「サンロレンツォの夜」1982年 イタリア

パオロタビアーニ,ビットリオタビアーニ監督 オメロアントヌッティ

「僕はこれを封切りで何度も何度も見たんだけど、もう泣けて泣けてねぇ。改めてビデオで見ても、あの時の思い出が蘇って来て、なんかジワーっと涙腺が緩みっ放しで」
「うーん。ほんと。言葉がないわ。泣けた。心に染み入るの」
「これはタビアーニ兄弟の最高傑作だと思ってます」
「大戦末期のイタリア、トスカーナ地方の村が舞台。アメリカ軍が近くまで来ているので、これを迎えに行こうとする反ファシズムの人々が主人公」
「題材からするとネオリアリズム的な感じもするけど、そこを抒情味たっぷりの昔話というような語り口で語って聞かせてくれる」
「村人たち一人一人の個性や存在感がとってもよく伝わったの、まるで昔から知り合いだったみたいにね」「庶民というか群像というか、マッスで描きつつも、一人一人にエピソードがあって簡潔にじっくり深く描かれてるよね」
「例えばファシストの親子にしても、彼等に注がれる映画のまなざしはとても心深い」
「一つずつのエピソードで、戦争の愚かしさや悲惨さについて、その裏に必ずやあるに違いない僕たちの人間性の豊かさから見つめようとしている、そんな感じがしたな。だからただ単に愚かしさの声高な告発に終るんではなく、それを優しく見つめる視線にヒューマニズムが貫かれていて、それが僕たちの心を強く深く打つんだと思う」
「実際のところイタリアの田舎のファシズムというのは、まさにああいう実態だったんだなって思うわ、親戚同士とか隣近所同士がファシストとレジスタンスに別れてお互いに殺し合うようなことは日常的に本当にあったし、イタリア文学のひとつの苦悩のテーマにすらなってるしね、そこが日本の戦争中とは決定的に違うところ」
「映画の冒頭で結婚式があって、世界の終りは近い、だが死んではならない、助け合うのだって神父が言うじゃない、それがこの映画のメッセージそのものにも僕には思えるんだな。そしてラストで、母親が子供を寝かし付けながら昔聞き覚えた呪文を囁くけれど、あのラストシーンは、例えばこの映画制作当時のレーガンの軍拡路線であるとかソ連の強硬路線といった冷戦最後の緊張状況に向けて発せられた反戦・平和のメッセージ色が色濃いんじゃないかと思う。少なくとも封切り当時、僕はそう思ったな」
「政治的な文脈は確かにそうかも。でもさっき狩刈くんの言った抒情性の豊かさに感動させられたよ、あたしは。特に村の爆破があってテーマ音楽がそっと聞こえて来るシーンは、この映画の持ち味を存分に感じさせてくれる。それから語り手のチェチーリアっていう天使みたいに可愛らしい子供の存在がとてもリリカルに、印象的な効果をあげていた」
「教会の爆破は、本当に言葉がない、あの母親と神父が頭をぶっつけ合うシーン」
「そう、ほんとに」
「後になって新郎が思い出す。僕らも思い出す」
「あそこに流れるのは何て言う曲?」
「あれはヴェルディのレクイエムから、オッフェルトリウムの部分です。オペラティックなレクイエムのなかでも一番宗教的な感銘のあるオスティアス」
「朗々としたテノールがね、もう魂が奪われるのね」(1998.6.28)

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