名阪カラーワーク研究会のミニ色彩講座(7

                藍色・紺色の選択心理

 日本人は藍色を好むと言われています。
一口に藍色・紺色といっても、いろいろあるわけですが、どれを選ぶかと言うことは個人の好みによるでしょう。また、どのような感情に支配されて選んでいるのかについても、人の心を覗き見するわけにいかないのでよくわかりません。
そこで、ミニ色彩講座(6)で述べたようなアンケート調査を年齢別の階層に分けておこない、嗜好心理を解析しました。

 嗜好調査に用いた藍・紺色は、第1表に示した25色です。いずれも染色した木綿の布を用いています。
また、第2表には、それらの色の測色データを示していて、各セル内の左側の記号はマンセル値、括弧内の数字はHTMLで使う16進数の色表記です。
パソコンによってはこれらの色の差がはっきり出ないことがあるかもしれません。
しかし、そのことはここでは重要な問題ではなく、どういう心理で、この中の藍色や紺色を選んだかと言うことなのです。
 
 
第1表 嗜好調査に用いた藍・紺色
         
         
         
         
         

 
第2表 嗜好調査に用いた藍・紺色の測色データ
1.1PB 5.2/4.4  (#6481A0) 3PB 4.4/7.8    (#346CA3) 4.2PB 4.3/8.6  (#3368A8) 6.5PB 4.2/8.3 (#4C61A3) 4.9PB 3.8/8.6  (#2C5998)
1.8PB 3.6/4.6  (#3A587A) 6.2PB 3.3/6.6  (#414C76) 5.3PB 3.5/7.2  (#335389) 5PB 3.1/7.0   (#254B80) 6.5PB 2.7/9.2  (#283B82)
9.7PB 5.3/8.6  (#1689C0) 8.6B 2.7/5.2    (#185170) 1PB 3.2/5.0   (#264F70) 4.9PB 2.7/5.9  (#2C4167) 4PB 2.8/4.2    (#304362)
6.1PB 2.3/4.5  (#2F385B) 4B 3.0/4.4     (#004F63) 8.4PB 2.8/7.0  (#3F3B73) 6.7PB 2.4/5.4  (#313963) 7.3PB 2.5/5.9  (#353968)
5.5PB 2.9/5.3  (#30466F) 6.5PB 2.4/5.5  (#2D3862) 7.5PB 2.4/3.4  (#253D67) 8.5PB 1.9/2.6  (#322F44) 7.5PB 2.1/2.1  (#353346)

 調査方法は対人法(man to man)によって第4表の調査票と、25色の藍・紺色の布を貼ったパターンを提示し、調査票への記入を依頼しました。
調査対象者の人数を群別で第3表に示します。
 
 
第3表 調査対象者
19才以下 20〜29才 30ないし39才 40才以上 合 計
男 性 59 80 47 50 236
女 性 57  52 57 52 218
合 計 116 132  104 102 454

 
第4表 調 査 票
 問1. あなたは、どの藍色または紺色が好きですか?(         )
 問2. 当てはまる記号に、○印を付けて下さい。
        性別    (a) 男   (b) 女
        年齢    (a) 19才以下    (b)20〜29才   (c)30〜39才   (d)40才以上
 問3. あなたはどのような理由で、その色を選びましたか?
     (該当する○を塗りつぶしてください)

             非      少      普      少      非
             常                             常        
              に      し      通      し       に  
                   
1.華やかだから       ○       ○             ○      ○      ○    渋いから
2.派手だから     ○      ○      ○      ○      ○    地味だから
3. ----  ここでは3以上を省略します。第5表を参照してください、18項目の感情的な尺度があります  ------

 回収した調査票の、問3の回答を数値化します。たとえば、1番目の尺度、「華やかだから」←→「渋いから」の5段階評価に対して、5,4,3,2,1と、重みの点数を、「華やかだから」の側から順につけておきますと、普通、と答えた人の1番目の尺度値は3になります。
このようにして数値化したデータの数は454人分あるわけですので、18項目の尺度に対する評価結果は、それぞれ454人分あるわけです。
全員の嗜好調査を解析するとするならば、まず、454枚のデータをもとに、尺度間の相関係数を求めます。
たとえば、尺度1と尺度2について、ひとりひとりの値を454人分インプットして、尺度1と尺度2の相関係数を出すのです。

 18個の質問事項相互の相関ですから、相関係数は18×17=306個できますが、これを相関行列表というものにまとめます。
(相関行列表というのは、プロ野球チームの総当たり勝ち負け表のようなものです)
相関行列表ができてしまえば、あとは、多変量解析法という、数学的な手法で解析を進めます。これらは、現在ではコンピュータで短時間に処理できます。
 すると、相関係数に含まれている感情的な偏りを、数値に変えて引っ張り出すことができ、心理的な選択因子を読み取ることができるのです。
多変量解析にはいろいろな手法がありますが、ここではミニ色彩講座(6)で使ったのと同じ、「因子分析法」という、手法を使いました。

