1. J.K. ローリング『ハリー・ポッターと賢者の石』
2. ロバート・J・ソウヤー『ターミナル・エクスペリメント』
3. 稗田阿礼、太安万侶『古事記』
4. 鮎川哲也『赤い密室 名探偵・星影龍三全集-I』
5. 鮎川哲也『青い密室 名探偵・星影龍三全集-U』
6. 清水義範『こちら幻想探偵社』
7. 深谷忠記『「太宰治の旅」殺人事件』
8. ならやたかし『ケンペーくん』
9. ジェームス・D・ワトソン『二重らせん』

J.K. ローリング『ハリー・ポッターと賢者の石』

松岡佑子訳, 静山社, 1999

1999年の12月に買ったのに、すでに20刷、2000年2月になっている。さすが魔法の本。 ダンブルドア校長が学校に隠しているものが何かはすぐに判ってしまうのだけれど、 最後にどんでん返しの仕掛けがある。童話だと思って油断してはいけない。 ハリーの境遇は悲惨の一言、なのに、ユーモラスな描写が物語を明るくしている。 不幸な少年の涙の苦闘物語にならない(しない)作者の筆力に感心した。 ハグリッドと買い物に行く場面なんて楽しくてうきうきした感じが伝わってくる。 空飛ぶ箒に乗って 4つのボールを使うゲーム、クィディッチの描写も素晴らしい。

ハロウィーンの日に三頭犬がスネイプ先生の足を噛んだ事件の顛末は、 なんか説明不足ですっきりしない。 クィレル先生はトロールが来たことを広間に伝えて倒れていた。 その後、スネイプ先生は4階にいって立ちはだかったそうだけど、、、

炎を通り抜けるための薬を探す七つの瓶のパズルは、第三のヒントに出てくる 瓶の大きさが書いてない。 ここはイラストを入れて読者にも考えさせて欲しかった。 頭の体操、ちょっと自分でどんな配置になっていたのか考えてみよう。


問題「七つの瓶が一列に並んでいる。その中に、黒い炎を通り抜けて前進する薬☆と 紫の炎を通り抜けて退却する薬★を見つけなければならない。ただし、毒薬×が三瓶、 イラクサ酒○が二瓶混じっている」
ここでは左から瓶を[ABCDEFG]と名付ける。
【第一のヒント】「毒入り瓶のある場所は いつもイラクサ酒の左」
【第二のヒント】「両端の 二つの瓶は種類が違う」そして前進の薬☆ではない。
【第三のヒント】小さい瓶と大きい瓶には毒薬は入っていない。
【第四のヒント】「左端から二番目と 右の端から二番目の 瓶の中身は同じ味」

【第一のヒント】によると、毒薬とイラクサ酒の瓶の位置関係は [?×?×?×?○?○?]であって、? のどこかに☆と★が入ることになる。 したがって、ABCは、○ではなく、DEFGのうちの二つが○で、FGは×ではありえない。
【第四のヒント】は、B=Fである。
【第一のヒント】から、Bは○ではなく、Fは×ではない。 したがって、BとFは、☆か★なのだが、、、同じ味と言うことは広義に解釈して 「炎を通り抜けるための薬」ととればいいのだろうか。 しかし、これだけのヒントでは、☆と★の位置を特定できない。 ちなみに、作中でハーマイオニーが出した答は、G=★(丸い瓶)で、☆は「一番小さい瓶」だ。 このままだと第一のヒントと第四のヒントと矛盾してしまう。 第一のヒントの解釈が違うのかな。 著者はどう考えていて、原作ではどうなっているんだろう。 「ハリー・ポッターの謎」とかいう本は出ていないのだろうか。

