ゴジラ操演日記 7月

 最終決戦地 横浜


 7月1日 (日)

 おやすみ、おやすみ。

 7月2日 (月) 撮影40日目。

 9時開始9番ステージ、今日はバラゴン関係のグリーンバック。

 始めに大湧谷のロングショット「奥の森が揺れている」というカットから、バラゴンが森の中を歩いているわけだがまだ姿ば見えないわけだ、大きめのヒムロ杉をいっぱい植えて人がこれを揺らす、これを本編が撮影してきた箱根の実景の一部に合成するわけだ。

 昔はこういうカットってのはめったになかったし、あってもその部分だけが違和感ありまくりのおかしな絵になったりしたものだがデジタル様のおかげでこういうカットが実にうまく合成されるようになった。
 紙焼きの写真の切り張りがフォトショップでの合成に変わったようなものといえばわかっていただける方もあるだろう。

 その後実際にバラゴンを入れて歩かせる、観光客入れ込み(アホな観光客がバラゴンと記念写真を撮ろうとするカット)用など含めて3カット。

 その後はロープウェイのそばに出現するバラゴン、およびゴンドラから見た(至近距離を横切る)バラゴン。

 このあたりも操演的にはヒマである、バラゴンは尻尾吊りがない分ゴジラよりもっとヒマと言ってよい。

 夕食後になってやや操演らしい仕事、2度目の噛みつき攻撃を仕掛けたもののゴジラの尻尾にはたかれて遠くに飛ばされるバラゴンの吊りである。

 下絵のゴジラを撮ったのはいつのことだったろう(←と遠い目をしている暇に調べろよ)え〜〜と、おおちょうど1ケ月前の6月2日ではないか。

 といっても別段なんということもない吊りで悩んだり苦労したりはしない、ただ時間だけはかかり本日は22時終了。

 7月3日 (火)

 9時開始9番ステージ、撮影的にはモスラの繭関係、ヘリショットや実景に合成されるブルーバック、ナイター用の黒バックなどだが操演部の出番はない、と言うよりこの日は特撮プールに水中上下台を仕込むためにスケジュールを調整してもらって出番ナシにしてもらったのだ。

 水中上下台とはゴジラが護国三聖獣のオーラだか怨念だかにまとわりつかれて水没するカットに使う一種のエレベーターだ、同じようなものは何度も作ったことがあるし、陸用のものは今でもビルトのオープンでウルトラマンの出現にしょっちゅう使われている、水中使用ものはティガのダイブハンガー、ミカヅキの出現等で使われたことがあって要領はわかっている、わかっているのだが今回は少々取り組みが違う、なぜといえば人を乗せて水中に沈めたことはなく、万が一にも事故があればババチンの命にかかわるからだ。

 そのためうまくいけば午前中に、多少時間がかかっても午後早くにはセッティングは終わるだろうという読みではあったのだが、時間に追われて何かしら見落としや手違いが生じることのないよう今日は丸一日手を空けてもらってあるというわけだ。

 まずはプールの深み部分にH鋼を戻す、モスラの出現の時足場となったものだが、これは池田湖のボート転覆シーンの撮影のために本編班の手で取り払われしまっていたのである。

 5メートル角の深み部分にたいして6本平行に差し渡されるべきH鋼を5本だけ戻し、1本抜きの部分、幅2メートルのすき間上下台を落とし込むという寸法だ。

 しかしこの特撮プールの深い部分の設計やH鋼の固定方法がその場のノリでやったとしか思えない適当なもので、H鋼一本一本の長さが場所によって全部違いしかも「向き」があり、しかるべき位置に入れたあともH鋼の下になにか噛ませないと水平が出ないという信じられない物なのであった、しかもH鋼自体は玉がけしてクレーンで吊る以外動かし様もないハンドリングの悪い(重い)代物であったため、この戻しだけでえらく時間を喰ってしまった。

 H鋼が戻ったあとはむしろ簡単で、クレーンで吊り下げられた上下台をすき間に入れる瞬間が一番緊張したが(と言うのもなにしろ3ヶ月以上前にスケールで採った寸法だけをたよりに設計施工したもので、サイズ的にシビアな作りだけに何か間違いがあって入らないなんてことになったらヤバイという心配があったし、万一H鋼にぶつけたりこすったりしてフレームがゆがんだりしたらコトであるし)無事入り、鉄骨の固定方法やワイヤーの取り回し、滑車の位置などが図面で検討したとおりにピタリと納まって、私的にはかなり「やったぜ!」という感じではあった。
 (が助手連は「そんなの当たり前だろう」と思っているのでこの達成感を分かちあえる人間はいない、まあ私が普段偉そうに口だけで仕事しているのはまさしくそのためなので「そんなのは当たり前」なのは当然なのだが)

 うまくすりゃ昼メシ前に全ての水中作業は終了するだろう、いやさせたい、という希望であったのだがH鋼戻しに時間がかかりメシ押しタイムになってしまっていた、水に濡れている人々は一度着替えてメシにしてまた着替えるというハメになって面倒なのだが仕方ない昼メシにする、今日も今日とてメチャ暑いのは救いであるが。

 午後。

 さてプール外にはレンタル会社から来たフォークリフトがある、フォークは通称「踏み台」という鉄骨の上に乗っている、踏み台に滑車を固定し上下台から伸びてきているワイヤーを通す、ワイヤーはフォークの爪に固定する。
 爪を上げるとワイヤーが引かれ上下台の台車が上昇してくるという仕掛けだ。

 油圧は強力でなめらかで、スピードコントロールが出来て、重いものを持ち上げるのには最適なのだが、その一方維持管理が面倒なので自前でシステムを持つのはもう止めてしまった。
 かわりに今はそのたんびにレンタルのフォークリフトを呼んでいる、フォークはスピードや揚程(爪の上がる早さや高さ)最大荷重などその時々の用途に応じて色々なタイプの物が選べるので非常に便利だ(しかも、いつでもどこへでも整備済みのものが届けられる)

 台車の様子は水上からでは見えないので芯木を2本立て、2本のワイヤーの張りが均等であるかテストをする、台車が一番下のストッパーで止まっている時(ワイヤーがゆるんでいる時)からじわじわとワイヤーを巻き上げていくと短い方のワイヤーが先に効いてそっち側の芯木が先に動く、これがまったく同時に動くようにターンバックルで調整していく。

 まずまずOKとなったところでウエイトを一杯載せ本番よりはるかに荷重がかかった状態で上下させてみる、次に上田が乗り素もぐり状態のままながら沈んだり上がったりしてみる、振動とかきしみとか何か悪いことが起こっていないかどうかは人間が乗ってみる以外調べる方法はないからだ。

 もしここで何か起こっても(何か、というのは台車が脱線して動かなくなる、ワイヤーが切れて台車が下まで落ちる、の2つ以外ないだろうが)上田にまず危険はない、彼は台車の上に乗っているだけで下ではほとんど体重がかかっていないからだ。

 しかし本番時のババチンは違う、着ぐるみを着て台車に乗るわけだが沈み始めは着ぐるみに浮力がかかる可能性があるし、水の勢いもあるし、何もしなければよろめいて台車から足を踏み外したりする可能性がある、それは危ない、というのことで着ぐるみをしっかりと台車に縛り付けてしまうのだがそれはそれでとても怖い。

 もちろんババチンはスキューバのマウスピースをくわえているのだが、沈んだところで台車が動かなくなったらと思うと私としてはお尻のあたりがゾクゾクする。

 というわけで念入りにテストを行う、どうせ今日は他にすることはないのだ。

 午後遅くになってまずOKだろうということになった、本番は、まだ先なのでフォーク側はバラす、台車も下に降ろしてせっかく調整したワイヤーだがこれもゆるめる、1ケ月先の本番まで水中で錆びるにまかせるかと思うと嬉しくないのだがこんなヒマな一日はこれから先では取れそうもないので仕方ない、何事も起こりませんようにと祈りつつ仕掛けを水中に放置する。


 今日は22時30分終了、もちろん操演部は以後は全然ヒマだったわけだ。

 <適当にはしょって先を急ごうと思ったのにこれまた長いぜ>


 7月4日 (水)撮影42日目

 9時開始9番ステージ、今日は氷穴のキングギドラから、氷穴のシーンはクランクイン直後に何カットか撮ったがそれはギドラ単独の絵で今回は自殺男が床下(氷下)のギドラに気が付いておののくカット。

 これは本編が先に芝居を撮る必要があるので後回しになっていたものだ、自殺男の絵はそういうわけで本編班が撮影したものがすでに手元にある、撮影データーも渡されている、特撮側はミニチュアセットをズームバックで撮りその自殺男をマッチムーブして(ズームに合わせて)縮小しながら合成することになるわけだ。

 本編は斜め上から撮っているのでこの見下ろし角度は特撮側で合わせなければならない、ズームバックするということはカメラはけっこう離れたところにいるということで、リアルに撮ろうとするとカメラは相当上に昇らなくてはならない、イントレを何段も組めばいいようなものだが合成処理が入る都合上カメラが微動だにしてはまずい、高い俯瞰台を固定するのは手間がかかるので、発想の転換でセットを斜めに作る、見下ろし角度に合わせてセット傾けて作ればカメラは単に床の上を水平に離れるだけで済むわけだ。

                   /\
                  / /   ←カメラ揺れる
                  \/
                   /|\
                  −−−−−−
                  |    |
                  |    |
                  | イ  |
                  | ン  | ←不安定
−−−−−−−−− 氷       | ト  |
                  | レ  |
 ギドラの首            |    |
                  |    |
−−−−−−−−−−−−床−−−−−−−−−−−−−−−−

↑これはセッティングが大変なので





  
     \ ←氷                    
      \                 __
       \               [__]  ←カメラ揺れない
 ギドラの首  \               /|\
         \             / | \
−−−−−−−−−−−−−床−−−−−−−−−−−−−−−−


↑とい
うことにするわけね


 操演部的にはギドラの首をしかるべき位置に固定するだけでなんということもない・・・というか実はスジ論を言うならこれは操っているわけでも演じているわけでもないので操演部の仕事かどうか疑問のあるお仕事ではある。
 たとえばの話これが「ギドラの壁画がある岩壁が見える」というシーンであれば操演部は手を出さない、この場合岩壁をセットするのは大道具のお仕事になるだろう。
 
 ギドラだとつい手を出してしまうのは操演部が着ぐるみにシンパシーがある(?)ためと、人の入っていない着ぐるみを運用するのは自分たちであると反射的に思うせいだが実際にはこれは造形部の仕事であると思う。
 まあ動くように仕込むのも動かないように固定するのもやることは同じで、でかくて重い巨大ギドラ首を固定出来る機材と技術を持っているのは操演部だけなのだが。

 ということでたまにスジを通してよそのパートにこういう作業をまかせたりすると力学的に無理のある仕掛けを作り始めたりするので見ていてイライラがつのり、結局手を出して2度手間になったりするので普段から時間のゆるすかぎりは操演部が引き受けるという方向になっているのだ。

 (ところで、仕事は出来る人間がやりましょうという方向性は基本的には正しい、つまらないセクト主義は時間とお金のムダだ、が時には政治的に立ち回らないといけないこともある、こういう時に「ハイOK!」と軽く引き受けていると、まわりがそういうものだと思いこんでしまう、造形部にホントはそっちの仕事なんだからな、とか演出部にまず造形部に発注してから操演部にお願いしますという段取りを踏めとか言っておく必要はある。 
 以前何の映画であったか操演部の出番のない筈のロケの予定表に操演部の入り時間が書き入れてあったので演出部に何するんだと聞いたところ、ロケセットのビルの壁面に看板を吊るんですという、吊っていることがバレないようにピアノ線で吊るので操演部の出番です、と言うので心得違いもはなはだしいと怒ったことがあった、普段飾りの吊り物がある時に手伝っていたのをあたりまえと思いこんだ演出部と装飾部がピアノ線を扱うのは全て操演部の仕事だと思ったらしいのだ。

 あたりまえの話なのだが「看板を取り付ける」のは一にも二にも装飾部のお仕事であって、使う材料が両面テープなら装飾、針金でも装飾、でピアノ線になった途端に操演の仕事になったりするものではない、現場にいれば手を出すし、現場に居ない日だけどもどうしても来て欲しいと言われれば行かないとも言わない、しかし無条件でそっちのお仕事と言われるスジではない、これはわかり安い例だが境界があいまいな作業は映画製作の中には一杯あるのでいい顔ばかりしているわけにはいかないということもあるのだ)


 ともかく操演的には楽なカットであったこの氷穴だが美術部的、照明部的にはなかなかでセッティング完了して昼、本番が回ったのは午後3時30分であった。

 次はいよいよ氷を割ってギドラが顔を出すカット、5月に一度テストしてこりゃだめだということで仕込み直しになったものだ、仕込み直しといっても「割れ氷」を改めて作る予算などない、氷を支える鉄骨の形が少し変わったくらいだ。
 
 シーソーのごとき仕掛けに大首ギドラを固定して氷の下に差し込んで・・と思ったら改造したセットの支柱がジャマで首が入らない、なんのこっちゃという感じだが操演部の見るところジャマしている鉄骨は無くても問題なさそうなので、というか問題あっても首が入らないのでは撮影にならないので、もし問題が出たらその時改めて対策を考えることにして、高速カッターでぶった切る、問題はない。

 なけなしの予算で作った割れ氷は幅が4尺しかない、ゴジラはシネマスコープ(ワイドスクリーン)であるため両脇がバレないようにフレーミングするとカメラアングルの自由度がほとんどない。
 本番は一発OKとなったが非常に良くてOKと言うよりはこのフレーム、このアングル、この仕掛け、このセット、つまりは「この予算」ではこれ以上は無理だろうということでOKが出たとしか私には思えなかった、ちょっとさびしい。

 
 今日の予定はこれで終わり、しかし、明日の「駐車場に落ちてくるバラゴン」のセッティングを時間までやらされる、「時間まで」というのは送りを出さなくてすむまでということで、つまりはもうこれからはどうあっても早くは帰れないということなのだろう、まだ一ヶ月以上もあるのに・・・・。

 22時30分終了。


 7月5日 (木)撮影43日目

 9番ステージ9時開始、今日はブルーバックでゴジラにふりほどかれたバラゴンが駐車場に落ちてくるカット、バラゴンは人無しだ。

 何でブルーバックかというと奥にゴジラ、中間にバラゴン、手前に駐車場ではピントが苦しいからだ。
 「手前の駐車場」はリアルな世界では3〜40メートル先にある、たいていのカメラでは(人の目でもそうだが)無限遠でピントが合う距離だ、もちろんその向こうにいるバラゴンやゴジラにもピントが合っていて「パンフォーカス」(画面全体にピントが合っている)状態にある、実際現実世界に怪獣が出現すればそれは人が見ても、カメラが捉えても全てパンフォーカスな絵になるだろう。

 ところがミニチュアではそうはいかない、被写界深度(ピントの合っている範囲)はカメラに近くなるほど狭くなるからだ、1/24のミニチュアを組めば30メートル先は1メートルくらい先になる、1メートルの位置にピントを置いたときの被写界深度はきわめて狭い。

