ゴジラ操演日記 6月

 
キングギドラ登場



2001年6月1日(金)撮影14日目
 
9時開始東宝スタジオ9番ステージ。

 ゴジラの尻尾で空中高く跳ね上げられたバラゴンが報道ヘリにぶちあたって落ちてくるカット、ヘリは後で合成、ここはバラゴンの背中に小型ナパームを付けて落とし、想定される衝突地点でナパームに点火しそのまま落下炎上するという段取りになっている。

 バラゴンは相当のいきおいで横に跳ね飛ばされており、本当の事を言えば放物線を描いて落ちてくる必要がある、2本のザイルを使って放物運動風の動きを作ることは出来るが爆発があるので撮影のコマ数をあげるに違いなく、つまり早い落下速度が必要でなはずで、そこで正確な軌道を描くのは難しいが合成のことを考えれば位置合わせは正確である必要があり、それはイヤだなあと思っていたのだが、まっすぐ落としていいことになりかなりほっとする、この組は「それはうまくいかないからやめようよ」といってもなかなか許してくれないのでちょっと神経過敏な私なのであった。

 昼過ぎに終了、次は大湧谷ロープウェイ駅越しで炎上するヘリコプター、およびそちらを向くゴジラ。

 終わったら22時だった。


2001年6月2日(土)撮影15日目
 
9時開始東宝スタジオ9番ステージ。

 最初はゴジラの尻尾ではね飛ばされるバラゴン、昨日撮ったヘリへのぶち当たりの前になるカットだ、飛ばされるバラゴンは半端でなく飛んでいくのでブルーバックでの合成となる、ためにここでは尻尾を大きく振るゴジラのみ。

 操演部が尻尾を吊り、ババチンが腰を勢い良く振ればOKと考えていたのだがまたしても監督のイメージは針の穴を通すようであり勉強会になってしまった。

 普通に振ったのではダメだということがわかり、では尻尾の振り始めを別人が補助しようということになり、しかし勢いをつける手助けとして尻尾の先端を投げ出したほうがいいのか、最後まで持っていることでタメを作り離した後の勢いを増す方向にもっていったほうがいいのか、というのが基本的な問題だが、そもそもババチンの腰の振りと吊り上げのタイミングだけでも尻尾のふるまいは変わる、それも人間のやることでかなりの偶然が作用する、そこに別な要素が加わるともう何がよくて何が悪かったのかわかんない、というハメになってしまうわけだ。

 あれこれやって何テイクも撮りやっとOKとなった、何事もすんなりとはいかないものである。

 このあとロープウェイ駅の崖を登ろうとするバラゴンを火炎放射で狙うゴジラ、次が切り返して(カメラの方向を逆にして)崖を登ってくるバラゴン。

 どちらもバラゴンの全身が入っているのでどうやってホコリを出そうかと悩むくらいで操演的にはたいしたことがない。

 ここんとこ残業が続いたので今日は早く終わろうと言っていた割にはメシ押し(食事時間になっても食事にしない)になり、ヌキロク(5時になっても食事にしない代わりに6時に終わろう)の筈が18時30分終了になってしまった。


2001年6月3日(日)

 毎日曜が休みだなんてサラリーマンのようだ。

2001年6月4日(月)撮影16日目
 
9時開始東宝スタジオ9番ステージ。

 バラゴンがロープウェイ駅の崖を登っていると火炎放射が足下に命中し、足元の崖が吹っ飛ぶ、というカット。

 監督の「ハデに土を飛ばしてください」という要望で特効がハデに火薬を仕込んでいる、そしてバラゴンはそのすぐ上に居る。
 いままでも崖登りは自力でやってきたので間違いはないと思うが、万一足を滑らすと危険なので安全策としての吊りを行う。

 太田嬢に本場ハリウッドはAMSPEC社製のジャケット型フライング・ハーネスを着せ、背中の一点吊りにする、体が回転してしまうので吊りは普通1点ではやらないのだが今回はあくまで補助なので簡単に行く。

 いよいよ本番、操演的には太田嬢が足を滑らしたときに「効く」ようにザイルを持っているだけだ、ドカンという音でハデに土が飛ぶ、どんなカットもビデオでチェックせねば気が済まない神谷監督も思わず「OK」と声を出す。

 太田嬢は振動で足を滑らしたそうな「吊ってもらってなければ滑り落ちたと思います」とのこと、まあ実際にはバラゴンはこれで崖下に落ちるのだからリアルではある。

 続いてその滑り落ちるバラゴンのアップ、これは顔の寄りなので台の上に立って落ちる芝居をするだけ、爆発の直後という雰囲気をホコリで作る。

 ここまで撮ったところで撮影済みのフィルムを特急で現像所に送る、これでロープウェイ大湧谷駅の「無事な姿は」全て撮り終わったことになり、明日は駅舎崩壊の準備に入る、入るのだが壊したあと昨日のカットはNGでしたというのではおおごとなので、早く現像を上げてラッシュを見る必要があるのだ。

 このあとバラゴンを人無しで吊ってゴジラの尻尾で叩かれるアップを撮る、ゴジラに迫る移動感は移動車で作り、まさにゴジラに届くかという感じのところで尻尾が下からフレームインしてきてバラゴンを跳ね上げるのだ。

 移動車の迫るタイミングと尻尾を振る大久保くんのタイミングが微妙で何度も繰り返す、やっとOKが出たものの長くて重い「振り回し用尻尾」を何回も振っていた大久保くんはこれで筋でも違えてしまったのか腕が痛いという。

 20時30分終了。

2001年6月5日(火)撮影17日目
 
9時開始東宝スタジオ9番ステージ。

 事故が起こった、新人の本望君が右手の親指を骨折したのだ。

 「トンネル崩壊」の仕掛けの打ち合わせのため出来て来たばかりのミニチュアをスタンド(伸縮するΠ字型の鉄の枠が付いている)に固定していたのだが、事が済んでさあバラそうということになったとき、枠の上に親指を置いたまま自分で固定ネジをゆるめ、伸縮部分がそこに落ちてきたというわけだ。

 事が起こった時はたいしたことがなく思えたのだがあまりに痛がるので病院に行かせたところ、剥離骨折、全治3週間ということがわかった。

 今後のことは明日にでも相談しようということになってともかく家に帰らせる、本人はもちろんだが操演部一同しおしおである、スタジオというのは安全な場所ではない、新人ということで重いものは持たせず、高いところにも登らせずと安全には気を配っていたはずなのだが・・・
 ゆるめれば物が落ちてくる場所に指を置いたままそのネジをゆるめる、というのはもはやハタからは気の回しようもない常識的な問題であると思うのだが「何はともあれ新人がケガをするのは先輩の責任である」というのもまた考え方の一つだろう。

 皆「う〜〜ん、どうしてそういうことをするかなあ」
 「そこに指置くなってことまで普通言いませんて」
 「いや問題はそこじゃなく、なにやってるさあ急げ、みたいなアオリが不注意を呼ぶわけよ」
 「今はあおってないってば」
 「普段のプレッシャーがずっと効いているってことなのでは?」
 「しかし仕事を覚えるってことはだな」云々などお互い言い訳じみた言葉をかわしつつ意気は上がらない。

 ふ〜〜

2001年6月6日(水)撮影18日目
 
9時開始東宝スタジオ9番ステージ。

 朝一番で大湧谷ロープウェイ駅崩壊のテストをする、これは前半戦のトリになる大仕掛けである。
 駅舎の半分が2段階に崩落したいという監督からの要望により今回は本邦初公開「3段逆スライド方式」のバタンコを考案した(って「3段云々」のネーミングはレトロでローカルなジョークだ、関東地区以外の方すんまへん)

 その仕掛けはこのようなものだ。
 駅舎の落ちない約半分は頑丈なベースに乗っている、あとの半分は2枚のバタンコの上に乗っており下の板が落下すればそれぞれの部分が引きずられて落下する、この頑丈なベースと2段目のバタンコ板、2段目のバタンコ板と1段目のバタンコ板は蝶番でシリアルに連結されているわけだ。

 始めに1段目の板に噛ませてあるストッパーを払うとこの板は2段目との間に取り付けられた蝶番で(下に)折れ曲がって落ちる。
 ここですかさず2段目を落とすわけだがこの2段目の落下の途中で1段目はストッパーに当たって停止する、2段目は構わず下がり続けるので始め下に折れ曲がっていた1段目はこんどは上に折れ曲がる、従って1段目は始め下に曲がり、あとで上に曲がる仕組みが必要になるわけだ、西部の酒場のスウィングドアみたいなものである。

 これを実現するために1段目と2段目の間には短い関節部分が挟まっていて、2つの蝶番が上下に付いている、結局3つのパーツで出来ているので3段逆(曲がり)スライド方式・・いや、まだ「スライド」の意味を説明していなかったか。
 
 つまり、このバタンコというのは本番時には軽く、間違いなく落ちなければならず、といって準備中には間違っても落ちて欲しくない、いつだってどこだって間違って欲しくはないのだが今回は特に重要である、何度でも再生可能なカット(崖崩れとか)ならまだしも石膏製ロープウェイ駅はただ一つ、たった一回しか落とせない、そしてこれはバラゴンの最後にかかわる重大イベントなのである、うっかり準備中に落ちて壊してしまいましたなどというのは考えるも恐ろしい。

 というわけで本番では絶対落ちて、準備中には絶対落ちないストッパーを考案する必要に迫られた、これはまあテクニカルな問題なのでくだくだしく説明するのは省くが簡単に言えば普通ロープで引いてはずすストッパーを木の棒で引くということだ。
 引き棒をストッパーに蝶番で連結し、これを頑丈な場所へシャコマンで固定してしまえば抜きも差しもならず、絶対にはずれることがないというわけだ。

 この引き棒をロープウェイ駅が飾られている台座のはずれまで延ばし、頑丈に止めた固定用の横木の上に乗せてシャコマンで固定する、もう絶対に安全であり上に人が乗ってもまずOK、特効部の仕込みや美術部の飾りの手が入るくらいまったく問題は生じないだろう。

 この引き棒、本番時は固定用の横木の上を滑らせて(スライドさせて)引く・・という、ことで名付けて「3段逆スライド方式」、釣れば釣るほど安くなる(だから関東人以外はわからないって)


 朝イチで一度ダミーの駅舎を乗せテストをする、OKとなったところでバタンコをリセットし固定する、これで操演部の準備は終わり、これから気の遠くなるような準備が待っている。
 まず美術部が高さ2メートル以上のセットの上に石膏製駅舎を乗せる(駅舎は高台にあるのだ)普通数人がかりで持ってしずしずと移動するべき石膏ビルをフォークリフトで目よりも高く持ち上げるので緊張する作業だ、安置したところで壊れて欲しくない部分を裏から補強する、次ぎに特効部が切れ目を入れ、火薬を仕込む、ついで美術部は切れ目を補修し、駅舎回りを飾る、低ければまだ同時多発で進められる作業も高台という都合上脚立での作業になって効率が悪い、準備には数時間を要すると思われた。

