ウルトラ日記
−本編−


映画とは、演出家のイメージの崩壊の過程と言っても過言ではない。

角川春樹





 

 9月1日〜6日

 その昔、映画はカメラに取り付けられたクランク棒を回すことによって撮影されていた、そのため今でも映画の撮影を開始することをクランク・インと言う、映画ウルトラマンティガは9月2日にクランクインした。

 9月2日は江ノ島ロケ、しかし操演部は出番がない、本編撮影の期間はこういう日が何日かある。

(普通はTVに対して劇場映画を「本編」と呼ぶが、特撮物に関しては特撮パートに対して人間のお芝居を撮るパートを本編と言う)

 絵コンテ打ち合わせがわずか2日前に終わったばかりなので実際こういう日が無いと準備が出来ないのだ。

 準備する項目は以下のとおり

お立ち台制作
炉端焼き制作
スモーク挟み制作
モーターベース制作
ギヤヘッド固定具制作
太股ベルト制作
血ノリ出しポンプ制作
頭固定器制作
アートデッセイ突き出し棒制作

空気ボンベ在庫チェック
炭酸ガス在庫チェック
ピアノ線在庫チェック

モーションコントロールテスト

その他消耗品購入

それぞれがどんな代物であるかはいずれ説明する機会があるだろう。

*  *  *

 操演部の出番は撮影2日目の9月5日。
 現場は川崎マリエン (「川崎港湾振興会館」とかいう建物で川崎の埋め立て地に唐突に建てられたアルシュ−アルシュサミットが開かれた新凱旋門−の出来の悪いコピーみたいなゲート状の建物である)

 今回はここの会議室を借りてTPC本部として使用しているのだ、撮影は朝から行われているが操演部は13時入りと指定されている。
 操演というパートになじみがなく仕掛けに馴れていないチーフ助監督だと「よくわからないから朝から呼んじゃえ」とばかりに朝から待機させられ延々待たされたり(結局夜遅くになって「今日はありませんでした」ということになったり)するのであるが、元操演部にしてビデオ版セブンでは監督も務めた高野チーフ助監督は操演部に気を使う余裕がある。
(どんな扱いをされても唯々諾々として従うスタッフが多い中で、操演部は文句が多いせいかもしれない)

 今日の仕事はモーションコントロール、始めカメラはコンピューターディスプレイ一杯に寄っている、画面に打ち込まれた文字が出る、ズームを引きながらカメラがパンダウンすると打鍵している人間の手とキーボードが見える、と言うカットである。

 このディスプレイ画面はあとではめ込み合成されることになるのだがカメラワークがあると位置合わせが大変なのだ、合成担当者はフルスクリーンで作られた素材をズームアウトしパンダウンしていくディスプレイの動きに合わせて合成しなくてははならない、わずかでもズレるときわめて違和感のある絵になってしまうのだ。

 いずれ近い将来にはカメラヘッドやズームレンズにエンコーダが付き、パン・チルト・ズームの動きをCG画面と連動させることが出来るようになるだろうが今は手作業である、だからせめてはズームやパンのスピードが途中で変わらないようにモーションコントロールしようというわけだ(せっかくのコンピューター制御なのだが動きのデータを編集機に渡す手だてが無い)

 午後一時に現場入りしてすぐにセッティング、このカットは別室で撮ることになっているしカメラも2台あるので余裕で準備が出来る。

 以前はモーションコントロール用ギヤヘッドを乗せる台は別あつらえのスタンドだったのだが今回は撮影部の通称「カニ足」に固定する専用金具を作ったので台を持ち込む必要がない。
 また、カメラにはオートズームと言ってコンピュター制御ではないもののズームをモータで動かすオプションがあるのだが、このモータのホルダーに合わせてステッピングモーターのベースを作ったので、自前で用意する機材が減りきわめて仕込みが簡単になった。

 大岡氏撮影の合間にやって来て動きを決定する、ズーム・パン・チルトを使用するバージョン1とズームとチルトしか使用しないバージョン2の2つを決め、それぞれ5秒で動作するように作ってくれと言い残し去る。

 なんということもない動きであるのですぐ完成、しかしそれから延々待たされ皆がやってきたのは5時であった、テストの結果バージョン2でいくことになる。
 
 一発OK
(モーションコントロールは2度やっても同じだ)

 まだまだ続く撮影隊を尻目に操演部は引き上げる、まるでスペシャリストのようだ
(ってそうなんだけど)
 
 初日から重たい撮影があると体がついていかないのでこれくらいの作業で助かった。

*  *  *

 7日からの6日間は今回の撮影の最大の山場である大谷ロケである(いきなり山場である)明日はこれに向けて間違いのない準備と積み込みをせねばならない。

*  *  *

 ずいぶん後になってしまったが一言お断りしておかなくてはならない。
 
 これは「G3」の操演日記と違って映画の公開前に書いている、「G3」であれば「これはガメラの最後の必殺技、炎のパンチをイリスの腹にぶち込むカットである」と書いて何の問題もなかったがここではそうはいかない、細かにカットを説明すればそれはいわゆる「ネタバレ」になって公開時の興趣をそぐだろうからだ。

 そのため今回私はなるべくネタバレをしないように「やったことだけ」を書き、それがどういうシーンのどんなカットとして使われるかについては触れないつもりでいる、とはいえやったことを述べただけでもそれが興をそぐ元になる場合もあるに違いない、たとえば。
 「我夢が爆発に吹き飛ばされるカット、セメント爆破を行うので北岡君が吹き替えをやっている、設定はビルの屋上だがそこではもちろん撮影不可能なので日活オープンに持ってきた」
 と書いてしまえば、我夢がビルの屋上に現れるだけで「あ、ここで爆発が起こって我夢はピンチになるんだ」と先が読めてしまう、「ここは吹き替えの北岡くんだ」ってこともわかった上で見てしまう、自分の経験で言えばアクションシーンで吹き替えがバレることほど興ざめすることはない。
 
 この日記をこれから先どう書いていくかは自分でもわからない(なにしろこれはリアルタイムで、まだ事は起こっていないのだから)しかし、これをこれから先も読み続けるということはそういう危険をはらんでいるということはご理解いただきたい、映画は予備知識なしのまっさらな状態で見るのが一番という考えの方は(かく言う私がそうですが)ここで閲覧を中止し来年3月まで封印すべきでありましょう。