 *ここで被写界深度について述べる必要を感じるのだが過去にこれについて詳しく書いたことがあり、もう一度書くのは面倒なので引用することにした


 被写界深度とはピントが合っている範囲ということだ、理屈でいえばピントというものはフィルムから等距離の(厚さゼロの)面と交差している物にしか合わない、しかしその前後には「ピントが合っていると見なしてよい」範囲がある、これを被写界深度という(たしか理論上無限小に収束するべき光がフィルム面の対角線の3/1000以内におさまる範囲−だったと思うが昔習ったことなので忘れた)

 まあ「実用上このくらいなら許せる範囲」ということだ、この範囲が広いことを深度が「深い」といい、狭いことを「浅い」ともいう、そして被写界深度には4つの特徴がある、それは。

 1・ピント面の手前より奥側のほうが広い
 2・望遠より広角レンズのほうが深い
 3・絞りを絞るほど深くなる
 4・ピント面がレンズから遠くなるほど深くなる 

 ということである、この場合重要なのは最後だ、これについては人の目でも同じことで鼻先につきだした指を見ようとすれば背景の窓はボケてしまうが、窓にピントを合わせれば、窓の外の雲にもピントが合う。
 コンパクトカメラを見てもらっても良い、ピントの目安としてたいてい「人の上半身」、「3人並んだ記念写真」、「山」、の模式図が描いてある、つまりバストショット=2メートル、とフルショット=10メートルはたった数メートルの差でもピントをいちいち合わせる必要があるが、遠くなれば30メートルでも1キロでも関係なくなるのだ。

 つまりこれはある程度以上離れれば、人(やカメラ)は見ているもの全てにピントが合うということだ、この見えているもの全てにピントが合っている状態をパン・フォーカスという。

 さてGW(ガッツウィング)が実際に存在したとして、これが既存のジェット戦闘機程度のサイズがあるとすれば、全体が見渡せる位置から見たこれはパン・フォーカス以外ありえない、コックピットを見ると奥の翼がピンボケだとか、機体にはピントがあっているけど空はボケているなどということはない。

 しかしミニチュアはそうはいかない、GWがカメラ前1メートルほどのところに置かれた場合、被写界深度は紙のように薄い、コックピットにピントを置けば手前の翼端も奥のそれもボケボケになり背景などは何が映っているのかさえ判然としなくなるだろう。

 (模型雑誌の読者投稿写真が今ふたつなのはこのせいであることが多い、実物と寸分たがわぬ紫電改もコックピットにしかピントが合っていなかったら興ざめである、ガンダムをせっかく宇宙バックで撮影しても被写界深度が浅ければ星はぼやけてにじんだ丸にしか見えない)

 本物は絶対こうはならないので被写界深度という言葉を知らなくともおかしなことは誰でもわかる、ではどうするか?

 一つはミニチュアを大きく作ることである、「2001年」のディスカバリー号は全長16メートルあったという。

 もう一つは絞りを絞ることである、絞れば絞るほど被写界深度は深くなるので、被写体のうちどうしてもピントがあってなくてはならない部分がおさまるまで絞り込めばいいのだ。
 しかし絞った分だけ余計に光を当てなくてはならないが光量を上げるのには限界がある、ミニチュアの場合(そもそもスペースの関係で)ライトがそう多くは並ばない、さらにはこれ以上あてるとミニチュアが熔ける(!)という事さえあるのだ(「ガメラ」でライトをあてまくったあげく、接着剤が熔けてミニチュアが崩壊し、セッティングのため現場に頭を出すと髪の毛が焦げ臭くなって来る、ということがあった)

 この場合シャッタースピードを遅くして光を補う手もある、しかしスチール写真なら必要なだけシャッタースピードを遅くできるが、ムービーはそうはいかない。

 ムービーカメラのシャッターとはフィルム面の前でくるくる回っているスリットの入った円盤である、これが光をさえぎったり通したりしているのだ、1/24秒で撮影する映画の場合この円盤も1/24秒で回転し、円盤が光をさえぎっているあいだにフィルムは1コマ分送り出され、光が当たっているあいだフィルムは静止し(露光され)、またシャッターされているあいだに1コマ送り出されるということを繰り返している(そんなことが1秒のあいだに24回行われているかと思うとちょっと信じられない、ハイスピード撮影になるとこれが100回以上になるわけだがもっと信じられない)

 さてこの円盤は半月型の円盤2枚で出来ていて、これをずらすことによってスリットの幅を変え、結果シャッタースピードを変えることができる。

 たとえば2枚の円盤を90度ずらすと、口を開けたパックマンのようなスリットが出来る、これを回せば一周360度のうち90度、つまり1/4回転だけ光を通し、3/4回転のあいだは光をさえぎることになる、1/24秒でシャッターは回転しているので1/24の1/4つまりシャッタースピード1/96秒ということになるわけだ、この場合「シャッター開角度は90度である」という。

 シャッター開角度を30度にすれば30/360掛ける1/24秒で1/288秒になる、早いシャッター速度を作るのは簡単なのだ、しかし遅いほうはどうか?

 シャッターが180度の円盤2枚を重ね合わせて出来ている以上、シャッター開角度は180度以上にはならない、映画が1秒24コマで撮影されている以上シャッター速度は1/48秒以上遅くは出来ないのだ。

ウルトラ日記 「ウルトラマンティガ THE FINAL ODESSY」 10月25日(月)より

*引用終わり


 いいだろうか? つまりはミニチュア撮影ではパンフォーカスが基本だがそのための被写界深度を確保するのは難しいということだ、今回はこれに加えさらに悪条件がある、それはコマ数だ、バラゴンは駐車場に落下してきてあたり一面を破壊するのでハイスピード撮影をする必要がある、ゴジラでは通常の撮影からしてすでに3倍なのだが出来ればもっと上げたい、しかし3倍に対応している現状からさらにコマ数をあげ、さらに絞るなとということは不可能だ。


 結局奥のゴジラから手前の駐車場まで全て被写界深度に含めるのは難しいということになり、「ホリゾントとゴジラ」(奥グループ)「バラゴンと駐車場」(手前グループ)を分けて撮り、ピント合わせなければならない範囲を狭めようということになったのである。

 この場合奥はそのまま撮り、手前はブルーバックで撮って合成されることになる・・というわけでブルーバックなのだ。

 バラゴンは奥から手前に、空から地上に落ちてくる、これを実現するため9番ステージ名物「ゴンドラ」を使用する、これは9番ステージの中央、上部通路の下に作りつけられた空中移動車である。

 レールはH鋼で出来ていて縦になったH→エの下部分を台車が走行する仕組みだ、ガントリークレーン(倉庫の中でX−Y軸で走行するクレーン)の横方向の台車と思えばいい(と言ってもピンと来る人はそうはいませんでしょうが)

 これを何で「ゴンドラ」と呼ぶかと言えば台車の下に人が数人ばかりも乗れるような箱を取り付けカメラマンが乗って俯瞰撮影をしたり、吊った飛び怪獣の羽を操ったりすることが多くあったかららしいのだが私はよく知らない。

 ワイヤー親線という似たようなものはビルトでも日活でも大映でも(ウルトラのTVでも映画でもガメラでも)使っている、それは9ミリ程のワイヤーをギリギリと張ったもので重いものを吊って飛ばすことが出来るのは同じだ、しかし「ゴンドラ」に出来てワイヤー親線に出来ないことが一つある、それは横から引っぱることだ。

 ワイヤー親線はいくら強く張っているとは言え両端でしかとまっていないので台車がワイヤーの中間にあるとき横に引けばたわんでしまう、台車に滑車をつけて物を吊ったとしても横からそれを操作しようとすれば揺れてしまって使い物にならないのだ、ところがゴンドラは「エ」の字の上部が全長に渡って天井に固定されているので横から力を加えても横には動かない、従って台車に滑車を付け吊ったものを横から操作することが出来るのだ。

 何故これが重要かというと、バラゴンは落ちて駐車場を破壊するので正確で確実な着地をしなければならないからだ、駐車場は石膏製なのでNGを出そうものなら再セットするのにえらい時間がかかることが予想される。

 台車の移動はザイルを引いて(人力で)行うわけでそれに加えて上下も手動にしたのでは危なくてしょうがない、2人のタイミングがちょっとずれただけで手前に着地したり奥に着地したりしてしまうからだ、「いいところ」はピンポイントしかなく針に穴を通す正確さが必要なのである。

 そこで上下を自動化する、といってもなんのことはなく滑車を通してバラゴンを吊り、吊ったザイルの端を地面に固定しておくだけだ、固定してある地点が台車の前方であれば台車が前進するにしたがってバラゴンが下がっていくことになる。



エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ レール
   −−−−−−−
  |_______| 台車  −−−−−−→ 台車ひっぱりザイル
      ○ ←滑車
     |  \
     |   \
     |    \
     |     \
     |      \ ←ザイル
    バラゴン     \
              \
               \
                \
                 \固定
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−床
                  


    ↑スタート前    スタート後↓



エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ レール
        −−−−−−−
  移動→  |_______| −−−−−−−−−− → 引く
           ○
          |  \
          |   \
          |    \
          |     \
          |      \
      下がる |       \
       ↓  |        \
          |         \
         バラゴン        \固定
−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−


 
 こうしておけば前進した距離と下降する距離は一定で、ゆっくり台車を前進させようと早く引こうと着地地点は変わらないので着地ミスというNGを出す心配だけはなくなる。

 ところでこの仕掛けの場合、ザイルを床に固定してある位置が台車の進行方向前方であるとき一番バラゴンの落下距離が長い、台車の進行に対して落下する割合が一番多い、とも言えるが、つまり一番急角度で落ちてくる。

 固定位置をすこし横方向にもっていくとこの割合が減っていって緩やかに落ちることになる、もし固定位置が台車の真横、進行方向と90度の位置であれば台車がいくら前進してもバラゴンは落下してこない、つまり固定位置を0度から90度の間のどの位置を選ぶかで好きな落下角度を選ぶことが出来るのだ。

 「特撮の絵作りは計算なんかでは出来ない、カメラをのぞいて決めるしかないのだ」とダグラス・トランブルも言っている、見て「いいところ」をさがしていく余地を残すというのは非常に重要なことなのだ。

 (余談になるが、オタキング岡田斗司夫が「オタク学入門」で「ゴジラ対デストロイヤー」のスーパーX発進シーンについて触れ、「スーパーXはカタパルトから発進後一端沈みこむように飛ぶべきだった」と言っている、航空母艦から射出されたジェット機が一瞬沈みこむ効果を狙うべきだと言う主張であるがこれはまあ一応OKとしよう。

 しかし「そのためにはレールを曲げなければいけない。もちろん、特撮監督はじめ現場スタッフはそのことを知っていたはずだ」というのだが、これは大間違い。
 
 そもそも親線が固いレールだと思っているのが間違いの第一歩なのだが、固いレールを決め打ちで曲げて作って来て、もし「もうすこし沈みこんだほうがカッコいいね」となったらどうするのだろう。
 レールを一から作り直すのだろうか? では後日改めてとなってセットを組み、レールをセットしカメラを据え、のぞいて見て「沈みこみの量はこれでいいけど再上昇のカーブはもっと緩やかなカーブがいいねえ」となったらどうしろというのだろう? 更に後日か? 
 特撮屋はそんなことはしない、特撮はカメラをのぞいてナンボなのだ、調整代のない仕掛けを作ってくる奴はど素人だ、この場合機体の上下が必要ならモーターを使った巻き上げ装置を台車に積むだろう、それで台車が重くなりすぎるようならあるいは「固い」レールを使用するかもしれないが、少なくともそれを曲げようとする操演技師はいない。

  岡田氏はアニメの出身でそちらについては間違いがないのだろうがよく知らない分野について口を挟まないほうが良いと思う、この部分に関していえば「とんでも本」のレベルまで落ち込んでいる、技術チェックを受けていないのだろうか)


 ということでザイルの固定位置でバラゴンの落下角度は調整出来るということだが、これは「ゴンドラ」ならではの技ということになる、ワイヤー親線だと外部から力をかけても揺れない方向は親線の前後方向だけしかないので自由度がないのだ。

 ああでもないこうでもないとテストを繰り返し落下角度を調整する、おおむねOKとなったところで監督から「始めは体が立っていてだんだん寝てくるようにしたい」というリクエストが出た、バラゴンは背みせで(後ろ向きで)落ちてくるのだが、空中では頭が上にあるが、駐車場には背中から(腹が上で)着地したいということだ。
 
 バラゴンは前2点、後2点の4ケ所を前後2本のザイルにまとめて吊っていたのでこれは簡単だった、つまり前と後ろの落下速度を変えればいいということだ、体が立っているスタート姿勢を基準に考えれば、前が後ろより早く落ちてくればだんだん寝てくることになる、後ろより早く落ちるということは後ろのザイルより浅い角度でザイルを固定することで実現出来るわけだ。

 石膏板なしでテストを繰り返しOKとなったところで、美術部が飾りにはいる、バラゴンの落ち込むべき穴におがくず、砂を積め、上に石膏板を敷き、色を塗って駐車場のラインを引く、ガードレールを置き、ミニチュアカーを配置し、植栽する。

 16時30分、本番。

 落ち方についてはともかく、駐車場の破壊の感じはやってみなくちゃわからないのでどうかな?と思っていたのだが一発OKとなった。

 このあと更にブルーバックで飛ばされるバラゴン、これはゴジラの尻尾にはたかれて報道ヘリにブチあたる方だ。

 今度は野蛮なことはしないので太田嬢入りである、吊りベルトをつけさせ着ぐるみごと吊り上げる。
 動きはさしてなく、横吊りからやや体を起こす程度で操演的にはなんということもない。

 別段のこともなく22時本番、次は森の中を前進するバラゴン、これまた何ごともない。
 重たいカット(というのは操演の出番の多いカットという意味だったりするのだが)から先にやるというのがたいていの特撮助監督の方針なので(元気なうちに大変なカットをやってしまおうということだ)一日の終わりの方は楽であることが多い。

 0時終了、これで太田嬢の全ての出番が終わったことになる、お疲れさまでした。
 俺たちはまだ先が長いけどね。


 7月6日 (金)撮影44日目

 9番ステージ9時開始、今日は(も)ブルーバック大会だ、始めは病院(篠原ともえが入院している病院)の前を通過するゴジラ、操演部は尻尾だけ。

 つぎは立花の乗る「さつま」をつかむゴジラの左手、「カメラの上を、手前から伸びていく左手」という絵コンテになっており、着ぐるみでは撮影不可能(カメラの居る場所がない)ので肩から先しかない特製の左手を使って撮影する、さつまは合成(疑似海底の時にすでに撮影済み)で操演部の出番なし。

 つぎは海底に沈んでいくゴジラ、ドリルミサイルで肩に穴を開けられたゴジラが自分の放射能火炎でダメージを受け沈んで行くところだ、ここではゴジラに動きはないので人無しで吊る、胎児のような姿勢を作るため「コーマ」(1977年製作 マイケル・クライトン監督 ロビン・クック原作の医療サスペンス)の犠牲者のように無数の(というのは大げさだが)ピアノ線で吊る。

 次、その寄り、モニター内映像用。

 ここで夕食、メシ後は「海底から上昇してゆくゴジラがキングギドラに足をひっぱられる寄り」なんでこれ合成になったんだっけ?

