「私家版」1996年フランス



ベナール・ラップ監督 テレンス・スタンプ ダニエル・メズギッシュ

「本が人を殺す、っていうと<薔薇の名前>とか<ナインス・ゲート>とかがあったけど、今回は、ある作家に盗作のワナを仕掛けてその作家生命を絶つ、という物語。Tスタンプの抑制の利いた演技はもう独壇場だったね」
「実に全く、いつの間にかコニクラシイくらいに英国紳士なのね、彼。この物語では、いかにも英国らしい味わいというのがよく出ていたと思う」
「英語がね、最初のうちよく聞き取れなかった(笑)。最近はアメリカ映画ばかり見てたから・・そして確かに、この映画はイギリスじゃなくて英国だね・・たとえばRカーライルやEマクレガーとかいった連中ではない、本場の紳士の国、ってか(笑)」
「秘書と交わすヒネリの効いた会話とか、クラブ仲間と交わす競馬ウマの話とか・・これは外国人ならではの演出でツボを押さえててて、なんか多少は類型的に思えるくらい、あまりにも英国紳士だったの」
「クラブの仲間と二人で、たくらみの一件を、『君と私の間柄だからな』の一言ですべてもみ消しちゃうってところ。英国では階級社会が公然とアリバイの一種を作っているようなところを見せていて実に興味深い・・」
「物語も凝ってた。あんまりタネ明かししない方がいいけど、とある作家に復讐するため、贋作造りの名人Tスタンプが戦前に出版されたという私家版小説を偽造して、その作家を剽窃盗作容疑で告発させて・・と、かなり手の込んだ復讐劇だった」
「でも無理なく感情移入できる・・Tスタンプはかつての事件で恋人を失ったばかりか自分の作家としての才能も自ら封じ込めてきた、そういう積年の恨みがこの復讐劇の背景にはあって、そこを枯淡の境地で演じるTスタンプは最高!」
「その他の俳優たちもまあキャスティングが良かったのか、ハマってたしね。でも・・わたしはああいう、なんていうか文学賞とか文壇とかいったものには疎いから、なんか、これはまあ小さな世界の物語だな、っていう気はした
「僕もね、よく知らんけど、こういう売文業の世界はホントはもっと厚顔無恥でグログロしてるんじゃないか(笑)、っていうかな・・所詮、文学とか本とかは消耗品で、話題性で売れれば良いんじゃないの?っていう考えだから、盗作容疑で行き詰まってアタフタしちゃう例の作家の哀れな後半の姿は、なんかナイーブにすぎるような気もしたよ」
「実際、あのイヤ味な女性評論家とかもね、出版社の社長とかも、幅も厚みもない人間像で・・ま、全体に人物造形の描き方に問題があったんでしょうけれど、この映画、あちこちでうまくハマっていた割りに、所詮、出版界のウチワ話でしかない」
「そこをもっと掘り下げるために、チュニスから、かつての恋人と瓜二つの若い女がTスタンプを訪ねて来るあたりが旨い・・はずなのに、全然、掘り下がらなかった(笑)。僕は原作を読んでいないんだけど、映画もあと20分くらい伸ばしてもいいから、Tスタンプとチュニス娘との関係の深まりを旨く料理してもらいたかったな」
「まあね。でもそれじゃあ贋作を使った復讐劇というストーリーのポイントからはソレちゃうかも。映画では、枯れた50男が淡々と事務的に(笑)、煮えたぎる復讐の血をソヨとも感じさせないポーカーフェイスで英国紳士らしく一連の仕掛けをやってのける、そこがこの作品の面白さね。あとは競馬と紅茶とステッキと山高帽のディテールでオッケーよ」
「(笑)面白かったのは、秘密の印刷工房で植字する時に、いかにも印刷工、って感じのソフトな上着を羽織ったりするところ・・公園のベンチで打ち合わせをしてテイクアウトのお茶を飲んだりするところ・・と、細部も確かにいいんだけれど、例えばロンドン、パリ、チュニス、という三つの都市の風情をもっと際だたせて、Tスタンプの複雑な人間像をもっと陰影深く描き分けるというやり方もあったはずだ。ロンドンでは取り澄ました紳士、パリでは罠の仕掛け人の手練手管、そしてチュニスでは心やぶれた漂白の孤独、そんなものを描き分けて見せてくれたら、この映画はもっと起伏に富んだ触感がしたと思うな」
カッチリまとまっていたせいで、スピーディに面白く見られたけれど、インパクトは、まあ小さかったよね・・ただただイギリスから来た男に感服感服」(2001.6.22)

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