「花様年華」2000年香港


ウォン・カーウァイ監督 マギー・チャン トニー・レオン

「というわけで王監督の新作なんだけれど・・ちょっとわたしには期待外れだった・・
「うーん。まあね・・ロードショー最終日の駆け込み鑑賞は、ちと暑かった(笑)最高気温が37度じゃね〜〜つまり、そういう悪条件を考慮してもまあ、ちょっと期待してたわりの映画じゃなかったのは事実。でもいい映画だったとは思うけどな
「いいトシした男女のノスタルジックな恋愛感情の機微・・って、なんか、わたしにはあまり映画的な題材じゃないのかも(笑)」
「はあ。お互いいいトシだしねぇ(笑)。ま、要するにこれはボーイミーツガール・ストーリーで、だから何? という感じがしただけであって、しっとりした質感とか俳優たちの目線の交わし方、言葉のアヤなんかの味わい深さまで僕は否定できない・・」
「たまたま隣同士に引っ越してきたマギー・チャンとトニー・レオン。互いに既婚者なんだけれど惹かれあって、と、そこまではいいの。けれども実は互いの夫、妻同士が・・っていうあたりから、狩刈くんの口癖を借りれば『底が割れた』って感じでわたし、もう映画のなかに入り込めなくなっちゃった。安易といえば安易でしょ」
「実は互いの夫と妻同士が不倫していたんだね・・で、MチャンもTレオンも、それなら僕たちも・・と、一線越えるかというと、越えない・・で、しばらく続いていく。僕は実際のところ、この、越えないでしばらく続くというところがね、いかにもカーウァイ監督らしいなって思ったけどな」
「っていうと? 暗示的だったとか?」
「暗示的ね・・いや、これまでの王作品は、いつかも女史が言ったようにテンションで観るような密度の濃さが特徴で、セリフなんて三行くらいすっ飛ばしてたよね。むしろセリフとセリフの間の沈黙の中に、人間たちのギリギリの感情が圧縮されていたように思う・・で、今回はその趣向が映画全体に漲っていたとは思うんだね。特定の沈黙ではなく、全体に。それはつまり、二人が簡単に燃え上がらないで身を焦がす展開を裏打ちしてたと思うんだ」
「ははあ・・つまりは二人がパァッと燃え上がらないからこそ、これまでの王監督らしい密度の濃さがあったというのには賛成する。けれど、それにしてはちょっと展開が、散漫、というのじゃないけれど、なんか深まらないの。二人のエモーションには最初から最後まで、それほど大きな変化がないように思ったし・・ズンチャッチャッ♪でスローモーションになったりするのは、これまた安易」
「実際、例えば<欲望の翼>のなかの一エピソードを2時間近く引き延ばしてみただけ、という印象は僕にもあるんだ。都合良く雨が降ってきたりして。それにいいトシした男女がサもない話しばかりして、しかも観客のウラをかくみたいな『別れ話の事前練習』みたいなことをやって、あれは明らかに時間稼ぎみたいなもんだったし・・」
映像的にも、すごく窮屈だったよね。アパートの部屋と屋台と勤め先の繰り返し。たまにレストランとホテルが出てくるだけで、なんていうか、猥雑な街並みとか雄大な自然とかいうモチーフを通じて、これまで王監督が得意としてきた、人間ってチッポケだけど恋する時は命がけなんだ!っていうような衒いと迫力が、今回は感じられなかった
「痛いとこを突いてると思うよ、今の批評は(笑)。まったく同感だ。こじんまりしすぎてヘタに等身大のメロドラマになっちゃったところに、古典的で節度ある『大人の恋愛映画』を感じられるかどうか・・それはなにをこの映画に、また王監督に期待するかによって違ってくるよね」
「<欲望の翼>というより<恋する惑星>の第三話、みたいな感じ。でも、ぜんぜんファンタスティックじゃないの。それでジワンと感動しちゃうかというと、どこか覚めてるし・・ワケの分かったような字幕でハショっちゃったラストは、わたしには消化不良だったなあ」
「うんうん。まあそんなこんなで女史がどんな恋に心動かされるか、よ〜〜く分からせていただきました(笑)」
「あら、いやだ(笑)。で、どんな恋よ?」
「等身大でない、脱出願望が成就される恋、だね(笑)。何もかも捨てて二人で高飛びしよう!俺と来い! てな恋。でしょ?(笑)」
「えー・・・。それじゃハリウッド映画そのもので、狩刈くんの想像力も貧困だわね(笑)。ま、この映画でも二人は結局、シンガポールに駆け落ちしよう、となるわけね。そしてその土壇場でなにかがあった。今は分かれてる・・わたしはそこが観たかった、という気持ちもあるの。大人同士の大人らしい別れ方を・・」
「ややっ!そこまで進んでるとは女史もスミにおけないね(笑)。まあ確かに、急にTレオンが小説を書き出したりするのもヘンだったし・・映像の面でも時にはイメージビデオ風でもあり時計のアップばかりが目に付いたり雨が何度も降ったり・・と、手垢が付いた感じで、なんか立ち止まってばかりいる作品だった」
「またやってるな、っていう部分と、なんか違うんじゃないの?っていう部分があって、結局は平板な作品になっちゃったっていう感じ・・」
「さっきの女史の批評のとおり、これまでの王作品とは違うし、迫力不足だったのは否めないね。けれど、そこを立ち止まりの美学、節度ある新境地と汲んでみるのも、いいのかもね」
「あたりまえの、しがないメロドラマ、という新境地に達したというわけね」
「ああーキツイ(笑)。そんなんじゃ大人らしい別れ方はできないよ(爆)」(2001.7.16)

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