「ある女の存在証明」1982年イタリア・フランス



ミケランジェロ・アントニオーニ監督 トーマス・ミリアン クリスティーヌ・ボワッソン

「アントニオーニ監督晩年の深遠な傑作ね」
「晩年・・って、まだ監督は死んでないよ。勝手に殺さないで(笑)」
「ごめん・・でも、なんとなくアントニオーニ監督って60年代の<情事><夜><太陽はひとりぼっち>とかいった、いわゆる愛の不毛? そのへんが強烈で、あとはよく知らないの
「実は僕もそうなんだ。<欲望>以降、急に寡作になるしね」
「で、今回の作品は、だからなんとなく、やっぱり愛の不毛? って感じで観ちゃったんだけれど」
「またまた僕もそうなんだ(笑)。でもいちいち愛の不毛? って『?』をつけて尻上がりに言わないでくれる?」
「なんとなく気が引けちゃってねぇ(笑)使い古されてる代名詞だし・・」
「今回の主人公は映画監督トーマス・ミリアン。この配役はキマってた。相変わらずカッコいいしね。で、彼がただなんとなくつき合ってる女たちのもとを次々と訪れる・・これは女に不自由しない男がグダグダしてる映画と言ってしまうと分かりやすい」
「まあ、そうなんだけれど、彼はどの彼女に対しても、どこか踏み込めないでいるの。彼のなかにある何かが、恋人をハネつけていて、それが痛ましい感じで伝わってくる・・」
「へええ・・女史って理解があるんだね。僕は映画監督ってのはあんなにモテるものなのかあ、って驚いちゃったくらいでね。ただ、恋人をハネつけてる何かって、一体、なんなんだろ?映画では、女の側だってミリアン監督をハネつけてるし」
「うーん。それが簡単じゃないのね。Tミリアンは、マヴィを失いたくないんだけれど、一方では気詰まりになっていて、踏み込めない・・それもお互いに」
「要するに、アントニオーニ監督のいつもの映画、って感じなんだよね。現代人のディスコミュニケーションと自己疎外が、端的に男女の間の愛の不毛?を通じて描かれてる」
「でも今回はそこに、なんか『老境』っていう言葉も浮かんだんだなあ。監督は70歳でこれを撮ってるのね。Tミリアンのなかのモヤモヤしたものには、監督の実年齢がきっと反映してるに違いないと思う」
「例えばララ・ウェンデル扮する若い女がプールサイドで、わたしは男とするより女とするのが好き、とか、自分でオナニーした方がいい、とか喋って、それにTミリアンはヘキエキしたように付いていけない顔をする・・男女の愛をモチーフとする老人には理解不能な自己愛的状況、って感じなのかな」
「理解不能じゃないよ、そこは。むしろそう言ってはばからない女の子を登場させること自体が、ディスコミュニケーションそのものを描いてるわけで、わたしはちょっとあのララ・ウェンデルの登場は、なんか生硬だった、蛇足で舌が出ちゃった、って気がする」
「まあね。あのブルジョワたちの不毛なパーティなんかも、二番煎じの出涸らしだった・・けど、じゃ、監督の老人力を感じるっていうのはどこのこと?」
「それがねぇ・・ただの直感にすぎないんだけれど(笑)。たとえば舞台女優が馬にまたがって颯爽と去っていくのを見送るTミリアンのうら寂しい姿とかさ・・馬って、精神分析的に言えば、若々しく肉感的で、ある種の荒っぽいセックスを連想させるようなイメージなんだけど、それと、道端で茫洋と佇んでるショボくれた監督とを対比させてるっていうのは、すごく象徴的だと思った」
「ははあ・・女史は実は乗馬もされるんでしたよね・・って冗談はさておいて、実際、Tミリアンが映画監督である以上、そこにアントニオーニその人が少なからず化身しているのは仕方ない。この映画は、原題も『ある女の存在証明』というわけで、そこでいう『ある女』とは単に映画の登場人物、つまりマヴィという女を示すんじゃなくて、男の視点から見た場合の男女関係、のことだ」
「男性から観た男女関係だから、一般に『ある女』と呼んでいるわけね。それはそうなんだろうけど、じゃ『存在証明』っていうのは、不毛?とか空虚とかいったものに対抗するものの意味合いよね・・映画全体ではむしろ『不在証明』と言ったほうが良いんだけれど(笑)」
「(笑)それじゃあんまり芸がないけどな。・・ところで、この映画はララ・ウェンデルをはじめ、カルラ役のヴェロニカ・ラザールは<ラストタンゴ・イン・パリ>出身<インフェルノ>経由、ごついCボワッソンは<エマニュエル夫人>出身と、なかなか女優陣が振るっていて、これならトーマス・ミリアンだって出てやってもいいと思ったろうね」
「まあ、なかなか内容は濃いなあー重いなあーって、思ったのね。でも、その濃さがうまく言えないなあ・・」
「そうだねぇ。身につまされる〜って言いたいけれど、あんなに女に不自由してないヤツとは張り合えないし(笑)。しかも相変わらずのアントニオーニ作品だった、という部分もあって古めかしい感じもするし・・」
映像はまったく素晴らしかったね・・夜の街のシーンとか、最後のヴェネチアのシーンとか。霧はちょっとウソっぽかったけれど」
「深みのあるカメラワークでね。構図もバッチリ。やっぱり名匠の作品らしい凄みは僕も感じた」(2001.3.21)


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