「チャイナ・シンドローム」1979年アメリカ


ジェームス・ブリッジス監督 ジャック・レモン ジェーン・フォンダ マイケル・ダグラス

「東海村で臨界が止まらなかった夜、わたしはほんとに眠れなかったよ〜」
「だって女史のマンションは今をときめくシロガネーゼ!でしょ。ぜんぜんダイジョブじゃないの?って文系の僕にはよく分からんけど」
「まあ距離的にはね、それに規模的にも・・でも核分裂が止まらない、止めようがないって状況がどんなに恐ろしいことか、多分、一般の人はほとんど分からないと思う
「で、この映画はそういう事態に陥ったら原子炉の炉心が過熱して地面にもぐっちゃって地球の裏側の中国にまで突き抜けちゃうよ〜、ってところからタイトルがつけられた・・」
「それはね、ちょっとマンガちっくなの。臨界が止まらないと地球の向こうに炉が出っ張っちゃうなんていうのはマンガみたいな話で、だからかえって本当の恐ろしさの迫真性を欠いてるキライがあるのね」
「・・ということで映画の話だけれど、この映画は言わば好き勝手な原発パニック映画になりそうなところ、実際は特にナニも起こらずに原発の多重防護システムのおかげでコトなきを得ました、という良識的な作品。なのに、もの凄い社会的な反響を呼んだのは公開数日後にスリーマイルアイランドで現実に原発事故が起きたからだね」
「まあ確かにこの映画では本当にひどい事故は起きてないの・・でも、それにもかかわらず素晴らしくサスペンスフルになってるのはもともと原発ってものが無意識的にとても危険視されてるから。つまり観客の側にすでにコワイコワイ〜があるからなのね」
「そこにおもねているかというと、でも映画作りとしては、そうでもない・・これはむしろJレモン扮する原発運転技師とJフォンダ扮するテレビレポーターとの、個体の物語に収束していって実にうまい」
「ストーリーはというと、ニュース番組で『町の話題』みたいなコーナーを担当してるレポーターJフォンダが原発を取材中、偶然に事故らしい場面に遭遇する。で撮影禁止なのにその現場をカメラマンMダグラスがこっそり盗み撮りする・・」
「スクープみたいに思っていた二人なのにテレビ局はこれをお蔵入りにするんだね。でアタマに来たMダグラスはこれを反原発集会で映写しようとする・・その一方で、この事故のもみ消しについて疑問に思った原発運転責任者のJレモンが独自に調査をしてみたらなんと、原子炉の溶接検査が手抜きだらけで、運転を再開すればまた事故が起こるぞ! 冷や汗〜〜ってわけで彼はこれを告発しようと孤軍奮闘、そしてJフォンダたちもそれに力を貸そうとして・・と、いろいろドラマが深まっていく」
「それぞれの登場人物の個性がね、なかなか鮮やかなのね。Jレモンは勤続25年の実直な原発運転員で発電所を愛しているがゆえに、手抜き工事を許せない」
Jフォンダはそろそろ容色も衰えてきて(笑)いつまでもお天気お姉さんみたいなマネはやってられない、本格的な報道取材レポーターをやってみたいと息巻いてる」
「でMダグラス、彼はこの映画のプロデューサーでもあるんだけど、あのヒゲからしてあきらかに左翼ヒッピー崩れのフリーカメラマン」
「そして電力会社やゼネコン、テレビ局の内幕みたいなものへの視点もある・・まあもっともストーリーは、ウヤムヤのうちに運転再開された原発を止めようとしてJレモンが単身原発ジャックするという意外な展開になって、ちょっとそのあたりは個体の物語、ヒロイックなファンタジーになりかかっていくんだけれどね」
「人間味豊かな大人中のオトナJレモンだからこそ、いいのね。これが安っぽいアクションヒーロー俳優だったらここまで身に迫る切実さはなかったはず」
「まあそうだね。僕としちゃ例えばクリストファ・ウォーケンとかでもいいな(笑)イマドキならゲーリー・シニーズとかでも・・ちょっとアブナイか」
「まあ映画としちゃ見せ場が必要だから多少のバイオレンスは必要だったのかも知れないけど原発ジャックはちょっといただけないの・・原子炉自体の問題より、アタマのオカしな運転員が原発ジャックした場合の恐怖の方に比重がかかるもの」
「それをまたしてもうまく原子炉自体の問題、手抜き工事の問題などなどを、電力会社によって抹殺されたJレモンという個体の悲愴感あふれる死に向けて示唆的に収束させていくラストは本当に見事としか言いようがないね・・で、それはJフォンダの最後のレポートシーンの、圧倒的なド迫力に負っているんだけれども」
「とにかく二大俳優の存在感ならではの、軸がブレないストーリーテリングはほんと、素晴らしかった。二人だけで原発の運転室に立ちすくんで黙ったままのシーンなんか、ただそれだけなのにもの凄い緊張感があって見応え十分なの。これは見事な脚本のおかげでもあるでしょうね・・最初にJフォンダたちが原発に取材に行って原子炉はどうやって運転されてるか説明を受けるシーンも、あれは原発に馴染みのない一般の観客のために挿入した場面なんでしょうけど効果的だったし」
「最後の最後で、レポートを終えたJフォンダとテレビCMとが横並びで局のモニターに映し出されるんだけど、そのCMっていうのが電子レンジのCMでね(笑)そういう皮肉な細部もちゃんとやってくれてる」
「あとは生放送、実況中継という緊張感。原発の運転室という緊張感。<er>じゃないけど登場人物がいつもバタバタしていて慌ただしい、でもそれなりの緩急自在なテンポの取り方がうまくてサスペンスにどんどん引き込まれるよ」
「家族とか恋人とかいった、主人公たちを取り巻く人間模様を持ち込んでヘタに粉飾しなかったところもとてもいい。音楽が一切ないのも。とにかく傑作です」
(2001.11.1)


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