「コレクター」1965年イギリス・アメリカ

ウィリアム・ワイラー監督 テレンス・スタンプ サマンサ・エッガー

「今や時代はストーカーだのサイコパスだのが跋扈する世の中で、そういうなかでこの映画を見ると、なんというか、ほとんどコメディなんじゃないかっていうくらいにTスタンプがオカシイ(笑)」
「でも、やっぱりちょっとゾッとする・・あの爬虫類的な目つきね、ああいうのはホント、女は好きになれないもの」
「彼の描き方に不満があるんだけどね、僕は。Tスタンプがね、あまりにもコンプレックスの固まりで、なんか、ものすごく単純化されすぎてるきらいはしない?」
「うーん。でも事件自体が単純なのね。うっかりクジに当たって大金持ちになっちゃった銀行員の陰気な青年が、田舎の一軒家を買って、以前からストーキングしていた美術学生の女の子を誘拐して監禁して、一緒に暮らそうと迫って、それで・・」
「二人の間の心理的な葛藤、というのが見せ場のはずなんだけれど、それが今となってはものすごく奥ゆかしくて、なんかイングランドのジェントルマンだなあ(笑)と」
「確かに派手さはないし、最近のもっとえげつない映画とかを引き合いに出したら、サスペンスだって全然それほどじゃないよね・・でもねぇ」
「でもねぇ?あれれ。今日の女史は、なんかノらないみたいだね」
「はあ(笑)。生理的に好きになれない映画って感じ、これ。わたし閉所恐怖症だし」
「変な呼び方だけど一種の監禁愛っていうかな、ストックホルム症候群とかさ、誘拐した方とされた方が奇妙に親密になっちゃっうことがある、ということが言われてるよね。でもこの映画は最後まで、そういうダイナミックな変化がなくて、最後まで、女の子は逃げようとするし、Tスタンプは逃がすまいとする。この映画は見終わって、だからなんなの?って感じもする」
「公開された当時は結構ショッキングだったらしいのね。なんか秘められた欲望を暴き出した傑作、みたいに言われてるし。サスペンスとしても、結構刺激が強い方だったのかも・・心理劇っていう感じかしら」
「僕はね、実を言うと、次の獲物・・つまり看護婦さんね、彼女のケースの方を映画にしてもらいたかった(笑)白衣フェチだから。ま、冗談はともかく、この映画の不満は、いろいろあるけれど、さっきも言ったようにTスタンプのキャラクターが平板っていうかな。ギロさんは『単なる猟奇変態世界でない、青年期には誰もが苦悩する孤独で鬱屈萎縮した自意識の固まり、行き場の無さを表現していました』なんてマコトしやかに書くけど、ちょっとタネあかししすぎの演出だったように思うな」
「タネあかしっていうと?ウダツのあがらない銀行員の生態(笑)っていうこと?」
「そうだね。要するにすべてが彼の劣等感に原因していて、これじゃマトモな社会生活は送れやしないよっていうところまでTスタンプを類型的にキメつけすぎちゃったところが、情緒的に、あまり共感を呼ばない理由じゃないかなあ」
「もっと人間的な、っていうか、常識的なところが欲しかったとは思うのね。憎めない感じが。でも映画のTスタンプは、そりゃすごい演技だったけど、あまりにも、とりつくシマがなくて近寄りたくない(笑)」
「クルマと麻酔薬ねぇ・・実際、あとは一軒家と地下室があれば、誘拐事件のお膳立ては完璧で、そこにはナンの工夫もないわけ。とすれば人物造形に工夫があるべきで、女の子にしてもちょっと、ね。色仕掛けで迫ったり逃げようとしたり、スコップ振り回したり、一通りはヤって見せてくれるけど、決定的なことに、彼女はカタ通りの美人すぎて表情に余裕がありすぎた(笑)」
「ところでテレンス・スタンプが彼女を誘拐しようとして、鳥打ち帽子にコートを着て現れるじゃない?」
「うんうん、最初の方だね」
「あの格好はグレン・グールドそっくりね」
「あっなんていうことを!(笑)」(1999.12.21)

シネマ・ギロテスクに戻る