 *  *  *

 9月7〜12日

 さていよいよ「山場」の大谷(おおや)ロケ、大谷は大谷石の産地で今回も採石場跡地でのロケーションである。

 7日

 私は例によって現地直行、スタッフ一行が「7時新宿スバルビル前出発」であるのに対し7時30分に家を出る、高速を120〜130キロで飛ばしていると撮影機材車、美術トラックに追いつき追い越す、やがてスタッフ車であるマイクロバスに追いついたので(メインスタッフより先に着いても意味ないので)後ろについてのんびり行く。

 今日の撮影場所は大谷資料館である、ここは元は採石場だが見学用に内部を整備し、入場料を取って公開している観光施設(?)である。

 車を駐車場に止め亀甲船の機材車に乗り込む、観光客とは違う入り口から車で中に入るのだ、狭い入り口をくぐると内部に大空洞が広がるのでちょっと驚く(私はここは始めてなのだ)鍾乳洞もそうだが地下の空洞とういうものは何故にこう人に衝撃をあたえるのだろう。

 観光客向けの掲示板によるとここは(柱を除けば)後楽園球場がすっぽりと入る大きさであると言う(看板の古さから見てこれは旧後楽園球場のことで東京ドームのことではないだろう)鍾乳洞では大自然の驚異に触れ粛然としたものを感じるのだがこれは人の営みの結果として出来たものでまた別の感慨がある。

 炭坑と同じく質の良い石を求めた結果であると思われるが、空洞は下へ下へと複雑な広がりを持って広がっている。

 最深部の広場を駐車場代わりに車を止める、トラックを始めとして10台ほどの機材車が中に入ってきた、ここは高さが20メートル以上はあろうかという地下の大広間である、壁は垂直に切り立ち(まあ採石の跡地なのだから当然だが)入り組んだ柱と空間が神殿といったおもむきである、「王家の墓」といった感じだろうか、まさしく「古代遺跡」という設定にふさわしいロケ地である。

 操演的にはFOGを焚くくらいで大したことはない、仕事をしないと常時13度という気温の低さで凍えそうになるくらいである。

 午後になり爆発の余韻と言うことでセメントの粉を飛ばすカットがある、このために積んできたエアーボンベの140気圧直吹きでこれを行う、次に調査隊の隊員がモンスターに襲われるシーンになる、モンスターはフルCGである、逃げながらマシンガンを乱射する隊員、というところで仕込みの銃が活躍する。
 発砲銃は寸法ギリギリの仕掛けであり、トラックに積まれ揺られてきて調子が悪くなってないか心配であったが、きちんと発射してくれた。

 4時頃終了、明日は別場所に移動なのでここは完全撤収である、地上から延々とコードを引き込んできた照明部と、石像や石柱を飾ったり「バレ隠し」をしたりした美術部は撤収も大変、我々はFOGメーカーを車に戻せば終わりでありまだ空が明るいうちに帰宅の途に着く。

 8日

 9時現地集合。

 資料館近くの採石場跡地である、今日から12日までの5日間、つまり大谷ロケの残りはすべてここで行われる。

 今回本編には「古代遺跡」「石像の間」「地下迷宮」「闇の神殿」といかにもな名の付くシーンがあり、ここにはお話の導入部から中盤のサスペンス、エンディングまで本編側の重要な場面が全て含まれている、これらを全て大谷で撮ってしまおうというのが今回の撮影のテーマであり、それゆえ今回のロケは山場なのである。

 この採石場跡地には地上、2F、地下とそれぞれ特徴のある3つの空間がある、これらを飾り換え、ライティングし、カメラワークを駆使してそれらしく見せなくてはならない、美術部、照明部、撮影部の腕の見せ所である(操演部はFOGを焚く程度で脇役でしかない)

 今日は2Fを使った「石像の間」、昨日資料館で撮影した「古代遺跡」の先という設定になる、採石した跡の壁がいかにも遺跡とか神殿にふさわしい残り方をしている、その一部に美術部がスチロール製の壁画を張り付けているのだがこれが実にどうも抜群のマッチングで知っていても最初からこうか? と思うほどの出来である。

 今日の仕事はFOG以外では「壁面大爆破」しかないがこれはラストカットである、じっくり準備したが昼前には終わってしまった、FOG焚きは優秀な助手連にまかせておけばOKなので私は暇である。

 4時すぎいよいよ出番となる、大岡氏いきなりカメラをど〜〜ん引き、寄りを想定していた午前中の準備が全部パアになる。

 普通ならここは黙ってパイプ地雷(セメントを人の背丈の3〜4倍まで跳ね上げられる火薬で「吹き替えの北岡君」の後ろで爆発していたやつである)を使う所だが、何しろパイプ地雷は音が大きい、密閉された空間ででかい音をたて耳に悪影響があるとイヤなので5分玉でごまかそうとしていたのだが、これだけ引かれたら5分玉では勝負権がない、当初の予定通りパイプに戻すしかない。

 壁面爆破用の火薬が仕込まれているという設定の穴5ヶ所にマグネシウムを詰め込む、これはきっかけとして最初に発火しカメラに一瞬のハレーションを起こさせる予定である、次に壁面と床のコーナーに置いたパイプ地雷が爆発しセメントを吹き飛ばす、一瞬の間を置いてパイプ地雷そばのマグネシウムが発火しセメントの根本を赤く照らして迫力を出す予定である。

 どんな音が出るか見当がつかないし、爆発後はこの空洞内がセメントだらけになるのは目に見えているので、本番時に用のない人間には皆外に出てもらう。
 カメラは引きのAカメラ、寄りのBカメラともに無人でありAカメのみケーブルを延長して外でモニター映像を見ることになった。

 うちの助手に「爆発時は ”荒鷲の要塞”(要塞砲の射撃要員全員が発射にそなえ、耳をふさいで口をあけるカットがむちゃくちゃカッコいい映画)でいけ」とギャグを飛ばすが理解してくれたのは映画オタクの照明部泉谷しげるのみであった。