20才未満の女性について、解析した結果は第5表のようになりました。
 
 
第5表 20才未満女性の因子負荷量
 (+側)← 尺度 →(−側) 第1因子 第2因子 第3因子
1.華やかだから←  →渋いから  * 0.720     0.070      0.031
2.派手だから←  →地味だから     0.525     0.095    -0.210
3.都会向きだから←  →田舎向きだから     0.014  * 0.805     -0.161
4.明るい感じ←  →暗い感じ  * 0.661     0.337     -0.221
5.流行向きだから←  →流行に関係ないから   -0.005  * 0.665  *-0.412
6.現代風だから←  →昔風だから   -0.061  * 0.600   *-0.530
7.うきうきした感じ← →落ち着いた感じ  * 0.596   -0.174  *-0.608
8.するどい感じ← →おとなしい感じ     0.498   -0.056    -0.282
9.新鮮だから← →見慣れているから     0.370  * 0.625    -0.147
10.馴染んでいないから← →親しみがあるから     0.138     0.231    -0.202
11.異国風だから← →日本風だから     -0.042      0.227  *-0.430
12.目立ちやすいから← →目立ちにくいから  * 0.634     0.307    -0.137
13.発展的な感じ← →無難な感じ     0.131  * 0.697    -0.113
14.硬い感じ← →ソフトな感じ   -0.264     0.021      0.387
15.さえた色だから← →くすんだ色だから  * 0.736     0.134    -0.073
16.はっきりしているから← →ぼやけているから     0.381     0.392      0.032
17.軽い感じだから← →どっしりした感じだから     0.425     0.002  *-0.576
18.一般向きだから← →個性派向きだから     0.067    -0.516    -0.263
  寄与の大きさ(負荷量の二乗和)     3.357      3.125      1.856
  寄与の大きさ(寄与率 % )    33.6    31.3     18.6
  因 子 名 あでやかさを求める因子 ファッション志向の因子 落ち着きを求める因子

 色を選択する心理的要因(因子)は、いろいろな因子が絡み合っているのですが、主要な因子を3つにまとめると、最も大きな因子である第1因子は、「華やかだから」という感情的な尺度に大きく現れています。その重み(負荷量)は、0.720です。
これが比較的大きな値であるということは、他の尺度の負荷量と比べてみればわかります。したがって、この値に、* マークをつけておきます。
* マークをつける尺度値を4〜5個選ぶことにします。上から順に、「華やかだから」「さえた色だから」「目立ちやすいから」「明るい感じ」「うきうきした感じ」の5個を選び、 * マークをつけました。

これらには、第1因子が強く投影されているとも言えます。さて、そうすると、第1因子の正体は何でしょうか。これら5つの感情的な言葉を繰り返し唱えていると、第1因子の正体が次第に言葉となって浮かび上がってきますよ。 そしたらそれを第1因子の名前にしましょう。
ここでは、あでやかさを求める因子 と名付けました。

 同じようにして、第2因子を模索しますと、「都会向きだから」「発展的な感じ」「流行向きだから」「新鮮だから」「現代風だから」の5個が選び出されました。
これらに投影する第2因子の正体を、ファッション志向の因子 と名付けました。
第3因子はどうでしょうか。マイナスの符号が付いたものが多いですね。 絶対値の大きいものから順に選ぶと、「落ち着いた感じ」「どっしりした感じだから」「昔風だから」「日本風だから」「流行に関係ないから」となります。
このように、第3因子の正体は、落ち着いた古風な感情です。これを落ち着きを求める因子 としました。

 これら3因子が色選択の感情因子に占める割合は、第1因子から順に、33.6%、31.3%、18,6%と計算されます。
足し合わせても100%になりませんが、残りの%には、他の小さな因子が雑多に含まれているのです。しかし、主要な因子はここまでで抽出できたことになります。

