「インフレ目標」 簡単解説

《 インフレ目標 政策 の解説。クルーグマン説を中心に。「流動性の罠」「量的緩和」にも言及。世間によくある誤解についても指摘。物価上昇の必要性の原理も。-- for www 》
  「インフレ目標政策」って、何ですか?
  弱い物価上昇率を設定して、それを目標に経済運営する政策です。

  インフレにするということですか?
  いいえ。インフレというのは、通常、年率5%以上の物価上昇をもたらす、強いインフレを言います。「インフレ目標」でめざすのは、もっと弱い物価上昇です。両者を混乱しないでください。
( ※ なお、年率3%程度の物価上昇まで「インフレ」と呼ぶことにしたら、ほとんどすべての国がインフレだということになって、「インフレ」という言葉が無意味になってしまいます。だから、このくらいの弱い物価上昇は、通常、「インフレ」とは呼ばないものです。)

  弱いインフレは、強いインフレに転じるのでは?
  強いインフレになりかけたら、マネタリズムで調節できます。
 マネタリズムとは? 基本的には、簡単です。景気が過熱したら、金融を引き締めること。それだけです。効果は確実かつ強大です。具体的な例は、石油危機(オイルショック)のときの「狂乱物価」への対処。年率 30% を越える物価上昇を、たちまち収束しました。
 マネタリズムについて、詳しい内容を知りたければ、フリードマン「選択の自由」などを読んで、勉強してください。
( ※ 「弱いインフレ → 強いインフレ」という変化は、マネタリズムで避けられます。ただし、「デフレ → 強いインフレ」という変化もあります。これを避けるには、「量的緩和」をしないことが必要です。「量的緩和」については後述。)

  「インフレ目標」の基本的立場は?
  わずかな物価上昇を我慢して、景気の安定を求めます。

  それと反対の立場は?
  「物価安定のためには、景気安定を犠牲にする」という立場です。日銀などが主張しています。この場合、物価は安定しますが、不況から脱することができなくなり、失業者があふれ、所得の損失が起こります。
 ※ 「物価安定」とは、「物価上昇率が(ほぼ) 0% であること」です。……当たり前ですが。

  でもやっぱり、インフレよりは、中立がいい。
  物価上昇率が 0% の状態が「中立」だということにはなりません。物価上昇率が 0% だと、むしろ、不況になります。(このことは、経験的にも明らかでしょう。理論的な説明は「第3章(前)」および「需要統御理論」を参照。)
 むしろ、物価上昇率が2%〜4%程度の状態を、「中立」と見なした方がいいでしょう。世界各国は、この方針で経済運営をしています。 (日本だけは例外。だから日本は……)
cf. 「自動車運転」の比喩
( ※ このことからもわかるとおり、各国は物価上昇をちゃんと制御できています。「インフレは制御できない」という危惧は、現実の事実によって否定されます。)

  たとえ弱い物価上昇が「中立」だとしても、物価上昇はない方がいい。
  それは結局、「物価上昇をゼロにして、不況にする」ということです。
 「物価上昇をゼロにする(そして不況にする)のがいい」という意見は、世界的にきわめて奇特な考え方です。そんなことを信じているのは、日本以外にはありません。
 世界各国はどこでも、「弱い物価上昇のもとで景気安定を図る」という経済運営をしています。「物価上昇をゼロにして、不況にする」という政策を採っている国は、どこにもありません。
 なのに、「普通の経済状態の世界各国が間違いで、ひどい不況の日本が正しい」、と主張するのなら、それはほとんど狂気的です。そもそも、そんなことを言い出したら、「どうやって景気回復するか」という議論そのものが成立しません。

  物価上昇というのは、麻薬では?
  これを麻薬というのなら、世界各国はみんなヤク漬けの麻薬中毒患者だ、ということになります。
 自分の足で立つこともできない瀕死の日本が、そんなことを言い出せば、物笑いの種です。
 ( ※ 比喩マニアのために言えば、「麻薬」よりは「コーヒー」の方が適当でしょう。寝惚けた頭の日本にはぴったり。)

