「オーケストラ・リハーサル」1978年 イタリア 西ドイツ


フェデリコ・フェッリーニ監督 ボールドウィン・バース

「この映画はあまりに独創的フェッリーニ的で、なにか話したくても言葉が出てこない、僕としちゃ完全に、してやられたっ!て感じなんだ」
「(笑)してやられたっ!って、一体なんでしょ・・オーケストラが、古い礼拝堂に集まってリハーサルをするのね。そこにテレビ局が来ていて、団員にインタビューしていく。このアイディア自体、すごく素敵ね。普段、ナマのオケを聞きに行っても、曲の合間にmcなんてしないもの」
「楽団員はそれぞれに、自分の楽器の魅力について、夢心地に語る・・・そのいちいちが、僕には実に説得力があってね」
「バイオリニストとチェリストが、バイオリンは男性的な楽器か、女性的な楽器か、なんて言い争いをしたいする・・楽団員はそれぞれアクが強くて、すごいツラ構え(笑)」
「干からびた老人がいるかと思うと、ちょっと近寄りたくないチビデブハゲのおっさんがいたり、ナイーヴそうなチューバ奏者とかヒッピーまがいのトロンボーン奏者とかね・・」
「実際、色んな指揮者の書いたエッセイとかを読むと、オーケストラの団員っていうのはもの凄く個性的な人が多いらしいのね。しかも狭い社会。だから、例えサラリーマン的にキチッとしている人であっても、キチッとしてるからこそ、変人みたいに見えるそうよ(笑)。そんな芸術家肌の人たちが寄り集まって共同作業をしていくっていうモチーフが、面白くないわけないの。これはそういう題材の魅力だけでも十分に楽しめる」
「だから僕、さっき、してやられたっ!って言ったんだよ。これはごく普通のドキュメンタリー映画であったとしても、きっとすこぶる面白い作品になったと思うね。オーケストラの楽屋話っていうのは、音楽好きならば絶対に見てみたい、未開発のジャンルだよ」
「ところがフェッリーニはそこにまた魔法を使う・・組合側が勝手にノーギャラにしちゃって、団員は段々とイライラしてきて、おまけに頑固一徹の厳しい指揮者がガンガン怒鳴り飛ばすものだからもう、みんなエキサイトしちゃう」
「で、暴動が起こる(笑)。初めて見た時は、なんなんだこれは?って感じで、アッケにとられたなあ・・あの指揮者がね、また実にいいんだね。古き良き芸術至上主義時代を懐かしんでインタビュアーに愚痴をこぼすんだけど、反面では実にクールで」
「最初のリハで、段々と演奏に熱がこもってくるじゃない、演奏中なのに団員が次々に上着を脱ぎ出すっていうシーンが素晴らしいの」
「ハダカになったりしてね(笑)」
「あの組合とか暴動とかいったモチーフは、やっぱり当時のイタリア社会、つまり赤い旅団のテロとか労働運動とかいった社会状況を揶揄しているのかしら。揶揄っていうか、フェッリーニの怒りみたいなもの?」
「まあ、そうだね。みんな芸術家なのに、芸術を、組合活動とかギャラとかいったもの、つまり食い扶持の下に置いていて、お前たちはナンなんだーっていう思いが指揮者にはある。でも僕はそのあたりは、まあ怒りというより高踏遊技的なアイロニーで、晩年のフェッリーニ映画らしいヘタウマなカリカチュアとして楽しめばいいんじゃないかなって思う」
「ドカーンと礼拝堂が壊れて、みんなが正気に戻る・・そして最後のリハーサルね」
「ああいう荒唐無稽が、実にいいね。久々に言わせて貰えば、あのケレン味。人間てバカだからアタマを叩かれなきゃ自分自身に気が付かないってこと。それをあの鉄球一槌で見せちゃってナンのテライもない・・君たちは芸術家だろ?と話しながら指揮台に立つ指揮者のクールで緊張した場面は忘れられない」
「団員は椅子に座りもしないでしずしずと指揮者の前に集まって、テーマ曲の練習が始まって、指揮者もわずかに一瞬、満足そうな微笑を漏らすの。ああ、素晴らしいなぁって思う」
「で、それが予定調和的に終わらないところがね、これがすごいんだ。ああいうのこそ、地味だけれど本当の迫力に満ちたフェッリーニのアイロニーだ」
「指揮者は一瞬うつむいて、それからまた・・団員に罵声を浴びせかけるのね」(2001.2.7)

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