 思われたので上田、大久保の両名を作業場に派遣し昨日の打ち合わせ(本望君の親指の犠牲の上に成り立ったそれ)で決まった「トンネル崩壊」の仕掛けを作ってもらうことにする。

 残った人間はすることもなく待ち、

 待ち、

 待ち、

 昼メシになった、

 更に待ち、

 待ち、

 夕方、作業場より電話「そろそろ出来るけど、状況は?」「全然、もっとやってていいよ」「いや、もう出来るけど」

 両名が戻ってきても待ち、

 夕食になった、

 待ち、

 そろそろ行きます、という声がかかったのは8時頃だったろうか。

 演出部はあれこれしつこいほどにテストを繰り返す。

 テストたって何か実際に動かせるわけでないので、口で言うだけである

 監督「よ〜〜い」
 撮影助手「ういいいいん(カメラのモーターがハイスピードになっていく様、本当に口でこう言う)、上がった!」
 監督「ハイ!」
 カチンコ「カチン」
 私「シュ〜〜モクモク」(エアーでホコリを出しているつもり)
 大久保「イチ、ニ、の、サン」(バタンコのきっかけ出し)
 秀平「ザラザラ」(きっかけの岩を崩したつもり、「サ」のタイミングで落とす)
 大久保/辻川「ガラガラガラ」(一段目のバタンコが落ちたつもり、「サン(一拍)」」で落とす)
 上田「ガラガラガラ」(二段目が落ちたつもり、一段目が作動したのを見て落とす)
 中條(特効部)「ダダダダダン」(内部に仕込んだ火薬が破裂した様を示す)

 あまり意味がない。

 こういうテスト(声を出すだけのテスト)は特撮慣れしてないスタッフのイメージトレーニングとしてやるものであってほとんど操演部内部で事が終結するこのカットのような場合は必要ない、というか必要があるかないかの判断が付かない演出部が特撮慣れしていないということだ。

 本番。

 もちろん一発OKである(壊れてしまえば監督といえど、もう一度とは言えないカットだ)
 タイミングはもうバッチリ、落ち方も予定通り、コマ落としで見てもドンピシャリである、乗るか反るかの一発勝負で結果を出すことこそ操演部の醍醐味と言えるだろう。

 22時終了。
 

2001年6月7日(木)撮影19日目
 
9時開始東宝スタジオ9番ステージ。

 親指を骨折した本望君だが保険のおかげで治療費の全額と休業補償も出ることになった、彼もカツカツの生活をするバイト君なので休みが長くなって実入りが減るのは困るだろう、と言って現場に来させておいて何もせんでいいよと言われてもいたたまれないだろうと思っていたのでこれで安心して(?)休んでもらえるわけだ。

 というわけでとりあえず1週間休んで様子を見ろと言い渡す、病院で言う全治と言うのはまったく元通りになるまでの期間なので3週間と言うならまず2週間程度で日常生活には不自由しなくなるはずだ、右手をあまり使わない軽作業ならそれよりもっと前に復帰できるはずである。

 実はかくいう私も昨年の秋、映画のウルトラマンの準備期間中に交通事故を起こし(バイクを運転中車と接触した)左手薬指にヒビが入ったことがあったのだがこれが全治2〜3週間と言うものだった、まあ技師というのは口が動けば仕事になる(!)ので下っ端作業員とは事情が違うのが見当はつくのである。



 さて今日のお仕事はロープウェイ駅と共に崖下に崩れおちたバラゴン関連が主となる。
 まずは「瓦礫に埋まりケーブルにからみつかれて身動き出来ないバラゴン」と「近づくゴジラの気配に気が付いてゴジラを見るバラゴン」これはどちらもホコリ程度。

 ついで「放射能火炎をバラゴンに発射するゴジラ」、これは特効がけっこうなナパームを仕掛けることになったのでバラゴンは太田嬢を入れずに撮る、なにもしないと無人君であるのがバレバレなので両腕をピアノ線で動かす、スーパーマリオネーションというところか。

 ナパームはもちろん危険だが、慣れたスタッフの中でやることでもあり人さえ着ぐるみに入っていなければなんということもない。

 次が「炎の中で断末魔の叫びを上げるバラゴン」、これは背景と前景の間にバラゴンを合成するのでここでは燃えている背景のみ、あとでバラゴンをブルーバックで撮ってこの上に乗せさらに炎を撮ってその上に乗せる。

 岩の前で火を燃やすだけなのでこれはすぐ終わった。

 21時30分終了。

2001年6月8日(金)撮影20日目
 
9時開始東宝スタジオ9番ステージ。

 バラゴンが敗北して大湧谷のシークエンスは終わりである、スケジュールからいってもそろそろ前半戦を終わらねばいかんのだがまだまだ虫食いのようにカットが残っている、今日からはその穴埋めにかからねばならない。

 まずはバラゴンが地中にもぐった後の引き絵、かなり前に入るべきカットであり何故いままでほっておかれたのかと言えば、大湧谷の噴煙が出ている崖向けの絵でつまりは切り返し(カメラがそれまで撮っていた方向の逆を向くこと)になるからだ、いままでは基本的には北向きの絵を撮っていたのである。

 9スタ一杯に飾った大湧谷セット全体が入る広い絵で当然のように時間はかかる、操演部のお仕事はバラゴンが地面にもぐった後のホコリの名残とゴジラの尻尾。

 そのあとロープウェイ駅舎内部から見たゴジラ、バラゴンの落とし穴作戦でひっくり返った後のゴジラ、バラゴンジャンプ攻撃を尻尾ではたき落とすゴジラなど前後の脈絡のないカットを次々と撮る。
 とにかく来週火曜にはラストシークエンスである「海底」に入らねばならないので、詰め込まなくてはならない。

 22時30分、送り寸前で撮影終了。

2001年6月9日(土)撮影21日目
 
9時開始東宝スタジオ9番ステージ。

 落とし穴作戦に成功し勝ち誇るバラゴンとそれを威嚇するゴジラが本日のファーストカット、これはすぐ終わる。
 次が放り投げられたバラゴンが更に横面を蹴り飛ばされ崖にめり込む(!)カット、これは「実力差がありすぎて悲惨なことになっているバラゴン」へ同情を買うためカットとも言えるだろう。

 壁にウレタンを仕込み、めり込むような仕掛けをしておいてバラゴンを前に置き、ふくらはぎのところで外したゴジラ足を両手で抱えて叩きつける、始めは太田嬢を入れて芝居をしていたのだが、人入りでは思い切って叩けないないと言うゴジラ足係大久保のもっともな要望で人無しに変更する。

 バラゴンは崖から起き直ろうとするところを蹴り飛ばされるわけで起き直る芝居は必要である、そこで上田がバラゴンの着ぐるみに小スタンドを差し込みフレーム外から起き直る芝居を付ける。

 ヨーイスタートでバラゴンは崖から起きあがろうとする、顔が少し浮いたところでゴジラ足が左から凄いスピードでフレームインしてきて再び崖に顔を叩き付ける。

 一発目はかなりうまくいったと思ったが、蹴りこんだ後踏みにじる動きがあった方がいいということになりNG、2回目もうまくいったと思ったが足の当たる位置がもう少しカメラ寄りの方がいいということでNG、3回目はいろいろダメでNG、4回目は・・と、またしても針の穴を通す演出になってきた。

 こういうものは操演担当者が自分のいいと思ったタイミングで思い切ってやった1回目が一番良かったりするものだ、あれこれ注文をつけられるとそれに向かって調整しようという意識のおかげで肝心の勢いが無くなってしまうのである。

 NGを一回出すたびに注文のポイントが増えていくとも言えるわけで、こういった一瞬の芝居の中に調整点が3つもあった日には「やるべきことは一応こなしました」といった嘘臭い動き(これを「段取り芝居」と言う)になりやすい。

 あれこれやってみるうちにだんだん悪くなっていくので仕方なく適当なところでOKが出る、1発目が一番いいのではないかな?

 その後ジャンプ攻撃直前のバラゴンの寄り、土煙の中に消えていくバラゴンの尻尾などを撮っていたら23時、今作品初の送りとなりました。


2001年6月10日(日)

 休みの前の日くらい早く終わらせて欲しいよね。
 なんて。
 毎週休みがあるなんて夢のようだと言っていたのもつかの間、すぐにつぎの不満は出てくるものである。

 しかしこれで体が慣れてしまうと休みは10日にいっぺんあればいいほう、しかも期日は不定で間際になってからずらされたり無しになったり(!)するのが当たり前、という「いつもの作品」に付くのが怖い。

2001年6月11日(月)撮影22日目
 
9時開始東宝スタジオ9番ステージ。

 明日から「疑似海底」の撮影に入らねばならないので何が何でも今日の予定は消化せねばならない・・のだが今日まで一日平均4カット以下しか回せていないこの組で5カット回せるだろうか?
 総合スケジュールからすでに1週間以上遅れているのだが誰も焦る気配がない(スケジュール管理しているチーフ助監督菊地だけがカリカリしている)序盤戦であるバラゴンの大湧谷シークエンスだけで日程の1/3、1ケ月近くを消費していいとは思えないのだが。

 ここで念のため言えば(良い子ぶるわけではないが)操演部はいつもスピードを重視しているし、操演がらみのカットで現場が停滞していれば「巻きを入れ」たりもしている。
 本来そういうことは演出部の役目であるはずなのだが年がら年中特撮をやっている我々の目から見ると1年のうち3ケ月くらいしか特撮をやらない東宝の助監督には喝の入れどころが見えていない。

 基本的にどこかのパートが作業をしているなら黙って待つ、というスタンスだが、この「作業」が実はクセものだったりする、つまり今とりたててやる必要はないのだが時間があるなら(他のパートが何かやっていて自分のところで「待ち」になっていないなら)やっておこうという作業な場合もあるのだ、こういうパートが2つあるとお互いに「あっちがなにかやってるから大丈夫だ」とばかりに手を止めず、結果現場はひたすら待ちになる、ということがある。

