「バートン・フィンク」1991年アメリカ



ジョエル・コーエン監督 ジョン・タトゥーロ ジョン・グッドマン

「昔、ライターの友達がいたの。で彼に言わせると、この映画は物書きが切羽詰まった時に夢想する悪夢そのものだってゆうことよ」
「ははあ・・僕は物書きでもないし、切羽詰まる性格でもないから(笑)厳密にはよく分からないけど、なんかそんな感じはするよね」
「締め切りに追い込まれて、それでもアイディアが出ないっていう産みの苦しみ? そんな時には、ええい、このまま死んじゃおうか、それとも通りすがりに人でも刺して逮捕されちゃおうか?なあんて考えが頭に浮かぶこともあるそうよ」
「(笑)そりゃあ物騒だね。ま、この映画は実に全く悪夢そのものだなっていう感じは僕も理解できる。カフカ的といったら大袈裟だけど、例えば、善人で頼りになりそうだと思っていた人物が実は一番凶暴だったり、こりゃ絶対にブン殴られるゾ、と思っていたら逆にチヤホヤされたり、これこそ最高の出来だと信じて疑わないでいたらコキ下ろされたり・・という、意外な展開の連続。特に因果関係がなく、前後関係しかない
「それが見てるうちに、なんかヘンに快感になってくるっていうか、ちょっとしたトリップ感覚になって来るのね。切羽詰まって脂汗が出てくるのに酔ってくる、っていうか(笑)」
「それじゃ悪酔いだよー。コーエン兄弟のそれまでの作品は<ブラッド・シンプル>にせよ<ミラーズ・クロッシング>にせよ、適度なユーモアもありながら基本は緊迫した、張りつめた緊張感が特長で、波長が合うとすごく乗れた。この<バートン・フィンク>も、封切りの時にはもう熱狂して何度も何度も見に行ったよ」
「ニューヨークで成長株の若手劇作家バートンがハリウッドに呼ばれてB級映画会社に雇われてレスリングもののB級映画のシナリオを書かされる、という物語全体からして悪夢的ね」
「それで彼はハリウッドに誰も知り合いがいないもんだから孤独に陥る・・思わず、ホテルの隣部屋の保険セールスマン相手に芸術論をブチそうになる、っていうあたりは実によく出来てたと思う。でも僕は、WPメイヒューという作家の扱い方がね、ちょっと弱いような気がしてるんだ。彼が書けずに酒に溺れてる、っていうあたりとバートン自身の書けない悩みみたいなものの絡み方には、もうちょっとなんとか出来たんじゃないかなあってね」
「多分、バートンにしてみれば彼は、『オレはメイヒューみたいにはならないぞ』っていうような反面教師みたいな感じで受け止めてるだけなんでしょうけれどね・・メイヒューはそれ以上の存在ではなかったよね」
「そうなんだ。だけどメイヒューはこう言っているんだね、『書いている間だけ逃避できる』と。で、それは、一連の驚くべき悪夢に陥ってからやっとバートンがシナリオを書き出す、その一心不乱な姿とオーバーラップしてるんだ。バートンにしても、書いている間だけは例の死体とか事件とかのことを忘れてる・・そういうラップの仕方が二人にはあった」
「メイヒューの秘書というのも、ちょっとその役回りが小さくて・・まああの二人は悪夢を彩る端役にすぎなかったのかもね。チャーリーの圧倒的な存在感は、もうさすがのジョン・グッドマン(笑)。ただ彼がふともらすハイル・ヒトラーっていうセリフだけはよく意味が分からなかったけど、あの叫びはド迫力で耳に残るの」
Look upon me! I'll show you the life of the mind! ムントという名前からして彼はドイツ人なのかなあ・・僕もなぜヒトラーが出てくるのかは分からないな。戦争中の出来事とはいうけれどもね。ただこの『精神の生命』というのはドイツ・オカルト的で実にいい(笑)」
「映画の仕掛けは実に凝っていて、壁紙がはがれるあのマガマガしい感覚とか、箱の扱い方(笑)とかももう見事。長い人生のなかで大事なモノがこんなちっぽけな箱ひとつに入っちゃう・・そう言うチャーリーってほんと憎めないよね」
「で、あの箱は<セヴン>に引き継がれていく(笑)、のは冗談としても、そんな箱を持ってバートン・フィンクは砂浜に行き場を失う・・結局、彼は実に自己中心的なうぬぼれ屋で、まあインテリ作家ってそういうモンなのかもしれないけど、そんなヤカラには生首でも持たせてやれっていうようなシニカルなラストは一種の爽快感すら漂うな(笑)」
「もう彼は、なんていうか精神的にズタズタにされちゃって、現実感覚が上滑りを起こしていく感じね。徹底的に彼を描いているから、わたしたち観客としては、まあ、客観的に、娯楽として見ていられるし、他人の夢を覗き見してるみたいな感じかしらね」
「最後の砂浜で水着美女に、あんた女優かい?って聞く。セリフはAre you in pictures? この映画は、ピクチャーというものを巡る若手作家の悪夢だったと締めくくられて、観客は安心して拍手が出来るわけだね。もしもこうした作風で僕らの日常生活に突き刺さってくるようなテーマだったら、ゾッとしちゃうよね」(2000.10.20)


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