「小さな唇」1974年イタリア・スペイン


ミンモ・カッタリニッチ監督 ピエール・クレマンティ カティア・バーガー

「いやー、今じゃご法度のチャイポルものってか。かっかっか!」
「とまあ狩刈くんがヨダレ垂らすのも分かるけど(笑)基本はこれ、文芸映画的なのね。第一次大戦で負傷した帰還兵クレマンティが、使用人の姪エヴァと知り合い、生きる力を取り戻そうとする・・にしてはところどころの濡れ場が邪魔。結局はポルノっぽいのが残念」
「まあね。少女は癒しになるか? という、これはまた永遠のテーマなわけだけれど、作りは残念ながら多少なりとも70年代ポルノ風洋画、って感じは否めない。僕が感心したのはさすがのクレマンティ!この映画は彼でなけりゃ大変なキワモノになりかねなかった」
「彼、いいよねぇ。口ひげで、短い髪。負傷して杖突いて歩く。たとえば、わたしは<ベニスに死す>のダーク・ボガードみたいな雰囲気も漂わせてたなって思う。一種の、悟ってしまったような老境の諦観って感じかな」
「でもまだ彼は若い。青年なんだよ。そこで時々、過去に関係をもった女たちのこと思い出したり、またそれで深く絶望したりと、その心理の陰影は色濃くまた深い・・後になって僕らは知るんだけど、彼は戦場で負傷して性的不能になっちゃってたんだね。でも、それを最初からバーンとは描かないでいたのは、真摯な映画作りだったと思うよ」
「最初のうちは、若き帰還兵が戦場で体験したトラウマをどう克服してくか? 死と直面して、もう人生すべてが不確かなものになってしまった、っていう感じがストレートに伝わってきて、ああ悲しいなあ、と(笑)。だから少女との出会いによって少しずつ彼が癒されていく、っていう場面が素直に思われてくる」
「なんとなく、命あってのモノだねぇ、っていう感じで、そこはクレマンティ独特の悲しい存在感が抜群にいかされていた・・自殺しようとまで、彼の脳裏によぎる。それを止めたのが少女エヴァで、急速にふたりは、惹かれあっていく」
「まあ、わたしなんか、そのへんはちょっとご都合主義かなって思った。それとクレマンティの妄想のなかでチャイルドポルノめいたイメージを頻繁に入れられるのも、なんだか物見高いって感じはしたの。でもまあ、エヴァの方もエヴァなりに、少女の自意識が出ていて、それがちゃんと描かれていたのには感心したかなあ。機械的に扱われてなかっただけでも良かった」
「なんだか曖昧な言い方だね(笑)。確かにね。クレマンティがエヴァに寄せる想いと、エヴァがクレマンティに寄せる想いは、全然、違うんだよ。エヴァは性に目覚めオンナに目覚め、クレマンティとはまあ好奇心が先に立つ火遊びの関係だった」
「えー!それだけじゃなかったところがわたしは良かったんだけど。ただの火遊びというにしては、かなりクレマンティの深いところにエヴァは届いていたって感じ」
「それはそうなんだよ。でもそいつはクレマンティの思い入れの強さに比例してた。だから途中でジプシー少年に『好奇心で』惹かれるエヴァに対して、クレマンティは思い切った独占欲を行使できない。彼は立ち去る。そこがこの映画の奥ゆかしさでもあり、クレマンティ独壇場だったって感じ」
「まあね。クレマンティは、妄想のなかではポルノ顔負けのことを想像するのだけれど、実は手を出せない・・そのへんが、性的に不能だから、というよりも・・なんでしょ、人生の宝ものに手を出せない、壊したくない、みたいな哀切でヒューマンなエモーションが伝わってきたって感じ」
「実際のところ、映画はクレマンティだけでなく観客とかセールスとかも意識せざるをえないから、その意味ではこの映画はキワモノだよね。ただ、それだけでないところに目を向けると、これまで話したような良さが哀切に伝わってくる。時代背景もベルエポックでいい。デビッド・ハミルトンの世界(笑)。ただ僕の趣味では、もうちょっと育っていたくれた方が良かった(爆)のは別としても、エヴァを演じたカティア・バーガーは、あんまりコケットリーな感じはしなかった。にもかかわらずクレマンティがあそこまで惚れ込んじゃうのにも共感できて、それはすべて、驚嘆すべきクレマンティの演技おかげだと思う。僕はカティア・バーガーには惚れない(笑)」
「まあ、それはシュミの問題かも(笑)。わたしにしても、ちょっとあの女のコは、まあ、よく演じてくれてはいたけど、ちょっとウツロで、感心しなかった」
「(笑)女史らしい感想だ。細部なんかは常套的で、川原で足を洗ってるなんてのは、つげ義春の『紅い花』とかを彷彿とさせたのはともかく(笑)、雨宿りのために森の小屋に立ち寄るとか、風呂を使ってるところをこっそり覗き見するとか、すべてにわたって素材はありがち・・」
「そりゃ狩刈くんはこういう映画をよく見てるからねぇ。とにかくこの映画はクレマンティで出来てるから救われる。救われない最後にしても、ものすごく悲しいな、って感じで。でも直感的に言って、ああいう最後以外には、こういう世界は終わらないだろうなって気もしたし」
「僕としちゃ、クレマンティを性的不能にせずに、エヴァがもっと育って、後年二人は結婚する、なんておとぎ話でも良かったけれどね。けれどそれじゃ少女というテーマからは逸脱するか。てなわけで、少女は癒しになるのかなぁ? かえってムンムン来ちゃって、癒しどころか落ち着かないって感じかな(笑)」
「わたしは流行のように言われる『癒し』って言葉がキライだから、あんまり考えたくはないなあ」
「ま、大島弓子的な世界もまた信じられる限度があるしね・・ってことで、このテーマは引き続き<エキゾチカ>へと参りまする〜」
(2002.7.31)


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