操演日記−AUGUST−


>特撮小史

今から約20年ほど前、特撮TVは百花撩乱の趣があった。  円谷プロの「ボーンフリー」「アイゼンボーグ」「コセイドン」と続く恐竜三部作、幻の名作「スターウルフ」「ウルトラマン80」。「西遊記」「猿飛佐助」のシリーズ、「ガンバロン」「マッハバロン」「レッドバロン」シリーズ、日本版ITC「Xボンバー」、「円盤戦争バンキッド」、「メガロマン」、もちろん東映の戦隊物は言うにおよばず−というわけで世に特撮物はあふれていた。  
それがある日突然に、まるで全盛を誇った恐竜達が突然に滅んだように終焉をむかえたのであった、特撮界に落ちてきた来た巨大隕石はロボットプロレスという名のアニメであったのだが、かつての恐竜達がそうであったように特撮はその巨大さ、特殊化の故にいずれ倒れる運命にあったのだともいえる。

 そもそも特撮物は通常のドラマと比してスタッフを倍必要とする、本編班と特撮班で ある、そして通常のドラマには必要のないスペシャリスト集団である特殊効果マン(操演、特殊美術、合成班)を必要とし、特撮班はミニチュア、着ぐるみといった労働集約的しろものを抱え込む。本編班も特殊小道具やコスチューム等レンタル屋、タイアップで借りてこられない物が多い、セットがこれまた「作戦室」やコックピットといった大道具倉庫から出してきて組み立ることができないものばかり、というわけですべてに関して肥大化してしまったのである、スポンサーがロボットアニメの方が安価に制作できると気が付き、そのほうが実はなおよくオモチャも売れると気が付いた時が特撮物の最後だったのである。

 そして(全盛時には週に数本の作品を送りだす数を誇った)操演技術者は仕事を求めてCM業界へ散った、世は折しもバブル経済、目を引く効果を求めるCM業界と特殊効果マン達の利害は一致し、仕掛けなければCMにあらずといった時代に突入していく、このバブル期に操演技術は飛躍的に発達した、映画1本を楽に製作出来る予算がわずか30秒の中に投入されるのであるから当然であるといえる。  
技術は発達したが特撮映画はその後も長い冬の時代が続いていた、特撮映画の復興にはスーパースター樋口真嗣の登場を待たなければならなかったのだ。

8月2日(日曜)

 9時開始。

 ガメラが腹に刺さったスピアを抜くカット、刺さる時は福沢君抜きで撮ったが今回は腕の芝居が必要なのでガメラに入る必要がある、といって槍は腹の真中から背中に抜けているためまともに入れるわけがない、そこで背中をあけたまま両手を入れ、足は右足だけを入れて体をひねって槍を通すという曲芸まがいのポーズを取る(前からみると人体串ざしのマジックショーである)。

 効果としては緑の血を傷口から流すこととガラ飛ばし。

 今日はナイターでギャオスの爆発シーンがあるので、平行してギャオスへ火薬の仕込
みを行う、硬質発泡ウレタンを削って石膏を貼り5分玉を埋め込みガソリンを載せる受けを作る。

 17時オープンに出る、押井守氏が見物に来ている(それともお仕事なのだろうか?)
 25メートルハイライダーに爆発用ギャオスを吊って爆発させる。

 次にパトリオットミサイルの爆発するカット。
 打ち合わせになかったカットなので岩舟の空中ナパーム用のスチロール半球が余ったら可能だよと言ってあったものだ。
 爆発とともに破片が飛び散りたいというので、神谷が大工センターからレンジマット(油の跳ねをふせぐアルミ箔のついたてだ)を買ってくる、それを細かくちぎり監督以下数人で半球の上に山盛りに載せ、あるいは尖らせてスチロール半球に刺す。

 もうよかろうとなって吊りあげると強い風が吹いて積み上げたアルミ箔が飛ばされてしまった!、が時間が遅い(日活オープンは目の前にマンションがあり、大きな音のする撮影は23時以降はできない)のでそのままいく。

 22時55分終了、スタジオなら電車で帰れと言われるところだがこれから撤収があるので送りである。


******** 第10週 *********


 8月3日(月曜)

 ついに最終決戦地である京都駅ビルの撮影に入る。

 当初、最終決戦地は清水寺だったらしいのだがシナリオハンティング時に監督達がこの異様な建物を見て「中で怪獣があばれられるじゃん」ということで変更になったらしい。
 しかし、ご当地もの、名所旧跡の破壊は怪獣映画のお約束とはいえこのスケール感が欠如している建物は周辺との対比によって巨大さ(非日常さ)を演出する怪獣映画には不向きな建物だったのではないだろうか。     
 札幌のロビンソン百貨店を知らない観客といえどもその窓の大きさ、フロアとフロアの間隔によってだいだいの大きさは掴めると思うのだが、京都駅ビルに関しては知らない人にはそれがどれほどのものかわからないと思うのだ。

 まあ今どき清水寺でもないだろう、という気はとてもするので新たなチャレンジとしてこれもまたアリかとは思う、しかし、ならばそのフォローとして本編側がこの建物の全体像をさりげなく(でもしっかりと)アッピールして欲しいと思う。
 
 さて、撮影であるが一発目はガメラとイリスがもつれあって京都駅ビル構内にころがりこんでくるカット。

 その転がりこんで来る怪獣2体は実際にはグリーンバックで撮影されることになっている、もともと壁そのものは画面に入っておらず右フレームから怪獣と瓦礫が爆発的に入ってくるという構成である、それを10倍のフォトソニックでハイスピード撮影するのだが狭い京都駅ビルを10倍対応の照明(普段2〜3倍の回転速度で撮っているわけなので5倍の光量が必要とされるわけだ)するのは難しいと言うことで別撮りということになっているのである。

 そのためここで撮るのはその下絵、背景である駅ビルと「怪獣の向こう側に見える」瓦礫である。

 エア砲を3台用意して瓦礫を詰めて撃ってみるがどうも量が足りない、どうせ出どころは見えないのだからとバケツに入れて投げ込むことにする、エア砲からはホコリのみを発射する、すると監督寄ってきて(!)ホコリの中に火花が混じっていたいですよねと言う、そこでチタン合金の火薬をエアの通り道に置く。

