「ポゼッション」   1982年 フランス

Aズラウスキー監督 イザベルアジャーニ サムニール

「これは実は僕、大好きで大好きで」
「狩刈くんの好きそうな映画よね」
「イザベルアジャーニって綺麗だよねぇ」
「うん。ホント狂気的に綺麗よね」
「どういう意味?あ、この映画に限ってはね。サムニールが狂おしくなるのも実によく分かるよ」
「久々の単身赴任から家に戻ったら妻の様子がおかしい、浮気してるみたいだ、だから探偵に尾行させるがその探偵も消息を絶つ。浮気相手らしい男も妻の行方を全く知らない。妻は実は、なんとヌルヌルしたザリガニと懇ろになっていたんだ!」
「ちょっと(笑)まあそうなんだけど・・。この映画の全編に漲る異常なまでのバッドトリップな緊張感は、一体なんだろうかと思う。白々としたベルリンの街、無機質な質感、登場人物たちのメを剥いた過剰な演技、ショッキングに飛び跳ねる血やゲロ、なんというか嫌悪感いっぱいの映画だ。カンヌで唾棄すべき、と言われたのも頷けるとは思う」
「所々よく分かんないところもあったよ、あのピンクの靴下って意味ありげだけど特に意味はないんでしょ? サムニールは一体何の仕事をしてたのか? なんか情報部員みたいな感じだったけど」
「まああそこは気を引くとか余韻を残すためのズラウスキー監督らしいヒッカケだよね、キツネに摘まれるところが彼の作品には必ずあって、だから大好き。最大の謎はあのヌルヌルしたザリガニちゃんが何なのか? あれを宇宙から来たエイリアンと考えるのは馬鹿馬鹿しい」
「じゃなんなの?」
「分からない(笑)。ただねぇ、見て見て!新しいカレ氏なのよぉって狂った妻に間男を紹介されて、そのカレが、全く自分とウリ二つなんだよね、それって夫としては凄いギョッとするよね、ウイリアムウイルソンみたいっていうかな。その期に及んだら、そうあれかし!俺は身を引くよって思いとともに、そうであっちゃならない、じゃ俺は一体なんだ!っていう心境だよ」
「そう?ふーん。あたしはねぇ、妻は完全に気が狂ってる、あのザリガニは、別にザリガニじゃなくてなんか藁の詰まった人形みたいなもんでもよかったはずだって思うのよ、あのザリガニにも特に意味はないの、妻の浮気願望が引き起こした幻覚の一種なのよ。それに対して小学校の先生がまったく妻そっくりというのも、本当はその必要はなくてさ、あれは夫サムニールの浮気願望の幻覚が妻そっくりに見せているだけなのよ」
「えっ浮気願望の映画ですか、これ? 浮気ならなにも夫そっくり妻そっくりの相手じゃないと思うけど」
「最後にミサイルが飛び交うのは、ちょっともうワケが分からないわね、ザリガニだけが生き残って先生宅にやって来ると突然第三次世界大戦が始まる
「全体にワケは分からない(笑)ただしポゼッションすなわち憑依、とり憑かれるとともに所有することでもあるタイトルを考慮すると、これは浮気願望はともかく互いに狂気的なまでに激しい所有欲に満ちた夫婦の異常な幻覚の物語という感じはするな、だから浮気相手が夫ないし妻とウリ二つなんだ」
「狩刈くん、急いでまとめようとしてない?(笑)」
「まとめないと居心地悪い作品だよ、これは」
「そうねぇ。わたしも・・なんかギリシャ神話に見るようなさ、人間のダークサイドな部分を元型的に描いて見せたような力強さ?は感じたのよ。集合的無意識に訴える何かがあるのよ」(1998.6.30)

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