 足もとが見えるわけではないので吊る必要はなく(というか寄りなのでピアノ線は使えない)もちろん尻尾も見えないので操演部は用なし。

 この暇にD-03ミサイルがつっこむキングギドラの首の仕込みをする、ミサイルはCGだがCGだけだとつっこんだ先に何の影響も出ないので、鉄のかたまりを打ち込むことになっている(CGはこの鉄の上にかぶせられる)これによって皮膚への衝撃やめくりあがるだろうウロコなどいろいろとリアクションが起こる(予定である)

 このダミーミサイルは直径10センチほど、縮尺は1/4くらいだろうか、これに合わせた巨大首が造形部によって作られているのだが、その芯であるスチロールにミサイルがはまりこむだけの穴を開けておくわけだ。

 現場はこのカットで終わりだというし、スチロール削りに操演部6人はいらないので半分を帰す。

 24時終了、私は送りで帰る。


  7月7日 (土)撮影45日目

 9番ステージ9時開始、破壊された横浜ベイブリッジのスカイウォーク(橋にある展望用の遊歩道、物見遊山で行ったことがありますがまるでおもしろくありません)からぶら下がる由里と武田、人物2人は合成でその背景となるミニチュア撮影、操演部出番なし。

 しかしカメラはアオリになるため天井に黒幕を張る必要があり(ナイトシーンなので)ワイドレンズなのでその範囲も広く、セッティングだけでもなかなかに大変、ライティングもまた大変なことのようで終了は午後3時。

 次ぎはD-03ミサイルの岩盤つっこみ、ギドラの首と同じくこれも鉄のダミーミサイルを岩盤(のつもりの石膏)につっこむ、これは一度テスト済みである。

 岩全体が揺れたのでは興ざめなので3尺×6尺のミニチュア岩盤を死ぬほど固定する、操演部はモノレールの先にダミーを取り付け、力任せに押し出すだけだ。

 以前行ったテストの結果、先端するどく質量たっぷりのダミーミサイルは恐るべき貫通力を発揮することがわかったので石膏の中にはアミが入っている、これはそうしておけばつっこんだ所以外にも力が伝わりヒビが入るだろう、入るといいな、入ってくれ、という美術部の祈りがこもる仕込みだ。

 ヒビの一つも走らないとミサイルの形にきれいな丸い穴があくだけで上にCGが乗ってしまえば何も起こっていないようにしか見えない、何も起こっていないようではNGなので岩盤は作り直しになる、3×6の岩盤製作はけっこうな手間なのでたのむから一回で成功してくれ、というわけだ。

 えてしてこういう時は肝心のヒビ以外の部分に問題が生じてNGになったりするものだが祈りが通じたのか一発でOKとなった。

 ここで16時。

 次は氷穴、氷を割って出現したキングギドラの3つの首の寄り。

 着ぐるみから首をはずしてきて腕にはめギニョール芝居をする、操るのは演出部、造形部、操演部の代表3人、こういう時は芝居っ気たっぷりの人間が必要だ。

 操演部代表はガメラ1でギャオスのギニョールをやって以来ギニョリスト(?)として定評のある上田健一、ギニョリストは芝居っ気と共に体力が必要(たいていのギニョールは重いので)その点ではむしろ上田を上回り、芝居っ気の点でも引けをとらない凄腕のギニョリストは神谷誠だったのだがまさか監督が手を出すわけにはいかない。

 野球でスタープレイヤーが監督になってみると自分の率いるチームは自分がいないチームなので(!)戦力的に見劣りがするというのに似ているかもしれない(そうか?)

 20時に終了、この週末は操演部楽勝であった。

7月8日 (日)

 おやすみ、嬉しいな。


7月9日 (月)撮影46日目

 9番ステージ9時開始、民家が戦闘機の破片の直撃をうけ爆発するカット。

 例によって破片の落下は操演部、破片に火をつけるのは特効部という振り分けになる、破片は斜めに落下してきたい、ということなのでガイド線を張ることにする、ガイドというのはピアノ線を張っておいて物を滑らせて落とすシンプルな仕掛けである。

 破片にはアメ火薬が塗られる、かなりの火力で燃えあがるはずなのでガイド線は熱で切れないよう0.8φにする、以前はこのガイド線を塗って見えなくする必要があり太いものが使えず切れやしないかハラハラものだったのだが今はいざとなればデジタル様(デジタル編集機)が消してくれるだろうという読みで太いものが使える。

 火にさらされるものはピアノ線でなく針金にせよ、という言い伝え(?)が特撮界にはあって、ピアノ線だと切れるじゃないの?という声がそこここから聞こえるが私見ではそれは間違い。
 ピアノ線を使う時は「消そう」という意識が働くのでつい細いものを使ってしまい、針金だと「もうこれは消えん」とあきらめがつくので太いものが使えるというだけだと私は思う。
 特にガイドの場合は線がたるむと物が落ちきらない怖れがあるので物の重さでたるまないようテンションを充分にかける必要がある、柔らかい針金だとより強い力で張る必要がありより切れやすいと思われるのだ、まあ思うとか思わないとか言っても説得力がないしこれは長年の常識をくつがえす意見であるので一度各種の条件でテストを行い学会(ないけど)に一例報告する必要があるだろう。


 セッティングがちっとも進まない、始めは様子をうかがっていたのだがミニチュアの位置やカメラアングルについてああでもないこうでもないと勉強会が始まってしまったので「ちょっと待て! 操演部に先に仕込ませろ」と割り込んで操演部主導で作業を開始する。
 ピアノ線の床側への固定はセット床に埋め込まれている角材の交差点を利用する以外ないので誰がなんと言おうとそこを基準にする以外ないのだ。

 ここにピアノ線を固定して破片の終点が決まる、ついでに私の思う気持ちの良い角度(そして固定も簡単な角度)でピアノ線を張ってしまう、破片にピアノ線を通し上下させて見せるとやっとミニチュアの位置が決定した。

 私の仕事のスタンスは監督のご希望通りに、カメラマンのお好きなようにというものだがカットのキーポイントに操演的要素が絡む場合、時には強引に「こんなんでどう?」と進めないとちっとも現場が進行しないことがあるのだ。

 破片のスタート位置は空中高くなるので照明部のイントレを借りる、どのくらいの火力になるのかわからないので(これが担当分離の問題点)離れたところから操作出来るストッパーを考える、まあイントレから破片そばまで芯木を突き出し、破片と芯木に穴を開け、まとめて番線を通しておくだけの簡単な仕掛けなのだが。

 美術、特効、照明は大変だが操演部的にはガイド張ったところですでに仕事は終わったと言ってよい。


 破片の終点にクッションをおいて壊れないようにしたうえで何度かテスト、本番!。
  
 民家はもうこなごなに爆散してしまうのでNGはありえないのだがともかくもうまくいったのではないかな?

 準備中にメシになっていたのですでに午後である、次は合成用のミニチュア杉(ヒムロ杉)、爆撃されたゴジラやヘリ落下炎上後のバラゴンの手前に合成される「林」の素材である。

 必要な素材としては燃えているものもあり、燃えていないものもありなので、まずはブルーバックで撮り、次に黒バックにして火をつけて撮る。一本一本単独で撮っておいてあとでいかようにも使える素材にするわけだ。

 これを何本か繰り返す、操演部出番なし。

 この後は合成用ヘリコプター。

 バラゴンの周囲を警戒して飛んでいる防衛軍ヘリをブルーバックで7カット撮る、サイズ調整や移動は合成処理で行われるのでヘリはフルサイズの止め絵で撮っておく。

 5カット回ったところで10時30分、残りは明日回しということで終了、魔の時間帯(送りは出ないが電車が無くなる)が迫るので私は飛んで帰る(あと2カット回して送りになった方が私は楽だ)


7月10日 (火)撮影47日目

 9番ステージ9時開始、昨日の撮り残しから民間ヘリとニアミスする防衛軍ヘリ。

 背景になる民間ヘリはニアミスしてあわてて逃げる風の絵を本編班が(実機で)撮ってきている、こちらは手前になる軍ヘリをミニチュアで撮るわけだ、これは実際に動いたほうがリアルに撮れるだろうということでミニチュアを回転させる。

 撮影用大クレーンの先に回転機を付け、直径2メートルくらいの円を描くように腕木を出しヘリ(と反対側にカウンターウエイト)を取り付けで回す。

 カメラは回転の中心あたりにいて、目の前を急旋回するヘリを捉える。

 次はバラゴン上空にいるヘリのアオリ、これは水平吊りだと背景が天井になるくらいアオリになるのでブルーバックの張り替えが必要かもしれないと最後に回してあったものだ。

 ブルーバックの場合対象物がないのでミニチュアを向こうに倒し、腹を見せるようにすればアオリに見えるので普通ブルーバックの張り替えなどは考えない、しかし相手がヘリの場合はそうはいかない可能性があるのだ。
 
 そもそもヘリをどうやって吊っているか考えてみられたい、飛行機の場合はたいてい両翼端と尾翼の3点に吊り点があり3本のピアノ線で吊られている、しかしヘリには翼がない、しかも上からみて機体のほとんどは回転するメインローターで覆われている、どこにピアノ線を結ぶのか?と言えばこれはもうメインローターのシャフト(とテールの2点)以外ない。

 しかしメインローターは回転している、そのまま結べばピアノ線はどんどんねじれていって、しまいには切れるだろう・・ではどうするかと言えばメインローターのシャフトを2重化して回転しない部分を作るしかない、つまりミニチュアヘリのメインローターはブレードが付いて回転する外側のパイプと回転せず機体の重量を支える内側のシャフトに分かれているのだ。

 これは微妙な仕掛けである、サイズ的にかなり小さいものなのでパイプとシャフトの間に軸受けなどはつけられない、しかしパイプとシャフトの間にすき間があればブレードは振動し2点で吊っているヘリは使い物にならないくらい揺れてしまうだろう。

 つまりこの2つの間にすき間はなくこすれ合って回っているのだ、ここでヘリを斜めに傾けるとどうなるか? 内のシャフトはパイプを回転させるメカを貫通した先、下の方で機体に固定されている、だから斜めにすれば根本にかかるねじりモーメントは大きい、これが機体の重みで曲がってしまえば外のパイプは回らなくなるだろう。

 つまりミニチュアへりはその構造上傾けに非常に弱いのだ、まあヘリというものが機体を傾けて移動するものである以上、ミニチュアメーカーも若干のバンクには耐えられるように作ってあるはずなのだが、通常ありえない角度までバンクさせてもローターが回転するかどうかはやってみなくちゃわからない。

 ということで最後に回してあったのだが、驚くべし、この軍ヘリは90度倒しても問題なくメインローターが回転した、おかげでブルーバックの張り替えをせずにすんだ、マーブリングファインアーツえらい(メカはアップアート製かな?、倉田さんえらい)

 ここで昨日分終了、今日の分はトンネル崩落現場でミサイル車がミサイルを発射するカット、背景は実景なので合成用のミニチュアミサイル車である。

 ミサイル車は動かないので白黒マスクである、まずは普通にライティングして撮り、車体に当たっているライトを全部消し後ろに白バックをおいてシルエットを撮る、このシルエットがそのままマスクになるわけだ。

 発射されるミサイルはCGだが、発射にともなう噴射煙は黒バックでこの場で撮る、ミニチュアのミサイルランチャーに特効部が火薬を仕込むわけだが、仕上がりを考えるとこの白煙が後方まっすぐに吹き出してはおかしい。

 ミサイル車は道路に添って停車しランチャーを90度近く右にひねっている、道はさして広くないのでランチャーの後ろはすぐ崖の斜面なのだ、実際その場にいるとすれば壁まで5メートルとは離れていないだろう、吹き出した煙は崖にさえぎられてすぐ上に立ち上るはずである。

 そこでミニチュアの後ろに壁を立てる、実景を取材して正しい傾斜や起伏、表面の質感なども再現すべきところだと思うのだけど板一枚だ、いいの?

 これで寄り、引きの2カットを撮る。

 ここで午後3時。

 爆撃されたゴジラの前景に合成される「弾着を受けて炎上する木々」を撮る、操演部出番なし。

 終わって21時、う〜〜ん何故だ。 

7月11日 (水)撮影48日目

 9番ステージ9時開始 やっとのことに今日からモスラ登場、2番ステージの疑似海底が終わり9番に戻ったら間をあけずに横浜決戦に行くのかと思っていたのだが、取り残しや合成素材などを延々3週間も撮っていて、どうなってしまうのかと思っていたところだ。

 いや、まあポストプロダクションの時間が激しく無いので、合成屋さんが作業を始められるだけの素材を撮らなきゃいかんのはわかるし、前半戦の取り残しは後半戦前に撮っておかないと撮るチャンス自体が無くなるおそれがあるというチーフ助監督の読みは理解できるんだけど、でも3ヶ月の撮影期間の2/3が過ぎようとしている今、撮り切れているのがタイトル外(!)のバラゴン戦だけで、売りの「ゴジラ・モスラ・キングギドラ」はほとんど手つかず、クランクアップまであと1ケ月しかないのに大丈夫なのだろうか?

 ということで始めてのモスラカット・・でも今日のモスラはCGだ(なんだそりゃ)

 ゴジラの放射能火炎を避けモスラが横浜のビル街を低空飛行で飛ぶカット、背景のビルが放射能火炎でなぎ払われて次々に爆発していく。

 これを一発撮りで(ミニチュアモスラを使って)撮ることは出来る、モスラをクレーンに吊ってビル街の上を飛行させそれに合わせてビルを破壊するわけだ、しかし爆破を迫力ある映像で捉えようとすればハイスピード撮影する必要がありハイスピード撮影にも負けない速度でモスラを飛ばすことは出来ないのだ。

 飛行機のような形態のものであればまだしも、ほとんどが羽根で出来ているモスラは自重の割に風の抵抗が大きくある程度以上の速度ではどうしても振れない、また羽根の上下も上はピアノ線で引き上げるのでそれなりの速度が出るとしても戻りは重力に依るので早めることは出来ない。

 カメラの回転スピードを双方から歩み寄った数字にすれば、結局もったりした動きのモスラの後ろでスローのかかり具合の悪い爆発が起こる(破片は目にもとまらず飛び散り、建物はスケール感のない早さで崩壊する)ことになってしまう。

 それじゃいかんということでここのモスラは合成なのだ、合成ならば背景を必要にして充分なハイスピードで撮影しその手前を高速で飛ぶモスラを合成出来る、問題はそのモスラがミニチュアなのかCGなのかということだが、ここはモスラが飛びながら横滑りして放射能火炎を避ける、という感じにしたい監督の意向によってCGになった。
 
(横滑りを体を平行に保ったまま行うのは不自然に見える、右に移動するときは右に体を傾けるのが自然だろう、しかしピアノ線の吊りによって羽ばたくミニチュアは羽ばたきながらバンクすることは出来ない、バンクすると吊り元から吊り点までの距離が左右の羽根で違ってしまうからだ)


・・・ ということはしかし操演部は出番がないということだ。

 けっこうハデな見せ場の割に我々はカヤの外のままカットは終了する、もう午後も遅い。

 次がミサイル車が横浜市内でミサイルを発射するカット2つ、トンネル前と違って今度はミニチュア込みの撮影である。

 が、ミサイル車は停まったままなので操演部出番なし。

 夕食後、ゴジラが横浜市内に初めて現れるカット、ビルの谷間を歩いてきたゴジラにサーチライトが当たる。

 今度こそ尻尾くらい、と思ったら、狭いビルの谷間のことで下半身はビルの後ろに隠れていて見えない、出番なし!