 基本的には単なる背景なのでなんということもなく終る、と思いきや京都駅初登場なので照明に時間がかかり、終了したのは日も変わった2時30分であった。

 送りで帰宅。

8月4日(火曜)

 9時開始。

 昨日のカットの前になるのだが、駅ビル内部の壁に亀裂が入るカット。

 壁本体は亀裂が入っても割れ落ちない用に内部に網の入った石膏板で、その内側にコンクリート片のくっついたバルサ製の鉄骨風構造物、さらにバレ隠しの黒いウレタン、という3層構造の壊し壁を後ろから押し出して亀裂を入れることになる。

 基本的には人力による押し出しだが、景気付けとして石膏板に小さい弾着を貼り付ける、勢いというか荒々しさというか破壊のエネルギーの表現に火薬はかかせない、中間層に更にホコリ弾着を入れ、照明部がフラッシュ球を仕込む。

 壁の押しだし用にモノレールを3台縦にならべ、1本につき2人の人間を配置する、例によってやってみなくてはわからない仕掛なのだが「下から順に間をあけず、力強く、かつ滑らかに」と無責任な指示を出して私はシャミセンにつく。

 絶対一発じゃうまくいくまい、という確信とうらはらに一発OKとなる、こういうこともたまにはあるということか。

 22時30分終了

8月5日(水曜)

 9時開始。

 ガメラが京都駅の外に放り出された衝撃で、京都駅の天井部分のトラスが落下してくるカット、まずガクンとトラスが外れるまでを撮る。

 落下すべき部分のミニチュアを一度外して落ちるのに邪魔な部分(つまり、実際にもそこが破壊されたと想定される部分であるが)を切り取る。
 
 切り取った一部を壁に残し、一部は瞬間接着剤で点づけする、落下する本体は天井からピアノ線で吊る。

 という準備をしているうちに昼になってしまった、午後からは日活オープンなので作業を中止してそちらの準備をする。

 オープンに出る、昼の部は相模湖ピクニックランドで撮りきれなかった森の中を歩くイリスである、操演的にはホコリのみであり楽勝だ・・・と思っていたら監督が寄ってくる(!)
 「逃げないでくださいよ」と言われてしまったところを見るとどうやら私は思わずあとずさりしたらしい。

 で監督の思いついたことと言うのは「ここで弾着が欲しい」ということなのであった、たしかにこの前後に自衛隊員が無反動砲を発射しているのだが相模湖でなかった要素が日活に来たとたんに出てくるのはなぜ?

 まあ、たいして面倒なカットでもなかったので大映にとって返して火薬を一式もってくる、ウルトラシリーズなら怪獣弾着といったら日常茶飯事でメシを喰うように、息をするように(?)行っていることだから作業的には楽なものだ。

 問題はハデならOKのTVと違ってリアルな怪獣弾着(というのは「小さい」ということだが、それは大きな爆発が小さく見える、という意味の小ささである必要があるわけだが)をどう表現するかということだ。
 
 結局カプセルに赤のマグネシウムを詰めたものを4つ付ける、2テイクでOK

 続いて夜の部に入る、ガメラが腹をイリスのスピアに刺されたまま、新幹線ホーム側から駅構内を横断して駅ビルに迫るカットである。
 新幹線ホーム、駅ビル、在来線ホームと線路が実景で、2怪獣と遠景のビルと空が切り合わせ合成になる。

 操演的にはまず「雰囲気」の炭酸ガス、これはスタジオ内では液体窒素で撮っていたものだがオープンでは風があるので炭酸の煙にしようということになったものだ、それと、「なんだかわからないガラ飛ばし」と「よくわからない珪砂飛ばし」、新幹線ホーム側に火皿による煙である。

 明るいうちから準備をはじめ21時頃そろそろ本番いけるか?という感じになってきた途端に「雨が降ってきた」(!)まったく今回の天気運の悪さは筋金いりと言うべき、操演部の仕込みはすべて水に弱いので大あわてである。

 雨仕舞いをしてずぶぬれになって車で待機すること1時間、何事もなかったかのように雨があがる、だったら降るなよ。

 23時終了、送りだ。

8月6日(木曜)

 撮休

8月7日(金曜)

 9時開始。

 トラス落下の続き。
 始めにガクッとくるだけのカット、次にカメラ前まで落ちて来るカット。
 
 22時30分時終了。

8月8日(土曜)

 9時開始。

 ガメラがイリスに駅ビルから放り出される。
 ガラスいっぱいトラス一杯の壁をつき破ってガメラが京都タワー側に転がり出てくるという今回の見せ場のひとつである。

 本来はドーンと飛びだしたいのだが、今回のガメラは大きく重いためあまり大きな運動ができない、といって駅ビルの内側に立ってただ倒れこんだのでは面白くない、新幹線ホームへの倒れ込みと差別化も出来ないし、体の大部分がトラス壁の下の開放空間を通過してしまうのでガラスが割れずハデな絵にならないのだ。

 いかに勢いをつけるかのテストは事前に行ってあった、最初に試みたのが小規模なバタンコである、ガメラを3×6尺の平台に載せ、倒れ込む側を20センチばかり落す、落ちた勢いで外に飛び出すというつもりだ、しかしやってみると福沢君は最初の落下で腰くだけにならないように足をふんばってしまい落ち切ったところであらためて飛んでいる、ならばバタンコの意味はない、しかしその飛び出しは使えるので、ならば最初から床を傾けておけば良いのでは、ということになったのだ。
 
 バタンコでなくなったので操演的には破壊されたガラス片を飛ばすためのエア砲、パチパチ君、トラス壁を支えている柱の破壊、足もとの雰囲気の4つである。
 美術的、照明的、そして俳優的にはたいへんなカットだが我々はたいしたことがない、NG無用の1発OKカットなのも嬉しい(操演部の責任が軽いからそんなことも言えるのだが)