 いよいよ本番、監督(半分外にいる)の「よーい」の声でBカメの撮影助手西山がカメラのスイッチを入れて外に駆け出す、Aカメはモニターまで延長されたスイッチでON、西山が無事外に出たのとAカメのローリングを確認して「ハイ」の声がかかる、三味線を引く、カン高い音がするのではという予想を裏切ってズシンと腹にこたえる音が響く、たちまちあたり一面セメントだらけになる、壁面のスチロールに火がついていないことだけを確認し、私は三味線をたたんで現場を脱出してしまう、NGなんてあり得ない。

 入り口他3ヶ所で外光を遮断していた黒幕がとり払われると火事でも起こったかのようにセメントの粉が吹き出してくる。
 操演部のバラシはコードを巻くくらいなものなので助手達もすぐに姿を現す、しかし毎度のことながら照明、美術はそうはいかない、今日はとくにセメントまみれのバラシになるわけでご苦労さんというしかない。

 5時半頃我々は現場をあとにする、高速に乗ってみると空はキレイな夕焼けである。

お詫びと訂正


 ウルトラ日記−準備−編において、渋谷パンテオン前集合のロケハンの朝、「ケンタッキーフライドチキンから出てきた合成大魔王・松本肇氏と会った」と記述しましたがこれはケンタッキーではなくファーストキッチンの間違いでした。

 松本氏のもとにはこれを読んだ関係者から「減量中であるはずなのに朝からフライドチキンを喰うなんぞとんでもない」とのメールが「2通も」届いたそうで (どんな暇人だ?) 「とんだぬれぎぬである」と厳重な抗議をうけました。

 申し訳ありません、すべては不正確な記憶をもとに文章を書いた私に責任があります、以後このようなことのないよう内容の正確さを期すことをここにお約束し、あらためて訂正を申しあげます、当日松本氏が腹に収めたのはフライドチキンではなくハンバーガーだそうです。

*  *  *

 9日

 9時現場集合。

 今日は地下での撮影、ドーム型の天井をもつまっすぐ延びた通路で構成されたここはどうみても採石場跡地ではなさそうである、資料館も戦時中は軍需工場になっていたらしいが(中島飛行機だったそうで零戦でも作っていたのか?)ここも、軍需工場もしくは倉庫になっていたのかもしれない。

 ここをイルマ隊長が逃げる逃げる、変化がないだけにカメラアングルと照明で違う場所に見せかけるのが大変である。

操演部は今日こそFOGのみ、4人でする仕事ではない、スタジオ撮影なら半分休みにするか早番・遅番の2交代にするところであるがここではそうもいかない(休みも2交代も緊急の場合にはすぐやってこられるというのが前提である)

 私は朝と昼前、昼飯後と終わり頃、1日4回ちょっとだけ地下におりて様子をうかがいあとは地上で昼寝をしていた。
 こういうことをも考慮して私の車は選ばれている、後ろのシートの座面を引き起こし、あいたスペースに背もたれを倒し込むと完全フラットな床が出現する、体をまっすぐに伸ばして寝られる空間になるのだ。
 常備しているウエスの袋を枕にすると快適にしてプライベートなベッドルームである、こういう商売をしていると現場で仮眠する以外寝ることが出来ないことがよくある、スタジオの片隅やバスの中、あるいは同じ車でも座席に座ったままというよりよほど体を休めることが出来るのだ。

 夕方激しい雷雨がある、今日は大谷ロケで始めての残業であるが幸いにも遅い夕食になったころには雨は上がった、暗い中で闇ナベのように弁当を食べる。

 20時頃終了、高速に乗って家に向かう、進行方向の彼方にはまだ雷雲が残っているらしく時折稲妻が閃く。
 私の街も私の立ち回り先も民家やビルが立ち並び空の開口部が狭い、だからこのように空の低い場所で閃く遠雷を見る事がない、東北道のこのあたりは開けていて遠くの空まで見渡せるのだ。
 墨を流したような暗い空、その空よりももっと黒い山のシルエットが地平線を低くとりかこんでいる、その山の上、きっと何十キロも先なのだろう雲の中で稲妻が光るとその瞬間だけ複雑に重なりあった雲の底が見える、実に凄いような怖いような人智を越えた美しさである・・・
 はずなのだが、こういう非日常な光景を見ると「まるで映画みたいだ」と反射的に思う私は職業病なのだろうか? これって意外と普遍的な感慨であるようにも思えるのだが。

*  *  *

10日

 今日は一階で「石像の間」の撮影、ここも採石場跡とは思えない天井の高い広間である、天井は切り崩し方が不揃いでダイナマイトかなんかで落としたのではと疑われる、やはり軍需工場の跡地なのだろう、空間が大きく柱が太いのでその先に巨大な石像があってもおかしくないという雰囲気は出ている。

 朝一番で大岡氏より「装飾部が倒してもいいって言ってるから投光器の引き倒し頼むな」と言われて軽いパニックにおちいる。

 隊員が逃げ去るとき混乱の象徴として投光器が倒れたい、という話は確かに打ち合わせの時に出ていた、しかし「投光器はニッケンからのレンタルで、倒すと壊れるからダメ」という話になって消えたはずなのだ、そのためピアノ線等引き倒しの道具は何も持ってきていない、しかしあまりに簡単な効果なだけにやらないでは済まないだろう。

 操演部は何があってもピアノ線だけは持って歩くべきだよな〜〜と今さらのように思うが持ってきていないものは仕方ない(大谷ロケは予定されているものだけでも機材満載で、予定にないものまでも念のために積んでくる余裕はなかったのだ)

 投光器を念のため手で引っ張ってみるとこれが重い、ピアノ線なら1ミリ級、出来れば1.5〜2ミリのワイヤーで引っ張りたいくらいである、一瞬宇都宮の市街に買いだしに行こうかと考える、宇都宮ほどの街なら当然ワイヤーくらい見つかるだろう。
 しかし、とも考えた、1.5〜2ミリのワイヤーというのは微妙な太さである、もっと太い6〜12ミリのワイヤーなら工業用としてたいていの金物屋にあるだろうが、これは装飾用のサイズである、東急ハンズとかロフトとか伊東屋とか(東京ローカルな名前でしょうか?)そういった趣味の店でないとあるいは置いていないかもしれない。

