「スタンダール・シンドローム」1996年イタリア


ダリオ・アルジェント監督 アーシア・アルジェント パオロ・ボナチェリ

「銀座のある画廊にコンスタンタン・ブランクーシの有名な彫刻『マドモワゼル・ポガニー』があって、僕はたまにそれを見ながら時間を過ごす。段々と、胸をかきむしられてとても平静ではいられなくなって、なんか千々に乱れるって感じで、耐えきれなくなると、また来る、とか言ってそそくさと帰るんだ」
「題名のスタンダール・シンドロームというのは、作家スタンダールがイタリアで経験したという、芸術作品を前にして心を奪われて卒倒した、という出来事とそうした心理状態のことを言うのね」
「僕は、そういう心理状態はすごくよく分かる」
「わたしも・・ほら、よくヨーロッパのロマネスク教会とか見学するでしょ。そして大伽藍のなかで360度、くるりと回って周りを見て、もう一度さっきと同じ姿勢になった時に、なにか異次元に飲み込まれたみたいな経験をよくするの・・明らかにさっきの自分と違うって感じよ。卒倒はしないけど、魂を掴まれるっていう意味はすごくよく分かる」
「で、この映画は、ウフィッツィ美術館でそういう経験をした女刑事アーシアが、連続レイプ殺人鬼に襲われて、段々と気がヘンになっていくという・・」
「狩刈くんはアーシア・アルジェントの大ファンだったのよね」
「はい(笑)要するにスクリーミングクイーン♪という意味でね。今回のアーシアは、それはそれは可哀想で。おまけにボーイッシュになったり金髪黒メガネに変装したり責められたり責めたりと、サービス満点」
「ま、つきあって見たはいいけど、映画としちゃ、ちょっとねぇ(笑)。殺人鬼は彼女を追いつめて拉致したんだけど、逆に撃退されて殺されて、滝壺に落ちて死体は行方不明。で、彼女は、またいつか必ずあいつは自分の目の前に現れる・・と、今度は被害妄想に陥る」
「そして幻覚にさいなまれる哀れなアーシア(涙)。幻覚が相手となると、これはもう責め苦には際限もなくなり必然性も理由も根拠もなくなる。実にウマい手だね」
「そして段々と男っぽくなってく彼女は、まあ、なんていうの、殺人鬼に憑依されてしまったってこと?」
「被害妄想というのは、そういうもんだよね。心理学の本とかだと、極端な恐怖状態におかれると人間は、我が身を守るために、その原因が自分の内部にもともとあったものだと考えることもあるらしい。取り込んでしまうっていうかな」
「自分が悪かったんだって必要以上に自責の念にさいなまれるのね・・もともと芝居が出来る女優じゃないから、そのあたりの表情の変化ってもんが感じられない」
「ああ・・いいんだよべつに(笑)アーシアが出てるだけで(爆)。で、彼女がカウンセリングを受ける心理学者が<ソドムの市>でもお馴染みの名優Pボナチェリ。彼がもう少し活躍して、アーシアの人格に来した変化を探偵小説仕立てにして解き明かしていくような作りになっていたら、これはもっと面白い映画になったろうとは思うね。次々と犯罪が起こってボナチェリだけが、真犯人はアーシアだと気づいていく、とかね」
「ところで映画は例によってアルジェント考現学とでも呼びたくなるくらいに無意味なカットをわざとらしく有意味に見せようとするのね。アイスコーヒーに映った自分の顔とか・・飲み込んだ錠剤が食道を通っていくのをCGで見せるとか(爆)あれはヤリスギ」
「銃弾がホッペタを貫通するところをスローのCGで見せるとかもね。あれはアルジェント流のケレン味だよ」
「で、結局スタンダール・シンドロームそれ自体はあまりモチーフになっていないのね」
「そう(笑)そういうのもアルジェント一流の・・有意味を無意味にするトリックなんだ(爆)」(1999.11.7)

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