 新幹線の倒れ込みと同じくタイミングのルーズな順、つまり、始めの雰囲気−井上、パチパチ君−半田、エア砲−黒瀬、柱破壊−私、とスイッチを握る。

 日が変わって1時30分本番、さすがにアメガラスをふんだんに使っただけのことはあって迫力充分なカットになった、ややガメラがカメラ寄りに倒れこんだ気配があるがそこまで要求するのは酷だろう。

 送りで帰宅。

8月9日(日曜)                                                                         
10時開始。

 トラス落下の続き、倉田が落ちてきたトラスに押しつぶされるカット、倉田はあとあとスチルで撮った本人の写真をデジタル合成時に1コマづつひしゃげさせて押し潰される様を表現するという。

 トラスはピアノ線の電気切りで落す、床の衝撃は毎度おなじみ五分玉裏貼りのガラ飛ばしを行う。

 23時30分本番、迫力充分で一発OKとなったがどうも私のスイッチが早かったのではないか? トラスは下手(ヘタではない、しもて)が先に落ちてきて中央部分で倉田を押し潰す、だからガラ飛ばしのタイミングは中央部が接地するあたりにしようと思っていたのだが、遅すぎれば間がぬけて使えない、NGは出したくない、と思うあまりにやや早く下手が接地した瞬間にガラを飛ばしてしまったのだ、するとそのガラで倉田はワイプされてしまい手のこんだ潰される表現ができなくなる可能性がある、そうなると残念だがもう一度やってもっとうまくいく保証はないし監督がOKならこっちはOKというのが私のスタンスなのでもう一度とは言わない。

 (現場には監督がOKと言っているのに「すみませんもう一度お願いします」という人たちがけっこういる、自分の仕事に自信と誇りを持っている証拠と言えるのかもしれないが、私はまずやらない、納得の出来ないOKもあるけれど納得の出来ないNGもある、しかしそれを決定する権利と責任を負っているのが監督であると思えばこそNGと言われれば文句もいわず−または文句をたれつつ−リテイクにも従うわけなのだ、ならば逆に監督がOKと言うならそれでかまわないと思うのだ)

 さて8月も先が見えてくると、いよいよこれは終らないということが誰の目にもはっきりしてきた。
 残り約90カット、一日2カットづつ消化しても45日、休みを考えると予定を1ケ月近く(!)オーバーすることになる。

 最近、プロデューサーとチーフ助監督の動きがあわただしくなってきたと思っていたら、今後の仮スケジュールと別班設立の可能性について問い合わせる刷り物が配られた。

 それによるとプロデューサーの見解として延長は最大10日が限度であるということ、このままでは絶対実現不可能であるので別班の設立が必要であろうということ、その別班設立の可能性と1日3カットをこなすことになっている仮スケジュールに対して意見を求める、というものであった。

 別班、つまり特撮のセカンドユニットの設立について言えば操演部は絶対不可能という状況である、ここで私と操演部の状況について説明する必要があるだろう。

 私は立場上はフリーランスであるがここ数年ずっと特殊効果亀甲船という操演会社と契約して仕事をしている。
 現在亀甲船は社長を含めて社員は3人、準社員の私を含めて4人の技師がいることになる。
 ところが今は「特撮バブル」亀甲船は「ウルトラマンダイナ」、「鉄甲機ミカヅキ」、「ガメラ3」の3本を担当しており、ウルトラマンが本編操演、特撮操演の2班を必要とするため4人で手一杯なのだ、しかも今やもうひとつ問題が生じている、それは円谷の新シリーズ「ウルトラマンガイア」である。
 
 毎度のことではあるのだが新シリーズはタイトルバック、発進パターン、ライブラリー(使い回し、アニメでいうバンクですな)を撮る必要があるため放映の1ケ月半前にはインする必要がある、ところがダイナのクランクアップはガイア放送開始の1ヶ月前であり、同じスタッフでガイアの撮影に入ろうとするとオンエアに間に合わなくなる可能性がある、そこで別班を編成する必要があるのだ。

 ダイナ、ガイアの本編は社長の村石がなんとかする(本編操演は毎日あるわけではないのでスケジュール調整して両方をこなす)というが特撮班はまともな1部隊が必要である、ここでついに亀甲船はその大原則「純正メンバー以外に現場をまかせない」を曲げて、現行の技師である川口がガイアに移り、応援として来てもらっていたチーフの大久保君にダイナの残りをまかせるという決定をくだしたばかりなのであった。
 
(操演会社は他にもあるが、キャパシティを越えて仕事を受け、簡単な仕事とみるや初心者を現場に送り込み、失敗して顰蹙を買うというところがあったりする、我々はたとえ仕事を逃しても信用をなくすよりマシという考えで純正社員抜きの現場は作らないという原則を貫いてきたのだ)

 大久保君はティガからずっとつきあってもらっているので亀甲船のやり方は心得ており現場責任者として問題はない、問題なのは助手である、もうあと3人をどこからか都合してこなくてはならない、しかも最低2人はそれなりの経験者であって欲しいのだが今さらそんなメンツが見つかるくらいなら苦労はしない、ともかくフリーの操演マンは亀甲船がすべて押えているといってよい状態なのだ。

 こういう状態にあって更に「ガメラで更にもう1班作れ」と言われても不可能なのはあきらかなのである。

 というわけで「別班は不可能」という回答を出す、ついでにスケジュールについて「可能か不可能かは1技術パートにすぎない我々にはわからない、しかしここで不可能であると断言しないことをもって、スケジュールの遵守を確約したとされ、のちのち遅れを糾弾されるようなことがあると困る、念のためいえば今まで一日1〜2カットしか消化してこなかった樋口組が急に一日3カット回せるようになるとは思えない」という意見をも出しておく。

 後でまたまた会議がもたれると言う。


******** 第11週 *********


8月10日(月曜)

 9時開始。

 今日撮るべきは綾奈を取り込もうとするイリスが体を金色に発光せ彼女の前に立ちはだかるというカット、および龍成の投げた剣がイリスのみぞおちではねかえり落ちていくカットである、イリスに動きはなく剣はCGなので操演的にするべきことはない、ただただ照明部のみが活躍するカットである。