 手持ちぶさたな我々とうらはらに照明部の苦闘するカットとなった。
 数個のサーチがビル街を探索していたと見るや、ビルの谷間にゴジラが顔を出し、サーチがゴジラに集中してその体をなめ回すというカットだ。
 しかしそのサーチを手持ちで振っている照明部とババチンの息が合わないと当たっている光の輪がゴジラの体からはずれてしまう。

 このカットカメラの視点は低く、ゴジラをあおりで捉えている、前にも言ったと思うが広さの割にホリゾントの高さがない9スタではアオリの絵はホリゾントの近くでしか撮れない、今回もセットはホリゾント近くに組まれている、夜空は黒幕だ、絵で見れば無限の彼方にある空は実はセットのすぐ近くにある、そのためゴジラにあたるべきサーチがはずれると、黒幕に当たってしまうのだ(!)

 光が当たっていなければ夜空にしか見えないそれは強いサーチに照らされるとたちまちツギの当たった黒い布であることを露呈してしまうのだ。

 というわけでサーチを体から外すわけにはいかない、と言ってあわただしくゴジラを照らしているという雰囲気は出す必要がある。
 
 はずしてNG、
 サーチの動きがおとなし過ぎてNG、
 サーチどうしがシンクロしてNG
 良いところに当たらなくてNG

 なんということもないカットと思われたがNG12テイクを出す難度最上級のカットになってしまった。

 21時30分に終了、みなさんご苦労さま、うちらはまるで暇だったけどね。

7月12日 (木)撮影49日目

 9番ステージ9時開始、昨日の続きで今日こそはモスラ(ミニチュア)の初日だ。
 
 1カット目はランドマークタワー上のモスラを威嚇するゴジラのアップ、これはたいしたことはない。

 2カット目についにモスラを吊る、カット内容は「モスラ、ゴジラの頬を羽根で横殴りして飛び去る」 モスラが頬をなでたところでゴジラがどうなるものでもないと思うのだがまあ挨拶程度ということなのだろう。

 カメラ用の大クレーンを特機部から借り、さらに鉄骨でアームを延長する、とりあえずノーマルに吊ってみる、ノーマルというのはモスラの肩(?)2本、尻尾(?)1本の3点で胴体を吊り、左右の羽根1本づつの計5本で吊るという意味だ。

 吊って飛ばしてみるが予想どおりダメ、ゴジラは原則として3倍程度のハイスピードで撮影されている。重量感を出し、人間らしさを消すテクニックなのだが飛び物などが絡むとこれはやっかいだ、素早く飛びたいとなれば「素早く見える速度」の3倍の速度で飛ばさなくてはならないからだ。

 昨日のビル爆破とからむモスラはそれゆえ1発撮り(合成などをせず現場で全ての要素を撮り切ること)しなかったわけだが、昨日は10倍近いハイスピード撮影、そんな速くもないこのカットくらいは撮りきりたい、ともかくモスラの出番を全て合成にするわけにはいかないのだ。

 というわけで、かなりの速度でクレーンを振らなくてはならないのだがそんなスピードで振ると遠心力でモスラが外に振られバンクしてしまう、飛行機などではこれがむしろ自然に見えるのだがモスラは困る、というのは羽根が別の線で吊られているからだ。

 羽根を吊り上げているピアノ線は手元で1本にまとめられている、引けば羽根は上がりゆるめれば下がる、言うまでもないだろうが左右のピアノ線の長さは同じだ、つまり左右の羽根の吊り点はクレーンの吊り元から同じ距離にあるということだ、だから左右の羽根は常に平行になっている、そこで胴体だけがバンクしたらどうなるか。

 たとえば左カーブで飛んでいて胴体が左バンクしているとする、左肩は下がっているのに左羽根は下がらないので持ち上がっているように見える、逆に右肩は上がっているが右羽根は左羽根とおなじく平行を保っているので下がって見える、という形になる、非常にギクシャクとしたおかしな姿勢だ、ここで羽ばたけばなお変に見えるだろう、つまり胴体がバンクしてはいけないのだ。

 そこでバンクしないような手だてをする、バンクは遠心力で胴体が外に振られることから起こるのでこの振れを規制する、具体的には肩と尻尾の吊り点2ヶ所からクレーンの内側に向かってピアノ線を張るわけだ、このピアノ線によってモスラは外方向に移動しないのでバンクを押さえる効果があるわけだ。

 再びテスト、確かにバンクはしなくなったが妙な振動が出ている、細かい左右のブレだがどうもこの揺れ止めピアノ線が原因らしい。

 よく観察してみる、この揺れ止めピアノ線は外側への振れだけを規制するもので内側への振れに対してはフリーだ、だから何かの加減で内向きの力が発生するとモスラは内に振れる、振れたものは揺れ戻る、しかし中立より外へ行こうとした瞬間に揺れ止めピアノ線が効いてガツンとストップする、反動で再び内に振れる、振れたものは戻る、ストップがかかってガツンと止まる・・・ということの繰り返しらしい。

 内側への振れ止めも作らなければならないらしい、ということで先と同じく肩と尻尾から外に向かってピアノ線を2本張る。

 またまたテスト、振れ、振動についてはおおむね良い、しかし羽根を羽ばたかせると体全体に妙な前後動が発生する。
 これはどうやらこういうことだ、吊られているモスラの胴体を真横から見ると肩と尻尾の2ヶ所から上にピアノ線が延びている、上には吊り点と同じ間隔で吊り元がある、つまり下の吊り点2つと吊り元2つで立て長の長方形を形成しているわけだ、吊り点も吊り元もピアノ線はただ結ばれているだけなので前後左右に自由に振れる(左右の振れ止めピアノ線のおかげで今は左右には振れなくなっているが)すると動き出しと止まり際に前後揺れが発生するのだ。

 これは物に慣性が働く以上やむを得ないことではある、吊っているものはクレーンと同時には絶対動き出さない、クレーンが先行し物は遅れて動きだす、この時先の長方形は歪んで平行四辺形になる、これはクレーンが等速運動に入れば重力によって揺れ戻ろうとする。
 飛行機などであればこれまた「成り行き」でかまわないのだが、羽ばたき物はそうはいかない、羽ばたきピアノ線もまた斜めになっているわけなので羽ばたかせようと引くと羽根を(ひいてはモスラ全体を)前に引く力が発生してしまうのだ。

 つまり重力によらず無理に引き寄せようとしてしまう、そこで羽根を降ろすべく力を抜けば再び重力任せに戻る、逆らいっぱなしなら逆らいっぱなしで、重力まかせなら重力まかせで構わないのだがそれが交互に繰り返されるとふるまいが奇妙に見えてしまう。
 ・・ということなのだ。

 仕方ないので前後方向の振れ止めピアノ線も張る、具体的には尻尾の吊り点から斜め前にピアノ線を1本張るわけだ、先の長方形のたいして対角線を一本引くようなものだ、長方形を2つの3角形に分解するようなものだが、四角形は平行四辺形に変形させることが出来るのに対し3角形を歪ませることは出来ないのでこの形は安定である。

 これによってやっとモスラはクレーンと同時に動きだし、前後にも左右にも振れない体制ができあがったわけだ。
 ここまで小1時間、結局モスラ1匹にピアノ線は10本、そうなるような気はしていたもののやはりそうなってしまったか、という感じである。


 さてモスラを本当にゴジラにぶつけるわけにはいかない(ピアノ線がからむし、なにより吊ったものが何かにぶつかった時の「振るまい」というのは万人がよく見知っているものなので「吊り」がバレバレになって興ざめするわけだ)ので特効部がゴジラの頭部に当たりのホコリ玉を仕掛ける。

 カメラから見てゴジラの頭部にダブる位置にモスラを飛行させ、タイミングを合わせてホコリ玉を爆発させれば当たったように見えるだろうという作戦である。

 2、3回のテストののち本番、もう少し上がいいの、下の方がバレにくいだのと何回か撮り直しをおこなったが原則的にはOK。

 その後ゴジラの「ダメージなんて全然無いね(痒い)」という芝居を撮り、ゴジラ後頭部へのどつき攻撃をもう1カット撮る、モスラについてはクレーンの位置を変えるだけでいけるので何の問題もない、やることは同じ。

 予定通りの4カットを消化して18時終了、素晴らしい。


7月13日 (金)撮影50日目

 9番ステージ9時開始、昨日の続き、ゴジラ、モスラに頭を叩かれてよろめき近くのビルにもたれかかる、天下のゴジラが頭を触られたくらいでどうして?という感じもないではない。
 さすがにビルを倒壊させたりするわけではなく表面を陥没させる程度、壊しの仕込みは特効のお仕事なので操演部はホコリのみ。

 とはいえ石膏ビル壊しには違いなく、仕込みには時間がかかるのでアングル等が決まったところで毒針攻撃を受けるゴジラのアップに移る。

 ゴジラの顔/頭に小規模なダメージがある、というもの、これは火薬を発火させる電気点火装置を単独で(火薬抜きで)発火させたらどうか?と私が監督に進言したものだ。
  (小さな火花とほんの少しの煙が出るので「ちょっとしたダメージ」に最適かと思ったのだが、これを実際に仕込むのは特効部であり、直に監督に進言したのは実は越権行為かもしれない)

 そうこうしているうちにビルの仕込み終了、一発OK、もちろんOKじゃなかったらどうすりゃいいんだという代物ではあるのだが。

 これで本日のゴジラは終了、続いてブルーバックでミサイル車の撮影。

 「日常的な風景の中の異様な武器」とコンテにわざわざコメントされているD−03ミサイルを搭載した大型車両が横浜の街に出現するカットである。

 背景は実景、そこにミニチュアを合成する、これがミニチュアミニチュアしていたのでは興ざめもはなはだしいので、圧倒的な存在感、重量感が欲しいところである。

 まずはミサイルランチャーが鎌首を持ち上げるカットから、「ダメだったらなんとかしてね」と美術部の高橋氏(担当者らしい)から言われてはいるのだがこのミニチュアは自力でランチャーを回転させ、首を上げることが出来る。

 とはいえオモチャじゃないので動く、ということと映画で使えるということは違う、本物ならこのランチャーはかなりの重量があるに違いなく、その大きな質量を強大な油圧で動かしているに違いない、つまりはゆっくりとなめらかに、力強く動かなくてはいけないので、急に動き出したり動きがガクガクしていたり、カックンと止まったりするようでは使えないのである。

 「作り物屋さん」とか「造形屋さん」というのは美術的な方面に才能と興味のある人間の集団であって、彼らの注意がまず作るべきものの外見に注がれてしまうのはやむを得ない。
 しかしプロであるかぎりは作り物に「機能」を求められることもある、その場合はそちらにも同等に気を配らなければいけないのだが、アマチュア精神が抜け切れていない組織の場合(読みが甘いのか技術が追いつかないのか、求められる水準についての理解がないのか)製作期間と精力の大半を「見た目」の充実にそそいでしまって「機能」を二の次三の次にした(としか思えない)「作品」が出てくることがある。

 とある有名モデルメーカーがある作品の主役級の未来戦闘機を作った時の話だ、納品されて来たミニチュアの折り畳み式の主翼の動きがえらく悪い、別に自動開閉するようなメカが入っているわけではなく、「手で動かせば動きます」というものにすぎないのに途中に何度もひっかかりがあってギクシャクとしか動かない。
 
 この翼の開閉カットは操演部がピアノ線を使って行うことになっていたのでこれでは困る、バラしてみたところ、メカが木で出来ていた! 
 せめては金属同士、出来ればスライドベアリングを使って欲しい摺働部分がアクリルと木のこすりあわせになっている、そして工作精度がひどく悪い。

 出来ないなら出来ないで何もしないで渡してくれれば何とでもしようはあったのになまじメカ(とも言えないようなもの)が仕込まれているので手のほどこしようがない。

 私はこれを操演で可動させることを断固拒否した、しかし撮影スケジュールが迫っていて作り直しを要求できる状態でもない、しかたなくこのミニチュアはこのまま納品され、そのカットはCGになった。

 これほどでもないにせよ結局仕掛けは使えず操演部が仕込み直した、あるいはピアノ線を使って可動させた、という事例は枚挙にいとまがない(メカの予算をこっちによこせといいたくなることもある)

 『基本的にやつらはみてくれだけに気を使って、動きに関しては誰かがなんとかしてくれると思ってやがるに違いないんだ』

 というのが操演部の基本的な認識なのである。



 ということで、こういう仕掛けがうまくいかないことは多い(というよりはうまくいくことの方が少ない)ので高橋氏もそう言ったのだと思うが、じつにこのメカは動きが良かった。 なんだ。


 次は横位置、ミサイル車が下手から進行してきて停止するカット、このミニチュアに自走する仕掛けはついていないのでこれは操演部のお仕事。

 まずは押してみる、ミニチュアの車両というのは押すと左右どちらかによれていくものだが出来の善し悪しによってその程度が違う、これもややクセがあったが今回は一馬身ほど動けばよく、その間に5ミリほどしかズレないので押しでいくことにする、このカットはかなりのアップなので車両の後部は最後まで見えてこないのだ。

 50角モノレールにラックアンドピニオン(回転運動を直線運動に変えるギアの組み合わせ、ピニオンというのは歯車で、それを回すことによってラックという歯が彫られた長い棒を前後移動させる)を取り付ける、これをDCモーターで回して50角を押し出しミサイル車の後部を押そうというわけだ。

 この50角モノレールはアップで見てもガタがないように慎重に作られており、これを駆動するDCモーターもスローコントロールの効く高性能なものなので画面一杯になるミニチュアの押しにも充分耐えられる、また車両の停止にも対応出来る。

 (モーターによってはボリュームを上げていってもなかなか動き出さず、動いたと思ったときにはかなりの速度になってしまうものがある、こういうモーターはボリュームを絞っていくとある速度以下になった途端急停止してしまうのでゆっくり停止させることも出来ない)

 押し出して停止して1カット、引き戻すと1センチくらいズレてしまうが地面にマークを付けてその度に元に戻せば問題はない。

 本番、なめらかに前進してなめらかに停止する、速度を変えて何カットか撮る。

 ここで、でかい車両が停止した時サスペンションが沈んで全体がユサッと揺れることがある、そんな感じも出したいと監督が言いいだしたので、停止する時にいきなり電気を切ったり、ギクシャクとボリュームを絞ったり、果ては停止した途端ミニチュアを手で揺すったりしてみる。

 カメラはハイスピード撮影になっているので効果のほどはラッシュを見ないとわからない。
 あれこれやって、本日終了、気が付けば23時、「送り」ではないか!