 これはいろんな技術パートが何をやっているのか、作業のどういう段階にあるのかを理解していないと止められない。
 
 また不慣れな造形助手が着ぐるみのそのカットでは絶対に見えない場所の「バレ隠し」を必死でやっている可能性もある、造形部は自分の作り物をいつでもどこでも完璧に保とうとしていて、そのことは当然あるべき姿なのだが、それで「待ち」になっている場合には「今は見えないよ」、とか「一度テストをすれば壊れるから本番の直前以外で直すのは時間のムダだよ」とか言う人間は必要だ、操演がらみであれば我々が言うがそうでなかった場合にまで口は出せない、どうしても助監督にはしっかりしてもらわねばならないのだ。

 これらは基本的には「いいものを撮るためには時間は惜しみませんよ」というスタンスを取る監督の意向に添って現場が動いているということではある。
 「うちの監督は全カット全力投球で抜くということを知らん!」とは神谷監督が樋口真嗣の助手時代に言った言葉だが今回は「うちの監督は全カット全力投球で・・(以下略)」と言われている、言っているのは菊地で菊地は当時の神谷助手である、歴史は繰り返す。

 当時も私は言ったのだが「スピードはクオリティ」だ、狙いに狙い、ねばりに粘った1カットを撮るのはいいがそれがためにNGが出てもリテイクする暇がなくなったり、B班にカットを振るハメになったりするなら総体として映画のクオリティは低下する、全力投球はすがすがしいが試合に負けたんじゃ仕方がない、プロならもすこし急いだほうがいいんじゃないかなあ・・・

 という祈り(?)もむなしく、今日は3カットしか回りませんでした、22時30分。
 残りの2カットは「あとでなんとかする」(?)として。明日はどうあっても「疑似海底」にいくのだそうな。


2001年6月12日(火)撮影23日目
 
9時開始東宝スタジオ2番ステージ。

 朝から2番ステージに引っ越しである、疑似海底ではミニチュアあり、怪獣吊りあり、ホコリありで機材のかなりの部分を持っていくハメになる、9番ステージから2番ステージというのは東宝撮影所の端と端でバス停なら2つくらいはある距離だ、ハイエースとトラックでピストン輸送をする。

 荷物の置き場所を確保し機材を整理しようとしていたらそこで上田がギックリ腰を発症してしまった、椅子に座った格好のまま微塵も動けない。
 制作部に頼んで病院に送り込んだがわずか数日のうちに助手が2人もリタイアしてしまった、祟られているのだろうか?

 さて今日12日は移動日で13日からの撮影に備えての準備のみです、と前から言われていたのだが昨日夜になって、残業はしませんがもし1カットでも回せるなら回したいと思います、と話が変わってきた。

 押してきたので少しでも回そうという気持ちはわかるのだがこういう行為は「欲をかく」→「助平心を出す」と来て「スケベる」という動詞になっている、そしてスケべって結果がよかったためしはない(これに侮蔑的なニュアンスがあるのはそのためだ)

 「岩の間からゴジラの背ビレが見え隠れする」という一見すぐ撮れそうなコメントが付いているカットではあったのだが(それ故チーフ助監督は回そうと思ったのだろうが)すぐ撮れるカットなどあるわけもなく、世の中にはあるのかもしれないがこの組にそれはあるわけもなく、2時から始まったこのカットは5時になっても6時になっても終わらず、結局ヤメヤメということになり、そのあとラッシュを見たので終わりは7時を回ってしまった。


2001年6月13日(水)撮影24日目
 
9時開始東宝スタジオ2番ステージ。

 一日寝たら少し良くなったといってギックリ腰がやって来たが、少し良くなったなら尚のこともう一日休んでいいからもっと良くなってから来てくれと追い返す。

 現場は昨日の続きで結局午前中一杯かかる。
 
 午後からゴジラに沈められた原潜とそれを探索する小型潜行艇「さつま」、特撮物に出てくる小型潜行艇というのはたいていトラブルの前兆であるものだが(嚆矢となるのはやはり日本沈没の「わだつみ」だろう)今回もその例に漏れず大海流に巻き込まれ、2機の内一機は大破する。

 大スペクタクルなわりには実はこれは単なる「つかみ」で何が起こったのか良くわからなかったりする、多分ゴジラが何かしたんだろうけど「何かって何?」という感じである。
 これは実は深く追求してはいけないものなのかもしれない、ヒッチコックに言わせれば「そんなものはマクガフィンだ」ということになるのだろう、「マクガフィン」とは観客を映画に引きつけるきっかけとして必要なもので「中身はどうでもいい」ものの総称である。

 さて今回そのマクガフィンはセットにセメントを撒き散らし150気圧の高圧エアーで吹き飛ばしたもうもうたる「泥流」である。
 1発でセット中セメントだらけになり1寸先も見えない、カットと同時に全員セット外に避難する。
 
 セット外でホコリが納まるのを待ちながら1年前もこのセットで「ホワイトアウト」の雪崩を撮っていたなあと思う、昨年も雪崩を1カット回すたびに息が出来なくなって全員外へ避難していたものだった、考えてみればメンツもほとんど同じである、長生きできなさそうな職場と言えるだろう。。

 22時30分終了。


2001年6月14日(木)撮影25日目
 
9時開始東宝スタジオ2番ステージ。

 泥流の前に入るカットでまず「カメラ前にやってくるさつま」
 ついで昨日の続きで「泥流に翻弄されるさつま2機」操演クレーンを2台使いそれぞれに回転機を取り付けてさつま2機を吊り、セメントのもうもうたるホコリの中でくるくると回す。

 2号機はこのあと岩にぶつかって大破する予定なのだが壊し用ミニチュアが作れなかったので破壊は後日ということになる、さつまは疑似海底以外にも出番はあるのでこれら全ての出番を消化するまでは破壊するわけにはいかないのだ、しかしこれは遙か(予定も見えないほど)先の話になってしまう、疑似海底セットがありライティングも出来ている今撮ってしまえば時間のロスもないが、遙か先にこの破壊カットのためだけにセットを作り直し、ライティングをやり直すのはえらいロスである、壊しミニチュアを作れなかったのは予算の関係だが、目に見える予算を削ると目に見えないムダが増えるという典型といえよう。

 ここで夕メシ、夜になってついにキングギドラが登場する。

 ところでキングギドラやモスラは「操演怪獣」と呼ばれている、操演部がいないと動けない怪獣という意味だ(ゴジラも尻尾は吊っているがこれはあくまで補助的なもので無くても動けないわけではない)モスラはそもそも着ぐるみ役者が入っていないし常態で吊られているので当然だが、キングギドラも3ツ首は吊るのが前提になっている、しかしこれは多くの弊害がある。

 まずなんといってもセッティングに時間がかかることだ、首1本につき2本、合計6本のピアノ線が必要で、操演部がピアノ線を出せば撮影部はこれを塗らなければならず照明部はライティングを調整しなくてはならない。

 (※ピアノ線消しは「おやじさん」こと特撮の神様、円谷英二氏の意向により撮影部が責任を負うことになっている)

 つぎに怪獣どうしの格闘を制約する、上にピアノ線があるのでキングギドラは相手の下にもぐり込めないし、相手の立場で言えばキングギドラの首の上には手を出せない。
 実際には暴れているキングギドラの前の空間はピアノ線だらけで間合いに入ることさえ難しい。

 そしてもちろんキングギドラ自身の動きも制約する、単純な話キングギドラは振り向けないのだ、3ツ首は(でたらめに動いているようにしか見えないが)基本的には体の前にあって相手(方向)を見ている。
 1つの首に付いているピアノ線の吊り点2つをそれぞれA、B、とすると、上にあるピアノ線の支点は

(横から見た図)

ピアノ線
 : :
 : :
 A−B
顔   \
     体
     体 
     体
    足  \
    足   \_尻尾


(上から見た図)

 A−B
    \
A−B− 体 −尻尾
    /
 A−B



と言う風に並んでいる、ここで着ぐるみ役者が体を回しても首は付いていかない、支点はセットに固定されているからだ。

 といって根本がねじられている以上、首が元の方向を見ているだけということにもならず、きっとおそらく「メチャメチャ」になってしまうだろう、切れれば操演部嘆息、切れずとも撮影部なみだ目(塗った塗料が全部はがれてしまうから)である。

 もしどうしても振り向きたければ上に「回転機」をとりつけキングギドラの回転に合わせて6つの吊り点を動かしてやらねばならない、回転機のセッティングとなればこれはちょっとしたイベントになってしまい時間がたっぷりかかる、「はいつぎはギドラ振り向くカットいきま〜す(助監督)」というわけにはいかない、結局振り向かすのは止めようということになる。

 ついでに言えば同じ理由によってキングギドラは前進するのも大変である、前進に合わせて上の支点も移動しなくてはならないからだ。
 特撮用ステージである東宝の9番は上に「ゴンドラ」と呼びならわされる「モノレール」( 何故と私に聞かないように)が作りつけられていて、ここでやる限りは回転ほど大事には至らないがそれでも「レール方向にしか動けない」のは制約以外のなにものでもない。

 さてしかしここで今回は神谷特撮監督の秘策がある、キングギドラをある程度No操演で行けるようにしようというものだ、簡単に言えばスーツアクター(中身は大橋君だ、ババチンとはイリア−ゼイラム、ガメラ−レギオン、と昔からつづいている因縁対決になる)の頭を中首に、両腕を左右の首に入れてしまうというものだ、なぜいままで誰もやらなかったのか? というくらいシンプルな技だが、仮縫い(?)してみてわかった事はかっこ良くないということだった(^^;)

 キングギドラといえば長く伸びた首が左右に大きく広がっていて馬鹿げてはいるが迫力はあるというのがウリだ、手を突っ込むとまず首が左右に広がらない、そしてなにより短くなってしまうのだ。
 
 これを延長し大橋君に持ってもらうのは簡単だがそれでは曲がらない部分が出来てしまう、しなやかでないキングギドラの首は興ざめであるし、苦しい体勢の大橋くんにオフセットされた首(口パクのラジコンが入って重い)を持たせるのも無理がある。

 じゃあどうするよ、ということになったのだが結局「手を突っ込む−短か首−と、長い−操演首−の両方を使いわけよう」ということになった、どうしても吊りでは行けない時や短くてもわからない(!)時は短か首、そうでない時は操演首でいこうということだ、いかにも人を騙すためならなんでもやる特撮屋の考えそうなことだと言える。

 (ガメラ3でも大橋君のはいった「イリス」はカットによって高足、短か足を使いわけている、ガメラの尻尾も長尻尾、短か尻尾があった)


 さて初登場である、問題の首はすでにゴジラに噛みついているので吊る必要がない(しかるべき位置に針金で縛り付けておくだけだ)のは良かったがいきなり吊りになってしまった、キングギドラはゴジラの背後に取り付いていて足は浮いている、水の中という設定なので不思議はないのだがこれを表現するには吊り以外ない。

 軽い着ぐるみであれば中の役者を吊ってそれで終わりだがキングギドラの重量は100Kg近くある(上田は100Kg近い体重を持つ、この上田を背負った大橋君が「キングギドラもこのくらいある」と証言している)これを全て大橋君に背負わせたのでは大橋君の股間がたまらないだろう、そこで着ぐるみと大橋君の両方を吊ることにした。

 大橋君の吊りベルトはアムスペックの太股ホールド式のものを使った、足が動かしにくくなるが全てを股間にかける従来型よりもずいぶん楽であるようだ。

 大橋君とキングギドラを吊り上げるのに「お手すき」のスタッフをかき集めたが数えてみると十数人を要している、首も羽も尻尾も吊っていないのに大騒ぎだ、2番ステージはあまり広くないので十数人が移動する空間を作るだけで大変な作業になる、バタバタし始めたセット内部を見やりながら「ファーストカットからこれじゃこれから先いったいどうなるのだろう」と暗澹たる思いにとらわれる操演技師なのであった(なぜナレーション風?)