 引き倒しのカットは午後遅くになる予定だし東京に取りに帰ろうかとも思うがいかにも遠い、もっと確実でしかも近いとこがいいんけど、そんなうまい話は・・と思ったらありました、かつて知ったる岩舟、その岩舟からほど近い佐野の市街にはカインズホームという巨大なホームセンターがあったのでした。
 
 ここは家庭雑貨から日曜大工道具、自動車用品、ガーデニングといったアマチュア向けの商品から始まって、ラス、グラスウールの断熱材といったどうみてもプロしか使わない素材までも完備した大きな店で、どれだけ大きいかと言えば駐車場の中にマクドナルドが店を出しているというくらい大きい店なのである。

 ここは「タオの月」でさんざん通ったのでどこに何があるかつかんでいる、ワイヤーがあるのも確認済みである、ここしかない、だいたいここは高速を2つ戻った佐野藤岡インターのすぐそばにあり距離にして約50キロ、時速100キロ平均を出せれば30分で着く(?)ほどの近さではないか、日活から亀甲船に物をとりに帰るのとたいして変わらない(そうか?)

 10時、午前中はほとんど出番がないので現場をまかせて私は買い物に出る。

 結局合計120キロ、1時間半、わずか20メートルのワイヤーを手に入れるには大げさな買い物になってしまった、びゅんびゅんと飛ばして11時30分に帰りつく、と「投光器のゼネレーターが調子悪くて午前中1カットも回っていません、結局投光器が交換になって制作部が取りに行ったので早メシになりました」ということで、みな弁当を食っていたなんのこっちゃ。

 午後になって撮影再開、マシンガンの発砲と引き倒し、どちらも何の問題もなく昼の部が終わる。

 今日から残業である、夜も引き続き1階でのパニック描写、ラストに弾薬箱の爆発のきっかけがある、マグネシウムを一握りばかりも包んでボンと発火させたところで本日撮影終了、23時。
 
 今日明日はもとから大残業の予定なので全員大谷泊まりの予定である。
 製作部に宿の部屋割りどうなっているの?と聞くと「根岸さん泊まるんですか?」と言う、当然帰るという読みであったとか。
 「泊まってもいいですよ、え、帰る、そうですか」
 え〜帰りますとも、パンツも持ってきたんだけどね。

 夜の東北道は車が少ない、最短時間を更新して帰宅、0時30分には家で風呂に入っていた。

 聞けばスタッフの宿である「盤石荘」は部屋に内風呂がなく、売りの「岩風呂」は3人しか入れず(湯船に3人、洗い場に3人のパイプライン処理をすれば6人同時に入れるとも言えるが)しかも男女兼用で交代使用するしかなく、最後に風呂に入った人間は2時を回ったとか、泊まらんでよかった。

11日

 9時開始、朝から地下で撮影FOGのみ。

 夕刻より外に出てナイターの準備、1Fの入り口前でラストシーンの撮影があるのだがそこは地下の空洞の一部という設定なのでナイターで撮るのだ。

 実際には(シーンナンバーで言えば)これは本当のラストシーンではないがあとはエピローグと言ってよく、今回の映画の締めくくりとなるきわめて重要な場面である。
 準備をすすめる現場にもいつもと違った緊張した空気が流れている、操演的にはFOG焚きと若干のガラ落としだけで楽勝であるのだが。

 ・・・と思っていたところ助監督やってきて「例の髪飾りの割れる仕掛けですが」と言う「髪飾りの割れ」って何だ?

 どうやら監督が打ち合わせのあと思いつき、美術部と演出部のみが承知していて、操演部に話しを通すのを忘れていた物らしい、あまりに自明なことなので皆当然誰かが伝えたと思いこみ結局伝えるのを忘れてしまったのだ。

 これがそれですが、と渡されたのは2つに切れた髪飾りである、一体これをどうしろと? 
 そもそも仕掛けがらみの小道具を操演部に相談せず発注するという精神が理解できない、ここのスタッフはそういうことが良くわかっている人たちだと思っていたのだが。

 固いものに固定されている物がはずれるなら簡単だ、きっちり固定し引っ張ってやればよい、しかし髪の毛の上に乗っている物が左右に割れるというのは難しい、操演部の技法について無頓着な人々は(まあたいていの人ということだが)ちょっとした動きや素材や場所の違いで操演的難易度が級数的に増大する、という事を知らないのだ。

 たとえばの話「人を吊り上げる」のは簡単だし「人を吊って回す」のも簡単である、どこでもいつでも出来るし打ち合わせもいらないくらいだ、ところが「人が上昇しながら回転する」のはとても難しい、適当に回っていればいい、とでも言うのでなければしかるべき仕掛けの製作とテストが必要になる、仕掛けを固定するためスタジオの下見も必要になるかもしれない、予算は1ケタ違ってくるだろう (それだけの準備をして現場に臨むと結局「回転するだけ」で終わったりする、監督はそれがどれだけの面倒を生むかも知らず、軽いノリで「上昇と回転」を発注したりするものだが、まあそれは別の話)

 普通なら「今の今でそんなこと出来るか!」と突っぱねるところである、事情はどうあれ「じゃあやります」と言ってしまえばあとは操演部の責任である、やると言うからにはきっとうまく行くんだろうと誰もが思う、うまくいかなければ自分の技術が疑われるだけだ、誰かの不手際の尻拭いなんかしたくないのだ。

 しかし状況はこれを許さない、ちゃんとやろうと思えば作業場に持って帰り、裏にストッパーを付けレリーズのような物で遠隔操作する仕掛けを作るしかない、丸1日の作業である、しかしスケジュールを考えればここで撮らなければもう撮れない、出来ないと言えば髪飾りカットがなくなるだけだろう「うまくいかないかもしれないからやるのはイヤだ」と言うのも自分の面子しか考えない仕業のようである、なんにしてもうまくいく可能性は「ゼロではない」のだ。

 幸か不幸か美術部がテグスを持っていた(先に述べたとおりピアノ線は持ってきていない、これでテグスもなけりゃやりようはない)しかたないので仕掛けはその場で考えることにする、カメラアングルも決まっていないのに悩んでもしかたない(とはいえいっぺんに気が重くなってしまった)
 