7月14日 (土)撮影51日目

 9番ステージ9時開始、最初はビルの上を飛んでいくモスラを追ってゴジラが放射能火炎を吐くカット、アップなので操演部出番なし。

 その準備の最中に「由里の奥のビル、火炎の直撃を受けて大爆破」のカットの準備を始める、上記のカットで吐いた火炎の流れ弾(?)がビルに当たって由里が吹き飛ばされるカットの背景となるものだ。

 このカット用に縮尺の小さな(つまり大きい)壊し用の石膏ビルが出来てきている、2階建てで石積み風の重厚な建物だ、石膏ビル壊しは基本的に特効部のお仕事なのだがこのカットは右から左に向かってなぎ払われるようにビルが吹き飛ぶということで、特効部、操演部の合わせ技になる。

 まずは特効部がフラッシュライトを始めとする「光りもの」をビル内部に仕込む、そしてビルの後方から高圧エアーを使って瓦礫を飛ばしビルを破壊する。
 これだけだと窓などの比較的壊れやすい部分だけが破壊されビルの外観が残る可能性があり、右から左へ、という「流れ」も出ないので操演部がビルの各部にピアノ線を結び大きな破片を左方向にひっぱるという作戦だ。

 石膏板にピアノ線を結んでも急激に強くひっぱると石膏の一部に穴があくだけで全体にダメージが伝わらない可能性があるため、強度的に強い部分を選び10ケ所ほどからピアノ線を出す。

 これをひっぱるのは人力では無理なので(1人では力が足りないし、特効のシャミセンにタイミングを合わせる必要があるので多人数では難しい)ショックロープを使う、これは長さ40メートルの親指ほどの太さのゴムひもである。

 このショックロープを2つ折りのダブルにして(強度を増す)片側にカラビナをつけこれをカラビナリリースマシンにセットする、反対側をセットの端までひっぱっていって固定する最後は2人がかりで力一杯ひっぱるほどのテンションになっている。



カラビナリリースマシン


 石膏ビルから伸びてきているピアノ線をこのカラビナに結ぶ、右端から来ている線はたるみが無いように結び、左へ順に一本ごとにたるみをつけていって一番左端の線は1メートルほど長くしておく。

 これはカラビナリリースマシンから解放されたカラビナがショックロープに引かれてミニチュアから遠ざかる時、たるみのない右端はすぐ破壊され、カラビナが進むにつれピアノ線のたるみがなくなり右から左へと順次破壊が進むという作戦である、カラビナが1メートル進むのに0.05秒かかるとすれば10倍のハイスピード撮影なら右端と左端の時間差は0.5秒になるだろう。

 ピアノ線をはずして一度テストをする、このカラビナリリースマシンはソレノイドがストッパーになっている、スイッチを押すとソレノイドが押さえている鉄棒が180度回転し、鉄棒にかかっていたカラビナがはずれる、という仕掛けになっているのだ、一瞬と言えば一瞬だが10倍速の世界ではけっこうなタイムラグだ、今回は特に特効のシャミセンと合わせなければならないのであらためてその感じをつかもうということだ。


 などと準備をしているうちに本日の1st.カットは終了、さらに「ゴジラ思わず手を開く」というカットに移っている。
 これは「さつま」をつかんで浮上中の(海中の)ゴジラがキングギドラに尻尾を噛まれて引き戻され、うっかり「さつま」を離してしまうというカットである。

 これはアップなので腕だけの着ぐるみ(?)を使う、ゴジラの手にピアノ線付きのミニチュアさつまを握らせておき、手を開くタイミングに合わせてひっぱり上げるというアナログな撮影である、たぶん珍しく撮りきり(合成処理なし)のカットではないだろうか。

 何度かやってOKとなる、いよいよビル壊し、操演的に言うとまずくいく理由はない、カラビナリリースマシンは10年来使っている機械であり作動不良することはないし、一度動作すれば(10本あるピアノ線が引かれれば)何ごとか起らぬ筈はないからだ、せいぜい特効のシャミセンとタイミングがあうかどうかが問題だがこれは心配しても始まらない、私はむしろこういう緊迫したカットにこそ生き甲斐を感じる。

 どちらかというと人為的ミスや事故が心配なのでカラビナリリースマシンをセットしたあとは安全確保に人間を配置する、まずはマシンの監視に一人置く、このマシンは床に置いてあるので誰かがうっかりにでもソレノイドをけ飛ばそうものなら作動してビルを破壊してしまう、現場に人が居れば吹っ飛んでいくピアノ線が凶器となるだろう。

 またショックロープがカラビナを引いて飛んでいく経路に人が立ち入らないよう監視する係にも2人あてる、このカラビナと接触したらこれまた命にかかわるようなケガをするだろう。

 (テスト、本番テスト、とくるまで何もしないでおいて、いよいよ本番スタートという瞬間に危険地帯に立ち入る輩とか、はたまたシャミセンと対象物の間に移動してきてシャミセン係の視線をさえぎる奴とかがいるのだ)

 本番直前には注意力の100%をタイミングに振り向けたいので、周囲の安全に気を回したくはないのである。

 いよいよ本番、こちらが特効に合わせなければならない、タイミング的には少し遅れるくらいがいいが、特効の仕掛けがスイッチを入れれば即座に動作するのに対してこちらはソレノイドの作動、ストッパーの解放、鉄棒の回転、カラビナのリリースとタイムラグがあるので事実上スイッチングはほぼ同時が適当と思われる、そこで特効のシャミセン係のヒジを見ていてピクとでも動いたらスイッチを押そうと考える。
 
 「本番行きます、カメラスタート」
 「・・・ハイ」
 「よーい、ハイ!」」

 シャミセン係のヒジに注目、動いた!、スイッチ

 フラッシュがビカビカと光り、パン、パン、パンという高圧エアの音が響き、飛び出した破片がバリバリ石膏ビルを破壊する音と、ソレノイドマシンが作動したガシャンという音とショックロープが床を走るシュルルという音がいちどきに聞こえ、あたりは細かい石膏の破片とホコリにまみれる、全てが納まった時にはカメラ前には何もなかった。

 OKもクソも何もない、18時、これで本日終了である。


7月15日 (日)

 ホリデー

7月16日 (月)撮影52日目

 9番ステージ9時開始、ゴジラの尻尾に叩かれたモスラが落下してきて、地面すれすれで立て直し上昇に転じるというカット。

 モスラはCGで、手前の自衛隊員はブルーバック合成、ここで撮るのは下絵になるミニチュアセットだけだ。
 といって何もないわけではない、モスラの羽ばたきで破壊されたビル街に猛烈な風が巻き起こり、破片が飛び、あちこちで発生している火災の炎があおられる、という状況を作らなくてはならない。

 以前のモスラは巨体を浮かしている割にはゆったりと飛んでいる感じで、地上への影響が薄いものだったが今回は飛翔しているモスラの下は暴風が吹き荒れているのだ。

 美術部が破壊された街を飾る、高圧エアーで街をなぎ払うのでミニチュアそのものはがっちりと固定してもらう、次に特効部があちこちにフィルム缶を置き、黒スモーク入りのアメ火薬を仕込む。

 操演部は140気圧の高圧ボンベを2本用意する、高圧ホースを持った人間が2名、セットの左右フレームギリギリの所に立って風を送る準備をする。

 セット内に細かい(飛ばし用の)瓦礫とセメントを蒔く。

 火皿が点火され本番、左右の人間が息を合わせ1,2の3で奥から手前に風を送る、猛烈な風が炎を揺るがし、瓦礫を吹き飛ばし、ホコリを巻き上げた・・が、ホコリが多すぎてカメラ前が真っ白になってしまった、NGである。

 こりゃセメント蒔きすぎだね、次回はもう少し減らそうか、つーかもう足さないでこのままもう一度いってみようか、ということになった。

 減るものがあるわけじゃなし、ってまあ減るんだけど、何かを再起不能なほどに破壊するわけじゃなく、再セットも簡単なのでそのへんはお気楽である。

 もう一回やってみたところがほどよい感じでOKとなった。

 次はゴジラがビルに「寄りかかった」後に入るカット、瓦礫が降ってきて自衛隊員が下敷きになる、自衛隊員はもちろん合成、背景のビルはミニチュア。

 ビルの前を「街角の風景」風に飾り、サーチライトなども置く、壊し用である。
 カメラとビルの間の上空(?)にコンパネを置き、本気ガラ(重い瓦礫)を乗せて準備完了である、コンパネを先ほどの2人が持って本番。

 これまた息を合わせてザラザラザラっと落とす、一気では味がないので瓦礫の落下に一瞬の間や強弱を付けたい、カメラはハイスピードなのでこれは瞬間芸の世界である、テストをしてもしょうがない(瓦礫はそのたびに違う)ので、長年の経験と本番度胸がモノを言う。

 今回は壊れてしまう置物があったので出来れば一回で終わらせてね、と美術部からプレッシャーがかけられていたのだが、両名は充分にその腕を発揮して一発OKとなった。

 次は街角に展開していた実戦部隊を放射能火炎が襲い、その直撃を受けたトラックが爆発するカット。

 準備中に15時となったのでオープンのプールに出る、ナイターの準備である。

 手前に自衛艦「あいづ」、奥に僚艦、それぞれがミサイルを発射する、手前のあいづは後で5mサイズのものを合成するのでここは奥の3m艦だけである。

 船の固定台は操演部が作ったものだが、「動かないミニチュア」は美術部扱いなので操演部の範疇ではない、ミサイル自体はCGだが発射装置の後ろから吹き出る噴射煙は火薬なので特効が仕込む。

 プールだと波起こしが必要だがこれは特機部あつかいなのでやはり操演部の出番はない、夕食まで待ってみたが、やはりすることとてないので操演部は半分帰ることにする(あとの半分は万が一要員である)

 このカットは簡単だし操演部は全員いらないだろう、交代制にして帰ろう、と言うことが時たまあるのだがそれが何にせよ「何かある」時に帰ってしまうのはちょっとためらわれるので、今回のように「無い」ことがあきらかな時には率先して帰ることにする。

 というわけで18時終了。



7月17日 (火)撮影53日目

 9番ステージ9時開始。

 ゴジラの放射能火炎で爆発する防衛隊トラック(吹っ飛ぶ兵士達はあとで合成)というカットだが操演部の出番はないので、離れたところで次のカットの準備をする(こういうとき東宝の9番ステージは広くて便利だ)

 次のカットは(とても昔のことのような気のする)大湧谷。
 展望台でバラゴンを見物している人々の背後にゴジラが出現し崖をくずして土砂で下敷きにするというカット(の1部)だ。

 展望台はすでにミニチュアで撮影されている、この時一番手前の手すりは外して撮影された、なぜかというと後処理で背後の崖と手前の手すりの間に人物を合成しなければならないからだ。
 アニメでいえば背景画の上に人物のセルを置き、その上に手すりのセルを置くということだ、画像処理ソフトで言えば背景レイヤーの上に人物レイヤーを置き、その手前に手すりレイヤーを置くこということだ。

 今日はまず前回のミニチュアセットをおおまかにブルーの板で再現する、おおまかというのはディティールがないという意味で、背後の崖と展望台の位置関係、手すりまでの距離などは正確に再現しなければならない。

 ここでカメラに前回のミニチュアが映っているフィルムのコマを入れセットの位置合わせをする、撮影済みの絵と今回再現したブルーのセットをフィルム上で寸分たがわない位置に配置しなくてはいけないのだ(ファインダーを覗くと今見えている絵と撮影済みの絵とが2重映しになって見える)

 位置が合ったらブルーバックの上に手すりを置く、カメラの中に入っている位置合わせ用のコマには取り外すまえの手すりが映っている参考用のものなので手すりの位置合わせは楽だ、もっとも完成した絵にはこのブルーバックで撮った手すりが使われるので、合成しておかしくなければ参考用と違っていてもかまわないわけだが。

 位置合わせが終了するころファーストカットが無事回りスタッフが全員こっちに移動して来た、まずは合成用の手すりを撮影。

 次が操演部の腕の見せ所「ガラ落とし」だ背後の崖の上にコンパネを置きその上にボク石(溶岩のかけら)砂利、砂、土などを積み上げる(固くて重い「本気ガラ」だ)これを背後の崖にそって落とすのだ。
 崖にはきつい傾斜がついておりここを滑り落ちたガラは展望台上を転がり、手すりを破壊して手前の崖下に落ちていくはずである。

 本番!、コンパネの左右に2人付き「せ〜の」でコンパネを傾けガラをすべり落とす、2人には「一気でなく、間延びせず、強弱つけて」、といういつもの(言うは安い)注文をつける。
 手すりは破壊されてしまうので(というか破壊されてくれなくてはまずいので壊れやすく作ってあるので)一発勝負である。

 こういう一発勝負をうまくやるためにも操演技術者は駆けだしのころからなるべく多くの場数を踏み、石や砂や水を落とす感覚を身に付けておかなくてはならない、同じカットは2度とないが新たな1カットを行うにあたっては過去に手をくだしたカットの手応えの記憶を多く持っているほうが勝ちである。

 <こういう場数を踏むにはやはり特撮TVシリーズがどうしても必要だ、こういう一発勝負の劇映画では技師はどうしてもベテランにたよってしまうので、若手が経験を積む場にはなりにくい。
 操演的スキルを手に入れるためには、右も左もわからない時期に毎日ガラを落としたり、ホコリを撒いたり、物を投げたり押したり引いたりして、失敗して怒鳴られるという経験が必要なのだ。
 TVでは人手が足りないので「おまえにこれは無理かもしれないが他に人がいないからおまえがやれ」ということが当たり前のように起こる、無理と言われてやらされても失敗すれば怒られるのは理不尽のようであるがこれほど勉強になることはない、勉強してギャラがもらえるなんてこんないい商売はない
とも言える、しかしTV特撮はいつでもあるわけではないのでそもそも新米の時期にTV特撮を経験できた奴は幸運なのだ>
 


 「よーいスタート」カチン! でガラガラガッシャンとガラが落ちる、手すりはガラに巻き込まれ消し飛ぶ。

 OK! (いつものことながらOKじゃないと言われても困る)

 現場ではここまでだ、しかしこのカットを完成させるにあたっては後処理班の力業が必要である、先に述べたようにカット頭では「奥のミニチュアの崖、中間にブルーバックで撮った人物、手前にブルーバックのミニチュア手すり」という3段構えで成立している。

 その後背景の崖の上からガラが落ちてくるのだがこれはディティールのない板の上を落ちてくる合成用素材だ。実際のミニチュアの崖にはデコボコがありヒムロ杉が植えてある、合成用ガラはこの崖に何の影響もあたえないので、単純に合成したのでは崖の手前に透明なガラスがあってその上をガラが滑ってくるような違和感が生じるに違いない、つまりまず接地感をどうするかという問題。
 
