「狼 男たちの挽歌 最終章」1989年香港 


ジョン・ウー監督 チョウ・ユンファ ダニー・リー

「こここれはー・・血中ユンファ度が急上昇しちゃって、なんか息苦しくなっちゃったよ・・あくびあくび」
「あらら。ということは女史には楽しめなかったのかな・・まあ、この映画は人呼んでチョウ・ユンファのプロモ・ビデオ。でもそれなりにまあよく出来てる、と思わない?」
「そうお? なんか長くてダラダラしてる感じじゃなかった? いつかの<友は風の彼方に>とかの方がドラマが濃くって良かったと思うけど」
「今回はユンファだけが濃かったってわけだね(笑)確かにそうだ、このたびのユンファ様にはちと葛藤が足りないよね。全体に人間関係が単純だから、徹頭徹尾、エモーションが同じ。だいたい心優しき殺し屋という設定は、あまりにも当たり前すぎてクサイ」
「殺しの現場で巻き添え喰って失明しちゃったバーの歌手にホレちゃって、彼女に角膜移植の手術を受けさせるために最後の仕事を引き受けようとする心優しき殺し屋・・なんて、あーくさいくさい!」
「すでにシンラツ・モードに入ってるねぇ・・でもそういうクササが香港ノワールの持ち味だし、まあこれってストイックな高倉健とかだったらそうかなー?くらいには思うけれど、今回ばかりはユンファはちょっと甘すぎて、確かにタルイ(笑)」
「<男たちの挽歌>の最初のやつ、あれはまあレスリーが可愛いって感じで、少しは面白いかなあって思った。殺し屋の兄と刑事の弟とかの設定はあまりにも非現実的だけど、なんかスピード感があったし・・ユンファの風来坊的な存在感もハマってた」
「それに引き替え、今回の作品はユンファのプロモだから、やたらにスローモーションが多かったり、あとはまるでテレビCMみたいにただタバコを吸ってるだけ、とかね・・そういう余計な(笑)シーンも多かったよね・・なんて僕までケナしちゃって良いのだろうか?(笑)」
「彼のあの人なつこい顔がね、見ていて飽きるのよ」
「わわわーそこまで言うと、まずい!まずいですよ〜〜〜で、ダニー・リーは?と話題を変えて、と」
ダニー・リーは良かったんじゃない?っていうか、結局、この映画は彼のエモーションの揺れが見どころなのね。刑事なのに殺し屋に惚れてしまって、それで最後は彼の望みを聞き入れてやろうとする・・一緒に敵と戦おうとする・・そういう意味では始終ニヤニヤしてばかりいる殺し屋ユンファよりもいい芝居をしてたと思う」
「そうなんだよねーだからこれ、二人が逆ならよかったんだよね・・って、それじゃ<友は風の彼方に>とおんなじか。うーん、パターンは決まってるから、いかにヴァリエーションを効かせるか?」
「そこが人間関係の作り方の問題で、失明したバーの女歌手だけじゃ、2時間も持たせるのはちょっとツライのよ・・ユンファの友達とかリー刑事の相棒とかも出てくるけれど、どっか散発的で、あとはイメージショットばかりで・・どこかに向かって収斂していかない」
「いや、その意見には賛成なんだけど、その、収斂していくべきどこかって、なんだろ?」
「エモーションを掻き立てる、切羽詰まった状況、かしら・・この映画はセリフっていうか言葉が多くて、ちょっと説明的で、切羽詰まり方がきわどくないし」
「はあはあ。いちいちごもっともだ・・でも僕はもうちょっとその、切羽詰まった状況、っていうもんを具体的に開いて考えたいんだけれど」
「それはまあ・・いろいろあるでしょうけれど・・たとえば、そうね、血のつながり、とかさ、家族とか兄弟とか・・そういう人間関係、肉親関係で骨肉相争う敵味方に成らざるを得ないとかさ・・」
「そいつあ・・ちょっと(笑)クサイ」
「少なくとも、映画が始まってから知り合う、というよりは、昔からの知り合い同士とかさ・・そんな、すでに構築された人間関係があって、それが義理人情と敵味方の間で崩れる、悩む、葛藤する・・とか?(笑)」
「なるほどー。あとは、はぐれ者同士が傷をナメ合うような濃い人間関係とかね・・そういうのがあって観客がシンプルに感情移入っていうか共感したうえで、そうしたエモーションを裏切る裏切れない、みたいな葛藤があると、切迫が募るってことはあるな」
この映画は、登場人物がそれぞれ他人にすぎたのかも・・ひとりひとりの人間が背負っているものっていうのが描かれてなかったよね。ダニー・リーにしても家族とか恋人とかがいたかも知れない・・彼なりの夢や希望とかがあったかも・・。で、そういうのがあってこそ、それを諦めてなげうってまでもユンファの最期につきあおうとする、そんなエモーションの深まりが、切羽詰まった状況ってもんよ。けど、そういう彼のヒトとなりとかを伝えてくれるものがなかったのは残念」
「うんうん。で、ところでジョン・ウー監督の映画って、写真屋さんみたいだと思わない?」
「えっ?どーして?」
「だってさ・・『ハトが出ますよ〜〜』って(笑)」
「(爆)そんなギャグ、誰にも通じないよ」(2001.5.21)


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