「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」1957年アメリカ



ドン・シーゲル監督 ケヴィン・マーカシー ダナ・ウィンター

「最高だよ〜〜。これは誰にもお勧めしたい古典的傑作SFホラー
「こないだは<遊星よりの物体X>をとりあげたんだっけ。引き続き、宇宙から不条理なお客さんがやって来る話ね。何度もリメイクされてる、これはその原典版」
「警察署だかに、ヘンなキ○ガイが連れ込まれていて、刑事たちが尋問にあたる。そして彼が語り始める身の毛もよだつ物語・・という導入は、凄く旨いよね。で、そのキチ○イは実は医者で、彼によれば、ヨソで開かれた学会から家に帰ってみると、自分の街の様子がヘンだと気がついた、というんだね・・」
「一時的に殺到してきた患者がみんな次の診察をキャンセルしたり・・母親が他人みたいだと泣いて怯える子供とか、伯父が他人みたいにヨソヨソしく感じるとこぼす幼なじみの従姉妹とかが現れて」
「一時は友人の精神科医が、ただの集団ヒステリーだと片づけようとする」
「もちろんそうじゃなくて、却って事態は益々アヤシクなっていって・・」
「そして決定的なことに、ある晩友人が、自分そっくりの死体らしき物体を発見して・・と一気に畳みかけてくるんだよね」
「ヘンなサナギだか豆のサヤだかから作りかけの人体が出てくるあたりになると、わたし、完全にこの映画の異常な世界にはまり込んじゃっていたから、あれがどんなにウソ臭いチャチなサナギでも(笑)、違和感なかったの」
「街の人々はどうやら眠っているうちに、宇宙から飛んできたこのサヤエンドウのお化けと入れ替わってしまう、と医者は知るんだね。そして覚醒剤を飲んで恋人のダナ・ウィンターと街から逃走を企てる。周りはみんな入れ替わり済みのエイリアン。主人公がドンドンと周囲から孤立していく、そのサスペンスフルな展開が見事で、これはまったく戦慄的だよ」
「もっと疑心暗鬼になっていっても良かったかも・・こいつはもう入れ替わったんだろうか?まだ人間のままだろうか?なんていうふうな葛藤があって精神的にズタズタにされていく、とかね」
「そうだね。この傑作は僅かに80分。もっと粘っこく作れた気もするけれど、でも僕には不満はないな」
「サヤエンドウと入れ替わると、人間的な感情がすっかりなくなってしまってただの生ける屍みたいに無感動、没個性になってしまうのね。そして主人公の医者は、なんていうか、ヒューマニティのために闘おうとするんだわ、そこは声高に語られていた」
「よく言われるけれど、この映画は、世の中が愛とか優しさ、人間性とか寛容な感情とかをどんどんと失っていくことに対する警世的なメタファだよね。そのメッセージははっきりと読みとれる・・まさに社会批評も含んだSF作品の面目躍如だ。今となってはもっと悪辣に、世の中がどんどんと悪意に満ちていく、そんな風に『変身』してくような展開であっても不思議はないよね」
「しかも一見すると、街自体にはナンの変化も見えないっていうのかしら・・この映画は相当安く出来てるよね(笑)だって登場する人々は一般市民のまんまなんだもの、ただちょっと目をウツロにすればいいわけで(笑)」
「夏の初め頃かな、日差しが強くなりはじめてあたりが白茶けて見えるような季節。そんな季節にふと人間的な感情をどこかに置き忘れる。でも、犯罪が勃発して街中が全くの無法地帯と化しちゃうというわけじゃなくて、ただヒューマニティだけが喪失される・・例えば<ロゴパグ>の中のゴダールの駄作<新世界>のように。それってすごく現代的で、しかも映画的な題材だよね」
最後がね、悲しくて怖いのね、一緒に必死に逃げていた恋人が、やっぱり眠ってしまうのね・・あそこは悲しかった」
「けれど本当のラストシーンでまあ、語り手の医者は救われたっていうかな、僕はああいうラストも素晴らしいと思う。観客は一応、ホッとするよね、医者の告発は本当に理解されたわけだし。クローネンバーク監督の<シーバース>みたいに敵に逆襲されて一巻の終わり、とか、トビー・フーパー監督の<スペース・インベーダー>みたいにすんごくイヤ〜な後味を残して終わり、というのもエゲツナクていいけどね(笑)」
「この作品は奥ゆかしい警世的な終わり方だったというワケね」
「全編、ちょっと露出オーバー気味の、黒が本当に黒い映像。緊密で集中的な構築力。K・マーカシーの色気ある好演。ヒューマンなテーマ。どれをとっても・・ああ素晴らしい・・」
「なんか目がウツロよ、狩刈くん」(2000.2.26)


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