名阪カラーワーク研究会の
ミニ染色講座(7)

 
 
藍の生葉染め

6月の声を聞くようになりますと、畑の藍がよく育ち、そろそろ一番刈りをしてもよい時期になります。
藍の生葉染めは多くの人がやっておられますが、このページでも当方で行っている方法をご披露しましょう。

当方が育てている藍は、もう25年も前に滋賀県野洲市におられた藍染め染色家の、故、森卯一さん(当時、県の無形文化財保持者)を訪ねた折りにいただいた種から育てたもので、以来、毎年、種を保存して栽培を継承していますが、品種名はわかりません。
森さんは自宅近くの畑で藍を栽培し、刈り取った葉を土蔵の中に積み上げて寝かせ、すくもを造り、藍建てを行っておられました。
その当時の和紙の藍染めは、京都桂離宮のインテリアに使われているそうです。

「延喜式」という古文書によれば、平安時代の絹の藍染めに生葉染めが実用されていたと考えらえます。
私達も生葉の藍で絹を染めてみましょう。

育った藍の根元から15〜20センチぐらいから上の部分を刈り取って材料にします。残した茎からはまた芽が出て育ち、ひと月もすればまた刈り取れるようになります。
刈り取った藍は、まず茎と葉を分けて、葉のみを用意します。蓋をしておけば丸一日は持ちますし、ポリ袋に入れて冷蔵庫で保存すれば1〜2週間持ちます。このとき、冷やしすぎないようにします。
 
    生育したアイタデ 生葉をミキサーポット
に七分目、水を加える
 ジュースは洗濯用のガードパックに移す

 

台所のジュースミキサーを使い、葉を砕きます。
必要とする葉の量は、被染布の10〜15倍量が目安です。
ミキサーのカップの7分目ぐらいまで葉を仕込み、水をひたひたになる程度入れ、1分以内攪拌して藍ジュースをつくります。
染色容器は琺瑯またはステンレス製かアルミ製が最適で、ハンカチ一枚ならボールで、布量が多い場合には寸胴鍋で、染めます。
目の細かい洗濯用ガードパックのチャックを開いて容器の中におき、藍ジュースをパックに移します。
藍ジュースの量は、被染布の100〜150倍が目安です。
必要な液量になるまで、葉を何回にも分けて藍ジュースをつくり、パックに注ぎ終わったらチャックを閉めます。
被染布は絹布です。あらかじめソーダ灰でアルカリ性にした50〜60℃のお湯で10分以上処理して濯いでおきます。

藍ジュースに準備の出来た被染布を入れて染めます。
手袋をしないと手が染まりますが、ゴムや塩ビは染まりますので、市販のヘアダイ、ヘアマニキュアに付属しているような薄いポリエチレンの手袋が最適です。
ガードパックはときおり押さえたり、絞るようにしながら、葉に含まれた藍成分を絶えず抽出するような気持ちで染めます。
 
パックのチャックを閉め、絹布を入れて染める。
パック内のアイ汁を時折揉んで絞り出す。
広げて空気に当てる。

温度は室温でもよいのですが、染めながら少し熱を加え、お風呂の温度ぐらいまで上げて染め続ける方が濃く染められます。おそらく、葉の中のインジカンをインドキシルに変える酵素の働きが活発になるのでしょう。
したがって、熱をかけないのならポリ容器でも染められます。

染色を30分程度で終わり、布をひきあげ、ひろげて吊し、乾かない場所で空気に曝します。30分程度経ったら、かるく水にくぐらせ、再び広げてつるし、乾かない場所で空気に曝します。30分程度おいて水洗し、広げて吊し、乾かします。

二度染めする場合は、翌日以後に同じ手順で行います。
最後に染め上げた日の、翌日以後に、60〜80℃のお湯で処理をしますと、色が冴えます。

生葉染めの化学
藍の葉に含まれる主要な色素は、藍色素インジゴの素になるインドキシルですが、それにブドウ糖が結合した形のインジカンという配糖体で存在しています。

インジカンは水溶性で無色ですから、目で見ても存在がわかりません。(葉の緑色は葉緑素によるものです。)
このインジカンは葉の細胞から外に出ますと、共存していたインジカナーゼという酵素(こうそ)の働きで糖が離れ、インドキシルになります。
インドキシルになると、酸素(さんそ)が働いて、分子同志が二つ結合し、水に不溶の藍の色素、インジゴができるのです。
インドキシルは絹に吸収されるので、絹繊維の内部や表面で青色のインジゴに変化すると考えられます。

 インドキシルは不安定な成分で、1時間も放っておくと不溶性のインジゴに変わるので染まらなくなります。 なぜ、インドキシルが不安定なのか。原因をインドキシルの分子についてしらべますと、分子全体に拡がっている電子の密度が偏っていることがわかっています。 つまり、電子密度の濃い部分はマイナス(-)の極性が強く、電子密度の薄いところは逆にプラス(+)の極性が強くなっているため、電位的に不安定で、こういう状態の分子を双極分子(双極子)と言います。

 一方、絹のようにタンパク質からできた繊維は、アミノ酸がつながった構造をしています。アミノ酸はプラスとマイナスの両極を持っているため、タンパク質の繊維には水中でプラスイオンの部分と、マイナスイオンの部分が生じます。 インドキシルの双極分子は、イオン化している絹にすごく惹かれるのです。 つまり、プラスイオンの部分に(-)の極性が惹かれ、マイナスイオンの部分に(+)の極性が惹かれるために、絹にしっかりと引き寄せられることになります。
 それに対し、木綿や麻の繊維分子はイオンを持つような化学構造になっていませんのでインドキシル分子を引き寄せる力が乏しく、そのために染まらないのです。
 

[藍の生葉に含まれている酵素を検定する実験]
 試薬として求めたインジカン(インドキシル-β-d-グルコシド)の水溶液に、絹布を浸したビーカーを二つ用意しました。
Aのビーカーに、ガラス棒の先から生葉の汁を一滴落とそうとしているところです。この汁に酵素が含まれているはずです(下左写真)
落としてから5分ぐらいしますと酵素の働きでインジカンがインドキシルに変わり始め、絹が青く色づきます。(下中央の写真)
30分も経ちますと濃い青色に絹が染まりますが、片方のビーカーに入れた布は白いままです。(下右の写真)
わずか一滴の生葉の汁だけではこんなに濃く染まりません。したがって生葉の汁に含まれていた酵素が試薬のインジカンに働き、糖を引き離してインドキシルに導く役割を果たしたことがわかります。
 
 このモデル実験は麓が行い、「生藍染めの染着機構について」と題した論文を、財団法人覚誉会(文科省所管)の繊維染色研究所論文集「葆光」第1号(1989年4月)に掲載しました。実験画像のコピーおよび転載もフリーではありません。
 
 

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