  物価上昇というのは、劇薬では?
  劇薬とは、危険な副作用があるものを言います。危険な副作用があるかどうかは、「量的緩和」をするかどうかで決まります。 この点については、後述します。 ( → そちらを参照。)

  物価上昇があると、国民の資産が奪われて、企業や国に移転するのでは?
  資産分配の面から見れば、たしかにそうです。 (ただし、実際には、必ずしもそうとは言えません。預金からは物価上昇と同程度の利子を得られますし、また、住宅ローンなどの借金のある人は、物価上昇で得します。)
 一方、所得分配の問題があります。物価上昇率が 0% となる状況では、不況となり、国民の所得は大幅に奪われます。奪われた証拠は? ここ十年間、生産性の向上があるのに、国民の所得がまったく上昇していません。これが証拠です。理論分析は、「第3章・付録4」に説明してあります。(なお、奪われた金はどこへ消えたか? そのほとんどは、不良債権処理という、まったく意味のないことに費やされます。どんどん倒産させて、どんどん赤字処理する。ドブに金を捨てるようなものです。)

  「インフレ目標政策」を取ると、数年後に、どうなりますか?
  世界各国と同じになります。つまり、年3%程度の物価上昇と、年5%程度の賃上げです。金利も年4%程度になりますから、個人資産が減るわけではありません。実質賃上げは、5%から3%を引き算して、約2%です。(逆にいえば、「インフレ目標政策」を取らないで不況にしていると、この2%の実質賃上げを失います。「物価の安定」を享受する代償です。 → 「第3章・付録4」)

  物価上昇率の目標を設定するだけで、物価が上昇する、という保証はあるのですか?
  いいえ。ここを勘違いしている人が多いようです。
 インフレ目標政策が保証しているのは、「物価が上昇すること」ではなくて、「もし(景気が回復しかけて)物価が上昇したなら、そのとき、物価上昇をつぶさないこと」です。 ( → 「9月08日」 )
 そのことで、物価が上昇する期待を持たせます。 ( → 次の Q&A を参照。)
 物価を現実に上昇させるには、「インフレ目標政策」ではなくて、別の政策を用います。少なくとも、私の考えでは。 ( → 「中和政策」 )

  「インフレ目標政策」を取らないと、どういう政策になりますか?
  日銀の方針と同じになります。つまり、「物価安定優先」主義です。両者の差は、景気が回復しかけたときに、顕著になります。
 景気が回復しかけて、物価上昇率が1%〜2%程度になったとします。このとき、「インフレ目標政策」を取っていれば、「まだ目標の物価上昇率に達していないので、引きつづき、金融緩和をする。流動性の罠を脱したので、一気に景気回復をめざす」というふうになります。かくて、景気回復が実現します。
 一方、このとき、日銀の方針を取っていれば、「物価が上昇したが、これは物価安定の方針に反する。ゆえに、景気はまだ回復していなくとも、ただちに金融を引き締める。」となります。そしてふたたび「流動性の罠」に陥って、日本経済はデフレに戻り、回復の方法がなくなります。
 【 詳説 】
 景気が回復しかけたとき(物価が上昇したとき)に、「物価は上昇したが、金融を引き締めない」という方針を、日銀が取ることがあるでしょうか? 仮に、日銀がそういう方針を取ったら、日銀はまさしく「インフレ目標政策」を取ったことになります。だから、そういう方針を取ることはありません。
 つまり、「インフレ目標政策」を否定する日銀は、不況から脱した直後に、必ず、金融を引き締めて、不況に逆戻りさせます。
 実例は、あります。2000年の後半です。景気がわずかに回復しかけたとき、日銀はただちに金利を上げました。上げた幅は小さかったので、直接的な経済的効果は微弱でしたが、しかし、「日銀は物価上昇を決して認めない」という強力なメッセージを送りました。その結果、企業は物価上昇による実質金利の低下という期待を失って、ふたたび「流動性の罠」に陥ってしまいました。── もし当時、日銀が「インフレ目標政策」を取っていたら、ただちに「流動性の罠」を脱して、今ごろは景気はかなり回復していたでしょう。
  たとえ「インフレ目標」が正しいとしても、そんな未曾有の実験をするのは危険では?
  今は「ゼロ金利のもとでの不況」です。現実そのものが未曾有の状態なのです。だから、未曾有の方法が必要となります。
 そもそも、「インフレ目標」を取らないとしても、それもまた未曾有の実験となります。現状が未曾有の状態だからです。「現状維持」というのは、未曾有の状態のなかを無為のまま進むという危険な実験であり、しかも、これが失敗確実なのは、経験的に明らかでしょう。( 2001年現在、景気は悪化していくばかり。)