 一日ボ〜ッとしていたが、夕食後になって操演的がすべきことはせいぜいFOGメーカーくらいだろうということがあきらかになったため、手を半分にわけることにする、つまり私と半田君は先に帰り、黒瀬と井上が残る、そのかわり残った2人は明日昼開始で良いことにするというものだ。

 というわけで私は19時終了、撮影は23時くらいに終ったと連絡があった。

8月11日(火曜)

 9時開始。

 綾奈がイリスのみぞおちの器官に取り込まれるカット、これまた操演部はヒマである、しかしイリスが綾奈を見下ろすにあたって、現在のラジコンでは限界があるのでなんとかしてくれないか、という要請があり首の改造にとりかかる。

 まず顎の下の突起が首に当たって下向きの角度に限界が生じてしまうため、サーボモーターと首を連結しているステーの延長金具を作って首を前に出す、これで首は下を向くようになった、が重心が前に出たため重くてサーボモーターでは動かなくなってしまったのでラジコンを使わずピアノ線で首振りを行うことにする。

 我社的にはたいしたことはなかったが照明が大変でけっきょく終了は翌1時30分。
 送りで帰宅する。

8月12日(水曜)

 10時開始。

 今日明日は本隊ブルーバック撮影用のアタリ撮りである。

 京都駅では特撮の絵が背景にあり手前の人物がブルーバックで合成されるという絵が何カットもある、本隊が人物を撮影する場合にはビデオに落とした特撮の絵とカメラのモニター画像を現場で合成してみないとカメラアングルや役者の目線を合わせる事が出来ない。

 そのためには特撮がそのカットを先行して撮影する必要があるわけだが、スケジュール的にそれが不可能な状態である、本編班は特撮班よりはるか以前にクランクアップする予定だし、特撮班は「段階的に京都駅を壊していって」壊し終わった時がクランクアップの予定であるからだ。

 そのため本番撮影ではなく、怪獣がこのサイズでこの位置にくる、照明のキーライトはここからあたる、というガイドを先に撮影して本隊に渡す必要が生じたのだ、これなら細かい飾りやライティングはいらないのでそれなりのスピードで撮影出来る、しかしいずれ我々自身もそれを参考にもう一度本番撮影をする必要があるわけで時間的にもったいない話ではある。

 本番時にはいろいろあるだろうもののアタリ画面にまで操演的効果を盛り込む必要はないので我々は開店休業である。

 交代制をとることにして私は17時終了。


8月13日(木曜)

 今日は遅番ということで午後1時30分開始、早番の2人と2時に交代、今日も特にやることはない、撮影は4時ころ終了、現場は6時まで翌日の準備をして終了。

 しかし今日も早いかといえばさにあらず、これからメインスタッフのみ例の「終わらないけどどうしたもんか会議」が開かれるのだ。

 またまた面倒なことを言われるのかと思っていたらプロデューサーから意外とあっさりと人員増強による準二班体制か完全別班を考えるというお達しがでた。

 問題は2班体制が組めるのかそして「組んだとしても早く終るのか」ということだ、なにしろ今や残っているのはほとんど京都駅ビル関係のみなのだがもちろんこれを2班で撮ることは出来ない、その他の残っているカットもそのつながりを知っている人間でないとまずい、そう考えてくると今や完全に独立している(別班にまかせられる)シークエンスというのはほとんどないのだ。

 2班体制を組む予算があるならその分で期間延長すれば? という意見が出たがプロデューサーはなにがどうあっても9月10日に終らせよと主張する「この連中に延びてもいいよ、と言うといつまで延びるかわからない」から期間については妥協しないという姿勢と見た。

 別班についてまじめに検討し返答したのはどうやら操演部だけであるらしく、各部とも今はどこも人がいないんですよね〜という感じである。

 現有勢力で別班対応可能と言ったのは美術部のみである。

 操演部としては自力で人間を集めるのは不可能だがどうしても別班が必要な場合大映側がどこかから操演部を連れてくる分には文句は言わない、としておく。
 実際我々としては撮影が延びるのは困るのだ、なにしろ9月20日には「ウルトラマンティガ&ダイナ&ガイア」がクランクインする予定であり私はこのメンバーを率いてそのまま映画を担当する予定なのでこれ以上延びたのではたまらない。

 ともあれ別班を立てられるだけの人間が集まるかどうかわからないのに細かい相談をしても仕方ないということになり、各部とも明日のうちに心当たりにあたってみて休みあけになんらかの返事をしてください、という結論に達する。

 20時終了。

8月14日(金曜)

 撮休。

8月15日(土曜)

 9時開始。

 綾奈に迫るイリス及び浅黄のみた目のイリス、今日も操演的にはホコリ、パチパチ君等たいしたことはない。

 22時30分終了

8月16(日曜)

 9時開始。

 イリスが綾奈に向かってくるカット、肩の角がトラスに当ってトラスの一部が落下し火花が散る、17時。
 
 イリスのスピアに刺されて悲鳴をあげるガメラからイリスへのパン、アップなのでギニョールで撮影、ガラ飛ばしのみ。

 22時終了。


******** 第12週 *********


8月17日(月曜)

 9時開始。

 京都駅ビル内、イリスが綾奈に迫る正面受け、および龍成の見た目として触手の陰からチラリと見える綾奈。
 
 このチラリと見える綾奈は実は写真である、写真を使った一発撮りは樋口特撮の真骨頂である(あまり「売り」にならないので宣伝していないが)
 
 樋口氏の初特撮監督である「ミカドロイド」において「爆発に飲み込まれる洞口依子」というカットを実現するのに特撮班は切り抜いた写真をミニチュアの上に立て、そのまま爆発と共に一発撮りしたのである、これが思いの他うまくいったのに味をしめ(たのか?)以後写真特撮は樋口氏のお気に入りとなり氏の作品にはかならず取り入れられている。
 その成功例の最たるものは「ガメラ1」の福岡ドームであろう、特撮においては福岡ドームのミニチュアはカメラ前用の椅子少々と床、天井の一部だけしかなかった、その他のドーム内部はすべて写真なのである、つまり天井越しのガメラ以外、ギャオスの出てくるほとんどのカットは写真の前で撮られているのだ。
 観客席への出入口に穴をあけて通路を作りそこだけ本当に照明しているという小技と、なによりもあまりにも大胆な使い方によって誰も気がつかない効果的な使い方になっている。

