「ニュー・シネマ・パラダイス(完全版)」1989年イタリア・フランス 


ジュゼッペ・トルナトーレ監督 フィリップ・ノワレ ジャック・ペラン

「10年ぶりにビデオで見ると、さすがにこの映画の甘ったるさがハナにつく・・なんて言っていいのかしら」
「うーん、まあそうなんだ。<海の上のピアニスト>ね、あんな二番煎じをやられちゃ、この<ニュー・シネマ・パラダイス>で本当にいいのは有名なラストシーンだけだったなーって感じもするし(笑)いや言い過ぎた。これはこれで素晴らしい作品です」
「シチリアの寒村を舞台に、そこで唯一の娯楽になってる映画館の映写技師と、映画が好きで好きでしょうがない少年の物語、っていうのは、これは映画好きにはたまらない設定なの。でも少年が年頃になって、とある銀行家の令嬢と恋仲になって、でも彼女の親はそのロマンスに反対していて・・といった中盤になると俄然、演出がダレる
「インテグラバージョンを見ると、余計にそうだね・・結局、少年は令嬢と恋のすれ違いがあって、そんな彼に映写技師は『お前はもっと広い世界を見てこい、決して村には戻ってくるな』と言う。それで少年は30年間、村には帰らない。そこがこの作品のポイント」
「30年間もねぇ」
「まるで、産まれてから死ぬまで一度も陸地にあがったことのないようなファンタジーだ(笑)」
「でも映写技師が死んだという知らせを受けてついに彼は帰郷する。で、かつての恋人と再会して、恋人から、実はわたしは駆け落ちしようとさえ思っていたのに、あの時あなたはいなかった、あの映写技師は、恋だけがあなたの人生じゃない、とわたしに言ったのよ・・という、そこいらが映画のなかで旨く整理できてない
「曖昧な感じ。一抹も二沫も、未練が残り続けているんだね、エモーションがね、スキッとしてない」
「実際のところ、映写技師Pノワレにはすごく共感が持てるし、彼と少年との、父と子の関係、それは素晴らしかったと思うんだけど、それにしては、少年の恋路にコミットしすぎちゃった感じね。結局、彼が二人の恋路、逃避行の邪魔をした・・」
「うーん、でも僕はそうは思わないな・・Pノワレは実に正しいことを言ったんだよ。こんな寒村で一生、映写技師で終わるんじゃなくて、広い世界を見ろ、と言うPノワレは素晴らしいアドバイザーだと思う。小学校さえ出ていない彼がそう言うのは、すでにロマンだよ。で、結果的に彼は二人の恋路を邪魔したのかもしれないけど、盲目で背中を丸めて映写室に座っていたPノワレの断固として哀しい最後の後ろ姿には、僕、グッときたなあ・・
「けれど映画は、終盤になってから、また二人を再会させて、なんかモンモンと解消できない過去のわだかまりに耽るばかりじゃない。ああいう姿を見せられちゃうと、Pノワレが本当に二人にとって良きアドバイザーだったのかどうかは疑わしいわ・・もしもよ、その後の、そうじゃなくてもしも現在の二人、ジャック・ペランとブリジット・フォッセーが、あの時わたしたちは心ならずも別れてしまったけど、でもこの今なら、それでも良かったと思えるの・・っていうような前向きな展開になっていたら、なんかすべて丸く収まるような気がするんだけど」
「女史はこの作品を恋愛映画って感じで見てるんじゃない? まあ僕も、例えば現在のJペランの姿、つまり映画監督として成功していて、オレはあんな寒村に引っ込んだままじゃなくて良かったーっていうようなエモーションがメインにはっきり打ち出されていたらなあ・・とは思う。女史の言葉を借りれば、この種の映画は『丸く収めて』ほしかったという気がするのも事実なんだけどね
「でも映画はそうはしなかった・・それはどうしてだと思う?」
「うーん。まあ、もしかしたら、そういうハッピーエンディングにしたかったのに、なにかの理由で出来なかった、ということはありうる。でもね、僕は、トルナトーレ監督は、そこを曖昧なままにしておきたかったんじゃないかなって思う。人生って曖昧だからね」
「ああ・・わたしも・・そうとも思うなあ。ただ単にホロ苦い恋の思い出っていうだけでは済ませたくないものが、語られていたとは思うの。故郷に30年間帰らないっていうのは、もちろん恋に破れて帰りたくても帰れないんだっていう、身を切るようなつらい想いがあるからなんだけど」
「僕は、Pノワレが少年に言う、もっと広い世界に出ていくんだ、っていうあたり。あのへんをもっと掘り下げて欲しかった。人生の厚みみたいなものへのアプローチは、あのPノワレのアドバイスに切り口があったはずだ。そこから新たな人生の大海、トト少年の第二幕が開いていくはず・・ところがトルナトーレ監督はそこを描かない。まるで、ピアニスト1900が、アメリカに上陸しようとして寸前で船に戻ったのと同じように、そこから先にある大きな人生、新しい物語に踏み出すことを監督はしないんだね。そこはもしかしたらトルナトーレ監督の弱点かも知れない。本当に骨太な物語を、彼は語れないのかもしれないな
「1900がまた船に舞い戻る姿にはゲンナリさせられたよね(笑)とはいえ、まあ、この作品は人生の幅は感じさせてくれたの・・解消できない過去の恋愛とか、控えめな母親への愛情とか・・なんとなく、そのあたりはきっと昔のベンダースとかが得意な分野なんだけどね、<まわり道>とかさ」
「それにしても、というか、だからこそ、あの感動のラストシーンは素晴らしいよね。本当に涙が出る。映画、愛、戦死した父親がわりの映写技師、故郷を捨てた自分、離ればなれになってしまった最愛の恋人、そして再会、過ぎ去ってしまった一切合切、要するに自分の人生っていうものに対して、あのラストシーンで、主人公は和解する・・水に流すとか諦めるといったことではなく、曖昧なままなんだけど和解する」
「その、肝心な、村を出てからの人生、つまりトト少年がどう自分自身を作ってきたかっていう部分が、映画ではキチンと描かれてなかったって言いたいわけね」
「なんだよね・・暗示的ではあるけれど、少年時代へのノスタルジーばかりが美しくてね。でもそこは観客各自が引き取ればいいのかもしれないな。もしも、トト少年のその後は・・って感じで少年固有の物語としてその後を描いてしまったら、却ってドラマとして硬直化しちゃったかもしれないしね」
「俳優陣は実に素晴らしかった。モリコーネの音楽も」
「そして回想シーン、つまり少年時代の明るい映像もね。映画への愛に満ちた前半と、恋愛に悩む一途な少年を描いた中盤と、そして人生の重みを屈折的に背負った中年男の渋さが光る終盤と、映画は実に豊かなモチーフで出来てる」
「そして再び映画への愛でしめくくるのね」(2001.1.30)

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