「sucuubus」1968年スペイン・西ドイツ


ジェス・フランコ監督 ジャニーヌ・レイノー ジャック・テイラー

「いいかい、良く聞いてよ。この映画にクレジットされた豪華な顔ぶれ!
「??Jレイノーはエロ映画常連だしJテイラーはフランコ作品ほかオッソーリオ監督のゾンビ映画<ブラインド・デッド>とかにも出てるし・・相変わらずの顔ぶれじゃないの?」
「と思ったら大間違い!この映画の音楽は、なんとあの!フリードリッヒ・グルダ! おまけに衣装デザインはカール・ラガーフェルド!分かるかね? 要するにこの映画は現代ヨーロッパの奇才中の奇才! 映画監督、音楽家、デザイナーそれぞれの異端児たちがよってたかって作り上げた世紀の傑作と言っても過言じゃない」
「過言じゃないけど、『傑作』はウソだなあ(笑)。でもまあ、音楽ね・・この映画の真の主役はグルダが作り出したクラシックとジャズの見事な融合、コレだと思う」
「実際、グレゴリオ聖歌やら初期バロックやらロマン派やらのヨーロッパ伝統直系音楽芸術がいともたやすくモダンジャスやらスイングやらに変貌していく、あの巧みというには奇想天外でしかし感銘深いグルダの音楽には、僕、もうメロメロなんだ」
「うんうん。まずはグルダの威光を借りて、この映画を持ち上げようってワケだね(笑)。で、映画の話しとなると・・実は、僕、風邪に花粉症を同時併発して、ちょっとツラかった」
「これは感性でトリップするサイケ映画みたいなもんだからね。体調が大きく左右すると思うけど、でもいきなり、ハリツケにされた半裸の男女をムチでいたぶるsm女王様の登場シーンから始まると、鼻水がヨダレに変わるでしょ?」
「女王様が男のシャツを剥いてナメナメ・・女はヤメてぇぇぇ(ボコン!)ゆるしてぇぇぇ(ガツン!)。相変わらずのフランコ・ワールド(笑)」
「で、実はこれ、クラブでやってるショーだった・・ってんで観客の紳士淑女たちが大喝采。そしてショーを見つめていた謎のプロモーター男が『彼女はカンペキだ』と呟く・・で女王様をやっていたローナという女がこの映画の主役だね。ショーの終わった彼女がホテルでくつろいでいると、恋人がやってきて『最高のショーだったよ』。すると彼女は急にストリップを始めて、それで彼氏とラヴシーンだ・・」
「そしてヘンテコな夢を見るんだね。原題スキューバスというのは、男の淫夢に現れる女の悪魔のこと。でもどちらかというと彼女自身が、自分の素晴らしきヘンタイ飛行を夢に見てアンコントローラブルなキリモミ状態に陥ってる・・」
「ウスモノだけを身にまとって、街なかをさまよったり、ヘンテコな城に入り込んだり、バーテンが全裸でシェイカーを振ってるようなバーに立ち寄ったり・・」
「主演のJレイノーはなかなかボディがキマってて、まあ67年の作品だから表現にも限度はあるけれど、悲劇性の際だつソルダッド・ミランダや愛嬌のあるエヴァ・ストロンバーグなんかよりもエロティックで悪女然としていて、後年のリナ・ロメイとかに雰囲気は近い・・」
「要するにこの映画は、グルダの作り出す素晴らしい音楽に乗せてJレイノーのふてぶてしいまでに肉感的な動くグラビアをお届けした、って感じもあるね。でも、例えばバーで山高帽子の紳士とエロティックな連想ゲームに興じたりして、結構、演出にはポエジーがある・・」
「デカダンなんだよね『O嬢の物語』『鞭』『ジュスティーヌ』・・とか『明日』『地獄』『サド侯爵』とか『カフカ』『城』『ヒッチコック』『眼』とかいった連想ゲーム・・なんとも60年代も末期のサイケで知的なアナーキズムが感じられる
「そうとも言うのかなあ?(笑)・・で、それで主人公ローナは連想ゲーム相手の山高帽子の紳士を殺してしまって悪夢から目が覚める」
「でも、その後も現実なのか夢の続きなのか分からないような演出になっていくのは、フランコ監督の冴え!」
「というか、彼の映画はいつも悪夢だよね・・観客にとって(笑)」
