「イギリスから来た男」1999年アメリカ



スティーヴン・ソダバーグ監督 テレンス・スタンプ ピーター・フォンダ

「てなわけで<私家版>に続いて、これ。またしてもTスタンプの独壇場・・」
「まあ確かに彼でなかったら見なかったかも・・って作品なんだけど、でも小品佳作サスペンスって感じでわたしはすごく面白かった」
「タイトルがRダールみたいでカッコいいね、って、それはともかく今回のテリーは強盗で、ムショにブチこまれてクサいメシ喰ってる間に愛娘がアメリカで不審な死を遂げていた・・そして彼はその死の謎を解きにLAに渡る」
「独特の存在感は、もう何も言うことがないの。人間ドラマとして見ても、ヘタに感情移入させない作りになってたから、その風合いはとってもドライね」
「ソダーバーグ監督らしい映画作りでカットバックを重ねるだけで敢えて多くは語らない・・これもまたもう何も言うことがない(笑)。しゃべるネタがない映画」
「(笑)まあね。例えば60年代のパンクとヒッピーが30年後に出会った、っていうあたりも、なんとなくそれだけでロマンを感じさせるし・・ああ、ほんと言うことがないよ」
「とはいえ・・」
「とはいえ? そろそろケナしモードに入ってきたのね(笑)」
「いやいや、ケナすつもりなんか毛頭ありません・・けれど、実際のところこの作品はすごく短い! わずかに90分。もっと見ていたかったっていう気がするけれど、まあカッチリまとまっていてさ・・これは<私家版>の時にも思ったんだけど、あれだけの俳優を使うんなら、その存在感におもねるだけでも映画は出来る。でも、それだけじゃ観客としちゃ困る・・
「へえぇ狩刈くん、なんか困ったわけぇ?」
「いやべつに(笑)。ただナイものねだりじゃないけれど、僕としちゃ、もっともっと色んなエモーションや筋立てやドラマの妙味に酔いたかったな」
「全体に、死んだ娘の復讐をするため大富豪の音楽プロデューサーを付け狙うイギリスから来た初老の男の物語、っていうだけで、狩刈くんの言いぐさを借りれば確かに、小さい物語なのね。でもそこにピーター・フォンダが気弱に絡んで二大俳優の競演があって・・と、これはむしろ贅沢な映画だったのかもよ」
「うんうん。考えてみれば、こんなチッポケな物語にあんな俳優たちを使うとは、贅沢だよね。そこにソダバーグ監督の『らしさ』も感じられる。でも僕、貧乏性だから(笑)贅沢は敵だ!」
「もっともっと分厚い楽しみ方で楽しみたかったってことね」
「そのとおり。麻薬捜査官がデニス・ホッパーだとかさ(爆)」
「・・でもPフォンダが出てきた途端に60年代ロックが流れて、あーどっから見ても元キャプテン・アメリカだ(笑)って」
「あと、若かりしTスタンプ自身が登場する別のモノクロ映画を挿入して回想シーンに仕立てるなんて、実に素晴らしいね。この映画には確実に60年代なるものへのノスタルジーが底流にあってね・・それを等身大のスタンプとフォンダが醸し出してる。でも、そのノスタルジーが、娘の死とか復讐劇とかいった映画の屋台骨とは次元の違うところでタレ流しされてた。僕は一切合切を混沌とさせてもなお、あのノスタルジックな感傷に溺れちゃいたい、って思いがした」
「ふーん。分かるような気がするけれど・・それじゃただの懐古趣味になっちゃう」
「まあね。いや、要するに、この映画は小綺麗なんだよ。そこをスタイリッシュと評価することは出来る。シンプルと評価することも出来る。でもあまりにも脚本と構成がうまくまとまりすぎちゃって、ずいぶんシェイプアップされちゃったな、っていう気がするだけ」
「でもさ、実際Pフォンダにくっついてる女の子なんかは、ただの添え物だったよね・・」
「そう!そうでしょ!」
「急に大声出さないでよ(笑)」
「いや、そうなんだよね。つまりあの若い女は添え物として登場させられていて、それでシタリ顔、みたいなハメ込み方でこの映画は出来てる・・それから幼い娘が出てくるモノクロ回想シーンも、ちょっとありきたり・・娘の『声』を聞かせてくれるだけで、またグッと違った深まり方があったはずだ」
「だから、あんまりセンチメンタルにはしないでドライにしてたんだと思うな
「小気味いい作風ではあるよ・・でも、カチッとはまりすぎていて、映画の内部に秘められたパワーと最終的な仕上がりが、釣り合っていないような感じだ」
「まあ、狩刈くんの、テリーとピーターに寄せる特別な想いからすれば、どんな物語だってパワーと仕上がりは釣り合わないよ・・。だってそのパワーのうち半分くらいは狩刈くん自身が映画にぶっつけてるんだもの(笑)」
「はあ・・女史って、たまにはいいこと言ってくれるねぇ・・」(2001.7.31)

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