「スティル・クレイジー」1998年イギリス



ブライアン・ギブソン監督 ジュリエット・オーブリー

「これは実に全くハートウォームで泣かせる、ノスタルジック映画の小品佳作」
70年代に活躍したロックバンドが25年たって再結成して、もうひとハナ咲かせようっていう話ね」
「なんていうか、冗談ばかり言ってるドラマーとか真剣にバンドのことを考えようとするキーボードとか、かつてのいがみ合いを帳消しにできないベーシストとか・・バンドの人間模様ってもんを実に素敵にカリカチュアライズしてる。クレジットカードの使い方すら分からない落ち目のロックスター(笑)っていうあたりの描き方たるやもう抱腹絶倒でね」
「それにこれは・・当時はそのバンド、ストレンジフルーツの取り巻きでグルーピーまがいの下働きだった女の子カレンが、今じゃ四十くらいになってて勤めもして娘もいるのに、今度はツアーマネージャーとしてひとふんばりしよう!っていうような、彼女にとっても青春時代よもう一度!みたいな、ひたむきにセンチメンタルなところもあって、わたしも観ていてとっても楽しめた」
「かつてはまあ一流どころのスターだったのに、ベーシストとボーカリストの仲違いで気まずい解散をしちゃって、でも最近は再結成ブームだからもう一度やってみよう、今度こそ成功しようぜ!っていうあたりの、物語の構え方、その前向きな志向性がいいよね、共感を呼ぶ・・それにバンド名のストレンジフルーツってのはなんかサイケの名残でこれまた泣かせる(笑)」
「落ち目で声が全然出ないボーカリストが若いスウェーデン美人と一緒になっていて、またこのスウェーデン美人が結構ワガママなくせについついボーカリストの世話を焼きたがるあたりも、なんとなくありがちなのに面白いし・・新鮮じゃないけど安心して観ていられる感じ」
「そうそう。この作品は実にアリガチなことばかりで出来ていて、全体には予定調和のめでたしめでたしで終わることは最初から目に見えてる・・だからこそ細部のアイディアが楽しい。これはそういう映画だね・・ロックファンの心理、バンドの舞台裏を見たいっていう心理にうまく応えてる
「70年代当時はスターの仲間だった彼らも今じゃ、瓦屋根職人になってたり、けっこうすごい貧乏で悲惨なオジサンになってたり・・類型的だけれど、さもありなんて感じもあるよ」
「それとギタリストが実はすでに死んでいて、元恋人だったカレンがその哀しみを隠しながら、逆にそれで踏ん張ろうとするみたいな心の動き・・はっきりと描かれていないけれどそういったエモーションが伝わるし」
「わたしはあのカレンと彼女の娘との関係をもうすこしキメ細かく描いてくれたら、なんていうか、もっと染み入ったと思うなあ・・ママの青春時代を娘がどうフォローしていくか。カレンにとっても、娘もまたかつての自分と同じくストフルの若いギタリストといい仲になっていくわけだし・・」
「ま、そのへんの『母と娘の人生』てもんに踏み込んでグッとヒューマンなドラマにすることも出来たよね。でも、そうはしなかった・・可能性だけに止めておいたのかもね。40絡みの大人たちが若い娘に対して説教臭くなっちゃうとこの清々しい演出スタイルは元も子もなくなっちゃうから・・で、それはともかくこの映画は、例えば<ベルベット・ゴールドマイン>と比較しちゃうと、すごくいい。よっぽどいい。『今』が背景になっていて70年代をノスタルジックに回顧してる点では同じなんだけれど、なんていうかな・・この作品にはやはり、ロックに対する愛がある。それは普遍的典型的なエモーションで、予定調和的なハッピーエンディングを願わずにいられない。それに比べて<ベルベット>はただ単に、ある特定のスターへの憧れ、思い入れだけしかない・・それは後ろを向いた個体の問題にすぎないよね」
「そうかもね・・バンドがヨーロッパ各地の地方巡業に出て、そこで色んな事件が起きたり、演奏がうまくいって上昇気流に乗ったり、またハチャメチャに空中分解したりする・・そういうエピソードの数々のなかで人間像が浮き彫りにされていって、なかでも特にマンガチックに描かれていたボーカリストに焦点が絞り込まれていくあたりは旨かった」
「ま、僕もパープルとかツェッペリンとか、さんざん聞いたし、70年代ブリティッシュロックで育ったようなものだからこそ、自分自身の70年代についてすごく強烈な残像をこの映画に感じるんだよ・・ギタリストが死んだとかいうと、ほら、ポール・コソフとかさ(笑)ミック・ロンソンとか・・って知らないか。ブライアン・ジョーンズとかさ」
「まあそういうノスタルジーよね。でもそれは狩刈くんの『後ろを向いた個体の問題にすぎない』んじゃないの?(笑)」
「わわわ!(笑)やられた!とはいえ・・」
「でも、この映画がそういう観客のノスタルジーにすっかりおもねてるかというとそうじゃない、それはカレンという紅一点の頑張り、彼女のすがすがしさみたいなものでポジティヴに救われてると思う」
「確かにムサ苦しいオッサンばかりがあーだこーだ言い合いしてもリリカルにはならないしね・・」
「それにしてもそれぞれひとクセもふたクセもある連中たちを演じた俳優たちは、いかにも元ロックミュージシャンで今は失業者(笑)みたいな風貌をしてたよね。キャスティングもとても良かったんだと思う」
「そうだね・・あのアルトの声の娘にしても、ちょっとクールに母親の奮闘する姿を眺めていてね・・そんな親子の距離も旨かった。ところでギタリストのブライアンだけど、彼を演じた俳優ブルース・ロビンソンね。どっかで観たことあるでしょ?」
「うーん?どこで?」
「彼はコリンヌ・クレリー主演の<ホテル>で行き詰まった赤軍派の男を演じてた」
「ああ!彼だったの!」
「今回もジワリと来る視線で、出番は少ないのに素晴らしい余韻を残したね・・で、実は彼、<キリング・フィールド>の脚本家だったりするからスミにおけないよまったく」(2001.8.25)


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