 FOG焚き、ガラ落としと何ということはないカットは進みいよいよ髪飾りカットである、大岡氏の決めたアングルを見る、ひょっとして左右のどっちかを手でつかめないかと思っていたのだがダメである、これはいよいよ「両面テープで貼り付けておいてテグスで引っ張る」というチープな仕掛けでいくしかない。

 軽く引っ張ったらはがれるように薄い両面テープで断面をくっつける、しかしこの髪飾りはカチューシャのように左右にのびた部分の弾力で頭に張り付いているものだ、それを分断してしまっているのだから頭に張り付きようがない、しかたないのでメイクさんが根本をヘアピンで髪の毛に固定する、しかししっかり固定してしまったのでは割れた後も動かない、希望を言えば割れて軽くはじけ、じゃまにならない所まで落ちて欲しいのだ、ジレンマである。
 
 ばっちりつけてみる、本番、引っ張っても割れず全体に浮き上がってNG
 軽くつける、メイクさんが固定中にはずれる、やりなおし
 もすこし強くつける、本番、割れはしたものの片側が中途半端に顔に残ってNG
 同じ感じでつける、本番、左右の2人の引っ張りのタイミングがずれてNG
 2人だとタイミングがとれないので割れ目の裏にピアノ線を通し前から1人で引っ張るという仕掛けに代える、はじける感じが出ないのでNG

 思いだすのもイヤなくらい何度もいじいじした仕掛けを繰り返す、何度目であったか髪飾りが派手に飛び散った、もっとしっとりした効果であるべきだと思うが左右均等にはじけ、変に残らなかったのはこれが始めてである、すでに1時間が過ぎており大岡氏も監督もいままでの経過から見てこれ以上のことは望めないと(正しく)判断し「割れる前になんかエフェクトを入れればこれでもいいか」ということになる。

 疲れた、助手の大久保君も「いや〜今回の作品でいちばん面倒なカットですね」と言う、まったくそのとおり、長野博、芳本美代子のお二人も情感を込めなければならないカットでNG続出というのはやりにくかったと思われる。

 0時数分前に全て終了、今日中に終わるとは思わなかった、皆はお泊まり、私は湾岸ミッドナイトのように走り、所用時間をさらに短縮して帰宅。

 
12日

 9時開始、地下にて昨日中断したところから再開。

 午後3時に終了、大谷ロケはこれにて無事完了、まずまず予定どうりの撮影だったのではないか(撮影はほとんどがが天井のあるところで行われ、天候に左右されるのは昨日のナイターくらいであったのだから当然かもしれないが)

 操演部は終了30分後には片づけ終ってさっさと帰る。
 あちこちに機材を展開している美術、照明部はこれから大変だろう。

 明日は都内で7時30分出発のロケがある、出番のない操演部はゆっくり休むから、みんなは頑張ってくれ。

*  *  *

 
間に合わない、予想されたことだが全然書き込みが間に合わない、G3の日記は毎日同じスタジオに通い、待ち時間が山のようにあって始めて成立したものだとあらためて思う。
 今のように西へ東へと出かけていたのではキーボードに向かう時間がなさ過ぎる、このまま特撮に突入してしまうと積み残しが山のようになりかねない、これは操演日記であって撮影日記ではないという観点から操演要素の少ない日についてははしょらせていただくことにする、なんにしても今年は昨年と違って本編での大操演カットはないのだ。

*  *  *

13日

 お台場テレコムセンターにて「基地、中央通路」ロケ、操演部は休み

14日

 八景島シーパラダイスロケ、操演部は亀甲船にて準備。

15日

 撮影に入って始めての撮休、当然我々は休み。

16日

 日活9時開始、ガッツウィング1号(以後「GW1」と表記)コックピットとグリーンバック(以後GBと表記、BBはブルーバックです)。

 GW1コックピットはカメラ前のFOG流し。 
 GBは神殿で逃げる隊員の特撮の絵に合成される分、及び「モンスターにつかみ上げられる隊員」の人吊り。

 どちらも操演の定番であってなんということもない。

17日

 9時開始、GW2コックピットと遺跡内、迷宮。

 GW2はFOG流し、迷宮はイルマ隊長が岩の割れ目に落ちた爆破装置を拾おうとするシーンのうちカメラが割れ目側に入ったもの、大谷では現場にカメラの入れる割れ目など作れないのでセットに持ち込まれたものだ。
 大谷廃坑の「地下1階」そっくりな岩壁と割れ目が組まれている、我々は大谷のつながりでFOGの焚き込み。

18日

 8時開始、海洋科学技術センター、深海調査研究船「かいれい」の探査機「かいこう」格納甲板での撮影。

 場所は追浜、横須賀の手前である(※追浜は「おっぱま」と読みます)
 以前は横須賀と言ったらけっこうな「旅」であったが、首都高に中央環状線と湾岸線が出来たのでまず横浜が近くなった、すいていれば横浜まで1時間とかからない、だから横浜横須賀道路(通称ヨコヨコ)を使えば横須賀までも1時間半くらいである、というわけで車で出かける。

 以前、非日常的な光景を見ると「まるで映画のようだ」と思うと書いた、またそれは私の職業病などではなく普遍的な感慨ではないかとも書いた、これはたとえば「絵のように美しい」という表現があることからしてもさほど倒錯した表現ではないと思う。

 しかし車に乗って湾岸線を西に向かうとき私はもっと不思議な感覚を味わう、それはアクアラインの分岐を過ぎ、海底トンネルを抜けて扇島の地上に出たすぐ後のことだ。
 高架になっている道路の左下、道にそってグリーンベルト(緑地帯ですね)が続いていてその向こうには日本鋼管の製鉄所があるのだがこの2つがえらくミスマッチなのだ。

 どうミスマッチかいうとまずこのグリーンベルトが異常に立派なのである、大きな木が立ち並び豊かな緑を茂らせている様はとても人工島の一部の事とは思えない、東京を遠く離れた原生林まで足を運んで始めて見られるような立派な「森」なのだ。
 ところがそれが唐突に(というか設計どおりなのだろうが)定規で測ったかのように(定規で測ったんだろうが)幅30mほどで切り揃えられられ、製鉄所のいかにも重厚長大産業的なノコギリ屋根の工場、くすんだ色の煙突、錆の浮いたパイプやタンク、に取って代わられている。