 しかし手前をチラチラするイリスの触手の間、ホコリの中に見え隠れする綾奈をどのくらい「見せる」べきかはむずかしい、写真がバレると恥ずかしいし認識出来なければ意味がない、撮っている我々はそれが綾奈であり写真であると知ってしまっているのでどの程度見せるのが適当か判断に困るのだ。

 さて基本的に樋口監督は恥ずかしい絵は1コマたりとも使いたくない、という姿勢の人である(「撮ったからには使いたい」と、何がバレていても、はずしていても構わず使う監督もいる)自分にきびしいわけだが時に観客に不親切にもなりかねない、その1例が「ガメラ1」の吊り橋でのギャオス爆破である。

 あのカットにおいて硬質ウレタン製の爆破人形は羽ばたいていない、羽ばたいていないとおかしい、恥ずかしい、とばかりに樋口真嗣は編集で切りに切ってついには爆発前のギャオスを1コマしか残さなかった。
 しかしそれはあらかじめそこにギャオスが居ることを知っていてかつそれが止まっていることを知っている人間の感覚だ、つまり「次は爆破ギャオスだ、止まっているのが恥ずかしいぞ、来るぞ来るぞ、そらきた、止まってる! ああ恥ずかしい」 ということだ。
 しかし1コマというのは話の流れを知っている私でさえ始めて見た時に「えっ今のギャオス?」という間でしかなかった、当事者がそういう状態であるならば始めて見る観客にはギャオスそのものが認識出来ないと思うが、それはもったいない(せっかく「ギャオスが」爆発しているのだ、爆発の印象しかなければ、ナパームの単独爆発でもかまわないことになる)
 そこでこれでは切り過ぎだとねばり強く交渉し、完成版では2コマ(倍増だ!)を使用してもらっているのである。

 で、なにが言いたいのかというと、これもきっと何がなんだかわからないバージョンが使われるんだろうな〜、ということなのである。

 結局あれこれと多くのパターンを撮っておこうということになり、終了時間は日も変わった3時30分になってしまった。

 送りで帰宅。

8月18日(火曜)

 13時開始。

 ガメラの手を串ざしにしているイリスの後ろから触手が延びていくカット、触手はCGである、このへん「操演でなんとかしてよ」というおおざっぱな監督でなくて良かったと思う。
 吊りで物を動かす場合、吊っているように見えたらそれはとても恥ずかしいことなのだという感覚、および操演で得意なことと不得意なことの区別を知っている特撮監督は実はとても少ないのだ。

 USゴジラ風に行きましょう、と監督が言うので何かと思ったら、CG触手が延びていく途中でトラスを破壊したいという、つまり下絵の中でCGが通過すると想定される位置のトラスを仕掛で落してくれということなのであった。

 22時30分終了。
 遅く開始したわりには早く終わってよかった(ってこの時間を早いと思う我々って何だ?)

 8月19(水曜)

 9時開始。

 駅ビルから放り出されたガメラがバスターミナルに倒れ込むカット、寄りサイズなので福沢君は入れずガメラの手を持って上体を起しておいて離すだけ、つぶし用のバス、壊し用バスターミナルに弾着をつける。

 壊しものに替えはないので一発OKしかない、どつぼにはまって何テイクもやるのはまっぴらだしそれほど不安要素はない、ミスっても後がないという緊張感は好きだ。

 終了は24時、送りで帰宅。

8月20日(木曜)

 9時開始。

 バスターミナルに倒れこんで腹を見せているいるガメラの寄り、顔からパンダウンしていくと腹の穴のアップ、穴から血が流れその奥には炎が燃えているというカット。

 造形部に透明パーツで「腹の穴」を作ってもらい、そこに血のりを流しこんであふれさせる、炎の印象は透明パーツの下に照明をしこんでもらって透過光で表現しよう、と考えていたのであるが・・・

 仕込む前に照明の具合を見ておこうということになり、透明パーツに血ノリを入れライトを当ててみたのだがまるで光が透過しない。
 血のりは深さわずか2、3センチであり照明は強力なハロゲン球なのだがそれでもほとんど明るさを感じないのだ、たしかに血のりは「不透明水彩」のネオカラーで作っているのだがこれは予定外であった。

 いままでネオカラーで作っていた血ノリをここで急に透明水彩に変えるわけにはいかないので急遽方針変更となり、腹の深い傷の奥で火が燃えている、そして傷のまわりのひび割れから血が流れ出ている、ということになった。

 造形部が急遽傷とひび割れの造作にとりかかる、腹の傷は肉が裂けている風になり、照明部によって裂け目の奥にランプが3つ埋め込まれた、これを棒ヤスリで電流を脈動させるというテクニックを使いチラチラさせるとまるで腹の奥で熾き火がくすぶっているかのような効果になる。

 ひび割れは穴の縁から始まって腹の湾曲の下まで続いているように作ってもらう、そして操演部がヒビの途中の「そこから血を流しても腹の穴に流れ込まない」位置4ケ所にパイプを通して水中ポンプにつなぐ。
 
 本当は腹の穴に血が溜まっていなくてはならないのになぜかヒビの途中から血が出ているということになっているため、どくどくと流れ出すとおかしな絵になってしまう、そのためせいぜい血がしみだしているという程度の流れ方しか出来ない、実際には血を塗りつけただけよりはマシという絵になってしまった。
 
 17時本番。

 ついで綾奈に迫るイリスのトラス越し横位置、パチパチ君のみ。

 24時終了、送りで帰宅。

8月21日(金曜)

