「ドラゴン・イン」1992年 香港



レイモンド・リー監督 レオン・カーファイ マギー・チャン ブリジット・リン

「こういう映画を見ると、狩刈くんが心酔するウォン・カーウァイ監督の<楽園の瑕>がどんなに凄かったか、っていうのが遅ればせながら、まあ分かったよ」
「もしもし?(笑)えーと僕は別にカーウァイ監督に心酔してるわけじゃないけど、まあ<楽園の瑕>にはかなりヤラれたクチだから、女史にそう言ってもらえると嬉しいな・・でもこの映画はモノの本によると香港時代劇大ブームにあって火に油を注いだ作品、ということで実に売れたらしい。ま、それはさもありなん、という気がするね」
「わたしは他に香港時代劇は見てないから比較は出来ないけど、この作品に限って言えば、アクションと恋愛とコメディと、すごくうまく溶け合っていて、見ていて飽きなかった
「そうだね、娯楽の色んな要素が煮詰まって溶け合ってる。だから見終わって、あー面白かった、としか言いようがないんだけれども、特にこの映画のマギー・チャン。旅籠の女主人という役は実にハマってた。彼女に艶やかな流し目とかされちゃうと、なんだかもう(笑)ふらふら〜〜〜って感じ」
「Mチャンはカーウァイ監督の作品とかでも、芯は強いのにどこか寂しがりや、みたいな味わいを出していて、とても雰囲気のある女優ね。一方のブリジット・リンはというと・・こちらは<大英雄>とか<楽園の瑕>とかとまあ同じ路線? タカラヅカっていうと言い過ぎ(笑)だけど」
「彼女はまあ、源義経なんだな(笑)。あるいは沖田総司とか(笑)。凛々しい少年剣士が大きくなりました・・みたいな。<七人の侍>で言えば木村功だ(爆)」
「それじゃあ全然イメージ違うけどね。確かに実はLカーフェイとはホモだったんだ、というオチだったらゲラゲラものかも・・ま、この映画、結局は見せ場だらけで特段の物語はないのね・・砂漠のなか、追っ手と逃亡者が同じ旅籠に泊まって、追っ手は本隊が到着するまで待たなきゃならない、逃亡者は国境を越える秘密の抜け道を探り出さなきゃならない、そんな互いの『時間つぶし』『ツバ競り合い』が旅籠屋を舞台にきわどく繰り広げられるだけ」
「僕、なんかこういう映画を前に見たことがあるんだよね。今の女史のまとめでなおさらハッキリしてきたんだけど、タイトルが思い出せない・・つまり敵味方が足止めくらって呉越同舟、そのバカし合い、っていう映画。もしかするとそういうシチュエーションの映画はゴマンとあるのかも知れないけれど」
「それだけ人間模様とかサスペンスとかが作り出しやすいシチュエーションなのかもね・・で、まあ後はワイヤーアクションがとにかく凄くて・・と、まあただそれだけね〜」
「もしもし?(笑)それだけでも十分、というわけでしょ」
「いえ、だからこそわたしは<楽園の瑕>の時に狩刈くんがのたまわった、東洋の無常観とかさ、神話的な世界観とか? そういうのが確かにあの作品にはあったなーって思ったというわけ」
「ま、この作品は娯楽の伝道師ツイ・ハーク製作だし、確かキンフー映画のリメイクでもあるから、かなりカチッと作られ過ぎていて消耗品になっちゃった、ってキライはあるな・・で、それに比べると<東邪西毒>はまあ芸術品なんだね。あれは良く分からない・・分からないから消耗されない」
こっちが消耗したよ(笑)
「あはは、そうだね。ところでこの映画に限らず、まあ香港時代物活劇を見て思うことは・・・」
「??なになに?」
日本映画ももっと時代劇を作るべきだ、ということだね」
「だね・・と急に、そんな大きな字で言われても(笑)」
「いやつまりさ・・日本映画の衰退とかを嘆くわけじゃないけれど、題材として日本にもやはり古典的に立派な時代劇があるのであって、そこに人間模様とかエモーションの高まり、娯楽の要素とかコメディとかいったセンスをどんどんブチ込んでいけば、これは実に面白いものがいくらでも出来るんじゃないかと思うわけ。とにかく最近の日本映画って、なんかクソ面白くない。それはアメリカ映画のせいなんだけど」
「はいはい。最近の狩刈くんは反米主義者だからね(笑)。まあ確かに、日本映画に固有のジャンルとして、もう一度、甦った時代劇、っていうのは見てみたい気もするけれど」
「日本映画には作家がいないからねぇ〜〜衰退しきった日本人魂の再創造とかを目指すべきなんだよ。もののあはれ、とかさ、ますらお、たおやめ・・そういう大和魂の、気概の真骨頂を僕らに突きつけてくるような再創造だよ。それには当然、時代劇じゃなきゃ。もちろんチャンバラ・アクションも必要だけどね。白土三平の『忍者武芸帳』みたいな世界観時代劇。そういうものをどうして日本人は作ろうとしないのかな・・絶対に、世界にウケるよ。僕が保証する。まあかつてはそういうジャパネスク・オリエンタリズムのエキゾチズムで日本が欧米にウケていたわけで、そこから脱却しようとしたところに日本映画の衰退の功罪があるんだけど、はやりの北野武映画みたいな無国籍路線の極北として、あらためて日本人であることの誇りを持ちつつバアァァァンと民衆的時代劇を打ち出していくのは面白いと思うな。黒澤監督の一連の三船作品に、更に神秘的とも言うべき世界観を打ち出す・・そういう作品が改めて21世紀の日本人の姿とどのようにダブっていくか、それはつまり・・」(2001.6.29)

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