  物価上昇率が上がると、国債価格が暴落して、国民から国へ所得が移転するのでは?
  それはある程度は、真実です。(詳しくは次々項参照。)
 ただし、国債価格が上下するのは、野菜の価格が上がったり下がったりするようなもので、仕方がありません。デフレからインフレになると、国債価格は下がりますが、インフレからデフレになると、国債価格は上がります。下がるときもあれば、上がるときもある。そういうものです。「下がるのはイヤだ」と言っても、かつて上がった分が下がるだけです。(野菜の相場だって、上がった分はあとで下がるし、下がった分はあとで上がります。長い目で見れば、適正な相場に落ち着きます。)
 とにかく、相場というものは、上がったり下がったりするものです。下がったときだけ文句を言っても、仕方ありません。文句を言うなら、下がったことに対して言うのではなく、「むやみと上げ下げさせるな」つまり「景気変動を起こすな」と言うべきなのです。
 そもそも、「下がるのがイヤだ、上がるのがいい」と言い出したら、「デフレがいい」ということになり、「景気を冷やして恐慌に落ち込むのがいい」ということになります。そんなことを言い出すのは、おかしいでしょう。小さな損を拒むと、巨大な損をこうむります。

  物価上昇率が上がっても、市場金利も上がるから、効果はないのでは?
  いいえ。効果は減殺されますが、ちゃんと効果はあります。
 第一に、市場金利が上がるのは、資金需要が高まるということです。これこそがまさしく「インフレ目標」の狙いですから、市場金利が上がるというのは狙ったとおりの状態なのです。しかも、こうして市場金利が上がった状態で、日銀が金融緩和をすることで、金利を本来の水準よりも引き下げることが可能です。この「本来の水準よりも引き下げる」が、景気刺激の効果をもつわけです。このを適当にコントロールすることで、景気回復効果を最適にコントロールできます。(これを「金融政策」と呼ぶのです。上記の質問者は、「金融政策」というものを理解していないようなので、ここに解説しておきました。)(このは、金利をゼロにすると最大値になりますが、もともと金利がゼロになっているときは無意味になります。[ ≒ 流動性の罠 ])
 第二に、市場金利がすでに上がった状態ではなくて、上がりつつある過程が大事です。この過程では、どんどん金利が上がっていくので、先に資金を借りた人が得です。というわけで、人々は「まだ上がらないうちに」と思って、われ先に資金を借りるようになります。そうして投資(という需要)が増えるので、景気回復効果が急速に高まるわけです。