 22時30分終了。


2001年6月15日(金)撮影26日目
 
9時開始東宝スタジオ2番ステージ。

 ギックリ腰あがりの上田と親指骨折中の本望君が復帰(?)してきた、が重い物持てない君と片手使えない君の操演助手が戦力にならないのは言うまでもない。
 しかし今回はどうもケガ人が多い、ビショップ(怪獣造形)の品田社長は仕事中ハサミで右手首を刺し神経を接続する手術を受けている、これは手術失敗すれば右手が動かなくなるという危険なものだったらしい(※手術は成功、現在リハビリ中)

 また怪我ではないが神谷監督は左足のすねが赤く腫れ上がるという奇病にかかっている、足は高熱を発しリンパ腺も腫れている、どこからかバイ菌が進入し悪さをしているらしいという、先日のセット移動の日に病院へ行ったところ入院勧告(!)が出たがそれどころじゃないといって帰ってきたのだと言う(敗血症の危険があるのでは)
 今はすねを湿布し抗生物質を飲み足を引きずりながら歩いている、タタリか?(なんの?)


 さて今日のファーストカットはめちゃめちゃ難度の高い内容である、まずカメラは海中にあってアオリできらめく海面を捉えている、海面手前にはさつま2機、さつまは降下してきてカメラ前を通過、それにつけてカメラを下に振ると海底でもつれ合うゴジラとキングギドラが見える、というものだ。

 はっきりいってCGがない時代なら「寝言は寝て言え」(!)というようなカットである(無理だ)でも今ならOKかもしれない(しれない?)

 基本的に海面はCGさつまもCGだ、海面を想定した向きにカメラを向けさつまがあるつもりでパンした下絵にCG海面とCGさつまを合成することになる、しかしカメラマンがフリーハンドでパンした下絵に狂い無く合成出来るだろうか。

 動きのある下絵に合わせてCGを動かし合成することをマッチムーブという、イマジカのモーションコントロールカメラ「マイロ」のようにカメラの動きがCGに渡せる形式のデーターで残るならそれもアリだと思うのだが、フリーで振ったカメラの動きはマーカーから逆算して出すしかない、このデーターの拾い出しや計算にミスがあるとCGから実写への乗り替わりの際に違和感が出る。

 (昨年の映画版「ウルトラマンコスモス」ではこのマイロを使ってきわめて技術的なチャレンジを行った、まずカメラマンが林の中でカメラを自由にパンする、次ぎにそれを解析してマイロがミニチュアの林をパンする、次ぎにそのデーターでCGを製作してミニチュアの林の中にCGウルトラマンをはめ込む、というものだ、実は合成してみたらスベリが生じてリテイクになったのだが、人は首を振って回りを見まわしたら景色がどんな風に見えるかは皮膚感覚で知っている、そこにほんのわずかでもズレが生じればたちまち破綻して見えるのだ)

 そして、たとえこの段階で完全に3D空間の再現に成功したとしても、さつまがこの仮想空間の中でうまくファインダー内におさまってくれるのだろうか、という問題もある。
 カメラはさつまを追ってパンしたことになっているわけだが、カメラマンの村川氏は実際に動いているものを捉えてパンするわけではない「こんなもんだろう」という読みでやるだけだ。 
 従って3D空間上にさつまを置いてみた時(おそらくさつまは一定の速度で動いているのだろうが)それがあやまたずファインダーの中央に来るかどうかはやってみなくちゃわからない、本来あるべき速度よりパンが早すぎればCGさつまを置いていってしまうし、遅ければその逆だ。

 といってさつまを無理矢理画面内に置いておけば速度が都合良く変化したことになってしまいまた違和感が出るだろう。
 繰り返しになるようだが人は一定の速度で動くもの(たとえば車)が近づき/去っていく様を良く知っている、首を振ってこれを見る時の首のスピード変化や背景の流れ方も既知のものだ、ここでウソを付つくと「なんかスピードが変わった」という印象を与えてしまう可能性は高い。

 CG海面のパースの変化や、色調、CG海面と実写海中の乗り替わり、マッチムーブ、難度メチャ高しのカットである、合成大魔王と神谷大監督(体重0.1トン)のコンビがうかつなことをするとも思えないので勝算はあるのだと思うが、すくなくともカメラパンはモーションコントロール(私の組んだシステムなどではなく、仮想の2次曲線が入力できるマイロレベルのモーションコントロールカメラ)で撮るべきじゃないのかな〜、と思いつつも例によって口には出さず自分の準備をする。

 まあ仕上がりが心配でかつ楽しみなカットではあると言える(現場の人間でも−というか現場の人間だからこそ、というべきか−出来が心配&楽しみだったりすることもあるということだ)

 操演的には昨日と同じ、からみあうゴジラとキングギドラでなんということもない大騒ぎ(?)

 その後「寄り」を2つ、つぎは「さつまから放たれた魚雷がゴジラに迫る、とゴジラ体勢を変え魚雷の軸線上にキングギドラの首をもっていく」というカット、メチャ重い2匹の怪獣の向きを急速に変える必要がある、役者2人に自力で位置変えをしてもらうのではスピードが遅すぎるのはわかっている、操演的に無理矢理向きを変える必要があるだろう。

 始めはターンテーブルに乗せようと思っていたのだが我々の所有するターンテーブルは一番大きいものでも直径1.5メートル、とても2体の怪獣を乗せられるサイズではない、よその操演会社から車用ターンテーブル(CMでは車の向きを変えるカットがよくあるのでそういうものを持っている会社は多い)を借りてくることも考えたが、それでは少し大きすぎる(車用ターンテーブルは直径4メートル程度あるので、カメラが遠くなってしまうだろう)

 う〜〜ん、と考えていたところ上田が良いアイデアを出してきた、美術部が機材の移動に使っている台車を使おうというものだ、これは1間×2間のサイズで4角にキャスターが付いている平べったい板だ、キャスターは4つともフリーなタイプなので台を回すことが可能である、サイズも2体の怪獣が乗るとちょうど一杯になる程度で具合がいい。

 上田のアイデアではこの4角を4人の人間が持って、床に描いた円のマークをトレースするように回すことになっていた、しかしこれではブレが出ると思われるので何かセンターが出る仕掛けを考えることにする。

 ここで東宝経験の長いサード辻川の存在が効を奏した、東宝撮影所はちょっと前まで(社員が定年で辞めるまで)特効−特殊効果、特美−特殊美術、部というものが存在し全ての特撮を自前でまかなっていた、そのため人が居なくなった今でも機材は一通り残っている。
 倉庫にゴチャゴチャになってつっこんであるそれらを引っぱり出して整備するくらいなら自前の機材を持ってきた方が早いので、今回それらはまるでアテにしていなかったのだが、ちょっと前に辻川がこんなもん使えませんかね、と言って持ち出してきていた直径50センチほどの鉄製プーリー(始め見た時は、どこで使うんだこんなもん? という感じだったのだが)がここで役立ちそうである。

 怪獣の重量はキャスターが受け止めている、「芯」は芯ブレを抑制してくれさえすればいいのだ、大まかには人が手動で円運動させるわけなのでその芯ブレの力もそう多くはない筈だ、そこでプーリーを台車の底に固定し、床に固定した鉄パイプをプーリーの軸につっこむことにした、ベアリングなどなく、というよりパイプの径とプーリーの軸の寸法はそもそも合っておらず、鉄と鉄をこすり合わせているだけという野蛮な仕掛けだが、それが致命的になるほどの繊細な仕掛けではないだろう。

 このカットの終了が22時、本日はこれまで。


2001年6月16日(土)撮影27日目
 
 9時開始東宝スタジオ2番ステージ。

 ゴジラを狙ったミサイルが、体を入れ替えられたキングギドラの首に命中するカット、比較的「寄り」のカットだがこれに午前中一杯かかる。

 午後、ひるんだギドラの隙を狙ってゴジラはギドラに向き直り近距離射撃で放射能火炎を発射、ギドラは吹き飛ぶ。

 ギドラに火薬がつけられ爆発と同時に大橋君は後ろに倒れることになる、倒れ込み用に厚マットが用意される。
 怪獣を着て倒れ込むなんて大橋君にとっては何度となくやったことのあるカットであろうが、なにしろ100Kgはあろうかという重量級の着ぐるみであり、首に手をつっこんでいるという不自然な体制であり(首を吊っていたのでは倒れ込みに対応出来ないので「短か首」による「手つっこみ」でいくことになっていた)始めてのアクションらしいカットであるため慎重にテストをする、一発OK。

 私は東宝もゴジラも始めてなので知らなかったが、ゴジラでは撮影中助手同士の親睦を深めるための「助手会」という飲み会を行うのが通例だそうだ。
 今日がその日にあたっている、ために今日は定時終了が前から確定していた、さすが東宝、さすがゴジラというべきだろう、遅れ気味な今日この頃円谷プロなら飲み会どころか通常のお休みさえホゴにされかねないところだ。

 私は助手ではないのでさっさと帰る。

 自分が飲まないしウチのメンツもあまり飲む人間がいないので普段からそういう気配りをしたことがなく、まるで気が付かなかったが、技師は飲み代を寄付するものであったのかもしれないと、後から思った。

 17時終了。


2001年6月17日(日)
 
 休み \(~o~)/ 


2001年6月18日(月)撮影28日目
 
 9時開始東宝スタジオ2番ステージ。

 今日の1番手は土曜日の予定表の1番目である、つまりここで完全に一日遅れたわけだ。
 その1番手は「海底に押し戻されるゴジラ、そこへINするさつま1号機」、さつまは別撮り合成なので押し戻される(何によって押し戻されるのかは秘密)ゴジラのみ。