「まあまあ・・続いては、なぜか黒衣の婆さんたちがオイオイと嘆き悲しんでいる街角をさまよって、そのうち葬式に紛れ込むと、実はその葬式は例の山高帽子の紳士の葬式だった!彼は眼を刺されて死んでいた!とかね・・」
「続いてブルジョワたちの倦怠感あふれるアシッドパーティで、小人はいるわ美少女はいるわオカマはいるわ・・音楽はバロック・ジャズだし皆が着ているものはラガーフェルドだし、もうタノシィィィィィィィ!!って感じ」
「どんな人間にも悪魔が潜んでいるんだ、そして暗き欲望をかき乱すものさ・・なんてセリフが出てきて、シビれるね(笑)」
「角砂糖につけ込んだ、あれ、多分LSDだよね。小人がみんなに配って回る・・で、みんなでワンワン!よつんばいになって床を這いずり回ったりして、いやー雰囲気出てる・・」
「主人公ローナは、出くわす男たちみんなから声を掛けられるんだけれど、ワタシ、あんたなんか知らないわ・・と答える。これこそがスキューバスなんですよ・・で、パーティで知り合った女と二人で城に戻って、衣装部屋でお互いに着せ替え人形ごっこを始める・・マネキン人形がそれを見つめている。またしてもグルダの超絶技巧的ショパン・ジャズ!」
「女は殺されちゃう。無論ローナによって・・ところがローナが正気づくと、女は実はマネキンだった!」
「・・なんかさあ・・僕、ここらでまたまたツラくなっちゃったんだよね、見てるのが」
「鼻水かんで気を取り直してよ。ここからラストスパート。物語は、ローナ女王様のSMショーをベルリンで興業することになって、一座はベルリンに到着。そして映画冒頭のとおり、ハリツケにされた半裸男女をいたぶるショーのリハーサル。ところがそのリハーサル中に、もはや夢と現実の境目がなくなっちゃったローナは、ノリノリ〜〜♪になって男を殺し女を殺す!ぐぇっ!」
「そして、すべてを仕組んでいたのは実は最初に出てきたプロモーターだった、というわけ。彼は弱みにつけこんでローナをたらし込もうとすると、ローナは勢いあまってこのプロモーターまで殺しちゃった!」
「で、彼女は恋人と二人、城まで戻る・・ワタシには休息が必要なの、とか言って」
「休息は観客にも必要不可欠だな(笑)。しめくくりは勧善懲悪のナレーションだ・・彼女は、男が死と戯れるゲームを愛していた・・そんなゲームでは、死が勝たねばならないのだ・・なあんてね、感動します!」
「・・・ハナがかみたい・・・」
「僕は、この映画は、なんていうかな、60年代末期のネオ・デカダンなヨーロッパ奇想趣味で溢れかえっていて、ある意味ではすごくサイケでオシャレな作風になってると思う。どことなくスタイルが、マリオ・バーヴァ監督にも似通っていて、つまり異端の正統というか、正統的な異端の王道を突き進んでいる風格すら感じたな」
「だからこそ、と言うべきか、グルダにラガーフェルドといった人たちの才能と映像演出面でのフランコワールドとが遜色なく拮抗し合っていて、これはもうある種のジャムセッション、みたいなね、熱いインタープレイみたいなものも感じる瞬間はあったね・・」
「それもそうなんだけど・・なんとなく僕にとってはノスタルジックというのかなあ。僕にとっては禁断の60年代末期のトリッピーなアートファンクのグルーヴを感じるんだよ」
「なんのこと言ってるのか分からないよ・・」
「例えば、同じグルーヴには<イージー・ライダー>とか<チャオ!マンハッタン>とかいったアメリカ映画の傑作中の傑作も含まれるんだけれど、ああーなんていうかなー、スタイルなんだよ。辛うじて芸術たりえているだけのスタイル。あとはアナーキー。それはドラッグとかセックスとかで次々に解体されていったモラルの最後の悪あがきみたいなかたちでね・・」
「ひぇぇぇ。フランコ映画でそんな話題になってくるとは思わなかった!」
「これは別に機会を改めてやろう」
「でも、とにかくみんなにはこの映画でグルダを聞いて欲しいよね」(2001.4.1)


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