「非情の罠」1955年アメリカ


スタンリー・キューブリック監督フランク・シルヴェラ ジェイミー・スミス

「キューブリックの商業的劇映画としてはほぼ処女作にあたる、比較的珍しい作品ね。興行的にはうまくはいかなかったけれど、この次の<現金に体を張れ>で一気に評価が高まるから、まあ習作みたいなものかしら」
「そうだよねぇ、習作っていう感じはぴったりだな。規模も小さいし、アイディアはいいけど」
「物語は落ち目のボクサーと、隣部屋に住むダンスホールのホステスと、そのダンスホールの支配人の三角関係が高じて、支配人がボクサーと間違って彼のマネージャーを殺してしまい、あとは追っかけあり闘いありの活劇で予定調和な結末」
「物語自体にはほとんど見るべきものがなくてね。ただカメラワークとか編集とか、要するに映像はキューブリックだね。技術には目を見張る」
「これは製作、監督、脚本と、ほとんどすべて彼のコントロールのもとに出来ているのね。登場人物も、あのホステスの保身に走る変わり身の早さとか、支配人の下司な嫌みの分厚さとかはよく伝わったけど、いかんせん主人公のボクサーに魅力がなくてねぇ、頭ワルそうだし(笑)ちょっと見ていてツラかった」
「まったくのデグノボーだったよね彼(笑)。あのホステス、アイリーン・ケーンはちょっとグレース・ケリー似なとこもあって好きだな。なんか愛憎入り交じった家族で複雑な生い立ちで今も自責的になっていて、という彼女の過去が語られるけど、ほとんどドラマには関係ない。でもギリギリの瞬間でボクサーを裏切るっていう行動の背景にはなっていたね。薄情なとこが(笑)。あれは女心としちゃ、どうかな?やっぱり命乞いみたいな感じの保身からボクサーを裏切るんだよね」
「そうだと思う。窮余の策とはいえ本気でボクサーを棄てる気だったはず」
「女はコワイ(笑)。で、そんなことより僕が感心したのは、オノとヤリでもって二人の男が戦うあのシーンで、実に真に迫っていた、凄い緊迫感があった。マネキン人形を投げつけあったり、その破片に足をとられて転げたり、そこにオノが襲いかかったり、と、見応え十分な殺陣」
「それをいうなら最初のボクシングの試合も、結構パンチがきつい映像で」
「急に密度が濃い映像になったり、メロドラマになったり、なんか不思議というかバランスが微妙にユニークっていうかな。そんな画面づくりだったよね」
「カット割とかもキューブリックね、ちょっと技術に走りすぎって感じだったけれど、同じシーンを意味ありげに違うアングルから見せたり、それを無造作につなげたり」
「そうそう。ちょっとヌーヴェルバーグ風のところもあった、特に街中のシーンとか。やっつけ仕事ってわけじゃないけど、結構ゾンザイな味わいもあった感じがするな、そこがまたフィルムノワール的でもあったり」
「巨匠の若書き、っていうとヘンだけれど、手際よくカッチリ造ってるところはもの凄く魅力的ね」
「後々の才気は感じさせる作品だったということかな」(2000.4.18)

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