 つまりこの2つは空気感がまるで違っていて同じ場所にあるべきものとは思えないということなのだ。

 「森」に目を向ければ風にそよぐまばゆい緑が目を射るし、背景に視線を転ずればスモッグにかすむ川崎工業地帯の典型が目に入る、空気が違う、距離感すら異なっている、目の当たりにしていてもどうも本当のようには思えない、どう思うかというと「ヘタなマット画合成みたいだ」と思ってしまうのだ。

 「森の向こうに製鉄所が見える」という注文を受けた(センスのない)合成担当者が緑豊かな森林の実景に無理矢理マスクを切り、(センスのない)マット画家の描いた製鉄所の絵を機械的に合成してしかも「なじませる」努力を一切しませんでした、というカットに見えて仕方ないのである。

 本物だからしょうがないけど(?)映画でこれみせたら顰蹙だよな〜と思いながらいつもここを通過するのだ、つばさ橋のすぐ手前、ベイブリッジの橋脚が前方に見え始める頃である、首都高湾岸線を西に向かうことがあったなら是非ご覧になっていただきたいと思う。

 あ〜先を急ぐはずが余計なことを。

*  *  *

 さて「かいれい」である、せっかくの「かいれい」だが映画では単にTPCの調査船として使われるだけである。

 ここではホリイ隊員がモンスターに襲われる、モンスターは大谷と同じでほとんどCGだがホリイ隊員に襲いかかる寄りのカットのみギニョールを使用することになっている(※モンスターは人間サイズなのだ)
ギニョリスト(?)には助監督菊池を指名した、菊池はG3においてイリスのギニョール担当者だったからだ。

 ロケハンの時点ではギニョールカットはほんの寄りのみの予定であったのだが、その後監督から迫ってくる感じを出したいのでブランコさせたい、菊池も一緒に吊らなくてはならないと思うがあそこで人が吊れるか? と聞かれた。
 上がどうなっていたかノーチェックだったので出来るとも出来ないとも言えない、努力はします、と答えたのだがこういうときは当然のように出来るものとみなされてしまうものでありなんとかせねばならないだろう。

 船内を探索するホリイを撮ったあと撮影隊は甲板に一時移動、船内は暗くなってからでも撮れるが外はそうはいかないからだ、その隙に吊りの準備をすることにする。

 現場の真上には支点となるものは何もなかったが、想定される吊り点をはさんで頑丈そうなスピーカーの支柱と「かいこう」の台車のタラップがあった、ここをワイヤーでつないで中間に滑車を取り付ければいけるだろう。
 気を使うふりをしてワイヤーを架ける所にウエスを巻きつけたりするがもちろんこういう使い方が想定された場所ではない、自分で言うのもなんだが映画屋に場所を貸すものではない。

 モンスターをピアノ線4本で吊り、菊池は別に横吊りする、菊池は吊られた状態でモンスターの首に右手をつっこむ、その足を私がつかんで最初はなるべくひっぱっておく、よーいハイで力をゆるめホリイに襲いかかる、最後は力まかせに押しつける。

 えらいことやっているわりには出来た絵は狭い、手や頭がバレないようにモンスターの頭のごくごく先しか写せないからだ、写っているものより舞台裏のほうが凄いという特撮によくある光景である。

 このカットは1発OK、その後もさらにホリイに襲いかかるモンスターを撮影する、ブランコはもうしないので菊池は床に降りるが、モンスターは重くて一人では支えられないので吊ったままでいくことにする。
 しかしホリイが追い込まれた場所は上に梁があって無理やり押し込む形になる、ピアノ線が梁で急角度に曲げられ自由がきかない。

 カメラはホリイとモンスターを横から捉えている「翼がときたまフレームインするといいね」と大岡氏が言うので左の翼を私が右の翼をチーフ助監督高野氏が持ち、バタバタと振りまわす、狭い場所での撮影で、カメラは手持ち、モンスターは自由がきかず、私、菊池、高野はバレないように演技をしなければならない、撮影をやっていると時折起こることだがなにもかもアバウトでアンコントロールである。

 曰く
どこまで出られますか、その手見えてるよ、黒くしとけばわかんないって、頭もっとひっこめて、誰かバレだけ見といてくれ、それ何が見えてんだ、動きはもっと激しく、そこはフレームギリギリだ、芝居しかみてられないぞ、ライトバレた、もっと逃げとけ、このフック絵に入りませんでしたか、とも色ないか、そこもっと暗くしちまえ・・・・

 モグラ叩きのように問題をその場しのぎでつぶして行く大混乱の撮影である、勢いで押し切ってしまうわけだ、こういうカットにこそ撮影を実感するいう人間もいるだろうが私は頭が痛くなる、仕掛けのあるカットで現場が混乱するのは操演部が職責をまっとうしていないからだと刷り込まれているからかもしれない。

 私としては「操演部さんお願いします」と言われたら充分な準備とテストをおこなった仕掛けをさっと出し、現場を操演部主導で仕切り1発OKを出してクールに終わる、という風に行きたいのだ(私の自己満足だけでなく、もちろんその方が結果もいいし時間も早い)
 やってみなくてはわからないとか、ワイワイやってテイクを重ね、どれか使えるでしょうとか、使えるところはきっとあるよとか、ラッシュ見て考えましょうてのは大キライなのだ。
 ・・・といっても始まらない、ロケハンのときはモンスターも出来ておらず、芝居も固まらず、当然カメラアングルも決まっていないのだから、そうそう詰めた話が出来るわけもない、その場しのぎでもしのぎきるのが腕の見せ所と思ってあきらめるしかないだろう。

*  *  *

 モンスターはシンジョウに打たれて倒れ、胸の傷から緑の血を流す。
 自転車の空気入れを改造した簡易ポンプで血を送りこむ、現場の狭さを考慮した仕掛けだったが正解である、普段の仕掛けだと空気ボンベに血ノリタンク、ホースにレギュレーターにと大荷物になるところだが今日は舞台の回りが関係者であふれていて足の踏み場もないくらいなのである。