 次にガラは展望台の上を転がって手前の手すりに迫るわけだがそのどこかの時点で逃げまどう人々を覆い隠すことになる、人々が土砂に埋まる(押し流される?)ということだ。
 人物には奥行きがあるので当然奥から順に覆い隠されてくるべきだが、素材としては全て一枚のフィルムに納まっている2次元のもので奥行きの情報はない、どの時点でどうやって人物を覆い隠せばそれらしく見えるのかはこのガラ素材のラッシュがあがってから考えることになる。

 さらには手すりの問題もある、合成する手すりにガラ落としのカットのものが使えれば問題はない、奥からガラがやってきて壊していくだけだからだ。しかし本気ガラを落とした衝撃でブルーのセットが振動し手すりが揺れている可能性がある。
 
 ベースのミニチュアセットごと揺れているならおかしくないが別の日に撮った背景は微塵も揺れていない、手すりだけ揺れたらきわめておかしな絵になってしまう。
 これを回避する為に手すりは破壊される寸前までガラ落としの前のカットの「揺れない手すり」を使い、破壊された瞬間からすり替える必要が生じる可能性もある。

 この場合ハイスピード撮影しているだけに破壊に部分的な時間差があるはずで、すり替えも一気というわけにはいかないかもしれない(これまたラッシュ待ちである)

 解像度の悪いビデオモニターを見ても石やら砂やら土やらがゴチャゴチャになって落ちて行くだけで細かいところは全然わからない、ラッシュをみたらとんでもない絵になっている可能性はあるが覚悟を決めてOKをだす合成部もまた大変な部署と言えよう。


 この後更に古い「警察署表にいるバラゴン」を撮る、といっても手前の建物と人物は本編班の撮ってきた実景、その向こうにいるバラゴンと背景の森は撮影済み、ここで撮るのはバラゴンの手前、建物の向こうに合成される瓦礫だけである、操演部の出番はない。

 21時終了。


7月18日 (水)撮影54日目

 9番ステージ9時開始。

 横浜市街、ゴジラの背後に迫るD−03ミサイル群、カメラもD−03の後を付いて移動する。

 破壊されつくした横浜の街を飾る美術部はいつもどおり大変だがなんだか慣れてきた様子でもありディティールはともかく大まかなビルの配置などはあっという間に終わる。

 特効部がそのビル街のあちこちに炎と黒煙を仕込む。
 カメラは浮遊感をもって空中を移動するので大クレーンに乗っている。
 操演部は尻尾吊りと足もとのホコリくらいでたいしたことはないのだがカメラとのかねあいが難しいことになった。

 カメラはゴジラの背後から近づくので尻尾が手前に見える、ということは尻尾を吊っているピアノ線がカメラ前に来るということだ。

 ピアノ線は塗って消す以外ありえなかった昔ならここで吊りはあきらめるところだ、なにしろピントは合うわさえぎるものはないわで一度目に入れば目立つ目立つ。

 おまけに塗って消すということは背景と同じ色に塗るということだが尻尾は左右に振れるしカメラは移動するしで、ピアノ線の抜け(背景)はグレーのゴジラであったり白いビルであったり暗い夜空であったりする、何色に塗ってもどこかでバレてしまう。

 とはいえ今はデジタル様のおかげで「いざとなりゃピアノ線は後処理で消してくれるだろう」という期待が現場にある・・・てなことを公言すると合成大魔王こと松本肇にどやされるのだが・・・まあ塗るだけ塗ってだめでもしゃあないよね、ということだ。

 だから問題はピアノ線が消せないということでは無く、カメラの移動にピアノ線がジャマになるということだ。
 カメラはゴジラの背中ギリギリまで近づきたいのだが、そのはるか手前に尻尾があるのでピアノ線をかわして近づく必要がある、いくらデジタル様があるとは言えピアノ線の「どアップ」は避けたいし、カメラに当たれば画面がぶれる、カメラ本体や村川カメラマン、助手の板坊(ピント送りがあるのでクレーンに乗っている)に引っかかれば大惨事も夢じゃないじゃなくて大惨事にもなりかねない。

 うまくよけられればいいのだがピアノ線は基本的には尻尾の上下をコントロールしているだけでその瞬間に尻尾がどこにいくかはババチンの芝居しだいなのである、でもババチンはカメラが見えていない、運を天に任せるわけにはいかないので尻尾の吊り点に横引きのピアノ線も付けておく、カメラをよけきれないと思ったら別な人間が尻尾を横に逃がしてしまうわけだ。

 尻尾は芝居なりに振れているのが自然なわけでこれはどちらかというと緊急避難の意味合いが濃いのだが何度かやってOKとなる。

 次は表皮に穴を開けることに失敗したD−03ミサイルがむなしく体表で爆発するカット、セットはおおむねそのままいけるし移動カットではないので特効が火薬を仕込むだけの手間でいける。

 もちろん尻尾とホコリがあるが何とカチあう心配もない。

 このあとゴジラがカメラ方向を向くカットに入るがこれまた操演的には3人も入れば充分なので、違う場所で明日の一番手に入っている「護衛艦あいづの格納庫から「さつま」がコンベアに乗って前進して来る」というカットの準備にかかる。

 小さなミニチュアをカメラ前でしずしずとなめらかに重量感をもって動かさねばならないので、精密移動用のスライドパックとモーションコントロールを持ち出す。
 これは言ってみればCMグレードである、できれば明るく清潔なCMスタジオで気取ったBGMを聞きながら作業したい機材である。BGMはともかくホコリだらけのスタジオですぐ脇では煙が立ち昇りかつ火薬が破裂している環境ではあまり使いたくない、精密なスライドレールやベアリングがホコリや油煙でガタガタになりそうだ。

 美術部からコンベアを受け取りスライドパックにネジ止めなどしているとゴジラの方が終わった、1カット撮り残しているが今日はこれで終わりだというので「ヤッター」とか喜んでみたが、気が付けばもう「メシ押し」の19時になっているではないか!

 ということで19時終了


7月19日 (木)撮影55日目

 9番ステージ9時開始。

 「さつま」が格納庫から出てくるカット。仕込みは(なにしろCMグレードなので)気を使うが一度決まってしまえばモーションコントロールだけに、スイッチ(というかパソコンのリターンキーだが)をポンと押すだけでよい。

 操演部は手すきになってしまうわけだがモーションコントロールのオペレーションに関しては私の役目なので遊びに出る(!)わけにはいかない。

 いよいよ本番になった、なったのはいいのだが近年の特撮特有の現象で多くの「マスク撮り」があって一発OKという具合にはなかなかいかない。

 護衛艦「あいづ」の後部甲板にはあちこちに防衛隊員がいなければならず、それらはあとで合成される。
 その人物が全部ミニチュアの手前にいるならマスクはいらないわけだが、もちろんそんなことはないわけで、手すりの向こう側に居たいとなれば手すりのマスクが必要なのだ(手すりの上から人物を合成し、マスクで切り抜いた手すりをその上からもう一度乗せれば、その人物は手すりの向こう側になる)

 あそこにも人が居るかもしれないからあそこマスク取っといて、こっちも念の為取っておこうか、とさんざんやったあと移動の本番となる。

 コンピュータ制御であるからにはテストと何が変わるわけもなくOKとなる。

 次がキングギドラが横浜の街に現れる予兆(?)のカット。
 「ビル街の向こうに噴煙が上がる」、というものだ。
 手前の川とビル群は実景である、中心部分のビルの一画と空を全部切り抜いて、特撮のミニチュアビルと空にハメ変える、一部をミニチュアビルにハメ変えるのは噴煙が上がると同時にガラガラと崩れ落ちるためだ。
 本当を言えばこれも石膏ビルか何かで破壊するべきものだろうがロングの絵なので木製の壊れないビルを倒すだけである。

 もっとも倒すとは言ってもバタンと横だおしになったのではおかしいわけで、見えてはいなもののビルの下層部が崩壊しているのだ、という雰囲気を出すために傾きつつも下方へすべり落ちていくという動きが必要になる。

 まあこれは「バタンコ(支えの上に乗せておき、支えを外して倒す)」の応用で簡単に行ける。

 「ガメラ1」でガメラが地中を移動している時の地上のビル街、「ガメラ2」ではレギオンにまとわりつかれたガメラが札幌の街を破壊しつつ移動するシーンで使用し簡単な割には良い効果が出ていたのが確認済みであるからだ。

 監督も美術も操演もメンツは同じなので「ああ、あれね」という認識に間違いはないと思う。
 注意を払う必要があるのは、むしろテストで倒した時にビルを壊さないように養生することくらいだ。

 ビルの下に角材や箱馬(別名「便利箱」、物を乗せる台でミカン箱の半分くらいの木製の箱。ちなみにハリウッドにも「アップルボックス」と呼ばれる箱がある、日本の箱馬の倍くらいの厚みがあり、日本サイズの箱は「ハーフ・アップルボックス」と言う)を入れてカサ上げの足にし、それにロープを結び付ける。

 足が4つあったとすれば2つをひとまとめにしてロープを2本とし、長さをちょっと違えておくのがコツだ、「せーの」で2本のロープをまとめて引くと足の払われるタイミングに時間差が生じて乗ったビルは傾きつつ落下してくるのだ。

 こんなビルを4軒ほども作り本番、特効部がホコリを吹き上げるのに合わせて4人がビルを引き倒す、何回でも可能な仕掛けだったがOKとなる。

 ここで時刻は15時、オープンに出る、今日はナイターのプールの予定があるので明るいうちに準備を始めようということだ。

 横浜湾、波間のゴジラにキングギドラが迫るそのギドラの主観である。

 プールに入ってしまうとホコリもなく、尻尾も水の下になってしまうので吊りは無しになり操演部は暇である。

 ・・・と思っていたら本番直前になって突然問題が生じた。「波起こし」をしていた特機部の巨大扇風機が故障したのだ。
 本来「波起こし」は操演部の仕事の筈なのだが東宝のでかいプールで波起こしするためには巨大扇風機が必要であり、巨大旋風機をもっているのは特機部なので東宝ではそれは特機部の仕事とされていた(らしい)のだ。

 らしいというのは扇風機こそ特機のものでながら、運用と責任は操演部にあると思いクランクイン前に波起こし用に扇風機を貸してくださいと特機部に言ったところが、「それはウチでやりますから」と言われて、そうなの? と思ったからなのだった。

 まあそれならそれでいいのだが、問題が生じてビックリするのは「ならば波起こしはポンプ(ヒューガルポンプという排水用水ポンプ)しかあるまい」ということになり、「それは操演部の役目だ」となったことであった。

 東宝で助監督経験の長い神谷監督も、昨年助監督をやった菊地チーフ助監督も、東宝の経験が長い操演助手トニーこと辻川もそうだと言う。

 何故、機材が変わると責任者が変わるのだ? と思ったがどうもそういうものらしい。

 ともあれ夜のことであり、今の今ではどうにもならないので今日の所は皆で水に入り手で波を起こすことにする。
 実は水面に角材を浮かべこれを押したり引いたりすることで波は起こるのだ(「手波」とか「腰波」とか呼ばれる)
 いや「起こる」どころではなく、その方が良い波が出るくらいなのだが扇風機なら一人で済むところに10人近い人数を必要とし、波が遠方に届くまでに時間がかかるので効率が悪い(本番行きますとなってから時間がかかる)のである。

 ということで22時終了、明日はポンプの手配をしなければなるまい。


7月20日 (金)撮影56日目

 9番ステージ9時開始。

 朝一番でトニーに建築機材のレンタル屋へ行ってもらう、波起こし用のポンプを借りにいくのだ。
 我々もよく利用する機材屋で東宝もいつもここでポンプを借りているのだというが、どういうものが適当であるのかは経験者であるトニーに見てもらうのが一番であろうということだ、まあ要するに機材屋にある一番でかいポンプを借りてくることのなるのだとは思うのだが。

 更に(ポンプが200V電源であることはあきらかなので)撮影所の電気部にたのんで200Vをプール脇まで引いてもらう、あれこれと面倒なことだ。

 撮影的にはモスラを見失っているゴジラの後ろからそのモスラが襲いかかるカット、モスラをカメラクレーンに吊るのだが何度かやっているのでなんということもなくセッティングは終了、別段難しいこともなく午前中に回った。

 午後からオープンに出る、哨戒ヘリが護衛艦さつまに近づく空撮のカット、カメラは上空からさつまに近づき、回り込んで海面すれすれまで降りる。

 今回のさつまは水に浮かない(!、実際に浮くミニチュアを作るのは予算も時間もかかりすぎるので喫水線から上、つまりウオーターラインの置物のごときミニチュアがあるのみなのだ)のでブルーバック撮影となる。

 ブルーの床とブルーのホリゾントの上に置いたさつまをクレーン撮影してCGの海に合成し、さらにグリーンバックで撮った哨戒ヘリを合成するのだ。

 さつま自体はかなり大きなミニチュアであり、これを俯瞰撮影するためにはオープンで大カメラクレーンを使用するしかない、あまりに長いアームであるためにカメラマンはクレーンに乗れず、リモートヘッドという仕掛けを使い、地上からリモコンでカメラを操作することになる。

 かなり大きなブルーバックを用意したはずなのだが、それでも「引き」の絵を撮ろうとするとギリギリで、カメラがまわりこんで海面まで降りてくるという凝ったカメラワークをしようとするとあっちがバレる、こっちが足りないという騒ぎになる。



 操演的な出番は一切ないので「大変だね〜」とか言いながら高みの見物である。

 これが16時終了、次はナイターのプールである。

 「ゴジラに足を抱えこまれたギドラ」と「ゴジラのゼロ距離火炎放射を受けて爆散するギドラ」の2カットである。

 いよいよというべきか今回の撮影で一番頭が痛いオープンでのキングギドラ吊りである。
 まあ首が3つあって、羽が2枚あって尻尾が2つに分かれている空飛ぶ怪獣なんて操演家の悪夢といってよいのだが、上に支点がいくつも取れるセット撮影なら面倒なだけで何をするにせよ無理ということはない。
 全てをクレーンに集約しなければならないオープンがやはり問題なのだ。

 借りてあった高所作業車のバケットから縦横に鉄骨を張り出し、体用3本、首用3×2の6本、羽用2本、尻尾用2×2の4本、合計15本のピアノ線を降ろす。
 首は手の入らない長首だし、中に大橋君を入れても出来ることはほとんどないので人抜きの操演怪獣にしてもらう。
 人が入っていてもせいぜい足が動くくらいで、まあ足が動くのは捨てがたいのだが、そのかわり入れっぱなしには出来ないので15本のピアノ線を延ばしていちいち地上に降ろす必要が出てくる。
 その調整は容易ではなく、着ぐるみを脱がせれば塗ったピアノ線がまた塗り直しになるなどと考えればとうていワリのあう効果ではない。
 