次ぎに、40才代の女性の場合についてみましょう。結果は第6表のようになりました。
 
 
第6表 40才代女性の因子負荷量
(+側)← 尺度 →(−側) 第1因子 第2因子 第3因子
1.華やかだから← →渋いから  * 0.630     0.335  *-0.475
2.派手だから← →地味だから  * 0.573  * 0.475    -0.280
3.都会向きだから← →田舎向きだから     0.245  * 0.574    -0.192
4.明るい感じ← →暗い感じ  * 0.668     0.448      0.052
5.流行向きだから← →流行に関係ないから     0.362     0.396      0.061
6.現代風だから← →昔風だから  * 0.749   -0.001    -0.023
7.うきうきした感じ← →落ち着いた感じ     0.617     0.255  *-0.468
8.するどい感じ← →おとなしい感じ     0.191     0.435  *-0.511
9.新鮮だから← →見慣れているから     0.390  * 0.513      0.057
10.馴染んでいないから← →親しみがあるから   -0.277      0.301    -0.109
11.異国風だから← →日本風だから     0.438     0.003    -0.321
12.目立ちやすいから← →目立ちにくいから     0.304  * 0.555      0.304
13.発展的な感じ← →無難な感じ   -0.019  * 0.679    -0.304
14.硬い感じ← →ソフトな感じ   -0.450   -0.014  *  0.419
15.さえた色だから← →くすんだ色だから  * 0.807     0.001      0.000
16.はっきりしているから← →ぼやけているから     0.502     0.293  *  0.429
17.軽い感じだから← →どっしりした感じだから     0.311     0.470    -0.367
18.一般向きだから← →どっしりした感じだから     0.308   -0.396    -0.061
  寄与の大きさ(負荷量の二乗和)   4.151      2.866     1.629
  寄与の大きさ(寄与率 % )   41.3    28.5    16.2
  因 子 名 あでやかさを求める因子 発展性を求める因子  保守性を求める因子 

 前と同じようにして第1因子は、「さえた色だから」「現代風だから」「明るい感じ」「華やかだから」「派手だから」という尺度に投影されていることがわかります。
したがって、20才未満の場合と同じように、第1因子を、あでやかさを求める因子と名付けました。

第2因子は、「発展的な感じ」「都会向きだから」「目立ちやすいから」「「新鮮だから」「「派手だから」という尺度によって代表されるので、求め発展性を求める因子と名付けました。

第3因子は、20才未満の場合と同じように、マイナスの符号が付いた尺度に投影されている因子で、絶対値の大きいものでは、「おとなしい感じ」「渋いから」「落ち着いた感じ」「ぼやけているから」「ソフトな感じ」となっているので、保守性を求める因子と名付けました。これは、第2因子と逆の方向性を示すもので、このような選択因子の葛藤が、心の中に生じていることが興味深く思われます。

色選択の感情に占める因子の割合は、第1因子から順に、41.3%、28,5%、16.2%です。

 20才未満の調査結果と比べてみると、感情因子の構成にはそんなに大きな違いがありません。つまり、ハイティーンの女性と、中年女性との間で、藍色や、紺色を選ぶ心理的な因子は、変わりがほとんど無いということです。

 そしてまた、このような色そのものがあでやかさに乏しい藍色・紺色であるにもかかわらず、あでやかさを見出そうとして選ぶ気持ちのあることがわかりました。この調査を企画した編者は、予想しなかったこの結果に、一種の感動さえ覚えました。

他の性別・年齢の集団については、因子名だけを示すことにして、次の第7表にまとめました。
 
 
第7表 藍色・紺色を選ぶ心理的な因子
第1因子 第2因子 第3因子
女性 20才未満 あでやかさを求める ファッション志向 落ち着きを求める
 〃 20才代 あでやかさを求める 異国風を求める ファッション志向
 〃 30才代 あでやかさを求める ファッション志向 個性を求める
 〃 40才代 あでやかさを求める 発展性を求める 保守性を求める
男性 20才未満  ファッション志向 社交性を求める 保守性を求める
 〃 20才代 あでやかさを求める 目立ちを求める ファッション志向
 〃 30才代 現代性を求める 華やかさを求める 落ち着きを求める
 〃 40才代 あでやかさを求める 新鮮さを求める 現代性を求める

 この表を見ても判るとおり、藍色・紺色系の色が、渋い色、落ち着いた色だから好まれるという言い方があるとすれば、それは全くの嘘っぱちであるこということです。
 他の色相の色と比べて、一見、あでやかではないこれらの色の中から、あでやかさの輝きを持つ色を求めようとしているのです。
因みに、最も多く選ばれた色は、30才代以下では男女ともに、第1表の右端の列の上から2番目の色で、色名は群青色(ぐんじょういろ)でした。
40才代では、男女ともにそれとは違っていて、女性では全体にばらついていて好みが個性化しており、男性では第1表左端の一番下の色(ネービーブルー)を、比較的多くの人が好みました。

 なお、この調査を行うにあたり、当時の武庫川女子大学卒論生、植田恵子さん、大畑智子さんにご苦労をかけました。また、植田さんのご家族にも、調査に協力していただいたことについて、深く感謝しております。
 

 
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