■□■□■□■
という質問を、netnews で発したところ、Asran さんから回答を頂きました。
次のように解釈すれば謎は解けるのでした。

【第一のヒント】「毒入り瓶のある場所は いつもイラクサ酒の左」

第一のヒントで×は○の左と書かれているため [×○C××○G]と、なります。ただ×が○よりも一瓶多いので ×は○のすぐ右には来ないという考え方でやってみました。
確かにそう読まないと解けないようです。 原文を読んだ方からも教えていただきましたが、
First, however slyly the poison tries to hide,
You will always find some on nettle wine's left side;
となっていて、直訳すると「いくつか(some)の毒瓶は、イラクサ酒の左側でいつも見つけるだろう」 ですから、イラクサ酒の左側に位置していない毒瓶があっても良いことになります。 右隣に位置するのを禁じているかは微妙ですが、[×○]が二組あると解釈しましょう。 すると[×○C××○G]以外にも[×○×D×○G]が考えられます ([A×○××○G]、[×○××○FG]は【第四のヒント】に反します)。
【第二のヒント】でも、解釈が微妙です。
Second, different are those who stand at either end,
But if you would move onwards, neither is your friend;
となっているので、私は「どちらの端(either end)にある複数(those)の瓶は種類が違う」と読み、 「A≠BかつF≠G」と解釈したのですが、「A≠G」ととっても良さそうです。 幸いなことにどちらの解釈でも結果的には OK。
なぜまらば、G=★(ハーマイオニーの答)から考えると、 [×○C××○★]か[×○×D×○★]となっているはずだからです。 【第三のヒント】により☆が「一番小さい瓶」と判るのだから、CかDの位置に一番小さい瓶 が置いてあったのでしょう。

potter.JPG 原作の第一作ペーパーバックスで無事に入手。
Thomas Taylor のカヴァーイラストはちょっととぼけたハリーのイメージ。 (口のあたりは水木しげる風ですな。)
第二巻『ハリー・ポッターと秘密の部屋』も入手しました (BLOOMSBURY出版、カヴァーイラストは Cliff Wright、 どちらもYOHAN が輸入していて1250円でした)。
第二作では、夏休み、ダーズリー家で例によっていじめられているハリーのところに精霊がやってきて、 学校に戻ると危険だとハリーに忠告するところから始まります。このあと、ダーズリーおじさんを 怒らせて二階の部屋に監禁(!)されたハリーをロン兄弟が空飛ぶ車で助けに来ます。 続きはこちらで。

ロバート・J・ソウヤー『ターミナル・エクスペリメント』

内田昌之訳, ハヤカワ文庫, 1997

コンピュータを使ったSFで、人間の魂について考えさせられる作品。 主人公のピーター・ホブスンは、大学院生の実習で臓器移植の手術に立ち会って 最近日本でも話題になっている脳死の問題に直面する。

本当の死の瞬間はいつなのか。そして、中絶の問題。人に魂が宿るのはいつなのか。 さらには、動物には魂はあるのか。 ピーターの開発したスーパー脳波計が魂の検出に成功したことで、これらの問題に 答が与えられる。それを発表した時の社会的な反響は興味深い。

ピーターは、友人のサカールが開発した ニューラルネットで自分の疑似人格を三つ作る。 このあたりから話は途方もなく飛躍していくのだが、ここで この作家は夫婦の危機を描くのである。 妻キャシーの不倫。ピーターは相手のハンスに対して激しい憎悪を抱く。 疑似人格ではその憎しみは歯止めを失い、殺人につながる。 後半はその犯人探しのミステリーになる。 思うに、SFという一般になじみにくい素材を料理するために、もっとも身近な 夫婦の問題を織り込むというのが手法化されているのかもね。 奥さんの靴が玄関に何足もおいてあるのに文句をつける夫、なんて あまりにも日常的な視点に涙が出そう。身に覚えがありすぎる。 精神分析がストレートすぎ、環境と性格のリンクが直接過ぎとは思うけど。


