「カビリア」1914年イタリア



ジョヴァンニ・パストローネ監督 レティツィア・クァランタ バルトルメオ・パーガノ

「いんやーまったく感動した。映画に、その体験に、ここまで手放しで『よかった〜〜』と言えるなんてことは、まず我が人生で空前絶後だ。もういつ死んでもいい!」
「と、そこまで狩刈くんが言い切っても、よしなよ〜とは言えないくらい素敵だった!(笑)ふ〜〜!」
「なに、ふーふーしてんの?」
「とても余韻が冷めきれない(笑)」
「まあね。ま、特に生ピアノ演奏つきで2時間40分も映画を見る贅沢ってのは、比類なき体験、と言っても過言じゃないよね。まず第一に、そういう映画作品自体、希少価値なんだし・・」
「知り合いに言わせると、あのおおっきなピアニスト氏は<カビリア>専属の演奏家ということで、イタリア本国でも、<カビリア>がかかるたびに彼が音楽を付けるっていうけれど」
「へえ、そうなんだ・・耳にこびりついて離れないフレーズは部屋で早速コピーした(笑)」
「炎のシンフォニー、っていうのはオリジナルみたいね・・初公開の時にはオケがついたっていうから、もう、ただの映画っていうジャンルじゃなかったのね、当時は」
「実は僕はずっーとずっと以前から、この作品が観たくてたまらなくてね。タビアーニ兄弟の<グッドモーニング!バビロン>でこの映画を見たDWグリフィスが感動とヤッカミのあまり、思わずパストローネ監督に電報を打とうとする場面があるよね・・そこにチラリと見える。ずっと、チクショーてな感じだった。で、その後、文化会館でやったのを見に行けなかった悔しさのあまり、我と我が身を呪い続けた・・」
「(笑)と、いうような、なんていうの、そんな人間のエモーションが深く深く、時に激しく、時にしみじみと胸に響いてくるのを思うと、無声映画って素晴らしい! なんか早々と、言葉ってものの空しさ、なんてことすら考えちゃう。ちょっと短絡的だけれど・・」
「そうだねぇ。無声映画ならではの表現の深さ、ってものは確実にあってね。トーキーになって映画が失ったもの、というべきなのかな・・つまり俳優たちのパントマイムな大仰な演技、という点だけじゃなくて、明暗のコントラストとか一定限度のシークエンスのなかで感情値を高めていくような演出とか・・いかに言葉に従属しないで伝えられるものが多いか、ってことは、考えざるを得ない」
「それに画面の設計の仕方・・とにかくどのカットを取り上げても、いつもマニエリスム絵画的っていうか、例えばティントレットの構図とかになってるの。あれには驚いたなあ」
「意外とクローズアップは少なくてね。背景と人物像がカチッとはまっていて、もう動く美術品、って感じ・・すーーっと気が遠くなるような瞬間があった」
「90年前の人々が、2000年前の出来事を演じてる・・その時間の隔たりのなかで、ある瞬間には本当に2000年前と立ち合っているような錯覚もあって、映画を見ているうちに自分の今、ここ、を忘れさせてくれる。そんな不思議な遊離感はわたしにもあったなあ・・」
「それに物語がね、また何度も泣かせてくれる(笑)。シンプルな冒険活劇のうちに、いろんな人々のエモーションを描いていて、まあある意味ではマンガ的なんだけれど、それでもキチンと描かれていて、適度なユーモアもあって、とね・・特に主人公と従者の関係なんか、漫才コンビのようでいながら友情の絆も篤くて、とてもいい
「全体に、子を思う親の気持ち、従者を思う主人の気持ち、そんな『優しい感情』がベースになっていて胸を打つの・・これはとてもヒューマンな映画ね」
「その一方で、作品創作の神髄はロマン主義でね・・ひょんなことからカルタゴに流れ着いた小さな女の子の運命と、歴史上のポエニ戦争とを重ねる、なんていうのは、まったく大河ドラマかくあるべし!ってなスリリングな発想と『個体と歴史』組み立て方になっていて、そこはデュマとかユーゴーとか、ロマン・ロランとかさ、そうしたヨーロッパ伝統のロマン主義的お家芸を堪能させてくれる」
「本物の象が出てきて、アルプス越えをしたり(笑)」
「スケールがね、ドドーンと違うんだね。当時としちゃ、映画ってのはこんなことも出来るんだ、っていうような驚きの時代だったんだろうねぇ・・それで城壁から墜落して、またハシゴを這い上がってくるとかね。これが映画ってもんなんだなぁ〜とか、ボヤきながら頑張るエキストラたちにさえ感動を覚える(笑)」
「とにかく次から次へとスペクタクルの連続で飽きないし、飽きないっていうより単純に、90年前にしてはすっごいじゃない!っていう驚きの連続。ちょっと、天井が崩れてきたけどまだ下に俳優がいるよ!ねぇね大丈夫?みたいなことを心配しちゃう、そんなヘンなハラハラドキドキがあった(笑)」
「考えてみれば破壊の芸術でもあるんだね、映画って。これがもしオペラだったら、翌日の上演のことを考えるとそうそうブッ壊してはいられない・・でも映画は思いっきりブッ壊しても大丈夫。人間にとって、創造的破壊衝動は映画というジャンルでやっと自由を得たんだな・・」
「つまるところ動く世界をとどめることが出来るようになった、ってことは、ほんと、驚くべきことだったのかもしれないし、そういう映画の揺籃期だからこそ、こういう素晴らしい映画が出来たのね」
「とにかく、ひとつの確固とした体験をさせていただきた、そんな作品でした!」
(2002.1.10)


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