   難解    インフレ期待があると、資金需要が増えないまま(= 景気が回復しないまま)で、国債が暴落して、市場金利が上がるのでは?
  前項の「第一」を参照。日銀が「インフレ目標」を実施していれば、景気が回復していない限り、金利は長期に渡って低金利であることが保証されますから、長期金利も低金利のままです。だから、景気が回復しない限り、国債も暴落しません。
 国債が暴落するとしたら、次の (1) (2) の可能性があります。 (専門的な話になるので、以下は特に読む必要はありません。)
 (1) 「インフレ目標を実施していないとき」── このときは、物価上昇後に、低金利の継続が保証されないので、長期金利も上がるでしょう。国債も暴落するでしょう。 (だから「インフレ目標」が必要なわけです。「インフレ目標なしで景気回復を実現」と提唱している人こそ、国債暴落を招いているのです。そもそも、長期金利というものは、予想される物価上昇率で決まるのではなく、予想される短期金利の利息の合計値で決まります。ここを勘違いしている人が多いようです。「デリバティブ」とは何かを勉強しましょう。)
 (2) 「インフレ目標を実施していて、景気が過熱したとき」── このときは、景気を冷やすため、金利を上げる必要があるので、長期金利も上がります。しかし、このときはもはや、完全に景気は回復している(過熱気味)なのだから、特に大きな問題はありません。国債が暴落して、一部で損をする人も出るとしても、国全体で見れば好ましい状況です。不況から脱出したことを素直に喜びましょう。(なお、「中和政策」を実施すれば、金利を上げる必要がない[かわりに増税をする]ので、国債も暴落しません。しかも増税により財政赤字が急速に縮小します。この方法が最善です。)
 (3) 「インフレ目標を実施していて、景気が冷えているとき」── これは、不況の継続ですから、ただの現状維持です。 物価は上がりませんし、国債も暴落しません。(これは、「インフレ目標」が何も効果を発しない場合です。)
 (4) 「物価だけが上昇して、景気が冷えているとき」── これを心配している人が多いようですが、これはありえません。物価が上昇しているということは、需要が(潜在)供給能力を上回っているということであり、需要が現状よりも2割以上増えていることになります。これはもはや完全な好況であるので、「景気が冷えている」ことにはなりません。 (では、景気回復に至る過程ではどうか? 今は設備が大幅に遊休していて高コストなので、景気が回復するにつれてコストダウンがどんどん進みます。景気回復に至る過程でも、物価が上がる心配はほぼ不要です。 → 生産性の向上

  国債を大量発行すると、国債の暴落で、市場金利が上がるのでは?
  日銀引き受け(赤字国債の発行)ならば、大丈夫です。
 大量の国債を市場に出すと、国債は暴落します。しかし、市場に出さずに、日銀に買わせれば、市場は影響を受けませんから、国債は暴落しません。
 あとは、物価上昇による国債暴落の懸念が残りますが、これについては、すでに先の数項目で述べたとおりです。(つまり、量的緩和をして金利を下げればよい。)

  物価上昇をもたらす方法としては、金融の 量的緩和 をするのですか?
  ゼロ金利のときは、しません。「流動性の罠(わな)」により、効果がないし、かえってマイナスが多いからです。百害あって一利なし。
( ※ なお、若干の量的緩和はしますが、通常、すでに実行済みになっているものです。「無謀な量的緩和はしない」という点が肝心です。)
cf.  ミニインフレ政策
cf.  「薪」の比喩

  「流動性の罠」とは、何ですか?
  (資金について) 需要が頭打ちのときは、いくら供給を増やしても仕方がない、ということです。
 たとえば、需要の上限が 100 であるときに、120 の供給をしても、余分の 20 はあぶれるだけです。このあぶれた分は、どこにも行かずに、滞留します。(これを「流動性をなくす」というふうに表現します。)
 にもかかわらず、「供給を増やせば、それに応じて需要も増えるはずだ」と主張する人がいます。(「量的緩和」論者がそうです。) しかし実際には、供給をさらに上積みして 150 に増やしても、需要は上限があって増えませんから、今度は、あぶれる分が 20 でなく 50 になるだけです。効果はまったくありません。  
( ※ 「本当に資金需要がないのか?」と疑う人は、 9月24日b の記述 を参照。 )
( ※ 「罠」とは、「そこから抜け出せない状態」のことで、具体的には、「ゼロ金利」の状態のことです。次項参照。)
( ※ 「流動性の罠」について詳しい説明は、第3章の「流動性の罠」を参照。もっと詳しい理論的説明は、「ニュースと感想」 3月14日を参照。)

