名阪カラーワーク研究会の
ミニ染色講座(10)
 泥藍・沈殿藍で染める 

泥藍の製造
藍を栽培して夏場に生葉染めをされている方なら、季節に関係なく、自分の育てた藍で染めたい、それに、木綿も染めたい、と思われることでしょう。
藍を生葉で染めるには、当然ながら藍が育っている期間の夏場に限られていて、しかも、生葉染めという方法は木綿に染まらないときています。そして絹を染めた場合でも、濃紺色は無理である、などなど、不満がでてきます。

季節に関係なく染めるには、そして木綿も染めるには、藍の葉を発酵処理して「すくも藍」をつくり、それを使って「建て染め」という方法をとることが昔から行われてきましたが、葉の繊維質を分解させて大幅に減量し、「すくも藍」という染料にするためにはそれなりの技術と、根気と、数ヶ月の期間が必要です。

一方、昔からインドや、沖縄地方の熱帯、亜熱帯地域で行われた藍の製造には沈殿藍、泥藍と呼ばれる藍成分の濃縮方法があります。
この方法は、藍の生葉を水に浸け、葉に含まれている藍色素の配糖体(インジカン)と酵素とを溶かしだしますと、酵素が配糖体から糖を引き離す作用をしてくれますが、溶かす作用と糖を分離する作用を促進するために太陽熱が利用されます。 さらに、石灰を加えてアルカリ性にしますと、空気との共同作用で藍色素(インジゴ)が生成します。 生成した藍色素は水に溶けないために、静置しておくと沈殿します。 したがって、上澄み液を静かに流し去りますと、底に泥状の藍色素が溜まります。 この状態のものを泥藍といい、そのまま染色に利用するか、あるいはまた、太陽熱で水分を蒸発させて乾燥固化し、サイコロ状にカットして製品にしますと、保存のきく藍染め用の染料が得られるのです。 これを昔から藍錠(藍じょう)といっています。(錠の字の金へんは、以前は青へんでした)

日本の伝統的な藍染めに用いられてきた前述の「すくも藍」には、多量の有機物と微生物が含まれているので、麦の糠(ふすま)などを微生物の栄養源として加え、木灰や石灰をアルカリ剤として加えて水中で発酵させると、「発酵建て」という「藍建て」が行われます。 このとき、藍色素の分子は還元作用を受けて水に溶け、藍色を失いますが、染めることが可能になります。還元は酸化の反対ですから、このあと、アルカリを洗い去りながら空気で酸化すると、染料分子は元の藍色に戻って不溶性となり、藍染めが完成するのです。

一方、泥藍は有機物が少なく、酵素の大部分と石灰の一部は上澄み液とともに流されていますから、「酵素建て」は無理で、建てるためには、アルカリを補うと共に、還元剤を添加してやる必要があります。 もちろん、「すくも藍」による「発酵建て」の際、染着濃度増加の目的で染浴に加えることは可能で、それを「割建て」といっています。
 
「建て」た状態ですと木綿も染まりますが、生葉染めの方は、藍色素が配糖体(インジカン)のままの状態、あるいは糖を分離した直後のインジカンとインジゴの中間体(インドキシル)の状態になっていますから、このような状態では化学的な理由で木綿には染め着きません。

さて、泥藍・沈殿藍の製造に必要なアルカリ剤には、誰にでも容易に手に入る石灰があればよく、大した技術もいりません。 製造期間もほぼ1週間以内で済みます。
最近の日本本土は地球温暖化の影響で夏は熱帯に近い気候ですから、熱帯、亜熱帯で行われる太陽熱利用の製藍法が有利になったと言えましょう。
馴れない人には液のアルカリ度を調べるためのpH試験紙があると好都合ですが、馴れますと必要ありませんし、生産現地の人々は液の状況を見て判断しています。
手軽な方法について、これまでに多くの方々が公表されていますが、当方で蓼藍の生葉を使って製造し、染めた記録を次に述べますので参考にしてください。
 
