「ブレードランナー」1982年アメリカ

リドリー・スコット監督 ハリソン・フォード ショーン・ヤング

「今頃言うのもなんだけど、僕は初めてこの映画を見た時は、なにがおもしろいのかサッパリわからなかったんだよね」
「そう?わたしはもうグサッと来ちゃって・・それに今頃言うのもなんだけど(笑)初公開の時にすでにわたしは、デッカードはもしかしたらレプリカントなんじゃないかなって、はっきり思ったの」
「それはすごい直感だねぇ!監督本人だってそうは思ってなかったかもよ(笑)」
「数多い名シーンのなかでも一番胸を打つのは、あの写真の場面・・デッカードが、レプリは他人によって作られた記憶を埋め込まれているから、よく古い写真で過去を懐かしむって呟くところ。で、実に彼の部屋はそんな古い古い写真でいっぱいなのね」
「僕もね、女史の仰るとおりあの場面はなんていうか、もの凄い哀しみに満たされてると思ったなあ。もともとこの映画は、未来は決して輝かしいものじゃなくてもっと住みにくくて悲惨なものになってる、っていうフィリップ・K・ディックの暗い世界観がとても説得力をもって訴えかけてくる」
「そうした、わたしたちにとっての未来と、映画に出てくる連中の過去、っていうものが、内面的なところで一致して響き合っている感じなの」
「うまく言えないけど、もう二十年ちかくも前の衝撃ってもんがまだ、僕らの『記憶』のなかで生き続けていて、だから未来と過去が溶け合っちゃったような不思議な感動に誘うのかも・・」
「狩刈くんが、面白いって思うようになったのはどうしてなの?」
「それはねぇ、実はリンチの<砂の惑星>を見てショーン・ヤングのファンになったからで(笑)。は、冗談としても、僕はこの作品がその後『完全版』とか『最終版』とか言ってファンの間で騒がれていても、ちょっと距離を置いていたんだ。そりゃ素晴らしい場面は本当に素晴らしくて、もう涙が出る。でも、そうでない部分、ていうか全体として考えると、全てに渡って完成度が高いとは思えないんだよね」
「細部の造形は素晴らしいと思うよ、あの酸性雨とかレイチェルのデコラティヴな衣装とか・・その後観光スポットにすらなっちゃったような例の迷路みたいなアパートとか、すごいよね」
「そういう一級建築士的な見方とは別に(笑)、僕は、だからナニ?って思うことが多い、特に最後のルトガー・ハウアーとハトとかね。映画の前半はとにかく面白いし、哀しいし、ヘビ女レプリを背中から撃つシーンなんて、ハリソン・フォードはもう泣きベソでやってるんだよね。でも最後までそういう存在論的な哀しみが持続しないで、奇妙にヒューマンなお説教になっちゃう。コトバが多くを語り始めちゃう・・」
「それは狩刈くんがいつも、ちょっと屈折してるからだわー(笑)例によって独特の屈折の仕方なのは認めるけどね」
「特に最初の映画版はデッカードとレイチェルが空の旅に出ちゃったってこともあって、僕の屈折とは全く正反対の方に映画も屈折しちゃったって恨みもあるしね」
「とにかく、わたしにはこの映画はトラウマ的な感動があって、例えば相前後して発表されたポリスの『ゴースト・イン・ザ・マシーン』なんてレコード(笑)を聞いても、なんか頭のなかじゃ酸性雨が降ってるって感じで」
「女史が言う、そうしたトラウマ的な衝撃は、僕にも分かる。でも、僕には、映画はまさにこれからって言う時に終わっちゃって、なんていうか、長い予告編を見せられただけ、しかも実に素晴らしい予告編を、って感じなんだなあ・・これはナイものねだりなのかなあ」
「それはすでにファンの間で神話化されてるブレラン2で、どうかっていう話ね、わたし、本は読んでないけど」
「あー見たくないよブレラン2(笑)。思えば僕は、あの電飾広告が空を飛び回ったり、公害規制を無視して排気ガスをもうもうと吐き出しながら垂直離陸するパトカーとかに驚いちゃっただけだったのかも知れないし・・もしかしたら、うどん屋のオヤジに驚いただけだったかも知れないし(笑)」
「そうやって茶化してるところを見ると、実は、根の深い、言うに言えない感動が狩刈くんのなかにもあって、居心地わるい思いをしてるみたいね」
「あっあ・・それ図星ですな」
「わたしはとにかくこの映画で、最初に、その存在論的?な哀しみを強烈に浴びたから、もうそれだけで人生に残り続ける一作って感じがするし、空の旅にしてもとってつけたハッピーエンディングというよりは刹那的な、束の間の逃避行として、ただ悲しさを増すだけだったのね。で、そういう感情を植え付けてくれた映画って他に類を見ないって意味で、もう十分なの」
「ファンの間では、その存在論の部分、つまり自分とは何か?について省察を迫る作品だ、なんて解釈もあって、まあそれはそうだろうと思う。でも、それにしては全体に大仰で、スターログのファンに迎合した雰囲気づくりで(笑)ゴテゴテし過ぎな感じもする」
「大仰・・ね。少なくともこの映画に描かれた世界で目立つのは、ものすごく『人工的』って感じね。ありとあらゆる細部が、とにかく人工的。自然なもの、天然のものっていうのが全くと言っていいくらいに、ないのね」
「自然vs人間て構図での存在論なら、僕、分かりやすいんだけれどね、荒々しい風土とチッポケな人間世界との対峙、みたいな」
「それに対してこの映画は、すべてメカニックで人工的な世界。そこに残されている自然・天然といったらもう、うどんを食べてる人間の肉体だけみたい。それなのに、そうした肉体すら実は人工物で・・というところに、わたしのショックはあったの」
「うーん・・分かる。分かります。でも・・」
「でも?」
「僕は、うどんは一杯で十分だな」
「また茶化して(笑)」
「いやいやブレラン2のことですよ(笑)」(2000.9.4)


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