「エキゾチカ」1994年 カナダ


アトム・エゴヤン監督 ブルース・グリーンウッド ミア・カーシュナー

わざと謎めかして作ってあるから、途中で興味をなくしたらどうでもよくなる。で、わたしはどうでもよくなっちゃった」
「(笑)ままま、そうなんだね。登場人物の人間関係がよくつかめなくてね・・
「ていうか、これは人間関係がよくつかめなくなってる人たちの映画。で、それに付き合うかどうかは観客次第。作り手の方の自意識がかなり強かったかなって感じ」
「自意識ねぇ・・そもそも『癒し』なんてあからさまに言うこと自体が自意識の固まりだよね(笑)。人間の心なんて、気分次第でどうにでもなるものだ」
「物語はというと、かつて一人娘を殺されてしまった国税査察官が街なかのストリップクラブに通い詰めてる。その店で彼は、娘の元ベビーシッターで今ではストリッパーになってる女の子に癒されたいと願ってるのね。彼は、事件のせいでどうやら対人関係をうまく結べていないみたい。後は、やっぱり対人関係がヘタなメガネのゲイ君とか、人生に行き詰まったストリップクラブのDJと例のストリッパーとのいざこざとか・・猥雑なクラブの楽屋でなんとなく他人の人生を覗き見したようなカラクリがあって、まあ、ただそれだけ」
「いや、例によっての辛辣なご意見はとりあえず聞き置くとして(笑)、女史が言う、ただそれだけ、を、まあ巧みに謎めかして、意味深長なセリフ回しでぼかしながら描いて100分を費やしたっていうのは、ある意味では才気があったと思う。だって他人の人生を覗き見するのは映画の醍醐味だし」
「まあ人それぞれ悩みってものはあって、それがどれだけ共感を呼ぶ悩みかどうか、あるいはただの、個別の症例研究にすぎないか、ってことろが、狩刈くんの言う『醍醐味』の分かれ目だと思うの。で、この映画はかなり症例研究に近かった・・」
「僕はあのハダカ三昧のストリップクラブで可愛いヒロインだけが脱がないってのは冗談じゃないっ!と思ったけど、それは聞き置いてもらって(笑)、細部のアイディアにはいいところもあったと思う。人恋しいのに出会いがなくて、バレエのチケットをわざと一枚、アカの他人に売って、そいつと隣り合わせの席でバレエを見るゲイ、っていうあたりは、都会のディスコミニュケーションを良く描いていたと思う」
「まあね。そういう細かいところは、そうかなって思う。いまだに娘の死から抜け切れていない父親が、友人の娘をベビーシッターで雇うなんていうのもカラクリとしては面白かった。ただ主演のあの国税査察官が時々、ベビーシッターの女の子相手にお説教じみた、訳知り顔のことを言うでしょ。ああいうのはいただけない、っていうか、かなり饒舌ね・・査察官は一番悩ましい登場人物のくせして、そこに作者が顔を出しちゃった」
「ストリップクラブを母親から受け継いで、今では妊娠してシングルマザーになろうとしてるクラブオーナーの女がいたよね。僕は、彼女がすべての一件に対して、すべての登場人物に対して等距離に立ててる、唯一、客観的な人間になりえていたと思うんだ。だから、もしもこの映画が、スタイルを変えて、彼女の視点からいろいろと物語ってくれていたなら、もっと共感しやすかったはずだって気がした。彼女の立場は観客の立場だったからね」
「なるほどね。彼女はその役割をもっと積極的に負っていた方がよかったかも。辻褄合わせにならない程度に。わたしが思ったのは、時折挿入される、草原を歩きながらストリッパーとDJとが交わすさりげない会話」
「さりげなく、録音用のマイクロフォンが画面に挿入されるシーンだね(笑)」
「あれ珍しいポカよね・・って、そうじゃなくて、わたしはあそこで交わされるごく自然な会話がとっても良かったの。要するにこの映画は、みんなが誰かを必要としてる、ってことを描いていて、それがあの草原のシーンではごく自然に伝わったの」
「けれど、それが現実ではうまく相手に伝えられないから、実際にはいやしない子供の子守のためにベビーシッターを雇ったり、バレエのチケットを売ったり、わざとお客さんを元恋人の踊り子さんに触らせようとしたりしてる・・なんか、おもしろ悲しい。持って回ったことをしないと現実の手応えがないのかな。妄想とか空想が、現実のフェンダーとなってるってことは否めないけれども」
「なんだかバーチャルな世界で、一人で自分を慰めそうな感じ。だいたいストリップクラブなんてのが、そういう場所なんでしょ。男の人にとっては。自分の妄想がハダカになって踊ってるって感じ?」
「れれれ、まあ、そうかな。そういえば、以前、僕、胃カメラ飲んでね・・」
「胃カメラ?」
「そ。あれは実に辛い。もうなんていうか、レイプされるってのはもしかするとこういうモンなのかも、って、さすがの僕もジタバタした。看護婦がヨダレだの涙だのを拭ってくれるけど、こっちは恥ずかしいやら辛いやらで、あああ助けてくれぇ!って感じでね」
「・・・それで?」
「それで僕は、あっ!と思ったわけ。ここは病院じゃないんだ。彼女は看護婦じゃない。ここは病院を模したイメクラで彼女は白衣を着た女王様で、僕は今、胃カメラプレイをしてるんだっ! ってね。そしたら急に、救われた思いがした」
「(爆)!(爆)!」
「(笑)要するに、イメクラにせよストリップクラブにせよ、バーチャルな世界は、現実の苦しみを癒す、っていうか、気晴らしにはしてくれて、まあそうやって人間てもんは現実生活のつらさをやり過ごすことは出来る。でも、胃カメラを飲んでる事実は変わらない」
「なんのことだか分からないけど(笑)、胃は大丈夫だったの?」
「まあね。本当に癒してもらう必要はなかったんだけども・・。とにかく、あのクラブの造形は、どことなくヘタウマで、現実ってものを惑わす。観客も惑わされたかも。でも、完全に人生の視点を変えることは出来ない場所だった」
「あとは、DJのお喋りがサエなかったっけ」
(2002.07.31)


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