 21時に終了。

19日

 撮影隊は8時開始の新宿ロケで「メトロポリス」と「街の情景」、操演部はここでは出番なし、その後日活撮影所へ戻ってGW1コックピット、例によってFOG流し。

20日

 諸準備のはずだったが特撮打ち合わせとなる、助手連はお休み。
 しかしこれでこの1ケ月に2回しかなかった休みが1回減ったことになる、操演部はそれなりに休みがあったが他のパートはきついだろう「映画って休みがないんだよね〜」という会話が平気でなされる悪習はなんとかならんのか。

21日

 八潮市(埼玉県)ロケでTPC基地の一角、操演部はお休み、はっは。

22日

 江東区新木場の埋め立て地に東京ヘリポートというヘリコプターの会社が集まっている基地がある、ここのエースヘリコプターという会社の格納庫を借りて「オーパーツ」倉庫の撮影。

 ここではダイゴがクレーンのフックに引っかけられて、袋だたきになるというシーンがある、ひっかっかっている時はもちろん、持ち上げられる時も吊りである。

23日

 横浜ロケの予定であったが予報が雨であったため日活にてGWコックピット、9時開始(しかし空は晴れ上がっている)
 23時終了。

24日

 日活撮影所にてアートデッセイ内部、操演部は休み。


25日

 8時開始、横浜ビジネスパークロケ。

 ここは高層のオフィスビル3棟が中庭風の広場を囲んでいるしゃれた一角である、この広場をオープンカフェテラスに仕立ててダイゴ、レナ、まゆみ、ヤズミが談笑している場面を撮る。

 仕出し、円谷ファンクラブ、アクションチーム等あわせて100人以上が集められている、開田夫妻もいいところに座っていた。

 しかしこういうさりげない群衆シーンがうまくいっているのを見たことがない、そもそも画面にバランス良く人員を配置するだけで「らしさ」が失われてしまうものだ(実景には絶対「偏り」がある、しかし狙って偏りを作るほど「背景」に時間をかけられることなどまずない)

 そして芝居はこれはもうどうにもならない、そもそもカメラの前で「自然に」振る舞うことなど誰にも出来ない、うまい役者が「自然に振る舞うフリ」が出来るだけだ、もとより素人、半素人にこなせる技ではないのだ。

*  *  *

 広場の中心には池がありここに芳本美代子が浮かぶというカットがある、操演部の仕事は1本足のスタンドに彼女を固定して池の上に浮かすことにある、スタンド部分は後処理により同ポジで撮った空舞台(からぶたい−役者入りで撮ったカットを役者抜きで背景のみ撮ること)と入れ替えて消されることになる。

 彼女がモンスターを呼び、ビルは破壊され人々は我がちに逃げ出す、例によってモンスターはCGである(※今までモンスターと呼んでいたものは皆同じ怪物である)
 テーブル等の引き倒しもあり、という予定であったが群衆の中にピアノ線が走っていたのでは危険過ぎるのでやめにする、そのかわり転び要員であったアクションチームが派手にひっくり返してくれる。

 雰囲気としてFOGを流す。

26日

 埼玉県春日部市のロケ「基地、通路」操演部は休み。

27日

日活、9時開始で「ダイゴの部屋」からだがここは出番なし、操演部は12時開始でGB撮影から。

 GBはまずイルマ隊長の吊り。
 高樹澪さんはこれで「超高層ハンティング」「ウルトラQザ・ムービー」TV版「ティガ」映画版「ティガ」と4回吊られたことになる (これらはすべて亀甲船の仕事でありそのうち3回は私が担当している)
 彼女は役者根性のある人で、「超高層〜」の時、何時間も吊られっぱなしになるので何度となく「大丈夫ですか?」と声をかけたのだがそのたびに「大丈夫」という返事が返ってくる、そこで安心していたところが最後に吊りベルトをはずしてみたところあちこちアザだらけだったということがあった、この一件と気さくな人柄のおかげで亀甲船はみな彼女のファンなのである。
 (だから吊りともなれば痛くないように気を使う、人とはそういうものではないだろうか?、某大女優のように最初から最後まで痛いのかゆいのと騒ぎ立てられるとこちらも「そんなわけないだろ」という対応になってしまうのだ)

 次にダイゴのGWコックピット。
 カメラは最初ダイゴを真横からアップで捉えている、カメラがトラックバックするとコックピットがフレームインし、機体が見え、GW1号全体になり、遠ざかってやがて翼をひるがえして飛び去っていく、という絵である。

 (むかし昔「2001年〜」でムーンバスの操縦席に人影が見えるとか、「サイレントランニング」の冒頭で窓から外を見ている男からズームバックするとそこは宇宙ステーションだったとか、「宇宙からの脱出」でロングから迫ってくるスペースシャトルがアップになると操縦席に人がいるとか、そんなことが「売り」になる時代があった、ミニチュア撮影とアナログ合成しかない時代ではそれは驚異的なことだったのだ、いまや週一のペースで製作されるウルトラシリーズにも随所にこういうカットが挿入される、CGとデジタル合成様々である)

 こうした動きのある下絵にCGを合わせることをマッチムーブというがCG班、合成班はこれを「素晴らしい電気の仕掛け 」( Copyright by 神谷誠 )でやすやすとやっているわけではない。

 この場合、動いて角度が変わっていくダイゴにどうやってCGを合わせていくのかといえば、GBで撮影されているダイゴのまわりにマーカーと呼ばれる目印をいくつか置き、それが画面上で形を変え位置を変えていくのを参考にカメラの移動距離やパンの角度を割り出しているのである、実際にはカメラが振動していればそれに合わせてCGも振動させたりもする、結局最後は手作業にたよる地道な仕事なのである。

 根性をだせばどんな下絵にも絵を合わせることは出来るだろうが(「ツイスター」でデコボコ道を高速で走っている車からの絵にCGの竜巻を合成していた、これはマーカーすらない状態の下絵にいくつかの目安を設定し角度の変化を割り出しているのである、動きが機械的でないだけにそれこそ1フレーム単位の手作業であったと思う)それを多少なりとも楽にすべく今回もモーションコントロールの出番となった。