心に残ったフレーズ

「ユーモアとは、予期せぬニューラルネットの突然の確立なんだ」

稗田阿礼、太安万侶『古事記』

倉野憲司校注, 岩波文庫, 1963

梅原猛さんは『古事記 現代語訳日本の古典1』(学研, 1980)の 後書きで『古事記』がすぐれた文学であると言っている(「文学としての第一級の味わい」)。 それはどうかな? 私の感覚では、下品、卑劣、女性差別、非合理。あんまりよみたくない本である。

国生みでは、女性が先に「まあ、いい男」なんていうのはよくないとされる。 神々の世界では、熾烈ないじめがある。スサノオミコトは、娘の婿を蛇の部屋に寝かせる。 コノハナサクヤヒメに出会ったニニギノミコトの言葉は、下品である。 「吾汝に目合(まぐはひ)せむと欲ふは奈何に。」とは奈何に。 この男が日本の天皇家の元祖なのだ。 さらにニニギノミコトは、イワナガヒメに失礼なことをして、 その呪いで天皇家は神の寿命を失うのである。 天皇家がこの本を焚書にしなかったのは、 本居宣長が解読するまで意味がわからんかったからであろう。 古い大事な本だと信じて大切にとっておいたんだろうな。

さらに、ニニギノミコトはコノハナサクヤヒメの子供を認知しない。 自棄になったコノハナサクヤヒメは、 火に包まれた産屋で出産する。産まれた三兄弟、真ん中はもう 出てこないけど、上と下の子があの海幸彦、山幸彦。 お兄さんの釣り針をなくした山幸彦の物語になっていく。 トヨタマビメとの出会いの記述も、わけわからん。 玉を口に含んで、水瓶に入れるとくっついてとれなくなるって、なんざんしょ。意味不明。 ヤマトタケルなんて非道いだまし討ちばかりしている。 女装してクマソタケルを討ったり、友達のふりをして偽の刀を持たせて イズモタケルを倒したりした。 また、騙されて殺されかかる。火あぶりにされかかったところを逃れて、 逆に国造たちを皆殺しにして焼いてしまう。 それでその地は「焼津」(静岡県)と名前が付く。 ヤマトタケルが白い鹿に食べ残しを投げると、目に当たって鹿が死ぬ。 それで、「吾妻はや。」といった場所が、今のつくば市「吾妻」だそうだ。 残酷でちっともわからない由緒である。 その後、ミヤズヒメとの婚礼では、着物に月経の血が付いていることをネタにしょうもない 歌をやりとりする。なんだかなあ。先人方には悪いと思うけど、 もうちょっと上品なお話を残してくれよ。

古事記を歴史の記述として解釈している人もいて、それなりに面白い。 佐藤寿哉『わかりやすい「古事記」入門』(日本文芸社, 1991)では、 稲葉の素兎の節を、 ウサギとワニをシンボルとする部族が戦って、オホムナジが調停したと読む。 古代のセンスはよくわからない。

鮎川哲也『赤い密室 名探偵・星影龍三全集-I』

出版芸術社, 1996

表題作「赤い密室」のトリックはさすがであるが、描写が古くさい。 これを読むと、最近の“新本格”と呼ばれている作品群がなぜ“新”なのかわかる。 「呪縛再現」の大学生は、大学に進めるのがエリートだけという世界なので そのプライドがかえって新鮮である。星影龍三はここでは狂言回し。

鮎川哲也『青い密室 名探偵・星影龍三全集-U』

出版芸術社, 1996

『赤い密室』はなんか古くさい作風だと思って読んだのだけれど、『青』に納められた 作品は全然古びていない。鮎川さんの才気が開花している感じ。 こんなこともあんなことも、みーんなやってるんだから凄い。脱帽いたします。