 ゴジラは吊り降ろしになるわけだが、一方カメラはクレーンに乗りゴジラの真上でほとんど真下向きに構える、するとどうなるかというとぶっといピアノ線が5本(ババチン2本、着ぐるみ2本、尻尾1本)カメラのすぐ脇を走ることになる、まあ後処理で消すことが前提でないと出来ないカットだ、デジタル編集機のおかげでカメラアングルにも幅が出たと言えるだろう。

 これが午前中一杯、午後は上昇するゴジラを追ってきたギドラがゴジラを踏み台にして追い越しさらに上昇する、というカット、カメラは同じく真俯瞰。

 これは打ち合わせ時から「こんなこと出来るの?」という声があがっていたカットだ、ゴジラを吊り、すぐそばにギドラを吊り、ゴジラを吊り上げつつギドラをさらなるスピードで吊りあげる。
 操演的にはこれだけのことだが狭くて天井が低い2番ステージでこれが可能かどうかは別問題だ。

 まずゴジラの下にギドラがいなくてはならない、そのギドラもすでに浮上中で、つまり足は浮いているところから始めるわけだからギドラの頭はすくなくともセット上2メートルの位置には来ている。
 ゴジラがそのすぐ上にいるとしてプラス2メートル、ゴジラが上昇せずその位置で追い越されるとしてゴジラの上に2メートルの余裕が必要だ、全体で6メートル。
 実際にはギドラが追い越しをかけている最中にもゴジラは上昇しているので、追い越される間に1メートル上昇するとするならば、プラス1メートル、結局合計7メートルの空間が必要になるわけだ。

 2番ステージは7メートル強の高さしかないのでギリギリだ、ゴジラの上昇スピードをもっと上げようとすれば破綻してしまう。

 一度やってみてダメなら高さのある9番ステージでやり直そうという話になっていたのだが、ただでさえ遅れ気味の今「一度やってみる」というのは現実的ではない、ならば最初から9番にもっていくか、ということだが一度疑似海底をバラし、この1カットのために9番ステージに組み直すということさえいまや現実的でない、結局ここで出来る範囲のことをやりましょう、という足が地についた結論になった。

 何度目かの二匹吊りの大騒ぎになり、準備が出来たのが夕メシ前、ここでご飯。

 メシ後テスト、監督の狙いはゴジラの背中側から上昇してきたギドラが「はいご免なさいよ」とばかりに手、足を使ってゴジラ背面をかけあがり、頭を踏み台にして更に加速して追い越していくというものであった。

 実際にはこれは非常に難しい、なにしろギドラには手がない(!)手があればギドラがゴジラスレスレのところを通過するようにセッティングしておいて、ギドラは吊られたなりに手でゴジラの体を下に送り出してくれればそれらしい動きになったと思うのだがなにしろ手がない。

 首ではそんな器用な動きは出来ないので、結局「ゴジラを踏み台にする」のはあきらめ背ビレのすぐ上を追い越していくという風に変更になった、それでもすぐそばを通過するほうが面白いので運が悪ければ接触するというあたりにギドラは吊られている。

 またまたスタッフ総動員のカットになる。
 あれこれやってみるがゴジラが上昇していたのではやはり追い越すまで持たないことがわかった、それどころかゴジラをすこし下げてやるくらいでないとギドラが完全に追い越した感じにならないこともわかった。

 仕方ないのでそうする、幸いにも足下の海底は良く見えないのでかならずしもゴジラが落ちていくように見えるわけではない、ゴジラも高速で上昇中だがギドラはそれより速く、カメラも一緒になって後退移動しているのでゴジラをおいてきぼりにする格好になって遠ざかっていく、と見えないことはないのだ、マリンスノーや泡などあとから足す合成材料を手前から奥に向かって流してやればそんな風に見えるだろう・・ということでゴジラは吊りおろし、ギドラは吊りあげ、ということになった。

 大騒ぎのうえ3回やってOK、21時30分終了。


2001年6月19日(火)撮影29日目
 
 9時開始東宝スタジオ2番ステージ・・と書いたがまず朝一番で9番に全員集合、21日撮影予定の横浜ランドマークタワー爆破のカメラ位置を決定する、2番で疑似海底を撮影中にあまり出番のない特効部が先行して準備しようという作戦だ、カメラ位置が決まらないとビルの切り込み、火薬の貼り込み、バレ隠しなどが出来ないのである。

 そのあと2番に戻り疑似海底続行、今日の一番手も予定表では18日の一番に入っていたもの、遅れは取り戻せていない、これで予定どおり21日に9番ステージに戻れるのだろうか?
 
 今日は放射能火炎をくらって倒れたギドラ関係、ギドラは基本的に寝ているので(!)操演的にはあまりすることがなく楽な一日。

 ところで監督の足の腫れはますますひどく、熱もあるようで、フラフラしている、普段は頑健でエネルギッシュでグリズリーのようでも、チェ・ゲバラのようでもある人間なので落差が激しい。
 「指で押しても倒れそうだよね、ヒットポイント1って感じ?」などと(内輪で)話し合う。
 これだけ元気がないとすれば相当悪いのではないかと思うのだが「医者いけば」と言えばますますいかなくなるタイプでもあるので、誰にもどうにもならない。

 ウチ的には楽なまましかし時間は過ぎ23時終了、送りだ。


2001年6月20日(水)撮影30日目
 
 9時開始東宝スタジオ2番ステージ。

 そろそろ「特報」(撮影快調!)を作りたいのだが特撮の絵があまりない、ゴジラはともかく、ギドラは疑似海底だけだし、モスラに至ってはまだ1カットも撮ってない・・というわけで宣伝部の仕切でモスラだけを宣伝用に撮影することになった。

 そっちに人なんか割けないと抵抗したのだが、モスラの入っていない特報なんてあり得ないのでそこをなんとか、と頼みこまれたのだ。

 たとえば隣のセットなら合間を縫って出来るんだけど、と言ったのだが空いている9番ステージでやりたいという(前にも言ったが2番と9番はバス停1つくらいは離れている)応援を呼んでもらってもかまいません別ギャラも出しますって言われたって駒がいない、使えるフリーはほとんどゴジラとウルトラで押さえちゃっているのだ。
 
 仕方ないので応援を一人呼びそれと「ギックリ腰あがり」上田に「親指骨折」本望の3人でやってもらうことにする。
 ↑ひどいぞ? でもこっち2番では今日は「浮上するゴジラの尻尾に噛みつき引き留めているギドラ」なんていうしちめんどくさいカットがある「止め撮り」(1ケ所に吊ったまま)でいけるモスラにまともな(!)人材を派遣することは出来ない ←だからひどいって。

 さてその尻尾ひっぱりはそれでも午前中に終わる、9番を見にいくがまあなんということもなく撮影は進んでいるようだ。

 午後は「ゴジラが***を****カット」

※、昔むかし、公開前の操演日記はネタバレになる可能性があると書いた、ストーリーについては触れないし、おこなった作業についてのみ書くつもりではあるけれど「何をどうした」と書くだけである程度先が読めるってことはあるわけで、これからここで書くことはその典型。 

 出来るだけ興を殺がないように書くけれど、でも読んだら面白くなくなる可能性はあります、映画を見るまえには情報を仕入れないようにするタイプ(私ですが)の方などはもう絶対に読んじゃダメです、ここで中止してあとは公開後、鑑賞後にお読みください。

















 午後は「ゴジラがさつまを呑み込む」カット、実際に呑むのは着ぐるみでは出来ないし、そもそも縮尺でいうととても飲み込めるサイズではないので(すこしごまかすためにも)さつまはCGである。
 ギミックの一杯入ったアップ用ゴジラで「ぱっくん、もぐもぐ、まっず〜」という芝居を撮る。
 口、上くちびる、鼻筋、眉、目、微妙な動きの協調動作が必要で監督が粘るねばる、何カット(何十カット?)回ったんだろう。

 ここで夕メシ。

 そのあと「口を開けたゴジラが迫る」という絵を撮る、これは本編がさつま操縦室を撮る際、現場でモニター出し(セットに組み込まれたモニターにその場で実際に画像を出して撮影する)するためのカットである。

 そのあと細かいカットをいくつか、遅くなったが2番ステージ最後の日なのでどうしても撮り切らねばならない、0時終了、2日続けての送りだ。


2001年6月21日(木)撮影31日目
 
 2番から9番へセット移動、普通これだけ大がかりなセット移動だと「移動日」というものがもうけられるのだが、押している今回は移動して本番ということになっている。

 操演部は今日はまるで出番がなく移動以外に仕事はないので自主的に10時開始とする、他のパートはそうはいかないので9時から仕事しているようだ。
 0時終了−9時開始ってのはけっこうきついはずだ(撮影終了してから小1時間仕事があり、撮影開始の1時間くらい前には作業開始する必要のある撮影部などはとくにだ)

 今日の大一番は横浜ランドマークタワーの爆発、特効部が先行準備していたやつだ、仕込みは終わっているし、カメラ位置も決めてあるのだから早く終わるかという希望もむなしく午後1番で準備を始めて本番は5時、何故?

 メシ後は水槽で「口を開いたゴジラ」(モニター出し用)に合成される泡素材撮り、ゴジラの口の中から出てきたかのような泡を撮る。
 東宝システムだと泡も特効扱いなので操演部はやはり出番がない、メシ後どうみても用なしであることを確認し、万が一要員4人を残して2人先に帰ることにした。

 手を分けて早あがりにすることは時々ある、でも「仕事はあるけど6人もいらないから先に一部が帰宅する」のと「仕事がない」のとでは意味が違う「仕事はあるけど」の時に私は帰れないので今日のところは帰らせてもらうことにする。

 19時終了、それにしても映画の華である「爆発」から手が離れた操演日記はちょっと冴えない。 

 
 2001年6月22日(金)撮影32日目

 9時開始東宝9番ステージ、昨日の泡素材が終わらなかったそうで朝から続き、だからこれは出番がない。
 
 ついで「病院の窓外に迫るゴジラ」を2カット、病室から外を見た絵は本編班が撮って来てあるのでそこに合成される窓外部分だけを撮る、ややアオリ目のアングルなので空しか見えず、だから飾りがなく比較的早く回る、終わって昼。

 次が「窓外に迫る尻尾」これも空ヌキ(空だけが背景ということ)の絵、別あつらえの尻尾を回転機に縛り付け力一杯ブン回す。
 尻尾側の仕掛けはなんということもない簡単な仕掛けだがその尻尾はカメラの居る病室(?)を破壊するわけなのでレンズに向かってこなくてはならない、重い尻尾は急には止まれない、まともに当たったらカメラ大破壊は確実なのでガードする必要がある、このガードに時間がかかる。