 「量的緩和」論者に似たものとして、「サプライサイドの経済学」(供給主義の経済学)があります。
 これは、資金ではなく一般の商品について、同様のことを主張します。たとえば、「パンの需要を増やしたければ、パンの生産を増やそう。パンをどんどん生産すれば、人は1日に 10個でも 20個でも 大食漢のように食べてくれる」という説です。 (cf. 「セーの法則」)
 実際には、そうなりません。需要が頭打ちのときに、どんどん供給を増やしても、在庫が増えるだけです。
( ※ 正しい解決策は? もちろん、供給を増やすことではなく、需要を増やすこと。……この点は、資金でも、一般の商品でも、同様です。
( ※ 「需要を増やす」というのは、「滞留をなくす」というのと、同じことです。)

  「流動性の罠」に陥ると、どうなりますか?
  「流動性の罠」は、ゼロ金利のときに起こります。そうなると、もはや金利を下げることができなくなるし、「量的緩和」も無効になるので、ここから脱する金融手段 がなくなります。
( ※ では、どうすればいいか? 金融手段でない手段を取ります。減税やそれに類する手段です。詳しくは、「中和政策」のところに説明してあります。これは前述の「滞留」をなくす政策です。逆に、「量的緩和」をすれば、滞留を増やすばかりで、危険です。前々項を参照。)

  国が不動産をたくさん買えば、お金がたくさん流通するので、景気が回復する、という意見がありますが。
  なるほど、そのことで、お金が企業などに行き渡ります。しかし、企業はそのお金を、投資に回しません。使い道は、有利子負債の圧縮か、単なる預金か、そのどちらかです。(仮に投資にお金を使うとしたら、ゼロ金利のもとで、とっくにお金を使っています。だから、もうこれ以上は、使い道がないのです。そもそもこのお金は、タダでもらったわけではなくて、自分の不動産を泣く泣く手放して得たお金ですから、やたらと無駄遣いするわけには行かないのです。)
 というわけで、いくらお金を渡しても、そのお金は銀行に滞留するだけで、需要の増加には結びつきませんから、景気回復の効果はまったく出ないわけです。この点は、「量的緩和」と事情は同じです。

  でも、「量的緩和」を主張している人もいますが。……
  それは「インフレ目標政策」とは関係のない人々です。
 「インフレ目標政策」は、クルーグマン教授の提唱した政策です。「流動性の罠」ゆえに、「ゼロ金利」のもとでは「量的緩和」が無効であり、だからかわりに「インフレ目標政策」を提唱したのです。
 「量的緩和」を主張する人々は、クルーグマン教授とは別の意見を勝手に主張しているわけで、その意見は、「インフレ目標政策」ではなくて、「インフレ政策」もしくは「ミニインフレ政策」です。「インフレを起こせばデフレをつぶせる」という、荒っぽい理屈を出しているだけです。 ( → ミニインフレ政策

  クルーグマン説でも「量的緩和」を主張することがある、と聞きましたが。
  そういうこともあります。それは「ゼロ金利」でない場合です。
 「ゼロ金利」でないときは、「流動性の罠」は生じず、「量的緩和」が有効となります。クルーグマン教授が初めて「インフレ目標政策」を唱えたころは、まだ「ゼロ金利」とはなっていなかったので、「量的緩和」と「インフレ目標政策」をともに実行することを勧めたのでした。
 しかしその後、「ゼロ金利」となっており、「流動性の罠」が生じています。こうなるともはや、「量的緩和」は無効となるわけです。
( → 下記の 《 参考 》 )

