ラ・パロマ 1980年スイス・フランス


ダニエルシュミット監督 イングリットカーフェン ペーターカーン

「怪奇と幻想!」
「それに耽美!」
「でもねぇこういうセリフ極少の映画、苦手なの、ちょつとアクビ」
「僕は大好き。ベルエポックのキャバレーの、男装の麗人とか美少年や美少女がふんだんに登場してまるで見せ物小屋みたいに猥雑でデカダンな雰囲気は最高。ドイツ表現主義というかナチスの退廃芸術に描かれるようなグロテスクで甘美な世界。特に冒頭Pカーンがちらりと登場するまでの舐めるようなカメラ回しにはぞくぞくしたよ。それにIカーフェンの背中!」
「よだれよだれ!(笑)」
「初めて見たときはほんと、夢を見てるんじゃないかっていう気がした」
「実際、あれはPカーンの見た幻なんでしょ。あの男だか女だか分からないキャバレーの精霊みたいなのが彼の瞳を覗き込んで、ふっと見せた一瞬の幻影」
「まあそうだけど夢なればこそウットリっていうかな。セットの材質、例えば椅子の光沢とかカーテンのドレープの重さとか、いちいちが夢見心地だ。よくもまあああいう映像が撮れるもんだと敬服せずにはおかない」
「それにPカーンもIカーフェンも生身じゃないみたいな雰囲気持ってるしね。おまけにPカーンの母親がまた年齢不詳のビュルオジェ」
「あのキャスティングは見事だねぇ。ところで数々の夢の断片のなかで一番印象に残ったというと?」
「ああ、やっぱり山頂でデュエットする場面!
「だよな。あそこは本当に酔う。メロメロになる。誰もがあそこで頬を涙で濡らす」
「さすがにわたしも、ぐっと来たの、あのシーンで、これは夢かも知れないって思った」
「皆さん、永遠に、忘れないでください・・っていうラストはもう唸るしかない」
「なんか珍しくベタベタに誉めあっていていいの?」
「えええ?いいでしょう。なんか欠点とかアラとか探すのが邪道に思える作品ですよ、これは」
「例えばビュルオジェが来た時と帰る時で同じ格好してるけど、なんかいかにも半日で撮ったって感じがした」
「いいじゃないの夢なんだから」
「最後にIカーフェンのお墓を暴いて、彼女がアップで映る、一度隠すけどまたベールを暴く、あそこはまたかって思った。あと競馬のシーンは随分と貧弱」
「そんな小さいこと気にしない気にしない。墓の場面が意味もなく年寄りだらけだけどそれは何故か? 意味は特にないんだ」
「音楽は素晴らしいね」
「そうなんだ。ほとんど切れ目なく音楽が鳴り響いていて、セリフは少ないし間が長い会話なんだけどそのかわり音楽は饒舌だった」
「エヴァペロンが死んだ・・ああっ」
「あれだけ話すために列車に乗ったのかとさえ思えるくらいだけど、例えばあの列車の質感は凄い」
「自然の光を使ってるのか、室内は結構暗かったわね。その反面、戸外のシーンでは明るさが目立って、なんか眩しいくらいだった。そのへんのコントラストが、ちょっと気になったわ。なんかちゃちゃちゃって、少ないスタッフで撮っちゃったって感じよね。冒頭のキャバレーやIカーフェンの臨終場面とかはじっくり撮ってるのが伝わるけれど、列車にしても、湖上の舟とかにしても、主演二人しか出てこないで、なんていうの、大きな演出っていうのはなかった」
「大人数が出てきたら、うっとり出来ないってことはあると思うな」(1998.5.20)

シネマギロテスクに戻る