 仕掛けが出来てしまえばなんということもない撮影、2,3回回してOKとなる。

 この後尻尾が病院を大破させるカットの位置決めをおこなう、ビルはここでカメラがここ、尻尾はこう来てここに当たり病院はこんな感じで壊れる等。

 決まったところで特効部が石膏製のミニチュア病院に切り込みを入れたり火薬(ホコリ弾)を入れたりの準備に入る、我々は別場所で違うカットの撮影に入る。

 ウルトラだと石膏ビル壊しは位置決め30分、操演部1時間、美術部のビル補修(切り込みを埋める)と周辺飾りで1時間、全体準備30分の3時間というのが相場だ(その間撮影は止まっている、操演部抜きで取れるカットなどないし、そもそもセットに余裕がない)
 万事大がかりなゴジラでは準備に倍ほどかかるかわりに操演と特効が別でセットも広いのでこうした同時進行が可能なのだ。

 別場所の撮影は清水港に上陸したゴジラが倉庫街を進んでいくカット。
 倉庫街は実景であり「切り合わせ合成」(倉庫の屋根などを境に手前は実景、奥は特撮などと分かれる合成)となる。

 これもミニチュア飾りをする必要がないので比較的早く進む、ゴジラはクレーンをなぎ倒して進んでいくのでミニチュアのクレーンを置く、港によくある船の荷下ろしに使うデカイやつだ。

 ここでちょっとだけ問題が生じた、クレーンは押し倒すだけなのでもともと壊し用ではない、本当は壊れなきゃいかんところなのだが実景の倉庫のうしろ(切り合わせのマスクの下ということだが)に隠れてしまうので壊し用を作る必要はないと考えられていた、ところがこれだと押し倒したクレーンが歩くババチンの進路にしっかりと横たわってしまう。
 踏んでも壊れないクレーンに足を取られてババチンが倒れる可能性50パーセントである(←根拠無し)

 そこで操演部としては倒れたクレーンを舞台から取りのける仕掛けをすることにした・・・ってまあクレーンの基礎部分にロープを引っかけておいて倒れたら手前に引き寄せるだけなのだが。
 そのほか押し倒す芝居はするもののクレーンが絶対に狙いの方向に倒れてくれるかどうかはわからないので確実に狙いの方向に倒れる仕掛けもした・・・ってピアノ線をクレーンに結んでおいてババチンが触ったら手前にひっぱるだけなのだが。

 いよいよ本番、いくら丈夫なミニチュアとはいえまともに倒せばトラスが折れたり、パーツがはずれたりはするだろうということで、「倒し」に関してはぶっつけ本番である。
 
 スタート! ババチンが吠え、前進してクレーンをうるさそうに払いのける、すぐ壊れるように作ってあった基部のストッパーがはずれてクレーンが倒れかかる、上田がすかさずピアノ線で引き倒す、地面に倒れたところで私がロープを引いてクレーンを手前に引き込む、OK! よっしゃと思ったら目の前に居た上田が頭を押さえて悶絶している、どうやら私が勢いよく引いたクレーンがしゃがんでピアノ線を引いていた上田を直撃したらしい、見れば赤くなっているだけなので気にしないことにした。

 今にして思えばなんで私がロープを引いていたのだろう? ホコリに一人、尻尾に一人を要していたはずだがそれで4人、助手5人で充分にまかなえるカットだったはずなのだが。

 このあと病院壊しに移る、尻尾はカメラ上から振り出されてミニチュアの中間に命中、この部分を完全に破壊し、ビル上層部がそこに崩れかかるという予定である。

 先ほどの尻尾回しの仕掛けをそのまま持ってこられるので操演的には簡単な仕掛けである、しかし思うのだが尻尾を振り回してビルを破壊するのは操演部、そのビルに切り込みを入れているのは特効部というのはなんか変だ、一人の技師が破壊を全部をイメージして指揮監督すべきと思う、まあ東宝特撮何十年の歴史の中で一番の新参者である私が言ってもどうにもならないことなのであるが。

 時刻は22時、いよいよ本番、このビル壊しにNGはあり得ないので今日は22時終了かな? などと考えたのがいけなかったのでしょう、すみません私が悪うございました、ビルにつっこんだ尻尾は見事ビル中層を破壊し、見事上層部が崩れかかったのはいいのですがなんか迫力がない、ホコリが少ないのか、石膏のかけらが飛び散らなかったのがいけないのか、いかにも「石膏ビルが割れました」という絵になってしまいましたとさ。

 とはいえしかしこれはどうしようもない、いかにゴジラとはいえロケセット合わせの精密なミニチュアビルをもう一軒作る余裕はない、元に戻すことも出来ない。

 神谷監督はビデオを再生してはウ〜〜ンとうなっているが現場ではどうにもならないわなこりゃ、一発勝負の特撮はまあ思いもかけぬ良い効果が出ることもあれば、今ひとつなことになってしまう可能性も常にあるわけで、絶対使えない絵でもないのだから後は編集や後処理でごまかしていくしかないだろう・・と思っていたら「尻尾を引き抜くカットを撮ります」と。

 引き抜きカットを撮ったってつっこみのリカバリーにはならないんじゃないの? と思ったがまあ千々に乱れる監督の心もわからんではないので「へーい」とか答える、でそれは明日? と希望をもたずにチーフ助監督菊地に聞くが、このまま続けますといういかにもチーフ助監督らしいお言葉、ヘイヘイどうせ我々はスタッフと言う名の奴隷でございます(すっかりスネている)

 結果、零時30分終了でございますだ(まだスネている) 


 2001年6月23日(土)撮影33日目

 昨日遅かったので10時開始、一番手は崩れるトンネルの中、ふりそそぐ瓦礫の向こうに見えるバラゴン。

 本編つながりの精密なミニチュアトンネルの中にバラゴンが歩くスペースを作り亀裂のすき間からガラ落としをする。

 仕掛け的にはなんということもないがこのカットは針の穴を通すような精密さが要求される。

1に、大量の瓦礫の降りそそぐ迫力ある土砂くずれでなくてはならない。
2に、その大量の瓦礫越しでありながら怪獣が向こうにいるという事実は観客にしっかり見せなくてはならない。
3に、にもかかわらずそれがどんな怪獣かはっきりと見せてはならない。

 という矛盾した要素をはらんだカットであるからだ、精密さを要求されながらしかし操演部に出来ることはコンパネの上に積んだ土や砂をセットのすき間からどしゃどしゃと落とすだけだ。

「最初は多すぎで後半は少なすぎ、あの中間の感じでいって欲しい」とか、「後半は真っ白だったのでセメントの量が多すぎたと思う」とか、「量は良かったけど一本調子なんで変化を付けて欲しい」とか「バラゴンの手前に落ちる土砂を後ろに落ちる土砂より多くして欲しい」とかあとからいろいろ言われることを落とし手2人が自分たちなりに翻訳して土の混ぜ具合や落とし方を調整していかなくてはならない。

 ピアノ線で物を吊り上げるなど引き加減とその結果がリニアであるものやそれが何にせよダイヤルで調整可能なもの、はたまたモーションコントロールのようにデジタルで指定出来るものならともかく、板の上に積んだ土がどうすべり落ちるかはそのたびごとに違う、そういった「手加減一つ」という基本的にアバウトなガラ落としでピンポイントな「いい感じ」を探るのはとても難しいのだ、いきおい何テイクも重ねることになる。

 またこれには他の要素も含まれる、撮影中の絵はモニターに出されビデオに録画されているのだが(だから落とし手はカット終了後自分の目で今の落としがどんな風に見えているのか確認出来るのだが)これは画質が荒い、もともとTVの出力がフィルムにはるかに及ばないところへもってきて、カメラマンの見ている映像の一部を横取りしているモニター映像では微妙なニュアンスまでも伝えることは出来ないのだ。

 従って「映画館で見た時何が映っているかやっと判別がつくギリギリのところ」などという狙った映像のチェックには実は使えない。
 ために「モニターで見えてるってことは実際には見えすぎってこと?」という事になる、といって見えていないものは「どのくらい見えていないのか」わからないわけで参考にはならない。
 本当のところはカメラマン以外にはわからないのだ、しかしその「わかるギリギリ」という言葉をどう捉えるかもまた人それぞれであって、カメラマンが見えないと言えばそれは見えないに違いないとしても、「俺にはけっこう見えたが」と言われてもけっこうとはどのくらいけっこうなの?という事になってしまう。

 結局、モニターでも見え、もちろんカメラマンにも見える絵は見えすぎと判断し、カメラマンが見えないものは全然見えないものとし、モニターではほとんど判別不能だがカメラマンには見えたというあたりが適当であるとして、この前後の「これはどうあっても見え過ぎだろう」、というカットから「これはいくなんでもやり過ぎだろう」というカットまで幅広く押さえておくことになってしまうわけだ。

 そんなこんなで昼過ぎまでガラ落としを続ける、次ぎは警察署表のバラゴン、警察は本編の撮ってきたロケセットを使いそこに合成でバラゴンを入れる、実際のロケセットは建物のすぐ後ろに緑が迫っていてバラゴンの居るスペースがないので背景ごとはめ替えの切り合わせ合成である。

 バラゴンは警察の建物に手をかけているのでダミーの箱を作り、太田嬢はそれに手をかけて芝居をする。

 2カット分撮って18時、本日終了。

 2001年6月24日(日)

 \(^_^)/

 2001年6月25日(月)撮影34日目

 今日はオープンセットの撮影なので8時開始、9番ステージはオープンセットの真ん前にあるのでこういうときは便利である。

 最初は大湧谷で崖の向こうに頭を出したゴジラが観光客に向かって崖を崩すカット。
 いずれ前に出てこられるようにゴジラの体の幅だけ空いている崖がスチロールで作られている。

 崖が崩れたあとゴジラがどう見えるか瓦礫無しの状態で確認したあと美術部が瓦礫を積み始める、瓦礫は石膏をかけたスチロールの固まりである、これを崩れやすいように、でもそうと見えないように積むのは手間がかかる、すき間には水で練った土を押し込む、最後にひむろ杉を植えて山らしく仕上げる。

 朝は気持ち良く晴れていたのにいよいよ本番かとなった昼すぎには雲が出て、一同じりじりしながら雲待ちとなる、本編が快晴なので直結になる(本編の絵の後にすぐつながる)このカットが曇りではまずいのだ。

 14時ワンチャンスを狙って本番、こういう時の役者ってえらいプレッシャーなのではないかと想像されるのだがさすがババチンというべき、一発OKとなった。

 ちなみに操演部は本番前に崖の裏にセメントをまぶすのみのお手軽なカットであった。
 この後はゴジラの腕に噛みついたまま振り回されるバラゴンの寄り、アオリなのでオープンでしか撮れないとされたものを撮る、操演部は雰囲気のホコリのみ。

