したのはカール・クラウスの『言葉が眠る時、かの世界は目覚める』という文章。『かの世界』っていうのは人それぞれ違うはずなんだけれど、それがこの映画では、スターリニズムとかナチズムとかいった政治的なものから自分のペニスを石膏でカタ取りしようとする男とかまで、まあいろいろと描かれてるのね・・つまりわたしが思うに『言葉が眠る時』っていうのは、ある意味でフィジカルなエクスタシーでもあって、それって狩刈くんお得意の妄想に耽ってるみたいな状態でしょ」
「いんやーいいね、フィジカルなエクスタシーって言い方(笑)。和訳すれば肉体的絶頂・・と、まあそれはさておき、なるほどライヒとカール・クラウスという取り合わせには感心してます・・とそれもさておいて、肉体的絶頂感とファシズムないしはスターリニズムといった全体主義の高揚感みたいなものとの類推は、この映画じゃずいぶん直裁に描かれてた。それにテロリズムも」
「マシンガンを持ってニューヨークだかをうろつき回る男も出てくるのね」
「そう。このテロリズムについてはギャグで描かれていたのが残念なんだけれど・・テロとは、ほとんど表現手段のひとつと言っても過言じゃなくて、つまりその根源にあるパッションは芸術と同じ次元で考えることも出来る・・そんな意味で僕は肉体的絶頂と同じ、つまり例えばジョルジュ・ドンのボレロとかとほとんど同じ高揚感で演じられているものなんだろうって思ってるんだ。要するにそういう洗いざらいが、最初に言った、人間の全ての行為は肉体における化学変化の現れだ、ということに繋がって、だから『まあそうかな』って思うわけ」
「それに対して『違うんだ!』なんてことはまあ、ヒトゲノムが解読されちゃうような21世紀には、なかなか言えないことなのかも・・」
「そうだねぇ。だからといって人間がつまらなくなっちゃうというわけではなくて、まあフロイトが出てきたときと大して変わらないのかもね・・ってなんか今日は全然映画の話になってないね(笑)」
「普通の映画ってわけじゃないから・・」
「ところで最近、女史はヨガはやめたの?」
「うーん。ちょっとヤメてる・・水泳に切り替えた」
「あ、そう。そういや最近一緒に泳いでないね、ここ4、5年くらい(笑)・・はともかく、僕、こないだ暑くて寝苦しくてね、それでいつか女史に教えてもらったピラミッドのポーズ。あれを布団の上でやってみた」
「へぇどうだった?」
「最初のウチは雑念ばかりでさ」
「いつもの通りね」
「ところが何分たったのか分からないけど、なんか、突然ピタッ!となにかが止まった・・無我、というのはおこがましいけど、なんか突然にピタリと止まったものがあってさ。肉体的絶頂感というのじゃないけれど不思議な落ち着きと平安が僕に訪れたってことは白状しなきゃならないな・・雑念や妄想の一切がまったく消えたよ」
「ところが元にもどっちゃいました、ってことも白状しなきゃなんないよ(笑)」
「まあね(笑)、いやとにかく肉体ってもんをゆめゆめ軽んじてはならぬ、ということを最後に言いたいんだけれども(笑)」
(2001.9.15)

シネマ・ギロテスクに戻る