時は過ぎ、2007年。

 

旅を続ける黒兎の前に、黒いマントの男が現れた。

 

その傍らには、黒兎にカメラを託し、息絶えたはずの道化師が立っていた。

道化師は涙を浮かべながら、小さい声で一言、

「助けて…」

と呟いた。それを聞いた男は持っていた鋼のムチで思い切り道化師を叩きつけ蹴り飛ばし、硬い踵で道化師の顔を踏みつけながら黒兎の方へ視線を向けた。

「やっと出会えたね、黒兎くん。」

不自然な笑みを浮かべながらその男はそう言い、道化師を踏みつけたまま言葉を続けた。

「コイツが随分と世話になったようで…私としても申し訳ないと思っている。ちょっと目を放した隙にコイツは大事な鍵を…!!」

話しながら男はまた道化師を忌々しそうに睨みつけ蹴ろうとするので、黒兎は慌ててそれを制した。
これ以上、道化師が痛めつけられる図など見たくない。

道化師を助け起こしながら、黒兎は男に聞いた。

「あなたは、誰?」

男は遠くを見ながら答えた。

 

「私は…禁域(Forbidden Ground)を治めし者…」

 

 

禁域…それは、一部の者のみが入ることを許された特別な空間。
知る者も多くない。その支配者が何故?

男は黒兎のカメラに視線をやり、言った。

「さぁ、コイツから奪った鍵を返してもらおう」

「奪った!?」

思わぬ誤解に驚いて大声を出す黒兎。その様子を見て道化師が泣き出した。

「ごめんなさい…僕が…僕が悪いんです…僕が勝手に渡しただけです…奪われたんじゃなかったんです…。
僕…どうしても上手く写真が撮れなくて…素敵なコスプレ写真が撮れなくて…逃げたかったんです!!」

支配者と名乗る男が、明らかに不愉快そうに目を細める。

「どうか、この人を責めないで下さい…。カメラは今すぐお返しします!」

道化師を庇いながら言う黒兎に、男は静かに口を開いた。

 

「君は…知らないだろう。禁域のルールを」

 

「禁域の一部は…コスプレ写真で成り立っている。その写真が補充できなければこの世界は崩壊するのだよ。その為にも、コイツは写真を撮らなければならない。
なのに、この有様だ。

この役立たずのせいで…禁域は消えるかもしれない。
主に嘘をつき、息絶えたフリまで…そして託した者すら悪者に仕立て上げる。それでも君はコイツを責めるなと言えるかい?小さなウサギさん。」

返す言葉など、見つからなかった。

男は泣き続ける道化師の髪を掴み無理矢理立ち上がらせると強い口調で言った。

「お前の仕事だ」

 

道化師は黒兎からカメラを受け取り、俯いたまま小さな声で「ごめんなさい」と呟いた。
そして、そのまま男に引きずられるようにして来た道を戻っていった。

 

「ちょっと、ちょっと待って!」

二人の背中に、黒兎が叫ぶ。

「僕がやります!!道化師さんの代わりに僕が写真を集めます!」

男が振り返る。

「その代わり…道化師さんを自由にしてあげてください…」

道化師が顔を上げた。カメラを持つ手が震えている。

男はカメラを道化師から取り上げ、過去に撮影した写真をチェックし始めた。微かに微笑む。

「…まぁ良いだろう。ウサギさんがどこまで出来るのか、私に見せてもらおうか」

そう言うと、カメラを黒兎に渡し、道化師にはめていた首輪を外した。
その途端、道化師の顔に笑顔が溢れる。

「有難うございます!!本当に有難うございます!!この恩は、必ず返します!!」

男はうれし泣きする道化師に冷たい視線を送り、溜息をついた。

「ただし…このカメラにおさめてある写真はコイツを解雇する代償として預からせてもらう。ゼロからのスタートとなるが…良いな?」

黒兎は力強く頷いた。

 

 

これからまた、新たな旅が始まるのだ。

 

小さな幸せと素敵なコスプレ写真を求め、黒兎はカメラを片手に歩き始めた。。。

 

 

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