 移動、パン、ティルトの3軸制御を行う。

 22時30分終了。

28日

お台場でのナイター、操演部の出番は無し。

29日

 東京都昭島市「フォレストイン昭島」というホテル&結婚式場のチャペルを借りて、ダイゴとレナの結婚式の撮影。

 中庭に建つチャペルは正面(神父さんのうしろと言うことですが)の壁が素通しのガラスで式場自慢の森が見えるという趣向になっている。

 この結婚式は「幻覚」と「本物」の2回がある。

 「幻覚」のシーンではダイゴ・レナの結婚式に芳本美代子が現れる(昔の恋人が結婚式に乱入するという男のとっては悪夢のシチュエーションだ)気が付くと参列者が全員芳本美代子になっているとか、窓外の森の中に「浮いている」とかのカットがある、操演部の出番は「浮く」ためのお立ち台のセッティングと森に「モヤ」を出すためのFOG焚き。
 あいにく天気が悪く、スケジュールも押せ押せで肝心のTPC関係者が全員出席する”本当の結婚式”が撮影出来なかった。

 23時終了。

 30日

 日活で「メディカルセンター」のセット撮影、操演部の出番なし。

10月1日

 埼玉県三郷市の江戸川べりにある「排水機場」の地下通路を借りて「基地通路」の撮影。
 通路の片側を走っているパイプから「雰囲気」の炭酸ガス出し。
 一番大変なのが炭酸ボンベを階段で地下に降ろすことで、作業的にはなんということもない、ロケ場所が家から20分くらいなところもよい。

 16時終了。

 2日〜3日

 2度目の横浜ビジネスパーク、8時開始だったが横浜から相模鉄道に乗るとき発車寸前の電車に飛び乗ったところが急行で、遥か彼方まで連れて行かれてしまった。
 撮影は線路端なので通り過ぎる時によく見えるのが情けない、もっとも今回の助手連は皆ベテランなので、今日のようにスモークくらいしかやることがないときは遅れても全然心配がない。

 撮影場所はビジネスパーク裏の空き地、スチロール製の瓦礫、木製トラス、本物のコンクリート片などで「廃虚の街」の飾りがなされる。
 1台本物の押しつぶされた車があるあたり映画らしさがあるというべきか、ロングにもボンネットの上にスチロール片が乗った車があるが壊しも汚しもされておらず周囲から浮いているので何だと思ったら製作主任の車だった。

 FOGメーカーをつぶれた車、瓦礫の陰等に隠し、画面外から黒スモークを流す、カット的にも大したことはなく昼には終了。

*  *  *

 これでおしまいならどんなに良かろうと思うが今日は夜に再び集合してナイト&早朝ロケーションなのだ、「オーストラリア」の海岸を犬吠埼で撮るのである。
 これは当初操演部の出番はなかったはずなのだが、先日昭島ロケの時急に大岡氏に言われ出動になってしまった。
 この日はデイシーンのみで終わりと信じていただけにショックはでかい、しかも「朝モヤの雰囲気を出したいからFOG焚いてね」と言うのだが、果たして海岸でFOGが焚き込めるものかどうか? 

 大岡氏はうまくいかないとも限らないだろう、と言うのだが太平洋に突き出した岬の突端で風が無いことなんてあるだろうか?
 廃虚に流れる黒煙なら筋になって流れてもアリだが、朝モヤなんて少しでも風があったら勝負にならないのだ。

 ダメだとは思うが絶対ダメという根拠もまたないので行くしかない。

*  *  *

 現場1時集合である、一旦家に帰り少し寝て23時出発、首都高から東関東自動車道へ。
 走っていると風で車が流される、空にかかった上弦の月の前をムラ雲が飛ぶように流れ去って行く、天気予報を聞くと千葉県全域に”強風波浪注意報”が出ている。

 現地に着くと当然めちゃくちゃな強風である、風上に向かって体重をかけていないと立っていられないほどだ、絶対これは無いなと思って車で夜食を食べていると、「大岡氏が車の内引き(うちびき−車の中から外向けを撮る)のカットでやると言ってます」と連絡がくる。
 やってみるとFOGは風に巻かれてちぎれ飛び、外がもの凄い強風であることを強調するだけである、が大岡氏「いや雰囲気だよ、これがないとセットで撮ったみたいだし良かったよ」などと言う、たしかにセットで撮ったようには見えないが、ロマンティックな雰囲気(のシーンなのです)とは思えない。

 「海岸でF0Gなんて焚けっこないでしょ」と言う操演部を強引に連れてきた手前、「無理矢理使おうとしてないか? ひょっとして」などと話し合っているところへ、大岡氏やってきて「外だともう勝負権ないから帰っていいよ」と言う。

 前に書いたとおり大岡氏とはウルトラマン80以来20年近いつきあいである、当初は駆け出し対カメラマンで天と地ほどの開きがあったが、今や立場はメインスタッフどうし、現場を離れれば軽口を叩ける程度のおつきあいをさせていただいている、つきあいが長いだけにお互いのミスも数多くつかんでいる。
 私はいまだに「80」の時操演クレーンを振り損ね、ミニチュアをホリゾントに激突させて穴を開けた(「根岸がいいところに穴あけたんで、俺はそれ以後ずーっとフレーミングに苦労したんだよなー」)ということや、「テラ戦士ψボーイ」の時初めてのモーションコントロールのセッティングで12時間待ちをさせたことを軽口のネタにされている。
 逆に私は対抗上とある展示映像で「空中に浮かぶ鬼女」をGBで撮る際、大岡氏があおりの感じを出したいから人物を少し上向きにして、というので苦労して上向きにセッティングしたところ大岡氏はクレーンに乗って俯瞰に構え、もっと上向きにして、というのでさらに苦労して上向きにしたところ、さらにクレーンアップし、結局カメラと人物は平行のまま、背景はGBなんだから最初からまっすぐ立った人物を正面から撮ればよかったじゃん、ということがあったことをを持ち出したりする。

 今回ものちのち「あんときは大岡さんがモヤだってんで真夜中に犬吠埼まで連れてかれたんだけど、もう風で全然だめ、経験長いんだから海岸ぺりでFOGに勝負権ないことくらいわかりそうなもんだよね〜」と言われないように1カットだけ回した気配がある、もちろん本人は絶対に認めないだろうけれども。 

 というわけで操演部は3時終了、帰宅して安らかに眠る、撮影隊はそのまま早朝のシーンを撮り、東京に帰って引き続きラストシーンのロケ、鬼のスケジュールだがこれで本編はすべて終了、お疲れさまでした。



 




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