 日が西に傾いて行くのと競争するように、地面を踏み抜くゴジラの足の寄りを撮る、寄りなのでライトでカバー出来る、これまた操演部はホコリのみ、終わって17時30分デイシーンというにはさすがに無理にあるような時刻であった。

 たまったラッシュを見て終了、 19時30分。


2001年6月26日(火)撮影35日目

 今日も今日とてオープン撮影、8時開始はいやだってばさ。

 1番手は崖をくずして前進してくるゴジラ、昨日の一番手の続きである。
 崖の上部は昨日のカットで崩しているので腰くらいまで積んだ瓦礫を排除しつつババチンは前進することになる。

 11時頃に準備完了、本番! よーいハイでババチンは思いっきり目の前の瓦礫を蹴り上げる、自分の足もとが見えないのでともかくしゃにむに蹴りをいれつつ前進する、予定通り崖の前に出てやや下手を見たところでカット。

 いいんじゃないの?と思っていたら、モニターの録画を見てびっくり、ババチンが蹴ってカメラ前に転がり出てきた大石が4つカットのさなかに列を組んで上手に逃げてゆくのが写っている。

 崖は石膏がけスチロールを積んで作ってあるのだが、ピラミッド状に安定して積むために下部には大石、上部にいくに従って小石という風になっている、これはその最下層を構成する大石なのだが、直径が1尺ほどもありババチンが踏んで転倒する可能性75%と想定されていた(←しつこいようだが数字に根拠はない)

 普段ならこれを踏むほど足をあげない、しかし今回は瓦礫を排除するためババチンは思いっきり足を振りあげているので運が悪ければこの上に足を降ろしてしまう(足もとは見えないので避けられない)足が降りるかどうかは運不運だが乗ったが最後これは転倒必至なサイズである。

 その危険を避けるためこの4つの石にはロープが結びつけられ、転がり出たらセット外に引っぱり出す手はずになっていたのだ、以前書いたクレーンと同じ考え方である、違っているのはあちらがマットラインの陰に倒れこめばあとはどうなっても絶対見えないのに対しこれは合成ではなく条件次第ではバレてしまうということだ。

 カメラはゴジラの膝から下あたりを切ったフレームになっているのだが、仰角で構えているのでフレーム下の空間はカメラに寄るに従って狭くなる、石があまり転がらなければ充分にフレーム外になるのだが遠くに(つまりカメラの近くに)まで転がってくればフレームインしてしまう、カメラは床すれすれに構えているので理屈で言えばレンズ前まで来れば石が画面全体を覆うことになる。

 つまりここまで転がってくるとは思わなかったという地点まで石が来たということで、ならば蹴りを弱くしてもらえば良いのではあるが、それで瓦礫の排除に失敗して崖から出てこられなくなるのも怖いのでここはフレームで逃げてもらうことにする、簡単に言えばもうすこしカメラを上に振るってことだ。

 美術部がバタバタと崖を組み直す、こういうものの常で要領がわかっている2回目以降はセットが早い。

 2回目は問題なくOKとなった。

 次ぎは放射能火炎を発射するゴジラの超あおり、ほとんど空ヌケである、発射の衝撃波ということで140気圧の高圧エアーを2本、ゴジラの回りの木々に吹き付ける。

 ここが東宝方式の面妖なところで何も含んでいないエアーを吹く時は操演部扱いとなる、木の上に木っ端を乗せておいてそれを吹き飛ばす場合でもそうだ、ところがこのエアーに最初から木っ端が混じっていれば特効扱いなのだ、仕掛けは全部自分の受け持ちと思って長いことやって来た私にはとまどうばかりである、実際経験者である助手の辻川、または助監督菊地に聞かなければ自分のやるべき仕事の範疇すらわからない。

 ここで昼の部終了、次ぎはスカイライン狙い(空に残照が残っている時間帯)で爆撃されるゴジラのアオリ、これは特にすることもない。

 19時終了。
 
 6月27日 (水)撮影36日目

 8時開始3連チャン、一番手はバラゴンジャンプ、ゴジラに飛びつくバラゴンの完全アオリである。
 私としてはバラゴンにミニトランポリンを踏んでもらえ、と主張していたのだが(操演部の出番がなく楽なので)バラゴンのデカ足でミニトラは踏めないとアクションコーディネーター阿部ちゃんに拒否され、ウチ(AAC)ではこういうことやったことありますよと逆提案された2人が前方でV字にひっぱる方式はテストの結果バラゴンが重すぎてダメということがわかり、結局普通にハイライダーを使った吊りで行くことになったという代物である。

 けっこう野蛮な仕掛けなので大事をとって代役でいくことになり、すこし大きめのアクション用バラゴンにAACの佐々木が入る。
 24mハイライダーを一杯に伸ばし2本のピアノ線を降ろしてAMSPECの吊りベルトをつけた佐々木に結ぶ、更に前ひっぱり用のピアノ線を2本出す。
 佐々木が崖上のセットに乗ったところで体がやや浮く程度に吊りあげ、アクションと同時に前にひっぱり出す、正確に言えばひっぱるなどという生やさしいものではなくザイルを持った人間が脚立の上から飛び降りるのであるが。

 さて本当を言えば佐々木を吊っているハイライダーの吊り点は出発点の真上であるべきだ、そこからひっぱり出されたものは大きな弧を描いて上昇するため黙っていてもジャンプしたように見えるからである。
 しかし今回は真アオリなので真上には何も置けない、そこで支点がやや前方になっている、そのためひっぱりだされた佐々木は下死点に向かって下降することになり「ジャンプ」した感じが出ない、そこでザイルに取り付いている人間はジャンプしたらすかさずそれを引いて佐々木の軌道を上向きに修正しなくてはならないのだ。

 こういう微調整は操演的にはごく初歩の技であるのだが、人吊りのザイルひっぱり班は基本的に「お手すき」をかき集めたものであるためこの手加減を説明しかつ全員の息を合わせるのが難しい、普通ならば。
 ところが今回は操演部が6人いてAACからも何人か出ているため担当者全員を「わかっている」人間だけで構成出来た、AACとのつきあいも10年以上になり息の合い具合も申し分ない。

 2,3回、80%くらいのテストをやったところで本番。
 佐々木が吠え、体を引いて構える、脚立担当が飛び降りる、ジャンプ! ザイル班がザイルを引きつけて軌道調整、OK!と思ったはいいが勢い余って佐々木がハイライダー本体に激突しそうになり、それはすんでのところで回避されたもののブランコの揺り戻しで今度はカメラに激突しそうになりそれはAACの補助員が飛びついて止め、バックグラウンドの方で手に汗にぎってしまったがともかくかねてから懸案であったカットは一発OKとなった。

 ここで11時、次はカットが少し戻ってジャンプ前、ゴジラを威嚇するバラゴン。
 これは太田嬢が入ることになる、アオリ用の別セットを撤収して昨日と同じオープンセットに移動する。
 
 ここで事故が起こった、造形部の助手が高さ9尺の平台から落ちたのだ、その瞬間を誰も見ていないので正確なところはわからないが、ミニチュアセットの場所を空けるため美術部を手伝って3×6尺の平台を運んでいて足を滑らしたらしい、落ちる時に持っていた平台で眉間を強打して意識がない、救急車が呼ばれて病院送りとなった。

 全員悄然となったが撮影は全てに優先するので(なぜだ?)引き続き準備をしていたところ警察がやってきた!、事件性がないかどうかの確認であろうが現場はもうあとかたもなく、ミニチュアが飾られて本人が持っていた平台もどこに使われているのやら。

 これはひよっとしてモメるのでは?と心配したのだがどうやら担当者も型通りにやってきただけのようで一通り話を聞いたあとは撮影風景を見物しつつ「へえ怪獣の中身は女の子なんだ大変だねぇ〜」などと言っている。

 <しかし「ガメラ1」の時、落ちてきた鉄骨で頭を割った私(!撮影、特に特撮は危険が一杯だ)が病院送りになった時には警察はこなかったと思うがなぜ?>

 結局ケガはたいしたことがないとわかり一同一安心ではあったが今回なんだか事故が多い、関係あるかどうかわからないが製作助手の一人は道を歩いていたら車にはねられ、さらにその車から降りてきた運転手に殴る蹴るの暴行を受け(ヤのつく人だったんでしょう多分)走って逃げたらその隙に相手も逃げてしまったという笑えない話があって、どうも不幸な人間が多い、監督の足もいっこう良くならないし。

 ともかくも撮影は続行。

 そのつぎは崩落したトンネルミニセット。

 スカイライン狙いになって山岳地帯に落下する戦闘機の破片、燃えるガラをハイライダーに仕掛けたバタンコから落とす、ガメラ3でさんざんやった方式なのでなんということもなく一発OK。

 19時終了。
 
 6月28日 (木)撮影37日目

 もう飽きたぜオープン8時開始。

 それにしても暑い、ガメラ1を思い出させる連日の日射しだ、強い紫外線によってDNAがプチプチと切れていく音がする(ウソ)これからもいつまでも、ミニチュアのオープンセットとぎらつく太陽の組み合わせを目にするたびに私は94年のあの暑く長いガメラの夏を思い出すだろう。


 今日は崖を崩してバラゴンが現れるカットから、ゴジラの出現と同じような仕掛けだがちいさい小さいバラゴンがそれも4つ足で出てくるので崖の高さは半分以下である。
 操演部のお仕事はホコリのみ、私があらためて口をだすようなカットではないので、・・というか私は「ホコリなんてなんとなく出てりゃいいよ」というクチなのだがそんなことを言うと「怪獣の巨大感、重量感はすべてホコリにかかっているんです!」という助手の秀平くんに怒られてしまうのでおまかせである、日陰にひっこんでアイスなんか舐めているうちに2テイク回ってOKとなりお昼になる。

 午後は森の中から木を倒してバラゴンが現れ前進してくるカット、こういうカットって普通ごまかしで森の中に道を作ってしまうのだが今回はガチンコで、出現したあともずーっと木をなぎ倒し続けである、一度テストするだけで再セットが大変、美術部は大わらわである、操演は・・どうなんだろう?、これもホコリ出ししかないのは確かなのだが移動距離が多くて始めに出しただけじゃダメで、引きの絵なので外からホコリを供給するわけにもゆかず、助手連は悩んでいたようだが相談もされなかったので(されても「ホコリなんでなんとなく・・」と言うに決まっているからだ)苦労したかどうかもよくわからん。

