名阪カラーワーク研究会の
ミニ色彩講座(5) 
  色差の話
            XYZ色度図    旧ミノルタ(株)計測事業部編 「色を読む話」 より
 

体験談

昭和29年。米軍がまだ本土のあちこちに基地を持っていた頃のことでした。筆者は染色工場にいました。あるとき、米軍の調達部に納入する染色加工を依頼されました。
驚いたことに、色見本が添えられておらず、注文色は、Y:6.04 x:0.335 y:0.345 と書かれており、許容される色の範囲は Y:6.77 x:0.337 y:0.349まで。色差は、NBS単位の2であるというのです。
 当時のアメリカと日本との、色彩管理レベルの格差を、まるでほっぺたを叩かれるような思いで受けとめました。  カルチャーショックというやつです。
 今と違い、日本に測色器が設置してあるところは大学か研究所に1基あるかないかの程度で、あったとしても真空管式の、どでかい分光光電光度計で、設置場所は専用に一部屋があてがわれているほどの貴重機器であることも後でわかりました。
 染色工場にそんなものがあるはずがありませんし、XYZ系表色の知識も不十分でした。筆者がCIE表色系の勉強を本気でやりだしたのも、実はそのときがきっかけだったのです。
さて、色見本なしでは目に訴える目標が何もないので、闇夜に手探りとなりました。。
交渉の末、やっと糸ひとすじほどの色見本をもらい受けました。注文色は米軍の戦略色でお馴染みのOD色(オリーブドラブの略称です:それは腐ったオリーブの実を踏みつぶしたような色という意味)でした。
カラーマッチングを始めたのですが、試し染めをした度ごとに、当時の大阪工業技術試験所に持ちこんで色のデータを出してもらうという試行錯誤だったのです。1件あたりの測定料も安くはありませんでした。
 当時の試験報告書の控えが一通、手元に残っています。試し染めの測色データがY:4.92 x:0.338 y:0.367となっていて、注文色との色差はNBS単位で4.7であるという結果です。
これでは許容色差を、2倍以上も越えていることになり、このときの試染品は不合格だったのです。
関係者達の目で見て、ほぼ大丈夫かなと思って持って行ったサンプルのデータがこれですから、どんなに厄介な仕事だったか、ということです。
人間の目が器械に比べて、如何におおざっぱなものかということがわかりました。
 

測色の必要性

日常的な測色法は目測です。
色を識別する目の能力はおそらく何万色にも達するでしょう。
しかし、残念ながらそれを表現できる言語は非常に少ないのです。
色彩に対する素晴らしい感性を持ちながらも、色名を数種類しか持たない少数民族もおりますし、現に我々の祖先も、色名が赤青白黒の四種類に限られていた時代がありました。
昔の沖縄の人達は、黄色を「あおい」と言っていましたし、表現する言語もまちまち、色知覚の個人差もさまざまです。現在でも緑色を青いという人はいます。朱色のことを、緋色と言ったり、茜色と答える人は少しもおかしくありませんが、なかにはそれをオレンジ色という人もいるでしょう。
したがって、聞いた方にも当然混乱が起こるし、聞いた人が想像する色もまた、その人がイメージする色になってしまうのです。
 もっと確実に、客観的な表現方法や伝達する方法がないか。
マンセルや、オストワルトのように、記号で表現する方法は言葉に感性的な響きはないけれども、たしかに、色を系統的に区分することができます。
しかし、それでもなお、ピタリと一致する色票は無いことが多く、目測による以上は微妙な識別の差が出てきます。
野球のストライクゾーンには基準があります。しかし、審判による判定は微妙に違っていて主観が交錯し、その日の体調によっても違うそうです。だから、判定をめぐってよく揉めてるじゃありませんか。 ときには乱闘騒ぎまでおこったりして。
 それに、色票自体が、色素を使う色刷りであるため再現性が完璧ではないし、経日変化で色の劣化がおこるのは宿命的です。そして、色票の数に限りがあります。
こう考えるてくると、正確な色管理には、もっと、精細で、客観的な方法、すなわち測色器でデジタルに表現する必要があることに気付きます。
 

測色器の種類と測定方法

分光測色式
 物体色を測るには、光を物体に当てる必要がありますが、その光を波長ごとに分光して入射するのが分光測色です。
分光とは、連続したスペクトルの光を波長ごとにとりわけ、それぞれの波長の単色光にすることです。
昔は分光をするために、ご存じお馴染みのプリズムを使いましたが、今はほとんど回折格子というものを使います。分光するときの波長区分の巾は、透過色では1nmづつ、反射光では5〜10nmづつがよく使われます。

たとえば、白色光源ランプに含まれる400nmから700nmまでの光を、順に1nmづつ、401,402, 403…、ととりだすために、プリズムを1nmごとに回します。得られた単色光を物体に当てます。
波長ごとに物体が吸収した残りの透過光、または反射光のエネルギーを、グラフにつなぎ合わせてスペクトル曲線を描きます。
 光のエネルギーの測定によく使われてきたのが光を感知する光電管で、光を電流に変換してくれる真空管ですが、昔は装置全体の電圧や電流回路のすべてに真空管が使われていたため、スイッチオンから測定開始まで1時間ぐらいのウオーミングアップが必要でした。
今の測定器の内部はパソコンと同じように集積回路になっていますからそれほどの時間は不要です。
また、手動でプリズムや回折格子を回転させる手間も省けて、400nmから700nmまでの分光測色も自動的にスキャンできるようになり、グラフも書いてくれますので大助かりです。
 
さて、そうやって測定した値から前回の講座でお話しした、CIEの三刺激値XYZを計算するのには、各波長ごとにきめられている係数を掛けます。
それは等色関数といわれ、刺激を色として受けとめる係数と、照明光の強さの係数とを掛け合わせた、波長に関する関数です。
たとえば標準光源のCを照明に使ったとします。(注:標準光源にはA,B,C,それにD65があります)
そしてスペクトル反射率曲線から読みとれた500nmの反射率が55%だったとします。
500nmにおける関数は、Xについては0.052ですので、55×0.052とします。(注:この計算例では10nm間隔でつくられたMac Adamの係数表が必要です)
 このようにして、400nmから700nmまでを10nm間隔ですべて計算し終わると、全部足し合わせて、Xの値が出せるのです。
YとZも同様にして求めます。つまり、波長ごとに計算した値を最後に合計するのが分光測色法でXYZを計算する方法なのです。(つづく)
 
 
リンゴを測定しているハンディタイプの分光測色計
    旧ミノルタ社編「色を読む話」 より
 
 
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