「熱狂はエル・パオに達す」1958年フランス・メキシコ



ルイスブニュエル監督 ジェラールフィリップ マリアフェリックス

「ブニュエル自身がこう語ってるの、どうしてこの映画を撮ったのか分からない(笑)よく憶えていない。多分、気乗りしないままに作っていたからだって」
「まあメキシコ時代のブニュエル作品には、<ナサリン><皆殺しの天使>ほか傑作がある反面で凡作も多い。で、これは凡作。<昇天峠>ほどにも及ばない」
「基本は、専政政治を題材にしたメロドラマよね。独裁政治が横行してる国の、とある島で、総督が暗殺される。総督の未亡人と秘書官とは、実は出来ていて、この暗殺は好都合だった。特に秘書官はリベラルな理想主義者で体制の内部から改革をしていこうと模索、未亡人もこれに協力は惜しまない・・」
「一方、新たに着任した新総督は以前からこの未亡人をモノにしようしていて、リベラル秘書官を逮捕するぞと未亡人を脅して、それがイヤだったらお前は俺の女になれ、みたいに彼女に詰め寄る・・」
「いちいちスジ立てを追っていくと、一応内容はあることは分かるわね(笑)最後は島で囚人達の暴動が起きて、その間、未亡人はわざと新総督を本土に連れ出していたから、この新総督は職務放棄罪で逮捕、死刑になっちゃう」
「それで終わりかと思ったら、今度は例の秘書官が総督に昇進。おまけに副大統領失脚の陰謀に加担させられて、この未亡人を結果的に裏切ることとなる。島には暴動で死んだ労働力のかわりに新たな囚人達が送り込まれてきて、秘書官は彼らを前に自己嫌悪に陥る」
「で、終わりかと思ったら(笑)彼はやっぱり自分の理想主義を貫こうとして、大統領命令に背いて政治犯たちを次々に釈放してしまい、逮捕されて死刑判決を受けるの」
「(笑)波瀾万丈です!バージョンによっては、自己嫌悪に陥るところでFINEになるヤツもあって、まあ結末はもうどうでもいい映画なんだ」
「見所はというと、ジェラールフィリップ最後の主演映画、というところかしら(笑)腰に拳銃ぶらさげたりして、まるで似合わないよね、熱い日射しの下でも汗ひとつかかない、ソヨとしたすがすがしさ(笑)」
「まあ、今、話したように物語は直線的に展開していって、なんとなく最後まで見ちゃう、飽きないって感じはするけれど、深まりはほとんどない。葛藤とかも大して、ない。僕は中米の流刑地という、あんまり見慣れない風景とかは楽しめたよ、ココナッツ園とかね。ギラギラする太陽が、白黒画面にはとても目映かった」
「それと音楽ね、いかにも陽気な感じ」
「体制の内部からの改革者というのは、結局は中途半端だし、いずれ体制に組み込まれて体制側の翼賛者に変質してしまう、というのはありきたりだよね。で、まあそこは自分の理想に忠実になろうと最後に反抗して、だけどあっさりと死刑。要するにファシズム体制下における良心の問題を取り上げた、と言えば聞こえはいいんじゃないかな」
「ま、秘書官の死刑は、実は彼が兵士達に殺してもいいと命令した未亡人の死と響き合っていて、同じ報いを受けるわけね」
「さすがにブニュエルとはいえ、結構筋立てばかりに終始してしまい、彼独自のシュールな造形はほとんどなかった。でも、そういう作品もある、と思って見れば、まあこれ、決して損はしないとは思うよ」
「未亡人役の女優は、コワイ顔だった、メキシコ女」
「それとさ、気が付いたかな? この未亡人が公用車で突破しようとする駐屯地の名前、ミランダっていうんだよね。ミランダって、<ブルジョワジーの秘かな愉しみ>に出てくる大使の国の名だよ(笑)」(1999.2.6)


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