名阪カラーワーク研究会の ミニ染色講座(9)
 
花びらで染める


花びら染めは、これまで多くの染め人が試みています。
そりゃそうですよ。綺麗な花を見ますと、その色をわがものにして同じ色の衣服を身にまといたい、と思うのが人情です。

万葉の昔には、青花による摺り染めというのがありました。青花というのは今で言うツユクサのことです。
そして万葉には歌が残されています。
「つきくさに 衣いろどり摺らめども うつろう色というが苦しき」     つきくさ(ツユクサ)の花

つきくさというのは、ツユクサのことで、摺り染めをして色をつけたけれども、すぐに色が変わってしまう。という、ぼやきの歌です。何をぼやいているのかというと、恋人の心変わりを嘆いているのです。

花の色素には、いろいろありますが、なかでも赤、青など目の覚めるような鮮やかな色を出すのはアントシアニンという色素です。
ツユクサの花の色素もアントシアニンです。
アントシアニンは、花だけでなく、果実にも含まれます。ブドウの果実から得る赤ワインの色は、果実の皮のアントシアンであることがよく知られています。(アントシアンはアントシアニン色素の総称です)。
アントシアンは、ムラサキイモという、さつまいもにも含まれています。

さて、原料の花びらですが、何を使いましょうか。
紅花染めも花びら染めですが、紅花の色素はアントシアンからのものではありません。
黄色系統の花には、一般にアントシアンが含まれません。(紅花は、咲いているときから紅色をしているわけではありません。ほとんど黄色です)
赤、紫、青系統の花がいいですね。
ここで述べる方法に適した花は、冬でしたらサザンカ(寒椿)。春はつつじ(赤、紫みの赤)。
夏なら朝顔(赤、青)、ペチュニア(赤、青紫)でしょうか。真っ赤なハイビスカスもよい材料です。花が終わると、ポトリと落ちますから、色の褪せないうちに取り込んで乾かし、貯蔵しておきます。乾燥すると赤黒くなりますが大丈夫です。使うときは黄色の蘂は取り除きましょう。
これらの花弁は、いずれも厚みが薄いことが特徴です。
チュウリップは花びらが厚いですね。1日・2日浸けてもでは色素が出ませんから4・5日以上をかけてください。ただし、10日も放置すると上面に黴が生え、繊維質の炭水化物が溶けて、ドロドロになってきます。
赤花、紫花がいいです。
黄花は駄目。アントシアニンではないので。
 

それでは早速、方法を書いてみましょう。
方法といっても、難しいことではありません。染め終わるまで、絹の場合は、全く熱を加えなくてよいので、このページの管理者のように、ものぐさな人に向いています。必要な薬品はクエン酸、酒石酸、それと食塩だけです。
どちらかというと、酒石酸の方が成績がよろしい。
クエン酸は清涼飲料にも使われ、梅干しの酸味の成分です。簡単に手に入ります。薬局で聞いてみて下さい。酢酸や食酢では酸性度が不十分です。 酒石酸はワインづくりの樽の底に結晶してできるのでこの名があります。これも、薬局で頼めば手に入ります。
クエン酸(または酒石酸)の水溶液を広口瓶に用意します。濃度は1%以上にします。容器はガラス瓶でも、プラスティック瓶でもいいです。要らなくなった陶製の花瓶や壺でもいいですが、金属製はいけません。強い酸性の液を入れますから。
寒椿(サザンカ)ですと、散り落ちた花びらを集めて液に入れます。  サザンカの花びら

垣根の奥の見えない場所に咲いている花なら、少し摘み取ることもできるでしょう。なにせ、次から次ぎに咲く花ですから。
一度に沢山集めるのは大変ですので、ぼつぼつと、少しずつ持ち帰っては入れるようにします。この花は次々と咲きます。そして、12月から2月にかけて、中部地方から西の地域で冬を彩ります。
寒椿(関西ではシシガシラともいう)は、サザンカに近い品種です。本当のサザンカは12月までに花が終わるのですが、一般には寒椿のことをサザンカと言っています。花びらは一枚ずつ離れて散りますが、椿の花びらは一輪まとまって落ちます。また、寒椿のように花を沢山つけることはありませんので、椿の花は使わずに鑑賞に専念しましょう。
なお、春近くになってから咲き始める春椿の花もこの方法に適しません。

