「マウス・オブ・マッドネス」1994年アメリカ

ジョン・カーペンター監督 サム・ニール

「カーペンター監督って非常に真面目な映画作りだから信頼できるよね」
「わたしは<ニューヨーク1997>なんかは単純に面白いって思った。あとはあんまり見てないの。どうしても出さずにいられないらしいグチャグチャ、にちゃにちゃのB級モンスターが好きになれないし・・」
「あはは、まあ、そうだよねぇ。この映画だって別に手作り感覚溢れるニチャニチャした怪物が出てくる必然性は、まあ、あまりなかったかな、って僕も思う。でも、あえてそこを不問に伏せば、この映画は実に真面目」
「劇中劇、映画内映画、っていう発想はなんか陳腐だったよ」
「おっとっと、いつもながら女史は厳しいご意見だ・・物語は確かに映画内映画という発想なんだね。そこを面白がれるかどうかはまあ、この作品にどんな期待をするかによって違ってくる。コワイ映画かと聞かれると困る。怖くないから(笑)
「わたしはもっと地味に、っていうか、少なくともグチョグチョしたモンスターなんか出さずにコワさを演出してくれた方がよかった。例えば<ジェイコブズ・ラダー>みたいな風に」
「あれもまたイヤな味わいがあったしねぇ。で、この<マウス・オブ・マッドネス>はというと、主人公は保険金詐欺を調査する興信所みたいな仕事をやってるサム・ニール。彼は失踪してしまったホラー作家、サター・ケーン氏の行方を追うよう出版社から依頼される・・」
「ケーンは大ベストセラー作家で、読者は彼の本を読むとアタマがオカしくなるらしいのね。で、新刊本が品切れになると熱心なファンが本屋で暴動を起こしたり・・」
「ま、そんな作家のリアリティはともかく、サム・ニールは出版社から助手として使わされた女編集者と二人で作家の行方を追う・・そのうちに二人は、作家が自分の本のなかで描いたらしい町にやってくる。非常に典型的なアメリカ東部の古い田舎町。やがて次々に起こる怪奇現象・・でもそれらはすべて、作家ケーンの書いた物語をナゾって展開していく」
「で、最初サム・ニールは、これは大がかりな芝居だ、と考えるのね。これはケーンの新作を売り出すための芝居で、怪奇な事件も不気味な登場人物たちもみんな俳優たちが特殊メイクして演じてる芝居にすぎない、って考える」
「でも実はケーンが書いた物語世界の方こそが現実そのもので、それをなかなか信じようとはしないサム・ニールでさえ、実はケーンの新作小説のなかに出てくる登場人物にすぎなかったのだ! ということが分かる・・ここが非凡」
「ていうか、なんか聞いたことがあるような発想(笑)」
「まあまあ(笑)。そりゃある種のファンタジーではね。アリスとか、ラヴクラフト、ジョージ・マクドナルドの作品とかでは、主人公があらかじめ物語のなかの作中人物でした、というような発想があることは否めない」
「わたしは、だからその劇中劇の二重底みたいな着想より、ただサム・ニール独特のクールに狂っていくところ。そこはまあ良かった(笑)
「彼、いいよねぇ。<ポゼッション>とか<ジュラシック・パーク>とかで眼んタマひんむいてくれてる調子で相変わらずやってくれてる」
「ちょっとスティングから『若さ』を抜いたような感じ(笑)」
「確かに。間違うとマルコム・マクドゥエルみたいにもなりがち・・はともかく、僕はまあカーペンター監督のホラー映画ってものに対する素朴な姿勢が好きなんで、こうした劇中劇というのは、そりゃ使い古されてるっていうか新鮮な驚きはないかもしれないけれど、そういうチャンとしたフォーミュラを踏まえたうえで骨太に演出していく今回のスタイルは評価したいな・・あまりの飛躍的展開にアッケにとられることもなかったしね
「ただ単に悪魔が世界を征服してこの世の終わりが来る〜なんていうだけじゃなかったことは、比較的、楽しめるのかもね〜。ていうか、そういうアンチョコな悪魔とかサイコ野郎が多いハリウッドのドンパチ映画に比べると、まあ、正攻法な風格みたいなものは感じられたのかも」
「そうそう、カーペンター監督作品にはなぜか風格があるんだよ」
「であればこそ、なおさら今回のこの作品にヌチャヌチャしたモンスターは・・」
「必要なかった、と、まあ、それもそうかもね。全体には即物的な嫌悪感より、ジワジワした怖さを打ち出していくような物語だったしね。例えばクローネンバーグ監督みたいな・・」
「女編集者を演じた女優にはぜんぜん魅力がなかったように思う。それとチャールトン・ヘストンがチラと登場するあたりも、ちょっともったいなかった。ビッグネームすぎて、映画内映画のコンセプトを自ら否定してるような気がしたの。この映画は例えば<ブレア〜>みたいに無名の自主映画的な作りで見たらもっと面白かったのかも」
「ふーん。ま、そうかな・・映像の作り上げに、ちょっとザツな感じがあった、っていうか、もっと構図に工夫があっても良かったような気がするな。全体に斜めからみたショットが多すぎてね。とはいえ僕はこの作品はとても意欲的だったと思うし、もっともっと色んな工夫をして面白くなりえたろう、ってなかば残念な気がする」
(2002.9.29)


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