「ペパーミント・フラッペ」1968年スペイン

カルロスサウラ監督 ジェラルディンチャプリン ホセルイスロペスヴァスケス

「<欲望のあいまいな対象>の話をしてたら続きで、これ。僕はこれ、凄い傑作だと思うんだよね、緻密に押し殺されたエロチックなサスペンス、とでもいうかな」
「あんまり共感は出来ないんだけれど、面白いとは思う」
「物語はというと、いかにも女にもてそうにない中年の医者が主人公で、彼は女の脚とツケマツゲを偏愛するフェティッシュ。質素で内気な看護婦と二人で町医者をやってる。ある時、幼なじみの友人が婚約者を連れてくるけれど、医者は、その婚約者とは、以前、カランダという街の太鼓祭りで逢ったことがあると思う・・ところがその話をこっそりしても婚約者ははぐらかしているばかり。会ったことないの一点張り。で、医者はなんか女が欲しくなって自分のところの看護婦にセクハラまがいに言い寄るんだけど段々と内気な看護婦も医者のオンナ気取りになっていく・・そしてある時、例の友人と婚約者が二人して、その太鼓祭りのことで医者の勘違いを笑いモノにする。医者は怒って二人を毒殺・・すると、共犯者的に看護婦が証拠を隠滅したうえ例の婚約者そっくりの扮装をして太鼓を叩き、医者の妄想の完結のうちにブラックなハッピーエンドを迎える・・・って、一体僕は何を喋ってるんだろ。こういう映画じゃないのに(笑)」
要約するのは難しい映画よね、サスペンスフルに焦らして、エモーションの深まりがもの凄いと思うの。嫉妬、偏執、妄執の黒い渦。特に言葉少なく見せる、看護婦が段々とソノ気になっていくところ、あそこは男の視点だなって思う」
「まあ(笑)そうかも知れないけれど僕はあそこが好きなんだ、オクテで引っ込み思案で、アタシなんか見向きもされないんだわ・・とか勝手に思いこんでいるような看護婦が、医者の好みに応じて仕立てられていく、<めまい>のキムノヴァクみたいに、化粧を変えツケマツゲをして段々医者の言いなりになっていく、それでも医者が構ってくれないみたいとなると自己嫌悪と自己憐憫に泣く・・」
「ああいう気持ちは、ちょっとねー、理解はするけど医者があまりにもネクラなパラノイアだから、ノレなかったのかも。カエルみたいだし(笑)わたしは、医者が友人と婚約者を廃屋に案内するじゃない。それで婚約者は、こういうところはオンナは好かないのよって言う、あれは頷いちゃった(笑)」
「看護婦は、医者が撮った婚約者の写真を見つけるよね・・あそこで、平凡な感覚だったら、ああ!医者には別のオンナがいるんだ・・って看護婦は察知するよね。だけど彼女は、ああこの医者はこういうタイプのオンナが好きなのか!って理解して、自分もそうなろうとしていくんだよね」
「ずいぶんと感心してるみたいね、そこんとこ(笑)」
「で・・医者は本当に太鼓祭りで彼女に逢ったのか?僕はあれはタダの医者の妄想、夢に見たようなものだと思うんだけれど」
「同感ね、医者は、だけどそういう個人的な思いをパラノイアックなまでに大事にしてるわけでしょ、ペパーミントフラッペというのは、彼の人生に対する独特なまでのコダワリ、偏執の象徴ね」
「人間性、その深層心理に深い洞察をもった作品だと思うね」
「で・・(笑)実はこの看護婦と婚約者、つまり医者にとって現実と妄想の二人の女性を、Jチャプリン一人が演じ分けたというのが<欲望のあいまいな対象>話からの続きのミソだったのね。ブニュエル作品では、実はFレイは二人の女を一人だと錯覚してるだけなんじゃないかっていう話題があって、そういえばそういう映画があった・・と」
「そうなんだ。この作品は<あいまいな対象>より前の作品だけど、今回の医者は要するに自分の妄想である祭りで太鼓を叩いていた女に恋い焦がれている・・で、医者は、まず実在の彼女だと思ってしまった婚約者からは笑いモノにされハネつけられるんだが、それを脇からそっと感じ取っていたアカぬけない看護婦がついにはその妄想の女の姿そのものとなって共犯となって、まあメデタシメデタシ・・じゃないんだけれど(笑)」
「メデタシというか、いよいよ抜き差しならない、もう後戻りできない狂おしい妄想の世界に二人で足を踏み入れてしまった、という感じね」
「ディテールは本当に素晴らしい、エモーションの高揚に全てが寄与してる。最後に毒に倒れた婚約者の化粧をグシャグシャにするあたりの怨恨とか、看護婦が医者好みの女に変貌するきっかけのボート漕ぎとか、その直後に意気揚々と口笛を吹いたりする医者」
「医者が大事にしている詩集を友人と婚約者が戯けて読み上げるあたりもね」
「それに始終レントゲンばかり見ている医者、というのも、なんかメタファだよね、人間の内側ばかり見ていて」
「まああの医者には、わたしは生理的に(笑)ちょっと・・だからこの映画も(笑)」
「そうかなあ??傑作です! ところでカランダという街は実はルイスブニュエルの故郷なんだ。この映画はブニュエルに捧げられてる」
「ま、ブニュエルみたいなシュールさはないけれど、でも根底のところで響き合ってる感じがするわね、見応えはあると思う」
「それにJチャプリンは、素晴らしい演技だった」(1999.1.23)

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