つつじは咲き始めの頃は鑑賞だけにとどめます。開花時期が終わりに近くなると、ポロポロと萼から抜けてラッパの形で落ちてきます。
その頃になると、ポリ袋をもって公園に行きましょう。
木のまわりに一杯ラッパが落ちていますよ。特に雨上がりの後なんかはね。あまり傷んでいないラッパを拾い集めます。
葉っぱに乗っているものもあります。萼から抜けているものは人目を憚る必要ありません。落ちてゴミになるのは時間の問題ですから。

花びらに対する液の量は、目方にして3倍ぐらいです。花びらを瓶に詰めて、液を注ぎ、棒でよくつつき、詰めた花びらの上辺が液にやっと漬かるぐらいの量です。
ときおり混ぜ返し、数日経ったら花びらを搾って捨てます。液の色が苺ジャムのような濃い赤色になったら出来上がりですが、淡いと思う場合は材料が足りません。追加して抽出します。濃い液を作るためには、同じ液に追加して入れることです。ぎゅうぎゅう詰めでも構いません。材料を多く入れたためにpHが上がってくる(酸が薄くなる)ようでしたら、酸を追加します。
充分に液の色が濃くなったら、花びらを捨てて液を冷蔵庫で保存します。酸性が強いので、冷蔵庫で保存するとかなり長持ちします。

さて、液の準備ができたら絹のポケットチーフを染めてみましょう。液の量は絹の重量の50倍で充分です。つまり、10gのハンカチを染めるのでしたら、500mlです。これで真っ赤な寒椿(サザンカ)の色が染められます。
染める前に、80℃ぐらいのお湯に10分間ぐらい入れて、水ですすいでおきます。
水気を切ってから、準備した液に入れます。2・3度混ぜ返してから、液の上に被染物が浮きでないよう気をつけてそのまま放置します。
あとは、時折見に来て、混ぜ返します。半日か1日経ったら、食塩を被染物と同量程度量って入れ、溶かします。
そしてまた、同じように浸け染めを続けます。
丸2日以上は浸け続けましょう。
寒椿と同じ色に染まったら、軽く水洗し、絞らずに陰干しします。

木綿やウールを染めたい場合は、最初に80℃ぐらいまで温度を上げて、混ぜ返しながらその温度で30分間染めます。その後、放冷して1・2日間、絹の場合のように浸け染めします。食塩は始めから入れておいてもよろしいです。
バラ色程度には染まります。

朝顔ですと、赤花種がいいでしょう。紫色、青色の花もよいはずです。  朝顔

筆者は大輪咲きの種を園芸店で買ってきて庭に植え、(無論、プランターでもよい)その5株から、一日に20ないし30輪の花を夕方摘み取り、浸け込みを何日か続けて所要の抽出液を得ました。
午前中は鑑賞するのです。
色素抽出、染色の方法など、寒椿のときと全く同じです。

このページの最初に、「うつろう色というが苦しき」という万葉集の歌を引き合いに出しました。
アントシアニンの色は、光に弱いので、染めたあと、使わないときはポリ袋に入れて暗い場所にしまって下さい。
強い酸性の液で安定だった色素は、アルカリで変色します。したがって、洗うときは中性洗剤を使い、お酢を少し入れてすすぎ洗いをして下さい。

万葉人の嘆きを解消したいと思い、染色堅牢度を少し上げる研究をしました。
鉄明礬の0.5%溶液に染め上がった布を冷液で30分つけてから水洗します。きれいなアントシアニンの色が茶褐色〜ボルドー色に変わりますが、一度乾燥させてから再び前と同じように染めます。
つまり、鉄明礬で中媒染をするわけです。
そうしますと色は再びアントシアニンの美しい色に戻り、なお幾分濃く染め上がります。
そして、堅牢度もよくなり、紅花染めの色よりも丈夫になります。
(鉄明礬は材料店で売っています。薬局に入手を頼まれてもよいでしょう。安全な薬品です。)
 

    左:朝顔染め   右:寒椿染め
追記: 操作が最も安易で、安全であり、且つ、省エネルギーで環境汚染対策にも適しているこの方法を見つけるのに.8年もかかりました。今となって思えばコロンブスの卵のようなものです。
同じ方法で、赤紫蘇の葉、茄子の皮(どちらもアントシアニン色素の材料)などで染めることが出来ます。赤紫蘇の場合は、スーパーマーケットで売っている梅酢に浸けて色素を抽出されてもいいです。 
 
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