 さてこのカット操演部なんかではとうてい手が足りるわけもなく、誰彼なくとっつかまえては「ハイ、君このロープ2本持って、右の尻尾だからよろしくね。 どういう芝居すればいいのかって? 良い芝居にきまってるでしょ」などと言いながら仕事を押しつていく。

 準備が佳境に入ったところでウルトラマンコスモスの操演助手である青木君(近所の「東宝ビルト」で撮影中だ)が見学に顔を出したのでこれ幸いと右の首のロープを渡す(首は要領がわかっている人間に任せたいのだ)

 どうなることかと思っていたわりには問題となる部分もなく準備完了。水に入ったババチンに足をつかんでもらって1カット目終了。
 特効部が火薬をギドラに取り付け2カット目、これも何が変わるわけではないので即OK。
 本日終了だがこの際だからとギドラがゴジラに体当たりするカットのテストも行う、背中から一本ピアノ線を出し、後ろにひっぱり、ゆるめてゴジラに体当たりする。

 要するにブランコだ、15本のピアノ線がなにかイヤなことにならないか心配だったのだが問題なく、ババチンもうまくタイミングを取れば足をつかめそうだとわかったのも収穫である。

 バラしてオープン撤収、これで22時30分だから優秀なものだと思う。

7月21日 (土)撮影57日目

 9番ステージ9時開始。

 モスラを見失ったゴジラの背後からモスラが襲いかかるカット、モスラいつも通り大カメラクレーンに吊り。
 あたりを伺うゴジラの後ろからモスラをクレーンで振り込むだけ、激突直前でカット、これはもう何ということもない。
 次が後頭部に取り付いたモスラがゴジラの顔を掻きむしるというカット。
 モスラの足が掻きむしり用のそれと取り替えられゴジラの頭に「固定」される。
 モスラは攻撃しつつも、羽をバサバサと羽ばたきたいところだが、なにしろ後頭部に取り付いた姿勢のため、体がかなり立った形なり、上からピアノ線で吊る、という角度ではない。
 またなによりゴジラが体を振るはずなので一緒になって体が振られるモスラの羽は外部からのピアノ線ワークは不可能である。
 つまり両方の羽にピアノ線をつけて引っ張ったとしても、体が振られている状態では均等に引けない。ピアノ線の持ち手から離れる方向に振られた側の羽は、引き手がなにもしないでも引いたのと同じであり、逆側の、持ち手に近づく側の羽のピアノ線はたるんでしまっていくら引いても動かない、ということになる。
 モスラは体が振られようが振られまいが自分で羽ばたいているはずなのでこれではまずい。つまり自己完結した羽ばたきシステムが必要なのだがボディ内部は掻きむしりメカでいっぱいだ。
 そこでビショップと操演部が考え出した裏技は体の外、羽の裏に羽ばたきメカを出してしまおうということだった。
 絵コンテを信用するならゴジラはカメラの方を向いているわけで、その背後にモスラが居て、体が立った状態であるからには羽の後ろにメカがあってもまず見えないだろうということだ、それにナイターだし。
 ということでこのカットに限ってモスラの背中には支柱が立ち、その支柱に取り付けられた2つのエアーシリンダーが羽を動かすということになるのだった。
 エアシリンダーに4ミリのエアホースを取り付け、死角を狙ってモスラ本体からゴジラ背中へ、背中から足を伝ってセット外へと引き出される。
 これに電磁弁を付ければ完成だ、動かしてみるとバッサバッサと羽ばたく、実際にはゴジラが急速に体をひねると、大きな羽は空気の抵抗を受けるため均等には動かないのだがそれはそれでリアルといえるだろう。
 まあ事前の準備がよろしくてこのカットはなんということもなく終わった。
 
 次はこの後、モスラがゴジラから離れるカットである、モスラを再びクレーンに吊り直す、同じ吊りなら1カット目のあとに続けて撮ればいいようなものだが、1カット目は上手奧から、2カット目は下手奧に飛び去るためいずれにせよ180度方向が変わる吊り直しなのだった。
 ゴジラの背後、すこし離したところにモスラを吊っておいて一回大きく羽ばたいたところで急速に後退させる。
 まあなんということもないカットであり、予定どおり16時には終了する、今日も夕方からプールでナイターの準備である。
 
 ナイターはあいずの僚艦がゴジラの放射能火炎を受けて爆発するカット。
 あいず僚艦は全長3メートルほどのミニチュアであるがもとから浮かぶようには出来ていない、さらに船体中央からまっぷたつに折れて吹っ飛ぶというイメージのため、すでに特効部の手によって2つに切断されており支えなしでは形も保てない状態である。

 これを浮いているように見せかけるため、プールに小スタンドを2個沈め、間に鉄骨を渡しその上に船体を置く。

 爆発は特効部だが2つに割るのは操演部である、2つに分かれた船体の側面にそれぞれワイヤーを取り付け、プール外まで引いてくる、それにザイルを結び数人でえいやっとひっぱる予定である。

 ワイヤーのたるみがあり、ハイスピード撮影でもあるので爆発を見てからワイヤーを引いたのでは絶対遅い。
 しかし爆発より先に船体が割れてはNGなので、しかしNGになっても代わりのミニチュアがどこからかやってくるわけではないので、つまりNGを絶対出してはいけないカットなので、特効部にはカチンコと同時に爆発のスイッチを入れてもらい、操演部はカチンコでワイヤーを引く、ということにする。
 これなら絶対先走ることはない、これでは遅いという可能性もあるが、クリティカルなミッション(失敗のゆるされない指命)である以上これより微妙なタイミングは取れない。
 
 仕掛けはすでに水上でほとんど終わっており、特効部の配線と操演部のワイヤー結束だけしか残っていなかったので準備は早く済み、本番は20時すぎには終わった。

 やっぱり遅かった気がする・・・・。

7月22日 (日)撮影58日目

 9番ステージ9時開始。

 日曜日なのに撮影である、って撮影に入ったら日曜も祝日もなく、そもそも休みさえまともにとれない作品ばかりやっていると、日曜に確実に休めるという東宝のスケジュールは夢のようである(すっかり奴隷の生活に慣らされてしまっているのだ)
 円谷プロでも、大映でも東映でも、休みをどうとるか(というかどうなくしてしまうか)はチーフ助監督の胸先三寸であるが、東宝では日曜休みは絶対、撮影の都合上日曜に撮影しますなどというとその調整に大騒ぎになるらしい、ましてや代休は当然のごとく必要で「今回の撮休はナシになりました」なんてことは(よくあるのだが)許されない。

 さて、今日はゴジラとキングギドラの格闘、いよいよ、という感じである。
 キングギドラの特徴であった長い首をやめたのも首の向きを前方に揃えたのもこれすべて格闘時にジャマになる吊りをやめ、手を突っ込んで首を維持するための方策なのだ。

 個人的に言えば、つまり自分で操演を担当する立場でなく言えば、キングギドラは昔のバカみたいに長く、正面から見るとしだれ柳のように垂れていて、しかも前と左右の3方に完全に分かれて生えていて、それじゃ何も見えないだろう、つ〜か何も考えていないだろお前、というほどにブンブン揺れまくっている首が好きなのだが、あれではたしかにまともな格闘などは出来ない。

 始めがギドラとゴジラの激突、モスラの掻きむしり攻撃に気を取られていたゴジラにキングギドラがつっこんでくる。
 当然首は短かい首で大橋君が手を入れたバージョン、これでピアノ線がジャマにならずゴジラのふところに入り込めるわけだ。
 次は殴りかかるゴジラの手をかいくぐり腕に噛みつく中首、中首は手の入っていないでくのぼうなのでこれは「寄り」の処理として首をはずし手をつっこんだ助監督が演じる。
 左首がゴジラの首に、右首が右腕に咬みつくカットも同様にギニョール状態で撮る。

 3つ首に噛みつかれたゴジラがもがくカットの引き絵、これは着ぐるみ込みで撮る。
 ギドラの口はゴジラに針金でしばり付けてしまうので操演はいらない、ゴジラの尻尾とホコリくらいである・・ので私はナイターの準備をする。

 ナイターはやはりプール。小型潜水艇さつまが2隻、海中のゴジラとギドラが沈んでいる地点に向かって進む引き絵。ベイブリッジから見た大ロングなので探照灯しか見えないという思い入れで2つのライトを水中で動かすだけだ。

 小型モノレールを水中にしずめ、パワーロープ(細いザイル)で引っ張る、このレールとなるべき50角パイプとモノレールを念のため黒く塗っておこうというわけだ、特撮プールのそばにレールその他を並べて黒スプレーを吹き付ける。
 今日も今日とて強烈な日射しが照りつけるコンクリート舗装のプールサイドは気の遠くなるような気温となっており黒い塗料の乾きのいいこと。

 16時、まだまだ日射しがきびしい時間だが、全員オープンに移動してくる。
 モノレールに照明部から渡された2個のハロゲン球を取り付け、特効部が航跡を引くためのエアホースを取り付ける。

 さらに特効部がプール中央にエアの湧き出し(水中で戦闘が行われているという思い入れであるが)を仕込み準備完了、あとは夜を待つだけ。
 特に揉める要素も無かったが、本編が撮った展望台の窓にうまく合成出来るようモノレールの位置調整に時間がとられ、数カットをこなしたところ23時となってしまった。
 「送り」が出てタクシーで帰る。ま、明日は休みだからいいや。

7月23日 (月)

 本日撮休。

7月24日 (火)撮影59日目

 9番ステージ9時開始。

 今ごろになって、トンネル崩落現場のミサイル車のカット。
 崩落した岩盤のミニチュアを実景に合成したものが背景。
 その手前の岩盤にむかってランチャーを回転させるミサイル車を撮るわけだ。
 鎌首を持ち上げるカットの時にも書いたがこのミニチュアは自力で可動し、しかも例を見ないほどに精度が高くていやな揺れがほとんどない、こうなると操演部の出番はナシである。

 ところでしかし、楽なのはけっこうだが、1作品に1〜2回しか使わない動作にギミック(仕掛け)を入れておく必要がはたしてあるのか疑問ではある。
 出ずっぱりの主役メカであればそれが動くたびにいちいち操演部が仕掛けをするのは時間の無駄であるし、自力で動いてくれるに越したことはないのだが、こういう脇役のメカで、しかも動くカットが少ない時にはその便利さはそんなに効いてこない。
 ギミックだってタダじゃないのだから、その分を他に回すのがお得であると言えるかもしれないと思う。

 このあとは横浜でゴジラが防衛軍に向かって放射能火炎をまき散らすカット、モスラの方を見るカットなどの寄りを撮る。
 寄りとなると、足もとのホコリも必要なく操演部の出番はない。

 次は、ゴジラがビルに倒れかかるカット、ビル壊し自体は特効部のお仕事であるので操演部は尻尾とホコリのみとなる。

 これが本日のラストカット、することの少ない日であった。
 
 20時30分終了

7月25日 (水)撮影60日目

 9番ステージ9時開始。

 ゴジラとキングギドラの格闘。
 「ゴジラに噛みつこうと右頭が飛びかかるや、ゴジラの右手がそれを押さえつける」、というカットおよび、
 「ゴジラ、ギドラ右頭の根本に噛みつきながら、左頭を左手で押さえつける、ゴジラの背中に噛みつこうとするギドラの中首」、というカット。
 いずれも操演首では実現不可能な芝居である、ギニョール式(手つっこみ式)の真価が問われる場面だろう。

 ゴジラの手は短いし、首なども自在に動くわけではない、頭で考え、絵コンテでは出来そうに描いてあるカットでも実際の演技に落とし込むには様々な試行錯誤(と、多くの妥協)が必要だ。

 次がギドラに噛みついているゴジラの口のアップ、くい込んでいる牙から血が出る、というカットだ、この血は操演部なのか特効部なのかと思っていたら造形部が仕込みをしている、このあたりの切り分けも東宝初心者にはわかりにくいことの一つだ。

 まあ、特殊メイクじみたこともやる造形家さんなら、血出しくらいは簡単にいけるかと思ったのだがやはり(などと言っては失礼だが)苦戦し、あれこれやったあげくに後日再挑戦ということになってしまった。

 このあとが操演大会、組み合っているゴジラの後ろからモスラがフレームインして近づいてくるというカット。
 飛んでくる距離が長いのでクレーンというわけにはいかない、9番ステージ名物「ゴンドラ」の出番である。

 「ゴンドラ」とはなんであるか? 
 そもそもこの9番は円谷英二専用スタジオとも呼ばれていたほどで特撮映画が多く作られてきた。
 その際「吊りもの」が撮りやすいように、あるいは移動の俯瞰撮影が出来るようにとステージ中央にH鋼で出来たレールとそれを走る台車が常設されているのだ。

 普通まっすぐ飛ぶ物を吊る時は「親線」という仕掛けを使う、これは直径1.5〜2ミリのピアノ線をステージ上部に張り渡したもので、台車がロープウェイのようにそれからぶらさがる。
 人物など重いものを吊る時はピアノ線でなく直径数ミリのワイヤーロープになることもあるが仕掛けは変わらない。
 親線はどこにでも張れるし、簡単にバラせるし便利な仕掛けなのだが欠点もある。
 その最大のものが吊った物が中央に来るとたわんで下がるということだ。

 台車は親線にまたがっているので途中に支柱は入れられない、なるべく強い力でピンと張って下がりを押さえるしかないのだが限界はある
 (ベクトル図を描いて見るまでもなく、左右に引く力だけでは、物を上に持ち上げる力は発生しない、どんな軽いものを吊ったとしても必ず親線はたわむのだ)
 
 その点この「ゴンドラ」は鉄製のレールがステージ上部に固定されている(台車は 工 の形で固定されたH鋼の下のT字部分を走行する)だから絶対たわまない。
 そしてワイヤー親線がせいぜい大人1〜2名を吊るのが精一杯なのに対して数人が乗っても大丈夫なだけの強度がある。

 かつてのキングギドラの撮影の際にはこれに操演部が何人も乗り、羽を動かし、首を動かし、尻尾を動かしていたという。
 この人が乗れるようになっている部分がゴンドラである、ロープウェイで人が乗る部分をゴンドラというのと同じだ。
 「ゴンドラ」は台車から取り外すことが出来るし、外したまま台車のみを使うことも多いのでこの仕掛けそのものを「ゴンドラ」と言うのは間違いだと思うのだが、東宝ではこれを「ゴンドラ」と呼びならわしているわけなのだ。

 さてこの「ゴンドラ」を動かせるようにするのがまず一苦労だ、台車自体はレールにぶらさがっているだけで駆動装置はなにもない、そこで台車の前後にザイルを結びつける、ザイルはレールの両端に取り付けられた滑車を通り、ステージの床まで降ろされ、ステージの端々に取り付けられた滑車を通って結び合わされる。

 つまりザイルは台車の前から、レールの端、レールの端からステージ床、ステージ床から反対側のステージ床、ステージ床からレールの端、そして台車の後ろへと、輪を描くことになる、床を這っているザイルを引けば台車は反対向きに動くということになるわけだ。