  クルーグマン説では「量的緩和」をまったくしないのですか。
  いいえ。まったくしないわけではありません。ある程度は、量的緩和をします。ただし実際には、かなりの量的緩和を、日銀がすでに実施済みですから、これ以上、上積みする必要はほとんどありません。 (つまり、余計なことをいろいろ考えなくてもいい、ということ。)
 話は細かくなりますが、少々面倒な説明をすると、……
 まったく量的緩和をしないでいると、デフレから脱しかけてきたとき、資金需要が生じるので、資金が不足気味になります。すると、金利が上がるので、デフレから脱する効果が減じます。
 このとき、日銀がただちに資金を提供して金利を下げればいいわけです。もちろん、「インフレ目標」を実施していれば、金利を下げます。それはつまり、資金を提供するということであり、「量的緩和」をするということです。だから、「インフレ目標」を実施していれば、「量的緩和」は十分になされるわけです。ことさら「量的緩和」をする必要はありません。
 ただし、それは、建前上の話です。実際には、タイムラグが生じて、市場の資金需要に、日銀の資金提供が間に合わないことがあるでしょう。だから、その分の余裕(「のりしろ」のようなもの)を用意して、あらかじめ資金を多めに提供しておく(滞留を多くしておく)と、問題が少なくなります。
 とはいえ、タイムラグが生じるのは、日銀がぐずぐずしているのが原因です。日銀は、市場の調査にも時間がかかるし、仕事(金融政策決定)は月にいっぺんしかやりません。どうしてもタイムラグが2カ月ぐらいかかってしまいます。その点、米国では、ほとんど即応体制です。ビル突入テロで経済に影響が出ると判明した翌週には、金利引き下げを決定しました。それも、大幅に。── このような即応体制があれば、タイムラグの問題はほとんど生じません。
 結局、どうかと言えば : ある程度は、資金需要に余裕があった方がいいでしょう。(その必要量は、日銀のぐずぐずの度合いに比例します。)……ただ、実際には、日銀はもともと資金を多めに提供しています。(自分の能力をよく理解しているせいでしょう。) ですから、あえてこれ以上、量的緩和の上積みをする必要はないわけです。現在、資金は数兆円の「滞留」が生じています。この程度あれば、十分でしょう。
( ※ 米国の金融政策の即応性については → 「需要統御理論」の「現実的な調整法」の 付記 )

  本来の「インフレ目標政策」ではないものを、「インフレ目標政策」と呼ぶ人が多いのは、なぜですか?
  誰もクルーグマン説をちゃんと読んだことがないからです。「インフレ目標」という題名を読んだだけで、「ふうん、インフレを目標にすることだな」と、勝手に思い込んでしまったわけです。
 こういう誤解が広まった最大の理由は、マスコミです。「クルーグマン」の「ク」の字も出さずに、原典についてはまったく調べようとせずに、記者が勝手な思い込みで解説した結果、誤解が世間に広まりました。誤解の拡大再生産。
 残念ながら、2001年9月中旬現在、クルーグマン説について「流動性の罠」とともに正しく報道したマスコミは、ひとつもありません。 (どの記者も「また聞き」で、偽情報を書いているだけです。勉強不足。)



 《 参考 》
「ゼロ金利」下での「量的緩和」をクルーグマンが否定していることについては、次の3点をごらんください。



   ※  第3章(前)には、インフレ目標の「Q&A」もあります。
     インフレ目標への批判に対する回答([ 補足 ])もあります。

   ※ 量的緩和 については、「ニュースと感想」の 1月06日 以降も参照。
     詳しい説明があります。(専門家向けで高度な説明。)

   ※  物価上昇の本質についての説明は、下記ページで。
      「需要統御理論」 簡単解説



 《 最近の分 》

 2008〜2010年ごろ、新たに話を書いたので、次の検索結果から該当項目を見てください。
  → Google 検索 「インフレ目標」( nando ブログ 内)

 ※ 「インフレ目標を設定すれば、それで万事OK」と主張するような、
   単純な発想を否定しています。話はそれほど簡単ではありません。
   物価上昇を目的として、単純に量的緩和をした場合、下手をすると、
   スタグフレーションや資産インフレやハイパーインフレになります。




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   引用してもかまいませんが、引用元を明示してください。〕



「小泉の波立ち」
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