写真1.藍生葉の仕込み。左10リットル、右15リットル 写真2.浸けこみ期間終了の時期。葉が褐色になる 写真3.葉を除去して消石灰の添加と攪拌を開始。最初は白い泡立ち
写真4.消石灰の添加と攪拌を続けると、次第に泡が青くなり、盛り上がって泡立つ 写真5.泡はだんだん大粒となり藍色になる。泡立ちの最盛期 写真6,終末期、泡は白くなる。消石灰の添加をや める

8月29日に採集した蓼藍の葉を容器に入れ、先ず水に浸けました。このとき用いた容器は、10リットルと、15リットルの蓋付きステンレスタンク(寸胴鍋)で、それぞれの容器に入れた生葉は700gと900gでした。庭の一隅、わずか1m四方で栽培したものです。(写真1)
小さいタンクの方は泥藍染め用、大きい方は保存する沈殿藍用としました。水の量は、8リットルと12リットルです。
蓋をして炎天下に置き、時折混ぜ返します。最初は葉が浮き上がりますので少し頻繁に、その後は朝昼晩一度づつの混ぜ返しでよろしい。
浸け置く日数は気温にもよります。 夏季高温時は1昼夜で良い場合もありますが、このときは翌日が曇天で比較的涼しく、平均気温が27℃ぐらいでしたので、さらに一日、合計2日間おきました。 浸け置きを終わる目安は、浸けた生葉が褐色になった頃合いです。(写真2)
液は蛍光を帯びた淡緑色になっています。夏季高温時に浸けすぎますと腐敗が進行し、どぶのような悪臭を発しますが、失敗したと思わずに以下の作業を続けてください。逆に低温時は日数を重ねる必要があります。

色素の浸け出しが終わったら、葉をすべて取りだし、泥藍づくりをします。液には藍色素の配糖体であるインジカンが溶けこんでおり、糖を分解する酵素も共存しているはずですので、すぐ作業にかかります。
消石灰を用意し、少量ずつ加えながら攪拌します。最初は白い泡ですが(写真3)、消石灰を加えるたびに青く色づき(写真4)、そのうち藍色の大きな泡になって匂いも変わります(写真5)。 この匂いは藍の発酵建てをするときの匂いです。 さらに消石灰を加えながら攪拌を休まずに続けますと、そのうち攪拌していても泡が少なくなり、色も白くなっていきます(写真6)。 液の色は黒っぽくなりますが、これは、液中でインジカンが水に溶けない藍色のインジゴに変わったためです。
葉を取りだしたときの最初のpHは、5ないし4ぐらいで、腐敗が進んでおれば低いpHになっていますが、消石灰を入れ終わった時点では、10〜11になるはずです。
加えた消石灰の量は、小の容器で10g、大の容器で14gでしたが、腐敗が進んでいた場合はこれよりも多い量が必要です。
攪拌は30分ぐらいを目途にしてください。攪拌によって空気を液中に送り込みますが、これは、藍色素がインジゴになるために空気が必要なのです。空気の供給が不十分だと、良質の藍が得られません。そのため、筆者は空気混入の能率を良くする目的で写真で示すようなステンレスの漉し具を攪拌に使いました。

攪拌を終えましたらそのときの液の匂いを覚えていてください。そして一晩静置します。
翌日、pHが下がっていたら腐敗臭がしますので、元の匂いになるまで消石灰を少量追加してpH10〜11に戻します。
匂いが元のままであったら次の操作へと進み、容器を傾けて上澄み液を流します(傾斜法)。そして、藍色の沈殿が流れ出す寸前に傾斜止め、さらに、一晩静置して傾斜法を繰り返します。上澄み液の層がなくなり、傾斜法が無理な状態になれば、口径が狭くて背の高い小容量の容器に移しかえ、静置して、上澄み液がとれるようにします。さらに小型の容器に移し替えながら傾斜法を繰り返し、液量が極端に少なく泥状になりましたら、泥藍が出来たことになります。
この泥藍を平たい容器に移し、天日に曝して乾燥させますと、沈殿藍(藍じょう)の出来上がりです。