 口で言う(手で打つ)のは簡単だが、なにしろ9番ステージはでかいのでようよう進まない、ザイルの通り道になる場所に置いてある各パートの機材をどけてもらうだけで大騒ぎだ。

 さて、動かせるようになったらこんどはモスラを吊る、羽ばたきのザイルは台車からステージまで直に降ろし、操作する者は台車と一緒に歩きながらこれを引くことになる。

 セッティングに時間がかかり、終了は21時になった。

 
7月26日 (木)撮影61日目

 9番ステージ9時開始。

 昨日の続き、背後からちかづいて来るモスラに気がついていないと思われたゴジラだが、あにはからんや、後ろを振り返りもせず尻尾でモスラを払いのける、というカット。

 一発撮りでは尻尾の操作が難しいと思われたので特撮らしい手を使ってこれを実現する。

 つまり尻尾の根本はフレーム外に置き、尻尾だけを別に撮る、手前のゴジラ(と組みあっているギドラ)はブルーバックで撮影して合成するわけだ。

 だからここでは尻尾のみ。以前病院壊しの際に使った尻尾回しの仕掛けを再び持ち出し、尻尾を縦に振り回せるようにする。

 あとはタイミングの問題だ。
 モスラが近づいてきたらおもいっきり尻尾を振り回してモスラに叩きつけるのだが、ゴジラの尻尾は左から入ってくる、タイミングが早すぎれば顔に当たってモスラは右を向く、遅すぎれば尻尾を右に払って顔が左を向く、監督の狙いは右にはじき飛ばされたいというものなので、バランスのいい胴体中央部に尻尾を命中させなくてはならない。

 これはやってみるしかないね、ということでぶっつけ本番でいく。
 えてしてそういうものだが、ものの見事に一発OKとなった。

 ここでナイターの準備となりオープンのプールに出る

 今日はギドラがゴジラに体当たりするカット、21日にちょっとテストしてみたやつだ。
 
 オープンでのギドラの吊りも2度目なので、面倒ではあるものの(16本もピアノ線があるので)試行錯誤する必要もなく準備は進む。

 似たようなカットが2つあり、一つはゴジラが踏ん張ってギドラをつかまえてしまうもの、もう一つはギドラがゴジラを押し倒してそのまま海に倒れこむというものだ。

 まずはつかみ取るほうから行く、ギドラは高さを合わせゴジラの真ん前に吊っておく、それを背中から伸ばしたピアノ線で後ろに引いて距離を取る、後ろ線をゆるめればブランコしてゴジラに激突するという案配だ。

 まともにぶち当てたのではババちんもたまらないので、ゴジラの手前で停止するようピアノ線の長さを調整しておく。
 
 軽く、スピードを殺した速度でテストをしたあと本番、一度目はババちんがギドラの足をつかみそこねたのでNG、まあこの仕掛けはすぐに何度でも行ける。
 2,3回やってOK。

 次が一緒に倒れ込むほうだ、これはちょっとやっかいかもしれぬ、というのはギドラはブランコしてゴジラにぶち当たるわけだが、ブランコの下死点が丁度ゴジラの立っているところになっている。
 ゴジラが後ろに倒れ込んだら、吊っているピアノ線も一緒にゆるめてやらないとギドラだけブランコしてまた上に昇っていってしまうのだ、15本のピアノ線をもっている数人の人間が息を合わせてゆるめないとおかしな絵になるだろう。

 そしてもしNGが出たばあい、ゆるめてたるんだピアノ線がどのような状態になっているか保証のかぎりではない、最悪ゴチャゴチャにからみでもしたら吊り直しになるのだが、それだけは避けたいものだ。

 これはやってみるしかない、ということでぶっつけ本番である、ピアノ線を持っている各人には、どういう風に倒れ込むか、どんなスピードかは、やってみないとわからないのでその場の瞬間的な判断にまかせると、しか言いようはない。

 しかしこれは幸いにも一発OKとなった。
 
 サクサク進んだように見えるが、仕掛けが大げさであることもあり、全部バラした時には0時を回っていた。


7月27日 (金)撮影62日目

 昨日が大残業だったので、9時30分開始
(30分遅れってところがセコい)

 ゴジラの放射能火炎を受けたモスラが金の粒子に分解するカット。
 両者とも合成になる、一度ゴジラに立ってもらいダミーのモスラをしかるべき場所に置いて参考用の絵を撮ったあとは背景となるセットのみの撮影。

 ゴジラの放射能火炎をギドラが受け止め、エネルギー体を作り出すカット、ギドラは合成なので手前のゴジラとセットのみ撮影。

 その続き、エネルギー体をゴジラに向かって飛ばすギドラ、同じくギドラ合成、ゴジラとセットのみ撮影。

 いずれにせよ操演部の出番はほとんどない。

 このあとオープンに出てナイターの準備。

 1番目は爆散したギドラの破片がゴジラの周囲に降り注ぐカット。
 高所作業車のバケットから鉄骨を張り出し、蝶番をつけたコンパネ3枚を並べて取り付ける、コンパネにザイルを結びつけ水平になるよう引いておく、この上に造形部の用意した「破片」を乗せてゴジラの上に行き、ザイルをゆるめると破片がふりそそぐという案配である。
 ま、一種のバタンコだ。

 一緒に火の粉も降り注ぐのだがこれは特効部のお仕事、特効部は材木の廃材、端材を集めてきてはたき火をしている、これがほどよく燃えたところで一斗缶ほどのサイズのカゴに入れ高所作業車から何個もぶらさげる、スタートの合図でこれらをめったやたらと振り回すと燃えさしがくだけて火の粉となり降り注ぐというわけだ。

 仕掛け的にはなんということもないので暗くなったところで即本番、NGが出ると破片の回収と水切りに時間がかかってイヤだなと思ったが一発OKとなった。

 このあとは上空のギドラに向かって吠えたり、威嚇したり、放射能火炎を吐いたりするゴジラということで操演的にはさしたることもない。

 22時終了。


7月28日 (土)撮影63日目

 9番ステージ9時開始

 前日の続き、向き合うゴジラとギドラ。
 ギドラは合成、ゴジラとセットのみ。

 次がビル群の向こうに始めてその姿を現すギドラ、ギドラはCGなのでミニチュアセットのみ。

 次が爆散したモスラの粒子がビル街を進んでいくカット、粒子は合成なのでミニチュアセットのみ。

 ここでオープンに出て、プールの準備。

 いよいよ今日が水中上下台の出番だ。
 3怪獣のエネルギー(?)にまとわりつかれたゴジラが水中に引きずり込まれるカット。
 ババちんをエレベーターに縛りつけて水中に引っ張り込むわけだ。

 3週間以上も前に仕掛けたエレベーターなのでその後問題がないかどうか入念にテストする。
 今日のところはゴジラは完全に水没するところまで行かず、ババちんの顔が水につかるかどうかという所まで。
 ババちん自身もスキューバのエアをくわえているので問題はないはずだが、なにかのはずみで台車が一番下まで行ってしまい上がってこなくなるのが一番怖い。

 AACもスキューバダイビングの用意をして、最悪の場合のババちんの脱出方法をを検討している。
 
 カメラが俯瞰になるとエレベーター自体が見えてしまう、一応黒く塗ってはあるのだが目立つ部分にはウールペーパーというつや消しの黒い紙を張る必要がある、それもこれも水中作業なのでなにかと時間がかかる。

 そろそろ行こうか、となったのが8時過ぎ、ババチンはマウスピースにロープを結びつけ顔にギリギリと縛りつける。
 万が一水の勢いでマウスピースがはずれてしまったら、着ぐるみを着ているババちんには直せない、はずれてしまっているかどうかは外からはわからないし、意思表示もままならない。
 何があったにせよ周囲は呼吸だけは確保されていると信じているわけだからこれほど危険なことはないのだ。

 着るのが簡単で脱出しやすいよう腰から下のない水中用ゴジラをかぶったババちんがエレベータの台車に乗る、着ぐるみの腰からはベルトが何本も出ているのでこれを台車に縛り付ける。
 いかに水を吸って重くなるとはいえ、基本的にはウレタンとラテックスで出来た怪獣は水より軽く、そうでもしないと水没しないのだ。

 エレベーターの動力であるフォークリフトのレバーは私が握ることにする。
 ババちんには、ババちんの顔が水没しないように止めようとするとはるか以前からブレーキをかける必要があり、使えるところが減ってしまうので、一瞬水没するところまで下げるが心得ておいてくれと念を押す。

 いよいよ本番。

 細心の注意を払っただけのことはあって、なんということもなく終了した。
 
 21時

7月29日 (日)

 お休み

7月30日 (月)撮影64日目

 9番ステージ9時開始

 今日は大ごとが待っている。
 ゴジラがギドラを「投げ飛ばす」のだ。
 コンテにはこう書いてある
 「ゴジラ身をよじりながら腰を落とし、巻き込むようにひねって、引き離して、ブン投げる」と。
 字で書くのは簡単だ、絵で描くのも。
 絵コンテにはまるで柔道の達人のように見事な巻投げを実行しているゴジラが描かれている・・・が、そうはいかんだろ。そもそもこの絵のゴジラ、妙に手が長いじゃないか。

 と言うわけで、実際にはやってみなけりゃわからない。
 あるいは、絵のようにはいかないことだけはわかっている、とも言える。

 けっきょくは監督がどこまで妥協してくれるか=そのカットで何を見せたいか、によるのだが、コンテのように、あるいは頭に思い描いたように、寸分たがわぬ動きを要求されると困ったことになる。
 (CMの演出によくあるタイプで、行きすぎると「振り子を早く振れ」と言い出すような困ったちゃんが出来上がる)

 まあ、神谷特技監督は特撮長いし、描いたようにはすすまないことは知っているから、おそらく
 1・大きなモーションで
 2・迫力があり
 3・あるていどリアリティのある
 投げが作れればOKが出るとは思う。

 まずはアクション監督たる阿部氏とババちんを含めた4人で理想的にはどう投げたいかを聞き出すことにする。

 ギドラは最初から人無しでいくことに決まっているので(人が入っているとどうしても重くなり、あらゆる挙動がたるくなるからだ)
 とりあえず背中から一本ピアノ線を出して吊り上げ、ギドラをある程度自由に動かせるようにする、そして監督の模範演技、ゴジラなみの体躯とババちんなみのパワーを併せ持つ神谷監督ならではの演技指導である(笑)

 やってみるとやはりコンテにはウソが混じっていて、そうはさばけないだろうという部分が出てきた、もちろん人間には出来るけどゴジラじゃそれは無理だろうという個所もある。
 あれこれとやってみたあげくに妥協案が出来上がり、あとはやってみるしかないだろうということになった。

 えてしてこういうものは最初のテストでうまく行き、その後それが再現できなかったりするものなのでともかく「回していく」ことにする。

 結局4,5回のテイク、一長一短でこれは大成功!と言えるテイクはなかったのだが、これはつまるところこっちに気を取られるとこっちがまずく行き、こっちをうまくやろうとするとあっちが今一つになる、ということがわかったため、どれかをOKカットにしようということで終了となった。

 このカットで午前中一杯かかったので、午後からはオープンナイターの準備にかかる。

 カットはゴジラの背後に迫るモスラ。
 ほとんど「真(ま)アオリ(真上をカメラが向いている)」に近いカットであるため、セットでは撮れないカットだ(セットの天井が見えてしまう)
 とはいえ、本気でカメラが真上を向いてしまっては、モスラを吊っている仕掛けがバレてしまうので若干カメラは寝ている、どのくらい寝ているかと言えば手前に立つゴジラの頭上20メートルくらい上ならフレーム外だというくらいだ。

 そこでゴジラの頭上に高所作業車のバケットを置き、そこからモスラをながーいピアノ線で吊る、そしてながーいピアノ線を尻尾から出し、後ろに引っ張ってバックさせる、このピアノ線をゆるめれば、モスラはゴジラに近づくという寸法だ。

 後退する距離とくらべて、吊ってある線がながーいとは言え、やはりこれはブランコであり、バックするにしたがってモスラは上昇していってしまう、これはモスラを吊っているザイルを(目測で)調整し一定の高さを保つしかない。

 一定の高さを保つだけならさして難しい作業でもないが、この者はもう一本、羽ばたき用のザイルも持ち、高度を微調整しつつなめらかに羽ばたかせなければならないので、かなりの技を要求されることになるだろう。

 やってみるとあいにくの風で、引き込んだ線をゆるめただけではモスラはフラフラしてしまうことがわかった、そこで顔からも一本ながーいピアノ線を出し、前後で引っ張り合いながら、前進させることとなった。

 セットでおこなえば何ということもないが、ザイルを通す滑車一個とりつけるだけでも、オープンではその手がかり、足がかりを作るのに手間がかかる。
 結局このカットだけで、この日は終了してしまった。

 22時終了 

7月31日 (火)撮影65日目

 9番ステージ9時開始

 ゴジラが投げ飛ばしたあとのギドラに放射能火炎を吐くカット4つをまず撮る。
 これは比較的「寄り」なので、そう時間はかからない。
  
 次ぎはギドラの首に噛みついているゴジラ口元から血がしたたるカット、以前一度チャレンジして失敗、撮り直しになっていたものだ。

 これも二度目なのでさすがにうまく行く。

 次ぎはモスラが繭を破って出てくるカット。ギニョールを使うのだがこういったものは作り物屋さんがみずから演じるものと相場が決まっているので、完全にお任せし、我々は投げ飛ばされたギドラがビルにつっこむカットの準備をする。

 ギドラがどういう体勢で飛ばされてくるかは昨日の投げ飛ばしで決まってしまっている、コンテでは頭が下、背中からビルにつっこむとなっているが、頭は下であるものの、腹からつっこむことになるわけだ。

 始めに段ボールで出来たダミーの建物を置きテストしてみる。
 このギドラも人無しである、基本的には投げられた時のかっこうで吊って、その下死点に石膏ビルを置き、ブランコでつっこませるだけである。
 激突したら吊りの線をゆるめ、あとの動き、ビルの壊れ方などは運を天にまかせるしかない。
 もはや人智の及ぶところではない(←おおげさな)のである意味気が楽である。
 めっちゃ重い着ぐるみがでっかい石膏ビルに激突するわけで、何がどうなったって迫力ある絵にはなるさね、という読みでもあるわけなのだが。

 我が社的には(ことの重大さからみれば)比較的早く、楽に準備が終わったが、石膏ビルを「傷めて」おく特効部、その周辺を飾る美術部などはやはりそれなりの規模であるために時間を要し、結局このカットが終了したのは深夜、24時となってしまった。

 予想どおりの迫力ある面白いカットになったと私は信ずる、人智の及ばなかった(←まだ言ってる)首の動きなども、狙いかと思われるような芝居になっているのは特撮の神様のはからいであろう。



 これで、七月が終わった。
 予定ではあと一週間でクランクアップとなっている・・が、カットは山のように残っている、実際ここから1ケ月はないと終わらないほどの量が残っているのだ、いったいこれから先なにが我々を待ち受けているのだろうか?!

 (ってまあ、容易に想像はつくんだけどね)