 9時開始。

 京都駅ビルにつっこんでくるガメラとイリスのグリーンバック、駅ビル初日に撮った背景に合成される絵である。

 2本の移動車に2台づつ台車を乗せて縦横に連結し6×9尺の足場を作る。

 カメラの右フレームギリギリ外に壊し用の壁を作る、幅3尺、高さ6尺、厚さ15センチほどのスチロールで作った壁をジグソーパズルのように切り離したもので20いくつかのピースに分かれている、これにホコリと細かいガラを乗せて、移動車レールの軌道上に立てる。

 移動車上の足場にガメラとイリスが組み合った状態で乗り、すごいスピードでこの壁に突っ込んでくるという仕掛である、実際にはガラとホコリにまみれた2大怪獣がフレーム外からものすごい勢いで突っ込んでくるという絵になる、

 カメラは10倍速なので突っ込みは相当なスピードを要求されるがセットが狭いので移動車のスタート位置からフレームインまでに充分な距離がとれず、急激な加速をする必要がある、押すのは人海戦術だが怪獣役の2人が持ちこたえるのが大変そうなので見えない位置にスタンドを立てて寄りかかれるようにする。

 監督がホコリ玉と火花をイリスの背中につけてくれと言う、その仕込をしているとふたたび寄ってきて足もとにガラ飛ばしも欲しいという。
 
 22時本番、4人の人間が力一杯移動車を押し出す、2大怪獣がスチロールの壁に突っ込む、壁とほこりとガラを巻き込んでフレームイン、ホコリ玉、火花、ガラが飛ぶ、使いどころはほんの一瞬なので即ブレーキ、押し役の4人は今度は一転制動をかける、急ブレーキをかけると上の2人が転げ落ちてしまうし行きすぎては脱線転覆してしまう、万が一にそなえて終点に控えているブレーキ役も緊張する一瞬だ、比較的こぢんまりした撮影の多いガメラ3ではなかなか活気のある撮影といえるだろう。

 24時30分終了、送りで帰宅。

8月22日(土曜)

 撮休。

8月23日(日曜)

 9時開始。

 奈良山中に現れたイリス、背景は実景でイリスのみブルーバック撮影、触手は合成になったので操演的要素はナシ。

 続いて上記用の触手の撮影、触手を逆さに吊りさげ上でブンブンと振り回したものを横位置にして使う。
 空中戦の中で使用する別パターンの触手、これは延びて行くということなので上に滑車をつけて細ザイルで吊り上げ、根本を振り回して芝居をさせる。

 操演的にはなんということも無い一日であった。

 22時30分終了、電車で帰るのが久しぶりのような気がする。


******** 第13週 *********


8月24日(月曜)

 9時開始。
 
 イリスの腹に左手をつっこんでいるガメラ、更に右手を繰り出そうとするがイリスのスピアが伸びてきて、右の手の平に突き刺ささるというカット。

 イリスの左手のスピアをスライド用に取り替える、狙いは大橋君につけてもらって補助の人間が後ろからスピアを突き出すことになる。

 他に操演的要素としてはイリスの腹から流れ出る血、足元のホコリ、ガラ飛ばし、スピアが手にあたった時の火薬等。
 手が足りないのでスピアの押しだしは助監督神谷にたのむ。

 狭い駅ビルの中に2大怪獣が横位置で対峙しているので舞台が狭くて仕方がない、セットの飾りとライト足の林で舞台に踏み込むことさえ難儀なのだ、NGになった時に仕込みを再セットするのが死ぬほど面倒なので絶対にやりたくないと思いつつも、芝居のタイミング、血の出具合、そしてなによりスピアがうまくガメラの手のひらに当るかどうかわからないという状況(大橋君はほとんど見えないのぞき窓ごしにスピアの狙いをさだめている)からドツボにはまって延々とテイクを重ねる自分達の姿が見えるようだったが、なんと一発OK、奇跡だ。

 24時終了、送りで帰宅。

8月25日(火曜)

 9時30分開始。

 駅ビルの壁にスピアで右手を貼りつけにされているガメラ、その刺さったスピアからプラズマエネルギーが吸い出されていく、というカット。

 スピアは刺さっている筈のところで切断しガメラの右手に押しつけて貫通しているフリをする、こうすると福沢君が手を入れられるので痛い芝居が出来るわけだ、実際には手は壁にピン留めされている設定なので後ろを針金で固定する。

 ここで「手から血を流すかどうか」が問題になった、明るく正しい東宝映画と違ってガメラは昔から切られれば血を流すドロくさい演出が特徴であり新ガメラもそのテイストを踏襲している、普通なら緑の血を「ダラダラ」と流すところなのだがスピアが手の内部からストローのようにプラズマエネルギーを吸い出しているときにその傷口から血がでていたのでは「吸われている」という印象が薄れるのではないか?ということである。

 ここで監督さすがに呻吟し「しばらく考えさせてください」ということになった。

 その時、美術部の一番下っ端が「始めは流れていてプラズマエネルギーが吸われだしたら、やめたらどうですかね」と手柄顔に言ったので私は思わず手にしていた芯木(ほそい木の棒ですな)でそいつの頭をひっぱたき「手前の言うことじゃねえ、ひっこんでろ」とどなってしまった、こういうことをするから映画屋は前時代的であり私は怖いとか言われるのだ。

 しかしこれは看過できない、まず第一に意志決定は監督の専任事項である、監督が広く意見を求めているときはいざしらず「しばらく考えさせてください」と言ったということは「ご意見無用」という意味なのだ。

 つぎにもしその意見が入れられて「血を出そう」ということになった場合、それを仕込むのは操演部なのである、他の部署の人間が操演部の頭越しで口を出すことではない。
 
 実際たとえば「ここで着ぐるみに穴をあけられれば現場はずいぶんと早く進むのだがな」と思っても私は造形部に話しを通さないうちに監督に進言したりはしない、なぜならそこに穴をあけることは意外に手間かもしれず、なんらかの理由で無理かもしれず、可能だったとしてもそれをするのも直すのも造形部だからだ。

 これはどんな場合でも当然のことでフリーなディスカッションの場合でも「××するといいかもしれませんね、まあ美術部にそういう作り物をする余力があればの話しですけれど」というくらいの配慮は皆やっている、なんでも口に出していいというわけではないのだ。