「薔薇荘殺人事件」は見事な騙しのテクニック、 読者への挑戦を暗号化するのもやられたなあ。

清水義範『こちら幻想探偵社』

朝日ソノラマ, 1999

幻想探偵社シリーズって、西澤さんが神麻嗣子の超能力事件簿シリーズを書くのに 影響を受けたと言っていたので一度読みたかったんだけどみつからなくって、 ホンと幻だったのが15年おいての文庫で新しく出たので入手できました。宇宙人が出てくる。 月に隠した宇宙船はもう使わないのかな。

深谷忠記『「太宰治の旅」殺人事件』

ケイブンシャ文庫, 1999

元の題は「北津軽 逆アリバイの死角」(講談社ノベルス, 1990)。 いわゆるトラベルミステリーで、時刻表をにらんで犯人の行動を推理する。 どこか覚えのあるコンビが出てくると思ったら、TVドラマになっていました。 「萩・津和野殺人ライン」は、この作者の作品でした。 作者は東大理学部の卒業。探偵役の黒江壮が数学者というのも作者自身の反映か。 とらえどころのない事件の輪郭から地味な推理で犯人を絞り込んでいく。 ある動機を仮定して、犯行と矛盾するからある人物が犯人ではないと言う 論理は数学的である。 それにしても後味が悪いね。だって、一番悪い奴がなんの罪にもならんのだもん。 「ケンペーくん」にでも成敗して貰いたいものだ。

実はこの作品、古本市で買い込んだ十冊くらいの中の一冊なのだが、 すぐに読まずに袋に入れて部屋の片隅に置かれていた。 後日読もうとしたら、たしかに買った記憶があるのに、袋の中に見つからない。 これが文庫本消失事件である。買ったつもりで置き忘れたのかもしれないとあきらめた。 が、さらに後日、別の袋に入った十冊くらいの古本の中に発見。なんだこれ、 と思い出すと、、、そう、古本市は二日あって、二日とも十冊くらい買い込んだのだ。 あまりにも似たような行動を繰り返したので記憶が混じって、一回だと思っていたが、、、

ならやたかし『ケンペーくん』

幻冬社アウトロー文庫, 1999

唐沢俊一さんが「トンデモ怪書録」で紹介していた超過激漫画である。 作者は軍国主義の復活を望んでいるわけではなく、バカな若者を何とか したい、なんとかしなくてはと憂いているのだ、と思う。けどすごいね。

ジェームス・D・ワトソン『二重らせん』

江上不二夫/中村桂子訳, 講談社文庫, 1986

2000年になった。諸般の事情から、DNAの変異部位を検出する研究に関わることになった。 世の中ではゲノムプロジェクトといって、あと数年で人間の全遺伝情報を解読する勢いである。 年末の特別番組でもDNA研究の最前線や特許戦略などが取り上げられていた。 全情報が解読された後は、個別の遺伝情報の差がどこにあるのかという問題に重心が移る。 病気治療などに役立つと考えられるからだ。 例えば、癌化した細胞のDNAは正常細胞のDNAとどこか違っているのだが、その位置を 突き止めることが、目標の一つである。 というわけで、DNA構造の発見物語は読んでおかねばならない。

ワトソンは16歳で大学に入った天才である。25歳でDNAの仕事を始める。 一方共同研究者のクリックは苦労人である。 ワトソンの筆では、自分の優秀さを描写していないので、 こういう予備知識がないと、ただの若造に便宜をはかる研究者仲間の態度が よくわからないかもしれない。ワトソンにとっては、自明のことだったし、 謙譲の気持ちもあったのだろう。

学習マンガなんだけれど、 長沢宏明、中村雅浩作、大野史画、渡辺正雄監修 『ワトソン&クリック 生命のパズルを解く』(MARUZEN COMICS, 丸善, 1994) を合わせて読むと、イメージが具体的になって人物関係がよくわかる。 まさしくパズルを解くおもしろい仕事だ。 ポーリングとの競争と女性研究者ロザリンドの不幸は、 このノンフィクションを普通の小説よりも面白くしている。



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[濫読の戒め]

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