 そのあと「ゴジラの大表皮、水流し」に移る、清水港でのゴジラの(海からの)出現に使われるクローズアップである、立ち上がったゴジラに引きずられてもちあげられた海水が一転なだれ落ちているという絵を撮る、幅2間、高さ3間ほどで作られた皮膚の上に水を流すのである。

 水は縮尺出来ないので(粘性や表面張力などの特性が変わらない限り、どう撮っても小さく見えない)水がらみのミニチュアはなるべく大きく作る必要がありこういう仕儀と相成ったわけだ、この2間3間のゴジラの皮膚のディティールは着ぐるみの数倍の縮尺になっている。

 消火栓から水を引いてきてジャアジャアと流し落とし、クレーンに乗ったカメラがそれを急速なクレーンダウン撮影する(ハタから見たのでは「白糸の滝」というほどにしか見えない)この大表皮をCGと着ぐるみにうまくつないで海から一気に立ち上がるゴジラに見せられるかどうかはポストプロダクションにかかっている。

 ここで夕メシ、今日はこのあとセット撮影がある、朝が早くても日が暮れれば終わるのがオープンのいいところなのに・・。

 崩れた留置場の壁の向こうに見えるバラゴンの顔のアップ、留置場の窓外に見えるバラゴンの目の寄り、これまたホコリのみ。

 21時30分終了。

 昨日とはうって変わって平和な一日であったと言えるだろう。

 
 6月29日 (金)撮影38日目

 あつい暑い(そして朝の早い)オープン撮影は一段落し、今日から再び9St.での撮影、効かないとはいえエアコンのあるセット撮影なのは助かる、日が暮れても終了にならなくなったオープンは単なる労働強化に過ぎないし。

 さて今日の一番手は「警察署に迫る地面の隆起」、バラゴンが地中を進んでくるという思い入れのカットである。
 これはなかなか方法論の決まらなかったカットで、なぜに決まらなかったのかと言えばイメージが固まらなかったからで、なぜに固まらなかったのかと言えば、用語が統一されていなかったからである、つまりシナリオにはこう書いてある。

S#54 本栖警察署・表

警備の警官B、足下の揺れでふらつきながら、前方を見ると、地面の盛り上がりが、こちらに急激に迫ってくる。

 ところが特撮用に作られた絵コンテ台本には。

警官の俯瞰。
左奥から、地面の盛り上がりが素早く迫る。1Secくらいで。
コンクリートの地面がバリバリと割れてゆく。

とある。

 シナリオを読むかぎりでは地面が隆起してくると読める、土盛りが連続的に出来て迫ってくるイメージである、そこで当初私は床の上にビニールシートを引きその上に土を撒き、床とシートの間にくさび型の物体を走らせて地面の隆起を作るというような考えを持っていた。

 その後これでは盛り上がったシートがバレる可能性があり、バレないように土を多く盛ると今度はシートが重くなってくさびの走行に支障が出ると考えて、走行するものを単なるくさびでなくシートとの接触面がローラー状の回転体になった物体にするというアイデアを思いついた、これは簡単なスケッチに起こして美術部や助手連に方向性の説明だけはしていたのだが・・・絵コンテは全然違った。

 そもそもコンクリートが「バリバリと」割れていく、という表現はかなり荒々しいもので、土盛りが連続的に出来ていく、ということとは次元が違う気がする。

 またここでは時間まで指定されている、「1秒」、これでどのくらいの距離を移動せよとは書かれていないが、距離感を出すために最低1間は移動するとすれば1間1秒である。
 それは仕上がりの時間であるからハイスピード撮影になるともっと速い、5倍速なら1間0.2秒だ、これは秒速9メートルに達し陸上短距離選手のダッシュに迫る、土を盛り上げながら(コンクリートを割りながら)そんな速度で仕掛けを走らせるのは不可能だろう。

 よしんば無理矢理に走行させたとしても、この速度では土を押し上げる力より前方に押し出す力のほうが勝ってしまい土がカメラ前に押されてくるだけと想像される、というかその前にシートが摩擦に耐えられず裂けるだろう。

(話はそれるが特撮屋に必要な資質は、やっていないことを脳裏にありありと思い描ける想像力ではないかと思う、知識と経験に裏打ちされた想像力、今回のコレもやってみたわけではないが私はビニールの裂ける音まで聞こえるような気がする、まず絶対ダメと断言してよい)

 でもならばどうする?ということだが、じゃあといってここで絵コンテに添った仕掛けを考案しても、その後またイメージが変わったのではムダ足である、そもそも主眼は土盛りなのか割れるコンクリートなのか? ということで準備がしばらく止まっていた代物だったのだ。


 けっきょくのところ、これは「地面が隆起する」というより爆発的にコンクリートが割れてくる迫力が欲しいという結論に達したため、デザイナー三池氏とも相談の上3尺×6尺のコンパネをあらかじめ地割れの形に切っておき、地割れのパーツ1片1片に蝶番をつけ、2枚1組にして観音開きに(上に向かって)押し開けようという結論に達した、コンパネの上に石膏を流しておけばコンクリートが割れたように見えるだろう。

 押し上げる力はもう単純にエアシリンダーを使用することにした、地面の中が土で一杯であるように(土が盛り上がってコンクリートが割れた様に)見せるには先ほどの土盛りくさび走りの方がいいとは思うのだがともかく速度がネックになるのは目に見えているので絶対確実な方法を採ることにした。

 (大仕掛けなカットでリテイクを出すとスケジュール的にやばそうな撮影では仕掛けは安全策に寄っていかざるを得ない、ねばりに粘るのが良い作品を作る道だと信じている監督にはそこんところを考えていただきたいと思う)

 エアシリンダーは6本、1本で2片の割れ目パーツを押し広げる、そのためロット棒の先端に2山ナックルをつけ2本のステーをY字に出し(・・・って言葉で書いてもなんのことかわかりませんよね)ステーの先をコンパネにネジ止めする。

 割れ目は強制パース(カメラから離れるにしたがって小さく作って距離感を強調する)がつけてあるので、ロング側の割れ目は1枚B5くらい、カメラ前はA3くらいになっている(もちろん長方形ではなくギザギザですが)

 この上に土を盛りさらに石膏を流し、ミニチュアを乗せるのでけっこう重くなると想像された、そこでカメラ側は直径5センチのエアシリンダーを使用することにした。
 直径5センチのエアシリンダーのピストンの面積は2.5×2.5×3.14で約20平方センチ、これに1センチあたり8Kgの空気圧をかけると推力は20×8の160Kgになる、これで割れ目2枚を持ち上げるのだから1枚あたりは80Kg、つまりA3の面積に人ひとり持ち上げられるだけの力がかかるわけでこれならたいがいOKだろう。

 エアシリンダーは電磁弁に接続される、100Vの電流を流すとシリンダーが作動するシンプルなタイプだ、先ほどの理屈によってこの電磁弁6個を0.2秒の間に作動させる必要がある、つまり0.03秒間隔だ、これは手動では(人間業では)不可能なので「ガメラ3」の時に開発した(そしてその後もあまり出番がない−というのは私が皆に使い方をちゃんと説明していないからだが)「シャミー2000」ことデジタルシャミセンを使用する、「シャミー2000」の心臓部であるオムロンのデジタルタイマーは分解能1/1000秒なので3/100秒の設定など朝飯前である。

 土を乗せていない状態でパカパカと割れ目を開けてみる、強制パースのため奥の割れ目は小さく→押し開ける距離が短く→作動時間が短く、手前はそうでないため、等間隔でシリンダーをスタートさせたのでは違和感がある、そこで奥は間隔を短く手前は長くと見た目をたよりに微調整をくりかえす。

 これでいいとなったところでシリンダーを下げ舞台を美術部に明け渡す、何時間か後の本番までもうテストも調整も出来ないと思うとなんとなく心配ではある。


 美術部はまず割れ目のすき間をドンゴロス(目の粗い麻布)で埋め、土を撒き石膏を
流す、石膏の上を平らにならしてコンクリートに見せかけるわけだ、ここで監督とデザイナー三池氏の意見が相違した。
 三池氏は下のコンパネに沿った切り込みを入れ予定通りの割れ目を作ろうと言うのに対し、神谷監督は切り込みをなしにして石膏が自然に割れるにまかせたらどうかという。

 切り込みを入れれば確かに予定通りの絵にはなるが切り込み以外に亀裂が入ったりはしない、予定通りながらも作ったような絵になる可能性はある、一方、割れるにまかせれば石膏が細かく割れたり飛んだりして自然で迫力のある絵になる可能性はある、あるのだがヘタをすれば大きい破片のまま地面が持ち上がりさっぱりな絵になる危険性も大である。

 たとえば一番手前の割れ目はA3ほどのサイズのコンパネが2枚、観音開きに開くわけだが切り込みを入れればその通りに開く、切り込みを入れずにおいて、思ったより石膏が強ければどうなるか?シリンダーで押されたコンパネはともかく石膏板を押し上げはするのだから石膏のどこか1ケ所は割れるだろう、しかしその後石膏板が自重で割れなければコンパネ2枚分の−いやもっと大きなサイズの−板が1枚だけ持ち上がっておしまい、という可能性がある、これが「大味」ですめばよいがまずNGだろう。

 実際にどうなるか、石膏板の強度がどれほどになりどこが弱くなるかはやってみないとわからない、ギャンブルである。
 一度こういう方針でやってみてダメだったろ別なやり方を試してみよう、という時間の余裕がある撮影ならともかく1発で結果を出すことが求められる撮影体制では先ほども書いたけれど安全策をとりたくなる気持ちはわかる。

 私も三池氏の援護射撃をし、結果切り込みアリに落ち着く、ホント時間がありゃやってみたいことって一杯あるんだけどね。


 数時間後、美術の飾りが終了する、思いつくかぎり悪いことが起こる要素は見あたらないのにアクシデントが起こるのが特撮というもので、テストしてから時間がたった今、時間経過のうちに何か悪いことが起こっていないか心配なのだがもう何をすることも出来ない、仕掛けは目視点検、空気圧はメーターの読み、タイマーはデジタル表示を信用して本番に望む。

・・が、幸いにも何事もなく無事シリンダーは作動し一発OKとなった、よかったよかった。

 今日は他にも撮ったのだけど文が長くなったのでこれでおしまい、ともあれ撮影は22時終了。


 6月30日 (土)撮影39日目

 9時開始9番ステージ.

今日は主にグリーンバックのゴジラ関係、実景に合成されるゴジラということだ、引きで、寄りで、横に、前に、歩いて吠えて、と色々なカットをこなすが、操演的には尻尾とホコリくらい、操演技師は全然ヒマで日がな一日操演ベースでごろごろしていた。

 ・・ので書くこともなくこれでおしまい、6月もおしまい。


 7月のページに続く