 この場合「血を出すのはたいした手間じゃないので有るバージョンと無いバージョンのふたつを撮っておけばいいじゃないですか」とか「他の効果で操演部は手いっぱいなので悩むくらいならこの際ナシにしてくれませんか」とか言う権利があるのは私だけだ。

 結局血はありということになった、手にホースを這わせ血がうまく(「映画的」に)流れるよう穴を開けるというのは試行錯誤の必要な手間のかかる作業である、またテストで水を流すので舞台は水びたしになりテストの間他の部署はなにも作業ができない、そしてこちらの作業が終わったあと手のホースのバレ隠しをするのは造形部である、すべて手間暇のかかることであり時間的に切迫している今となっては全体のバランスまで考えて採るかとらぬか決める必要がある(あるカットで時間をかけるということは今やほかのカットで時間がかけられぬ、ということでありあるいはヘタをすればあるカットは欠番になるということなのだ)
 下っ端は口を出すな、というのはなにも封建主義(?)のせいでばかりでははない。

 ともあれ仕込みを終わりやれやれ思ったていたら監督寄ってきて「壊れた壁の中で電気配線がショートしたということでパチパチ君をお願いします」ということになった、実にイメージ豊かな監督である。

 17時終了、次はプラズマエネルギーを吸い込んだイリスが「偽プラズマ火球」を発生させ、その光によって照らしだされるガメラのアップ、これは操演的要素はない。

 24時30分、送りで帰宅。

8月26日(水曜)

 9時30分開始。

 スピアで右手を縫いつけられたガメラ、イリスの「偽プラズマ火球」から逃げるため自分の右手をプラズマ火球で吹き飛ばす、その火球発射の寸前まで。

 顔の寄りであり操演的要素はほとんどない。

 22時30分終了
 
8月27日(木曜)

 9時開始。

 壁に手を縫いつけられているガメラとイリス、イリスをなめてカメラ横移動。

 バストショットであり操演的要素はあまりない、と思っていたら案の定監督やってきて「ガメラとイリスの肩口にパチパチ君を降らせてください」と言う、今回はもはや効果に意味を求めても仕方ないと思いつつも、上でなにか壊れているという思い入れですか? と聞くと「いや、にらみ合う二人の目と目が火花を散らしているわけなんだけどまさか目に火花描くわけにはいかないからその代わりにね」と言う、そうだったのか!

 このところ助手連と
「監督に言われたこのガラ飛ばしですけど、いったいなにが飛んでいるつもりなんですかね〜?」
「さ〜?」
「怪獣が蹴って壊した建物の破片なら火薬で飛ばしたほうがそれらしいですよね」
「うむ」
「でも最近ガラ飛ばしはみなエアーでやってくれって言うじゃないですか?」
「ん〜?」
 というような会話をしていたのだがこれでわかった、つまりうすうす感じてはいたのだが樋口真嗣はアニメの効果線を操演で作っていたのだ。

 考えてみれば(あるいは考えてみるまでもなく)氏はアニメを作れば特撮風に、特撮を作ればアニメ風の絵づくりをする人だった。
 (「ガメラ2」における「ジープに乗った渡良瀬の見た目のガメラ」などはその典型で、ミニチュアのビルを載せた移動車を3列平行に並べ、押したり引いたりして移動感を出すなどアニメのマルチ撮影そのものと言って良い)

 かつて本人から「アニメの場合はカメラに縦の動きをさせにくいので(フルアニメになるからだ)実写では縦に動かすよう心がけている」と聞いたことがあるが、実際には意識的に、あるいは無意識のうちにアニメ的演出が盛り込まれているのだろう。

 余談だがこれは樋口真嗣個人の特徴ではなく、その御一党様に特有のものであるとも言えるだろう、あの一味の作るアニメは「壊れた巨大ロボットの操縦席」が「張りぼてのセットが壊れて、仕込みの蛍光灯がバレている(!)」絵になっている「トップをねらえ」から始まって、「エヴァンゲリオン」まで、「特撮風なもの」へのオマージュ(とパロディのないまぜになった何か)であふれているのだ(そこに私は実写へのあこがれと、照れと、韜晦と、マニアへのくすぐりと、近親憎悪、を感じるのだが)

 要するに、雰囲気に意味を求めても無駄なのは当然であるということだ。

 22時30分終了。

8月28日(金曜)

 9時開始。

 駅ビルにつっこんできたイリスは体を入れ替えてガメラを外に放り出すわけだが、その体を入れ替えるカット、およびガメラが炎のパンチをイリスの腹にぶち込んだあとイリスを振り回して壁にたたきつける、その体の入れ替え、どちらも似たようなカットであるのでここでまとめてやることになる。

 どちらも比較的寄りなのでギニョールで撮影する(2体の怪獣は対峙しているのがせいいっぱいでこのような激しい動きが可能なほど実は京都駅ビル内部はでかくない)

 例によってガラ飛ばし、これは効果線(流線)であるとのみこんだ操演部は言われるまでもなく準備開始、しかしこれだけじゃあるまい、と話しあっていたところが当然のように監督やってきて回転の最中に壁を壊しているという思い入れで壁にホコリ玉と火花をお願いしますという、もちろんそうだろう。

 つぎにイリスの腹に手をつっこんでいるガメラが綾奈の入っている通称「尻子玉」を引き抜くカット。

 造形部がイリスのみぞおちに内蔵の造作をする、ぐちゃぐちゃと不気味な尻子玉をガメラに握らせる、引き抜く時になにやらの臓物がひきちぎれるように仕込んでいる。

 操演部はイリスの血吹きを仕込む、これだけでも充分に気持ち悪いと思うところへ監督やってきて(!)「引き抜くとき何か内蔵が破裂して中身が出る」というようなものを仕込めませんかね、と言い手近なところにあったオレンジ色の風船(誰かが食玩を買ってきていてそのオマケらしいのだが)を手にとって「たとえばこんなやつに何か入れて」と具体的な話をされてしまう、テストしてみるしかあるまい。

