「上海から来た女」1947年アメリカ



オーソンウェルズ監督 リタヘイワース オーソンウェルズ

「久々にオーソン作品、さすがだね〜という逸品でございます」
「愚直な船員が美貌の妻と弁護士の夫に仕組まれて右往左往する物語」
「あれれ〜実際は美貌の妻と夫の同僚の弁護士に仕組まれてたわけなんだけど、それがこじれてしまって・・という物語。まあどっちでもいいか(笑)。この映画は本当なら今僕たちが見ているやつより一時間も長かったというよね。でも今のバージョンでもそんなに不満はないな・・ていうか少なくとも<アンバーソン家>みたいな尻切れトンボな感じはしない」
「それは一人称ナレーションのおかげ。オープニングからして独特なオーソン節が堪能できるし・・ただ生憎オーソンウェルズは『愚直な船員』には見えなかったけど」
「ははあ女史の審美眼では彼よりも例えば若きマーロン・ブランドみたいなギラギラしちゃう肉体派男優とかの方が良かったのかな?」
「まあ(笑)Mブランドはともかく、こういう入り組んだ物語であればこそ巻き込まれスリラーに相応しいもっと人好きのする俳優、感情移入しやすいタイプの俳優でも良かったような気はするの。若気の至りでついつい美貌の妻に横恋慕しちゃった粗野な男の子、っていう感じの・・」
「確かに物語的にはヒッチコックなんかにも共通する巻き込まれ方。でもその巻き込まれ方はシンプルでなく、恋愛関係を逆手に取りつつ美貌のリタが次第に悪女然としていくところなんか僕としちゃゾクゾクする・・というか、したかった(笑)そういう色香を微妙に嗅ぎ分ける野性味豊かなオトコが相応しい、って感じ?」
「その野性味ってところは賛成するけど次第に悪女然としていくところっていうのはどうかしら?リタヘイワースの芝居は見ていてちょっと一本調子だったよ〜特にラストあたりはいただけない」
「まあね。最初に馬車で出会うあたりはともかく、船旅に出るとピンナップガールの面目躍如でかなり露出度合いが高くなる・・」
「それを悪女度合いとカン違いしちゃダメ」
「あらら言われちゃったけど、そりゃそうだっし(笑)まあオーソンとリタが二人でロマンスを掻き立てる水族館の有名なシーンなんかにしてもメロドラマとしちゃあんまり燃え上がらないのは事実だよね。感情表現としてさ、二人がキスしても切実な恋、みたいに伝わってこないのは、背景にチラつくタコとかウツボとかのせいなのか、それとも二人の現実の夫婦関係の冷え込みのせいなのか、はたまたメロドラマに堕ちまいとするウェルズ映画の面目躍如と見るべきなのか、それは僕には分からない。でもあそこでリタは本心からマイケルを愛してるらしいギリギリのエモーションが伝わってこないのは・・これ弱点だと思う、ていうかもったいないような気がした」
「なるほど・・厳格なウェルズ映画だから情緒におもねた作品でないことは承知の上で、でも観客としては二人の恋愛と葛藤、少なくともリタは本当にマイケルを愛してる、でも夫の同僚と仕組みつつある夫殺しの犯罪にもまだ未練がある、みたいな葛藤を、例えマイケルを欺くためだったとしても見せて欲しかったということね」
「スリラー映画ではそういう切羽詰まった感情の起伏・振幅が、トリックの目くらましとかドンデン返しの意外性とかに直結するからね・・それにこの映画の物語、犯罪の中心人物はリタなのであってマイケルは好むと好まざるとに関わらずそれに絡んでしまったというだけ・・であればもっと演技力のある女優を投入すべきだった」
「とまあそれは製作事情ヌキに贅沢を言わせて貰えれば、ってことね(笑)映画は後半、法廷シーンになってカリブ海とかアカプルコとかいった前半の風景とはだいぶ違う質感になってくるの。証人として検事の追及に答えるリタの演技もちょっと平板・・でもオーソン映画はどれもこれも、登場人物はみんな観念的な感じ。それが好きかキライかはいつも分かれるところだと思うしね〜」
「あ、そりゃそうだったよな〜(笑)なんか久しぶりに見たんで彼の映画にメロドラマを期待しちゃったのがイケなかったのね(爆)」
「その他、夫役のエヴァレットスローン、その同僚のグレンアンダース、二人とも怪演スレスレだったからリタヘイワースだけが普通に恋に燃える女を演じられなかったってことはあったと思う・・ていうかこれ結局のところはオーソン映画だから登場人物全員が悪役(笑)」
「まあね。となるとオーソン御大が愚直な船員には見えなかったっていう女史の不満も、もっともなれどさもありなん、て感じか(笑)。彼はどうして夫役ないしその同僚役をやらなかったんだろ?弁護士は後年<審判>で演じるわけだけれども・・確かに女史が言う、若気の至りでついつい横恋慕しちゃった男の子が猛烈なシッペ返しを美貌妻から食らって人間不信に陥ってしまいました、という感じで映画は幕切れとなる。美貌妻の見せかけの恋の手練手管とやんちゃ坊主と小憎らしい弁護士二人がいればいつでもハリウッドでリメイク出来そうな三文小説。しかしそれをそうはしなかったからこそウェルズ映画だしねぇ」
「中南米とかチャイナタウンとかビックリハウスとか水族館といった奇想を入れたシュールなサスペンス感、遊離感に酔えればすごく面白い・・けど人間像という面ではまあ<黒い罠>や<アンバーソン家>には到底及ばない」
「まあそうはいってもこれはウェルズ映画だからそろそろキメ台詞を言わなきゃ・・ってんで(笑)これは傑作ですっ!」
「それはもう最初に言ってるでしょ?(笑)」
(2005/05/16)





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