「ブラジルから来た少年」1978年 アメリカ・イギリス



フランクリン・J・シャフナー監督 ローレンス・オリヴィエ グレゴリー・ペック

「ま、これは原作が面白くてね。本に恵まれさえすれば、これを映画化したら絶対に面白くなるはず、ってのはあるんだよね」
「原作はアイラ・レヴィンね・・<死の接吻>に<ローズマリーの赤ちゃん>。読み出したら止まらないよね」
「実を言うと僕、原作の方を語りたいって思いもあるんだけど・・その着想たるや毎回、実に素晴らしい。この原作も実にワクワクした。読み止まらなくて仮病を使って勤めを休んだのは、この本と中井英夫の『虚無への供物』のふたつだけだ(笑)」
「今回はというと、ナチスの残党が南米でヒットラーのクローン人間を作っていて、産まれた子供を世界中に養子に出す、っていうのがその奇抜な着想」
「で、DNAだけでなく生育環境も大事だから、と、子供が14歳になった時に養父には死んでもらう。ヒトラーもそうだったからね。そこでナチス残党は次々と、世界中で殺人を始める。つまり94人のクローンを作り94人の父親を計画的に殺す・・これがすべて総統再生計画のプログラムになってる、という、この行き届いた第三帝国的合理主義がね、なんていうか、とってもワクワクするんだな(笑)」
「映画に話を移すけど、オープニングなんか、しばらくセリフが無くて、しかも気を持たせて、ああーいかにも骨太のドラマの始まり方だなぁって感心したの。シャフナー監督は<パピヨン>とか<猿の惑星>の監督ね。奇抜で普通じゃないストーリーをよくじっくり見せてくれたと思う」
「そうだねぇ・・これ、色んな事件が次々に起こるから、ヘタすると目まぐるしくなっちゃうんだろうけれど」
「あとは名優陣をズラズラと揃えて、あの重厚な感じったらたまらない・・」
「ははあ、オジさま好みの女史ならではですなあ(笑)」
「ていうか(笑)一昔前の映画だなあ、っていう分厚さがなんか、懐かしいのね・・最近の映画って、俳優が薄っぺら。ホンモノの大物の風格を漂わせる俳優なんか、全然いないじゃない」
「はあ・・ま、確かに、ホンモノの大物が登場する映画が少ないのかな。とはいえ実はヨーゼフ・メンゲレってのは小物だったんだけども」
「まあまあ(笑)。で、そのメンゲレにGペック。ちょっとヨタヨタしてるところが面白かったよね。あんまりドイツ人らしくなかったけれど、あれは南米生活に染まっていたのかも」
「一方、ナチスの残党を追いつめて孤軍奮闘してるユダヤ人の老人リーバーマン役がサー・ローレンス・オリヴィエ。枯れた味わいで、頑固一徹でいながら英国人的な冷めたユーモアもあって、実はあんまりユダヤ人らしくない(笑)」
「ハマってたのはナチスの保安部長ジェイムス・メイスン・・でも赤ら顔で元親衛隊幹部には見えない(笑)」
「(笑)なんだ、みんなミスキャストじゃないか!って感じなんだけれど、それぞれに貫禄十分でまあ、ああいうオジさんたちがバンバン登場してくれるとそれだけで見応えはある。とはいえ、女史がさっき言ってたように名匠シャフナー監督はとにかく丁寧に、じっくりと見せてくれてね。グイグイとサスペンスを盛り上げるというよりは、細部を丁寧に描きながら巧みに映画の面白さを引き立てていく
「例えば雪山のダムの撮り方なんか、もう馴れてるとしか言いようがないくらいの構図だし・・あとはクローンっていうものをブルーノ・ガンツ博士がとても丁寧に説明してくれてね。この映画で作られた頃はまだクローンなんてあまり知られていなかったのね」
「そうだねぇ、そういう意味でもとても丁寧・・ただ、映像の面で贅沢言わせて貰えば、パラグアイとか南米のシーンはもっと極彩色のジャングルみたいな感じが良かったんじゃないかな、とは思う。ドイツや北欧のシーンと、もっと風土的にコントラストがあったら、もっと『世界をマタにかけた』って感じが出たんじゃないかなって思う」
「ちょっと白々してたよね、あのメンゲレの隠れ家は。でもワーグナーなんかが鳴ってGペックとJメイスンが聞き惚れてるなんていうのは、なんか笑っちゃう」
「ま、見応えはある・・最後にGペックとLオリヴィエが死闘を繰り広げるなんて、見ていて痛々しい(笑)・・と冗談はともかく、あのヒトラーのクローンとして登場する少年は、実にまったくイヤなヤツでね、なんか、子供のくせにゾ〜〜っとさせる」
「ヒトラーがああいう男の子だったのかどうかはまた別でしょうけれど、まあ、黒髪に青い眼っていうのがブキミだったのかも」
「ネタバレになっちゃうけど、最後にLオリヴィエは『子供に罪はない』と言って、メンゲレから奪ったヒトラー・クローンの子供たちのリストをライターで燃やしちゃう。ところが、実は・・というのが、ほんとはあるんだろうな(笑)」
「どこに!(笑)」
「ま、それはこの映画の話じゃないけどね・・って反則かな」
(2002.2.4)

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