この写真は、前回7月に、藍を一番刈りしたときの葉でつくったものす。
なお、上澄み液層を流す傾斜法が難しい場合は、掬い取りでもいいです。
 

泥藍で染める
前述の小容器で得た泥藍を、そのまま全部用いて綿布を染めました。
底深の2リットルの容器に出来上がった泥藍を移し,水を加えて1リットルにしました。 このときの綿布は、綿ブロードの端切れ数枚と綿ローンのハンカチ一枚とで、重量は20gになりました。したがって浴比は50倍です。液温を40℃にする必要があるので、お湯を適量混ぜました。 泥藍の製造過程で加えたアルカリは、上澄み液の取り捨てで減っているため、ソーダ灰(無水炭酸ソーダ)を2.5g加えました。苛性ソーダを加える必要はありません。残っている消石灰と、加えた炭酸ソーダとが反応し、少量の苛性ソーダができているため、アルカリはこれで充分で、pHは11程度になりました。
次ぎに還元剤のハイドロサルファイトを2g加えてゆっくり混ぜ、藍建てを行いました。すると、紺色の泡(藍花)が浮き出ます。液の内部は緑色になり藍が建ったことが判ります。
準備が終わると、あらかじめ熱湯処理をしておいた綿布を入れて染めます。 

 泥藍で染める
空気を混入させないよう、液面から布がはみ出さないよう、ゆっくり混ぜ返しながら10分間染め、食塩を5g加えて染めながら溶かし、さらに20分間、ときおり混ぜかえしながら染めます。温度が徐々に下がりますので、35℃以下になったら少し温めながら染めを続けます。

染色を終わると、布を引き揚げて拡げ、吊して空気に当てます。5分ほど経ったら軽く水をくぐらせます。このとき、水洗するのではなく、表面に付いた紫色の膜(ブロンズといいます)を流しとるのが目的で、また吊して空気に当てます。以下、乾かない間に4〜5回、同じように水をくぐらせる操作をします。この段階では決してじゃぶじゃぶ洗ってはなりません。色落ちしてしまいます。
済んだら吊したまま乾かし、翌日重ね染めをしない場合には、じゃぶじゃぶと水洗します。

重ね染めをするときは、染液を捨てないでそのままとっておき、翌日染めます。最初に染めた日に急いで重ね染めをしても濃くなりません。
液の温度を40℃にします。還元剤のハイドロサルファイトは既に消費されていますが、その際に、アルカリも反応して消費されていますからソーダ灰2gを追加します。次ぎにハイドロサルファイトを1.5g追加しゆっくりかき混ぜますと5分ほどで再び藍が建ちます。あらかじめ水に浸けておいた1回染めの布を、水気を切って入れ、前回同様に30分間染めます。食塩の追加は必要ありません。
染色後の処理も前回同様とし、その後、一晩乾かして翌日水洗します。

 写真は泥藍で染めた綿ブロードを、標準色カードの濃藍(上)と紺色(下)の間に挟んで写したものです。

なお、このページの表題右横の写真は、同時に染めた綿ローンのハンカチです。

同じ液で3回の重ね染めをしても効果はありませんが、表面的な酸化ムラを直したいときには2回目の重ね染めと同様な操作を繰り返し、改善します。
酸化ムラの主な原因は過還元で、温度を45℃以上に上げるとおこりやすくなります。そのとき、染めている布の色は黄みが強くなり、極端な場合はオレンジ色になります。
また、液から鼻につんとくる刺激臭がしたら、アルカリが足りないので、消石灰を少量足してください。染色後にうすい酸性の水に通してアルカリを中和するのも効果的です。

乾燥固化して保存している沈殿藍(藍じょう)を使う場合の染色も泥藍の場合とほぼ同じですから省略します。固形物を水で解くか、砕いて紛状にして使えばよいのです。
 

 

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