「狂ったバカンス」1962年イタリア


ルチアーノ・サルチェ監督 ウーゴ・トニャッツィ カトリーヌ・スパーク

「ま、これはカトリーヌ・スパーク演じるフランチェスカちゃんが可愛いね、としか言えない」
「あらま。今回は狩刈くんの中年シンパシーが聴けると思ってのチョイスだったのに」
「中年シンパシー? べーっだ(笑)そりゃまあ僕はこの映画、徹頭徹尾ウーゴ・トニャッツィの視点から見ていたのは事実だけど、でもそれは中年だからというよりは男だから、という理由ですわよ」
「あーら、うまく逃げたわね〜わたしはこの映画ってどうにも中途半端で踏み込み不足だった気がする。中年男が娘ほどにも歳の離れた女の子に振り回されるっていうのは定番ていうか、ありふれた題材だとは思うんだけど、当時としてはまあキャッチーな感じはする」
「基本はコメディだから『イタリア製お軽い映画』ってことで、まあいいんじゃないの。ていうか今の女史の整理だとこの映画は三つのファクター、つまり『中年男』と『女の子』と『振り回される』に整理できる弁証法的な映画ってか(笑)。まず『中年男』から言えば、彼はどうやらオンナあしらいの上手い手練手管な男と設定されてるよね」
「そんな男が『振り回される』ところにドラマを作りたかったんだとしたら、まだまだ振り回され方が足りないって感じ(笑)」
「ま、ね。狂おしいまでの情感の燃え上がり、フランチェスカ恋しいあまりに身悶えするよな熱情っていうのは実はあまり感じられない」
「<ロリータ>のJメイスンや<バージンブルース>の長門裕之ほどシリアスにならないのね。それはイタリア映画だからかなぁとも思った。イタリア人固有の恋愛遊戯のバリエーションのひとつを見せてもらってるんだと思えばシリアスにならないのは仕方ないかなぁ、って」
「例えば、家庭崩壊とかね。犯罪に走っちゃうとかいった日常逸脱、そういった引き返し不能地点をウーゴ・トニャッツィは通過しないから、いつでも日常へ戻ってこられるわけだ。なのに戻ろうとしないあたりには、彼の熱情の強さゆえというよりも、却って一種のもどかしさ、愚かしさを感じさせる、そういう作りになっていたね」
「一方で『女の子』のフランチェスカはコケットな風にはあんまり見えなかった。若さがウリっていうのはあったけれど、どうしてそこまで『中年男』が引っかかるかなぁって感じ」
「まあ、彼は普段つき合ってる冒頭に出てきたようなグラマーに飽きたんだよ(笑)。ていうか、これはある種のアイドル映画には違いないし、彼はフランチェスカの女の子的な魅力に惹かれつつ、実は彼女を含めた若者たちの『若さ』にこそ惹かれている。彼らの、一種人間離れした無軌道さ、山猿みたいなヤカマシさ、きらきらピチピチした輝きにこそ『中年男』は憧れているわけで」
「ということならウーゴ・トニャッツィは女にモテモテなやり手の技師ではなく、なんかショボくれたチョイワルおやじとして登場したほうがコントラストは強かったのかも。でも、自分じゃまだまだイケてると思っているのにいざ付き合ってみると相手の若さに息切れしてついていけない、っていうほうが映画的には、まぁ面白いわね。問題は、彼はそれほど息切れしなかったってことかしら?」
「ゴーカート場で殴り合いになったり車をポンコツにされたくらいじゃ、まだまだ手ぬるいってことだね(笑)もっとケツの毛まで毟り取られなきゃってこと」
「まあ、そうなんだけど(笑)こういう映画って結局ストーリーは見通せるじゃない。『中年男』は絶対に『女の子』を手に入れられないんだもの。とすれば、観客の興味は彼の息切れを笑いながら、彼がどこまでぶっこわれるか見てみたいっていうところにあると思う」
「ははぁ、今日の女史はずいぶんと中年男にツラくあたってますな〜。ま、確かに観客の興味はそこにあって、例えばこの種の設定が題材のひとつになってた<アメリカン・ビューティ>のケヴィン・スペイシーの末路なんかは、色んな要素が絡み合って実に上手く工夫されていたと思うしね」
「結局、この映画でウーゴ・トニャッツィが失ったものといえば、なにかしら? これといって思い浮かばないの。だから最初に踏み込み不足と言ったのだけど。そこに主眼を置かないとすれば、この映画はちょっと長すぎ(笑)」
「ドラマもエモーションも葛藤も深まっていかないしね。でも、彼が得たものはなんだったろう、と考えるとね、これまたちょっと面白い。ミラノに戻った彼は、また例の愛人としっぽりやり、仕事もバリバリやり、何事もなかったように彼なりの日常生活に戻る。そして時折、思い出すんだね、街なかで似たような面影を探しながら、ああ、あの時のフランチェスカは今頃どうしているだろうなぁ?もうそろそろ18歳になる頃だなぁって。そして自分の甘く切なくも愚かしいバカンスの記憶に苦笑いする・・」
「えーっ! それが彼の『得たもの』ぉぉ?(笑) と本当に狩刈くんが思っているんなら、それこそ中年の哀歓たっぷりシンパシーね(笑)。一方でフランチェスカは、まあ絶対に思い出さないはずだわ、えーとあの時の技師ってどんな顔だったかしら、ヒゲがあったようななかったような、まあいいわ、って(爆)」
「ややや・やられました(笑)くっそー。なーんか誘導尋問みたいな対談だなぁ、今回は(笑)。まあ、それはともかく話を変えると、この映画、のっけからシーザーが出てくるあたり、あれは古典的なイタリア喜劇の常套って感じで面白かった。イタリアコメディは古代人のイントロから入ることが伝統的に多いからね・・」
「とまあ、そういうマニアックな映画薀蓄を傾けられるのも年の功ってことね(笑)」
「はいはい、今日は負けにしときます。そのうちアラフォーな作品をチョイスして女史の熟女シンパシーをたっぷり聞かせてもらいやしょう〜」
(100806)




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