「テナント」1976年フランス・アメリカ


 ロマン・ポランスキー監督 ロマン・ポランスキー イザベル・アジャーニ

「昔住んでたマンションには騒音ノイローゼの若妻がいて、そいつが仕組んだ無言電話だのゴミ捨てだののイヤがらせがあってねぇ、住人みんなが閉口した」
「狩刈くんも被害にあったんでしょ? なんか、夜な夜な酔っぱらってドンチャン騒ぎしてそうだけど(笑)」
「わかる?(笑)いやいや僕は、夜中はもっぱらカルトホラー三昧でげらげらドンチャン騒ぎ(笑)。で、この映画は住人みんなが騒音ノイローゼになってるアパートに引っ越して来ちゃった男の被害妄想物語、って感じだね・・」
「ポランスキー監督はこのテの被害妄想ホラーがお得意ね。昔、ドヌーヴ主演で撮った作品もそうだったっけ・・ポーランド出身で、亡命まがいの外国暮らしを続けてきたポランスキーならではって感じかしら。テート事件、とまでは言わないけど」
「同感だね・・例えばあの傑作<ローズマリーの赤ちゃん>なんか、僕なんかはマタニティブルーが産んだ被害妄想ホラーで、黒魔術とか悪魔とかいったものが本当に恐怖の題材になっていたとは思えないんだよね・・あれはすべてミア・ファローの被害妄想パニックだった、ラストは彼女の発狂を示唆していた、みたいに思ってるんだけれども」
「その点、今回の<テナント>はその被害妄想路線がハッキリしてた・・あの弱気で押し出しのないポランスキーの風貌がなんとも路線とマッチしてたよね
「ストーリーのツクリはと言えば、とある男がパリでアパートを借りる。前の住人だった若い女は原因不明の自殺を遂げていた・・で、アパートの住人はみんな隣人のたてる物音にやかましくて、互いにイヤがらせなんかもしてる。で、そういう陰湿な住環境のせいで男は段々とノイローゼになり、女の自殺も実はこの隣人たちのせいだったんだ、オレも殺されようとしてるんだ!・・と被害妄想に陥り発狂していく。得体の知れない隣人の怖さという点ではほとんど<ローズマリー>の焼き直しにも近い」
「マタニティブルーの代わりに今回は、前の住人の自殺、その原因不明さが背景になってたわけね・・それと騒音ノイローゼが」
「まあ、そうやって分析しちゃうとなんだかシステマティックな足し算で出来てるように聞こえるけど、実際のところポランスキー映画の面白さはもっと違うところにある・・」
「細部よね。ディテールの丁寧さ・・」
「その通りなんだす!」
「だすって、ナニよ(笑)。とにかく彼の映画は、なんかヘンな、念の入ったシーンが多いなって思ってたの。今回にしても・・いちいち上げてると、なあんだ、そんなことか!みたいな感じがするけど、見てる間はとても面白かった・・」
なんでもないシーンがいいんだよね・・例えば病院の廊下で看護婦とぶつかりそうになる。病院の外では救急車が飛び出していってそれをよける」
「物語とは因果関係はないけれど、そういう場面にすごくこだわってるみたいなのね・・街で画学生に寄付をねだられたりするのもそう。あと、病室でオレンジを落っことしたり」
「そのいちいちは、特に意味はない。ありそうな出来事ばかり。でも全体のテクスチュアから見ると、映画の密度が濃くなってる・・そういう作り方。そういうのって、要するに観客の神経をいつも刺激してるってことなんだね。サスペンスやホラーってのは、こういう雰囲気作りから出来てる」
「まあストーリー自体は見てるうちに大体は分かってしまって、最後のオチも見抜いていたものの、でも最後まで気味の悪いムードが捨てきれなくて(笑)ついつい最後まで引きずり込まれちゃった」
「いつかの<ナインス・ゲート>なんかは小綺麗に作られ過ぎちゃったって感じだったな・・Jデップに付きまとうあの正体不明の女なんか、全然魅力がなかったしね」
「わたしもまああんまりあの作品は楽しめなかった・・今回の方が・・」
「ポランスキーの女装もあったしね(笑)」
「あのへんはちょっと、分かりづらかったよ・・この主人公は病気だかして、それで決定的にオカしくなるんだけれど、なんかわざわざ女装なんかしなくても、って言うような、あそこまで行くとちょっとついていけないな、って感じがしたの。別段、感情移入して怖がるような映画じゃなかったけど、自分は前の住人とは違う!と言いながらなんで自分から女装したりしてくのかしら・・?」
「ま、そこは俳優ポランスキーの演技力の問題だったっていう気もしなくはないけれどね。気弱で押しだしがないと女史がいうポランスキーの風貌がね、あの女装のあたりではかなり確信的で決然とした顔つきになってるんだ」
「その意味では彼はもともとトランスセクシャルな人間だったのかも・・でもそういう伏線はなかったようだったけど」
「結局はIアジャーニと寝なかったあたりにそのヒントがあったのかもね」
(2001.12.27)

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