「黒い罠」1958年アメリカ

オーソンウェルズ監督 Oウェルズ Cヘストン Jリー Mディートリッヒ

「ウェルズ自身は、まあそう言ってくれるな、と語っているんだけれど、なんといっても最高のトップシーンだわね、最高にカッコいい!!」
「何者かが車に爆弾を仕掛けて、それに乗り込む男と女。街なかをゆるゆると発進すると道路にCヘストンとJリーの二人が登場し、そぞろ歩いて、自動車もそこをつかず離れず徐行しながら国境に差し掛かって、国境警備員と二人と車の男女とが言葉を交わして、二人がキスしようとすると途端に爆発!その間のサスペンス、3分?これをずっとワンカットで見せる。縦横無尽に上下左右するカメラ!しかもロングにクロースアップにと前後も自在。素晴らしい・・大好きな映画だ」
「それで物語はというと、最初のうちはちょっと人間関係が複雑なの・・メキシコの麻薬捜査官みたいなCヘストンがアメリカ人の新妻Jリーと国境の街で爆殺事件を目撃して、捜査しにきたウェルズ刑事が絡む」
「凄まじい太り方!(笑)それはともかく、ウェルズは証拠をでっちあげては殺人犯を逮捕するという悪辣なデカ。で、Cヘストンは彼のデッチアゲを見破って、その証拠固めをしようとする。ところが別件で彼Cヘストンに恨みのある悪党がウェルズに言い寄って、一緒にCヘストンのハナを明かそうという計画を話す、つまり悪党はヘストンの妻Jリーを誘拐してマリファナ中毒に仕立て上げようとするんだね」
「Jリーは<サイコ>の二年前に既にモーテルで襲われているわけね(笑)しかも病的なモーテルの管理人(笑)」
「ヒッチはこの映画について語ってないみたいなんだけどね」
「全編、カメラ捌きって言うの?とにかくクールで、何度見ても鮮烈なモノクロ映像は見事だと思う。影と光のコントラストは凄い。興奮する・・」
「凄いと言えば、爆殺犯人と見込んだ男のアパートの中の撮影も素晴らしいね。刑事たちが中に入ってきて、口論、殴る蹴る、でデッチアゲのダイナマイトが発見されるまで、5分?ここもワンカットでギリギリと緊張感が持続される。もういい加減視点を変えてくれよーって感じになるまでヤッてくれる」
「ところで、この映画の主人公というのはウェルズ。悪玉が実はヒーローで、そういう面でこの映画は不評だったらしいのね」
「ビデオでも、古いヤツだと、ユニヴァーサルが勝手に編集しちゃった、いわゆる呪われたオリジナルだよね。ウェルズの編集プランに沿った完全版でないと、真意は汲みづらいとは思う」
「Cヘストンはさ、ちょっとストレートな正義漢すぎて人間味は薄っぺらく描かれているのね、それは真の主人公ウェルズとの対比で仕方ない、わざとそういう風な人物造形なのだけれど、新妻そっちのけで悪党刑事の不正を暴こうとする彼の姿には確かに共感出来ないわーわたしは。だから妻が誘拐されてワナに填められて、Cヘストンがジタバタする、あのあたりも因果応報っていうか(笑)、だってアンタが奥さんを放っておいたからよ!って感じ」
「そうだねーま、そういう平板聖人な正義のヒーローに対して悪辣刑事に共感してもらうように作ってあるから、ファシスト映画呼ばわりされたってのもよく分かるよね。善悪の配役を逆手に取った、そこは実に優れているけれど、そういうこの映画の根幹にあるヒネリも、一種のブラックユーモアみたいには強調しないで、二人の立ち居振る舞いの対比みたいなものだけで淡々と描こうとしてるから、観客のなかにはヒネリと感じない人もいるかも知れない・・」
「そういう人にとっては、あくまでも善玉ヘストンが主人公。でも主人公のはずなのに描き方がおかしい、どっか感情移入できない、という裏目に出た感想を持つかもね。ひいては駄作の烙印ね(笑)」
「(笑)そこまで言う? ま、かなりの部分がJリーのシーンに割かれているのも映画会社が勝手に作ったシーンらしいからね、だからどうにも全体はギクシャクしてる。苦境のJリーを見てると、早く来てくれってCヘストンに頼みたくなるんだけど、彼は一向に正義感ぶっていて頼りにならない」
「Cヘストンに比べてウェルズ刑事は、かつて殺人犯に妻を絞殺されて、同僚を庇って脚を撃たれて杖が手放せなくなって、ずっと禁酒してたのに今回のCヘストンの掻き回しでまたお酒に手を出すようになって、酒場の自動ピアノにどうにか心を和ませようとする、そんな人間像がとても豊かに描かれていたわね」
「共感呼ぶのはこっちのほうには違いないよね、もともとOウェルズという人は憎めない悪漢というかな・・」
「ハリーライムがそうね、多分ケーンも」
「それにとにかく存在感がまた圧巻で(笑)彼が悪をやると正義が食われちゃう」
「あとディートリッヒは最高にクールだった。もう神話的ね。大した男だったよ・・some kind of manという幕切れのセリフ。いつか誰かに言いたいなあ」
「言ってよ、いつでも(笑)」(1999.1.26)

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