 まず会社から浣腸器をもってくる、塗料にグリセリンとかエアロジルを入れ粘度を増して風船に注入し、小さな卵ほどにふくらませる、イリスの血は赤ムラサキなので目立つように色は黄色にする。

 はじめは弾着で破裂させてみるが飛び散って霧になってしまう、粘度の違うものをいくつか試してみたがあまり変わらない、弾着の強さに対して血糊が少なすぎるのだ、しかしこれ以上大きいとイリスの腹に入らない、そこで弾着をやめ「電点」(着火装置本体である)を使ってみる、電点はちいさな火花を散らすだけだがゴム風船のゴムに穴をあけるくらいの熱は出す、穴さえあけば風船はゴムの収縮する力で中身を飛び散らしてくれるのではないだろうか。

 テストしてみるとこれが正解であった、ちょうど風船がなくなってしまったところだが監督嬉しそうに「ちょうど昼メシだし一緒に風船買いにいきましょう、たぶん調布パルコにありますよ」と言う、なんで一緒に行くのかとおもったらになんのことはない調布のラオックスにiMacを見に行きたいらしいのであった、「公用」ということで制作部に車を出してもらう。

 パルコに行ったついでに地下の食料品コーナーで糸コンニャク、とかナタデココとかヨーグルトとか内蔵にみえそうなもの(!)をいろいろ買い込む、戻ってテスト続行、こういう形のあるものは浣腸器では押し出せないので風船に注入できない、そこでコンドームを使用する(人体弾着の血袋はコンドームが基本である、適度な弾性、万全の防水性、そして万一バレても人体組織に見えるという利便性のためだ)しかし結局コンドームはゴム風船と違って弾性が足りず自身の収縮で中身を飛び散らすというわけにはいかないことがわかり「組織入り内臓」はあきらめることにする。

 カメラは手持ちなのでタイミングをはずすとフレームに入らない可能性がある、そこでこの風船内臓を2ケ作りひとつはイリスのみぞおち、もうひとつは尻子玉のすぐそばに付ける、これならどちらかは見えるだろう。

 これまた失敗すると再セットが激しく面倒なカットであったが天佑か神助か一発OKであった。

 24時終了、送りで帰宅。

8月29日(土曜)

 9時開始。

 自分の右手をプラズマ火球で吹き飛ばすガメラ、まず吹き飛ばす右手のアップ、これは硬質ウレタン製の壊し用右手を使う、手の裏をフタになるよう切り取り、ドリルと鋸で穴を堀り石膏を貼って緑弾着を数個仕込む、火薬を入れ、フタを元どおりに貼りなおして完成。

 これにスピアを刺し、壁に貼りつけにして本番、ちょっと火の出が悪かったような気がするが爆破用の手は一個しかないのでOK以外ありえない、今に始まったことではないがこのへんは樋口組の弱点である。

 ひとつのカットにものすご〜〜く時間をかけるおかげでクオリティの高い絵にはなるが、そのために全体の時間がなくなり「やってみなければわからないカット」でNGを出しても撮り直す時間がないという本末転倒な事態が生じるのだ、本番でNGを出すのはおもに操演部なので我々としてはプレッシャーである、これがまだ撮影当初であれば致命的NGなら撮り直す暇はあるだろうが、今やNGイコール欠番になりかねない。

 全体の撮影のテンポを上げて、そのかわり不満なカットはリテイク出来るだけの時間的余裕をもったほうが総体的にクオリティは上がると思うのだが、その恩恵にあずかれるのは操演部だけなので(他のパートは本番前に満足のいくまで準備できる)なかなかそうはならないというわけだ。

 24時終了、送りで帰宅。

8月30日(日曜)

 9時開始。

 イリスの腹に炎の手を突っ込むガメラ、肩から先しかない専用の手を福沢君が人抜きのイリスにおもいっきり突っ込む。

 イリスは動きを付けるためターンテーブルに乗せてある。

 要素という要素は全て画面にブチ込みたい監督はガメラの手が入ると同時に鳩尾からなにか(ってなに?)吹き出したいと言う、血ノリかフロンかはたまた火薬か、しかし手が入ったあとみぞちとガメラの手の間にはほとんど隙間がなく何を出すにしても仕込みが面倒なことになるのは間違いない。
 
 あ〜でもないこ〜でもないと話していると合成担当の松本氏が「これは手を突っ込むとみぞおちを中心に炎が広がっていく合成カットでしょ、ヘタなものを出されると合成の炎とケンカするのでやめて欲しいんだけど」とクレームを付けてきた、私は渡りに船とそりゃそうですねやめましょうと言う、監督あきらめきれない様子であったがこの場合合成担当者がダメと言ったらダメである。

 我々としてはガメラの手に四塩化チタンを塗るだけとなる。

 終了は日が変わって、2時30分、送りで帰宅。


 ついにB班の編成が決定した、驚くべき事に矢島特撮研究所に一括して発注なのだそうだ、もちろん監督は両方を見ることになるが、2班編制OKである美術部を除き、撮影、照明、操演はすべておまかせなのだという、これは荒技である。

 しかも、完全にシーンが分離している綾奈の回想シーンなどをまかせるのはいいとして、ガメラ着地カットの前半など撮影ずみ部分の半分を矢島に任せるという、1カットの前と後ろで撮るスタッフが違うのだ、それって荒技すぎないか?

 などといってもプロデューサー命令で撮影は10日までと決められた以上、監督に選択の余地はないのかもしれない、ハリウッドなら保険会社差し回しの監督が乗り込んできかねない状況である、日本ではまだ映画は芸術であると考えられているので監督更迭という事態はまず考えられないのだが。

 B班は4日から10日まで稼動するという。


******** 第14週 *********


8月31日(月曜)

 ガメラ3最後の撮休、あと何日かかろうと終わりまで休みはないそうだ。




何言わんとすることが、あらかじめあったら、基本的にダメだと思う。
何かを外から作品にこめようとしちゃダメだ。
作ったものにおのずからこもっていなくちゃ。

日野啓三





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