名阪カラーワーク研究会の
ミニ染色講座(3)

紅花で染める

 
    
1. 紅 花 Carthamus tinctorius(紅花の本場、米沢で栽培されているトゲのある品種) 2. 黄水を漉す。 この後、炭酸カリで紅色素を溶かし、クエン酸で中和する 3. セルロースパウダーに紅色素を吸着させて漉す。これを再びアルカリで溶かす
4. クエン酸で中和してから染める 5. 荒裁ちした布をそれぞれ染めて干す。手前は黄水による試し染め 6. 染め布を繋ぎ、湯伸しをして仕上げる

日本の紅花
 紅花はアザミに似たキク科の植物です。原産地はエジプト、東洋へはインドを経由してもたらされたと言われています。
日本には、飛鳥時代に大陸から渡来したようです。
古くから紅色を染める染材として知られていますが、漢方薬としても著名です。漢方薬局で薬草を配合してもらい、帰ってから開けてみると、紅花の花弁がよく見つかります。布袋に入れて煎じると、袋の布がピンク色に染まった記憶があります。
それから、忘れてならないのは、口紅の原料としての紅花です。

日本では山形県の県花になっており、最上(もがみ)地方の特産でした。米沢藩の財政を支えていたのです。
最上紅として知られ、昔は大量の紅花が船で最上川を下り、さらに日本海を船で運ばれ、京都に送られて京紅の原料になりました。
紅花染め研究家、鈴木孝男さんを米沢に訪れたのは、30年も前のことですが、案内していただいた畑の紅花は、ほとんどが化粧品会社の所有でした。

知らない人が紅花の名前から想像すると、花は赤い色をしているように思われがちですが、黄色、ないしはオレンジ色に見える花です。
姿はアザミに似て小さな花が集まっており、咲き始めは黄色で、日が経つとだんだん赤色を帯び、接近してよく見ると、小さな花の黄色と赤色が混じっています(写真1)
夏に切り花として花屋さんの店先に出るものには棘(とげ)が無く、扱いやすい西洋種です。東洋種の紅花にはアザミのような棘があるので、産地の山形では、朝露の乾かない早朝の、棘がまだ柔らかくて指に痛くない時間帯に花を摘みます。
大抵の草花が茎の根元の方から咲き始めるのに、この花は茎の上端から蕾が開きます。そのために末摘花(すえつむはな)といわれ、その風雅な名前は源氏物語でお馴染みです。

紅花の色素
 黄色の花が日が経つにつれて赤くなると言いましたが、色の変化とともに色素に変化が起こっています。
カルタミンという黄色の色素が、カルタモンという赤色の色素へと、だんだんに変わるのですが、花を摘み取った段階ではまだ十分に変化が進んでいません。その上、サフラワーイエローという、黄色の色素も沢山混じっています。
この黄色の色素は、摘み取った花をその日のうちに水洗いして圧搾機にかけ搾り取ります。絞った液を黄水(きみず)と言っていて、食用色素や、絹の黄色染めに使います。

さて、黄水を搾った後の紅花は小さな団子に丸め、押しつぶして煎餅のような形に延ばし「紅餅」にします。これを筵に並べ、筵をかぶせて発酵させたのち、乾燥させますと、発酵作用でカルタモンが増えて赤くなります。口紅の原料には最適で、取引はこの形で行われてきました。
しかし、栽培して自分でつくる以外、今ではなかなか手に入りませんので、中国から輸入される乱花(摘み取った花をそのまま乾燥させたもの)を使用しても染めることは可能です。写真でお見せしている紅花染めには染材店から取り寄せた乱花を使っています。

絹の綸子(りんず)を染める
 乱花を使って染めるには、ポリバケツのような容器で水に一晩浸けて笊で漉し、黄水を取ります(写真2)
笊の上に残った紅花には水を注いで揉みながら黄水の成分をよくすすぎ取り、容器に戻します。そこへアルカリ性の水を注ぎます。昔は灰汁を使いましたが、灰汁の主成分である炭酸カリで代用できます。注ぎながら混ぜて様子を見ていますと、紅花の赤みがすっかり消えて枯れ草色になります。これは、赤色のカルタモンが溶けて抽出されてしまったためですので、頃合いを見計らい、笊で漉します。
漉された液の方に色素が移りましたから、笊に残った紅花は捨てます。

漉された液に酸を加えて中和しますと紅の赤い色素が析出し、沈殿して取り出せますので、口紅づくりに昔は梅酢を使いました。
梅酢は、梅の実を燻製にして黒くなった烏梅(うばい: からすうめ、と書く)からとりました。
水上勉氏の小説、「紅花物語」は、京紅づくりの秘伝が窺えるフィクションですが、検証が見事です。烏梅を使う京紅づくりの主人公は、店の奥で誰にも見せずに密かに紅をつくりますが、死の床で遂に弟子の後継者へ「月ヶ瀬の梅を使え!」と言い残します。
月ヶ瀬は奈良県の有名な梅林ですが、そこの梅を使って烏梅をつくっている家が最近まで1軒残っていました。
近頃は大抵の場合、梅酢の主成分であるクエン酸を使って中和します。始めは液中の炭酸カリと反応して炭酸ガスの泡が立ちますが、pH6ぐらいになると静かになり、液の色が赤みを帯びて染色に頃合いとなります。それ以上、酸を加えると紅色素が沈殿してしまい、染まらなくなります。

以上の工程を経ても、黄色のサフラワーイエローがまだ残存していて、絹を染めるとオレンジ色がかった紅色になります。
セルロース系の繊維、つまり木綿には、その黄色の色素が染まらないので冴えた紅色となります。
したがって、黄色色素を完全に取り去るには、一旦、綿くずを染めます。 染まった綿くずを再びアルカリ水に浸けて紅色素を溶かし、酸で中和して絹を染めると黄色みのない紅色を染めることができます。
写真3は、染材店で売っているセルロースパウダーを綿くずの代わりに使って紅色素を吸着させた後、不織布で漉したところです。これをアルカリ液に入れて色素を溶かし、クエン酸で中和して絹布を染めます(写真4)
さらに濃く染めるためには、新しく別に用意した2度目の液で、セルロースパウダーを使わずに直接重ね染めをします。

専門の染色家は反物に鋏を入れずに染めますが、場所を選ばずに簡便に染めるには、あらかじめ採寸し、荒裁ちして短かくした布を染めます(写真5)。 乾いてから繋ぎ合わせて元の長さとし、湯伸しをして仕上げます(写真6)。その後、本裁ちすればよいのです。

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